エレフセリアの非行船
地球とも限らない、異国の地には摩訶不思議な森がある。
エレフセリアと呼ばれるその樹海には、一隻の船が佇んでいた。
その船は、森の中を抜けていく。
木々と難なくすれ違い、びゅうびゅうと、まるで海を駆ける海賊船のように羽ばたいて。
キラキラ輝く波の音の代わりのように、太陽を吸い込んだ葉同志が擦れる。
時に優しく、時に激しく吹き付ける潮風のように、少し暖かい風が頬を抜けていく。
船が森から舞い上がり、空に浮く。
そこから見える景色は、葉が瓦のように重なり合った木々とところどころに見える盆地だ。
無限に広がる樹海を駆ける、たった一つの船・グリーンセイルズ号。
「総員、面舵いっぱい!とりあえず進めーっ!!!!!!」
『アイアイサー!!!!!』
幼さの残る甲高い声とやや掠れた低い声が重なり合う。
人間の住まわないこの森をノープランで航る、グリーンセイルズ号の持ち主たちだ。
彼らは[漢字]三咲小学校[/漢字][ふりがな]みさきしょうがっこう[/ふりがな]の生徒だ。だが、その顔は初めて自転車を運転できた幼児のように輝いている。
悲しみを忘れ、怒りも吹き飛ぶようなこの解放感は、嬉しさ以外の何者でもない。
小さな船員たちは街中で見かけるどんな子供よりも生き生きと森を抜けていく。
摩訶不思議な動物、蜜を吸う妖精、どこか遠くを眺める苔まみれの巨人など、好奇心をそそるものが進路に待っていた。
これは、全てを捨てて逃げ出した少年少女と、森を駆ける海賊船の物語──。