クセの強い人外達は今日も学生寮に入り浸るようです。
「ひっっぎゃああああ!!!無理無理むりむり!!!!か゛え゛る゛!!!!」
成人済みとは思えない、あるいは駄々っ子か何かのような、そんなクソヤバい声が大学構内に響く。
この声を上げているのは誰かって?
そう、○○こと、[漢字]星海[/漢字][ふりがな]ほしうみ[/ふりがな] ●●です。
なんでこんなコトになったのか、と聞かれれば、話は数十分前に遡る。
結局あの後、楼さんとは構内に入る前に別れた。
と言うより、逃げた。
○○が。
まぁ、絶対厄介なコトになる未来しか見えなかったので、「荷物が重いので」とか「持ってもらうのも悪いですし」とかなんとか言って、普段は歩く距離をタクシーに乗り込んだだけなんだが。
うん、ちょっと痛い出費だった。
でも正直、珍しく英断だったと思う。
なんせついさっき、二限目が終わったし飲み物でも買うかな…とか思って外に出たら、あの人その辺の女子に思いっきり張り手されてたからな。しかも何かもう一人居たし。絶対に修羅場だろアレ。
で、ソコまでなら問題は無かったんだが。
問題は今だ。
楼さんが張り手の跡を付けたままこっちに気づいて話しかけようとしてくるモンだから、不自然じゃない程度にそっと遠ざかって逃げた。
で、ココなら見つからないだろうと踏んで逃げ込んだ先が、「民間伝承研究会」とやらの会室だった。
なんだかよくは分からないが、ひとまず何かの研究会なんだろうと踏んだ○○は、一時的に避難させてもらおう、と浅はかな考えを抱いて、ドアをノックした。
「えっと…失礼しまーす…」
「いらっしゃ…って…」
だが、中から聞こえた声にはなぜだか妙に聞き覚えがあった。
気になってそっと見てみると、ソコには高校で二年間もの間ずっと○○の所属していたバドミントン部で見かけていた、背の高い焦茶の頭があったのだ。
「あれ、●●ちゃん?」「え、存由夢先輩?」
そう、なんとソコには。
○○の高校時代の先輩、[漢字]弛夢琳[/漢字][ふりがな]たゆり[/ふりがな] [漢字]存由夢[/漢字][ふりがな]あゆむ[/ふりがな]さんが居た。
相変わらずとてもきれいな顔をしていて、焦茶の目も性別不明な雰囲気も、記憶にある姿からなんら変わらなかった。
そうか、ココの大学だったんだ。
「もしかして入ってくれるの?ココに?」
…やっべ、もしかしてめちゃくちゃ期待されている?
逃げて来ただけだなんて言いづらいな……と、つい思ってしまう。
そしてそのキラキラとした笑みを断りきれないでいる内に、さらにこの研究会のメンバーらしき人が現れた。
「ふぅん、入学二週間で此処に来はるの。なかなか勇気のある新入生さんみたいやね?」
そう言って奥の部屋から出てきたのは、長い黒髪の女性。すずやかな漆黒の目と対照的な泣きぼくろが、この人のどこか不思議な空気感を演出しているのだろうか、なんてふと思った。
案の定というかなんというか、すごく整った見た目だな。髪サラッサラだし。
というかこの学校、存由夢先輩と言い楼さんと言いこの人と言い…全体的に顔面偏差値が高すぎないか?
そんな風に明後日の方向に飛び始めた思考を引き戻すかのように、存由夢先輩は口を開いた。
「あ、[漢字]柚[/漢字][ふりがな]ゆず[/ふりがな]!えっとね、高校の時の後輩ちゃんだよ!星海●●って子。」
「あ、えっと…どうも……」
「へぇ、そないに。せやったら、私も自己紹介せんとなぁ。私は三回生の“[漢字]月ノ瀬[/漢字][ふりがな]つきのせ[/ふりがな] [漢字]柚[/漢字][ふりがな]ゆず[/ふりがな]”っちゅうの。あんじょうよろしゅうな。」
そう言って、月ノ瀬さんはにっこりと笑いかける。
あまりにもきれいすぎて、同性のハズなのに目を奪われた。
そして…
なんとそうこうしている内に、奥の方からさらに二人も現れてしまった。しかも、ご丁寧にお菓子とお茶まで持って。
うん、どんどん外堀が埋まっていく音がする……
「話は聞かせてもらったよー!わざわざ来てくれてありがとね!」
「こんにちは。ようこそ、民間伝承研究会の会室へ。大したモノはないが、ゆっくりしていくといい。」
一方は、明るい茶色の髪の女性。長い髪を後ろで緩く一本で括っていて、ぱっちりとした髪と同じ色の目がきれいな人だ。
耳には逆十字の描かれた大きめのお札みたいなデザインのピアスが揺れていて格好いい。
そしてもう一方は、長い漆黒の髪を、後ろで緩く二本に括った女性。髪と同じ漆黒の目はどこを見ているのか分からなくて少し不気味だが、すらりとした体型をしている。
なぜか手に大量の飴玉を持っているが…その違和感を抜きにしなくとも、十分すぎるほどに「美しいヒト」だと思った。
そしてやっぱり揃いも揃って顔面偏差値が高いな…なんて、つい思ってしまう。
「えーっと…●●?大丈夫?この二人、今から紹介するけど…」
「あ、いえ、大丈夫です。お願いします。」
やべ、ちょっとぼんやりしてたか。
ちょっと空気が澱んでるせいか?だが生憎○○は花粉症持ち、窓を開けられても困るし…
うん、仕方ないな。
「まず…コッチの茶色の髪の人が“[漢字]火威[/漢字][ふりがな]ひおどし[/ふりがな] [漢字]陽[/漢字][ふりがな]ひなた[/ふりがな]”さんだよ!」
「こう見えて三回生です。よろしくねー!」
ってコトは、火威さんは月ノ瀬さんと同学年なのか。
うん、確かに納得かもな。どっちも大人っぽいっていうか…雰囲気が端正な感じで、品格がある。
「で、コッチの黒髪の人が我らが会長、四回生の“[漢字]湯巡[/漢字][ふりがな]ゆめぐり[/ふりがな] [漢字]榛名[/漢字][ふりがな]はるな[/ふりがな]”さん。頼りになるよ!」
「よろしく。」
にっこりと笑ってこちらを見る湯巡さんだが、○○が瞬きした瞬間に、すこん、と表情が抜け落ちたように笑みが消えた。
何て言うか、独特な雰囲気の人だな……ぶっちゃけ、ちょっと怖いんだが。
「それで、一体何の用事だい?早くしてくれないか。」
そう榛名さんは催促する。いやまぁ、元はと言えばとりあえず避難させてもらいにきただけなんだが…
とはいえ。
「せやね。それは聞いとかんと始まらん。」
「存由夢ちゃんの後輩さんなんだっけー? って事は…依頼?それとも入会希望?」
「ね、教えてくれない?」
月ノ瀬さん、火威さん、存由夢先輩が口々に、それもかなりキラキラした目でコッチを見てくるので、つい言ってしまった。
「えっと…最初はちょっと、避難に来ただけだったんですが… どんな研究をしてるのかは、興味があります。」
そう言って、ココに来た事情を説明する。
「うわ、逃げて正解だったよソレ!そのヒト、有名なナンパ師だから!!」
「せやねぇ…いっぺんぐらい、お灸据えた方がええかも分からんな。」
やはりな。あと月ノ瀬さんちょっと怖い。
まぁ、真の理由を黙ったままでいるような不誠実なマネもできず、さりとて存由夢先輩を悲しませるような酷いコトもしたくなかった○○が取れる選択肢はコレだけだった、というだけなのだが。
「でも、そっか。教えてくれてありがとー!」
「ならば仕方がないね、こちらも教えてあげるとしようか。」
「そうだね、ボクらが何を研究してるのか…」
「知ったらもう、後戻りは出来へんで?」
え、何ソレ怖い。
思わず表情が強張る。
今にして思えば、ココで退いておくべきだった、と非常に後悔している。
だが、後悔は先に立たずと言うように、この時の○○にはソレを知るすべなんてない。
「ふふ。ちょっとした冗談やさかい、安心せぇ。入会、してくれはるんやろ?」
月ノ瀬さんが[漢字]微笑[/漢字][ふりがな]わら[/ふりがな]う。まるで、己よりよほど小さな赤子をあやすように。
「はい…大丈夫です。 教えて、ください。」
○○は笑う。まるで、弾頭台に登る死刑囚のように。
つまり結論から言えば、覚悟をを決めて、話を聞くコトにしたってコト。
いや…「聞くコトにしてしまった」…と言った方が正確か。
「そう来なくっちゃ!」
存由夢先輩が[漢字]破顔[/漢字][ふりがな]わら[/ふりがな]う。まるで、新たなオモチャを手に入れた子供のように。
「じゃあまずは、この研究会の通称からかなー!」
火威さんは[漢字]咲[/漢字][ふりがな]わら[/ふりがな]う。まるで、日光を浴びて大輪の花が開いたように。
「少々不正確ではあるのだが…まぁ、分かり易さも大切か。」
湯巡さんが[漢字]嗤[/漢字][ふりがな]わら[/ふりがな]う。まるで、深淵から覗く狂気の遣いのように。
「わたし達は、「民間伝承研究会」。又の名を…
___「オカ研」だ。」
「へ?」
「怪異と呼ばれるモノは、ああ見えてしっかりと実在するからな。」
「へ??」
間抜けな声が口から漏れ出る。
「まぁ、民間伝承って言ったら、普通はオカルト以外も含むんだけどねー。」
「ボクらの大学、オカ研ないからさ?そーゆーの好きな人が集まって来ちゃったんだ!」
「この呼び方も、その時代の名残りやね。実際、今となってはほぼ完全にオカルト専門と化してしもうてるからなぁ。」
「わたしはあまり好きな呼び方ではないが。不正確な呼び名というモノはそれだけで無駄だ。」
え??
「ひっっぎゃああああ!!!無理無理むりむり!!!!か゛え゛る゛!!!!」
「え、ちょ、●●!?どしたの!?」
そう。ココで、話は冒頭まで巻き戻る。
まぁつまり、逃げた先というのが…
よりにもよって、○○の一番苦手なアレを、研究している会室だったってコトだ。
「ふむ…この手の話は苦手だったかな?それはすまない事をしたね。」
「ありゃ?高校時代はむしろ怪談とか好きじゃなかったっけ?」
存由夢先輩はそう言うが、こっちにも色々あったんですよ!!!
しかも実在するって何だよ!!!ワンチャンの見間違い説とか、今までそう言うの推してたんだが!?!?
「あれまぁ。ずいぶん、怖い目に遭いはったんやなぁ。」
「だが、さっきも柚君が言っただろう?聞いてしまえば後戻りはできない、と。」
「ほんと、申し訳ないんだけどねー?ホラ、言いふらされて今の●●ちゃんみたいなパニック起こす人がたくさんになっちゃうと困るからさー……」
あー…ソレは…
そうかも、だが……
「大丈夫!いざとなればボクがキッチリ守るから…ね?」
「せやで、いつでも呼んでくれてかまへん。ホラ、電話番号あんたにも教えたる。」
存由夢先輩と月ノ瀬さんにそう言われると、なんか安心できる気もする…
だが。
この人らには悪いがソレとコレとは話が別だ!!!
全速力のバックステップ、ドアに向かって一直線で下がる。
しかし、次の瞬間。
何かが…いや、開いたドアが思いっきり頭に当たった。
ごどばつしゃきん。
「ごつん」と、「どしゃん」と、「ばき」、それらが合体した謎の破壊音が部屋に響く。
「[漢字] 痛 [/漢字][ふりがな]い゛っ゛っ゛っ゛て゛[/ふりがな]!?!?」
あ、ヤベ。
明らかにおかしな声出てる。
成人済みとは思えない、あるいは駄々っ子か何かのような、そんなクソヤバい声が大学構内に響く。
この声を上げているのは誰かって?
そう、○○こと、[漢字]星海[/漢字][ふりがな]ほしうみ[/ふりがな] ●●です。
なんでこんなコトになったのか、と聞かれれば、話は数十分前に遡る。
結局あの後、楼さんとは構内に入る前に別れた。
と言うより、逃げた。
○○が。
まぁ、絶対厄介なコトになる未来しか見えなかったので、「荷物が重いので」とか「持ってもらうのも悪いですし」とかなんとか言って、普段は歩く距離をタクシーに乗り込んだだけなんだが。
うん、ちょっと痛い出費だった。
でも正直、珍しく英断だったと思う。
なんせついさっき、二限目が終わったし飲み物でも買うかな…とか思って外に出たら、あの人その辺の女子に思いっきり張り手されてたからな。しかも何かもう一人居たし。絶対に修羅場だろアレ。
で、ソコまでなら問題は無かったんだが。
問題は今だ。
楼さんが張り手の跡を付けたままこっちに気づいて話しかけようとしてくるモンだから、不自然じゃない程度にそっと遠ざかって逃げた。
で、ココなら見つからないだろうと踏んで逃げ込んだ先が、「民間伝承研究会」とやらの会室だった。
なんだかよくは分からないが、ひとまず何かの研究会なんだろうと踏んだ○○は、一時的に避難させてもらおう、と浅はかな考えを抱いて、ドアをノックした。
「えっと…失礼しまーす…」
「いらっしゃ…って…」
だが、中から聞こえた声にはなぜだか妙に聞き覚えがあった。
気になってそっと見てみると、ソコには高校で二年間もの間ずっと○○の所属していたバドミントン部で見かけていた、背の高い焦茶の頭があったのだ。
「あれ、●●ちゃん?」「え、存由夢先輩?」
そう、なんとソコには。
○○の高校時代の先輩、[漢字]弛夢琳[/漢字][ふりがな]たゆり[/ふりがな] [漢字]存由夢[/漢字][ふりがな]あゆむ[/ふりがな]さんが居た。
相変わらずとてもきれいな顔をしていて、焦茶の目も性別不明な雰囲気も、記憶にある姿からなんら変わらなかった。
そうか、ココの大学だったんだ。
「もしかして入ってくれるの?ココに?」
…やっべ、もしかしてめちゃくちゃ期待されている?
逃げて来ただけだなんて言いづらいな……と、つい思ってしまう。
そしてそのキラキラとした笑みを断りきれないでいる内に、さらにこの研究会のメンバーらしき人が現れた。
「ふぅん、入学二週間で此処に来はるの。なかなか勇気のある新入生さんみたいやね?」
そう言って奥の部屋から出てきたのは、長い黒髪の女性。すずやかな漆黒の目と対照的な泣きぼくろが、この人のどこか不思議な空気感を演出しているのだろうか、なんてふと思った。
案の定というかなんというか、すごく整った見た目だな。髪サラッサラだし。
というかこの学校、存由夢先輩と言い楼さんと言いこの人と言い…全体的に顔面偏差値が高すぎないか?
そんな風に明後日の方向に飛び始めた思考を引き戻すかのように、存由夢先輩は口を開いた。
「あ、[漢字]柚[/漢字][ふりがな]ゆず[/ふりがな]!えっとね、高校の時の後輩ちゃんだよ!星海●●って子。」
「あ、えっと…どうも……」
「へぇ、そないに。せやったら、私も自己紹介せんとなぁ。私は三回生の“[漢字]月ノ瀬[/漢字][ふりがな]つきのせ[/ふりがな] [漢字]柚[/漢字][ふりがな]ゆず[/ふりがな]”っちゅうの。あんじょうよろしゅうな。」
そう言って、月ノ瀬さんはにっこりと笑いかける。
あまりにもきれいすぎて、同性のハズなのに目を奪われた。
そして…
なんとそうこうしている内に、奥の方からさらに二人も現れてしまった。しかも、ご丁寧にお菓子とお茶まで持って。
うん、どんどん外堀が埋まっていく音がする……
「話は聞かせてもらったよー!わざわざ来てくれてありがとね!」
「こんにちは。ようこそ、民間伝承研究会の会室へ。大したモノはないが、ゆっくりしていくといい。」
一方は、明るい茶色の髪の女性。長い髪を後ろで緩く一本で括っていて、ぱっちりとした髪と同じ色の目がきれいな人だ。
耳には逆十字の描かれた大きめのお札みたいなデザインのピアスが揺れていて格好いい。
そしてもう一方は、長い漆黒の髪を、後ろで緩く二本に括った女性。髪と同じ漆黒の目はどこを見ているのか分からなくて少し不気味だが、すらりとした体型をしている。
なぜか手に大量の飴玉を持っているが…その違和感を抜きにしなくとも、十分すぎるほどに「美しいヒト」だと思った。
そしてやっぱり揃いも揃って顔面偏差値が高いな…なんて、つい思ってしまう。
「えーっと…●●?大丈夫?この二人、今から紹介するけど…」
「あ、いえ、大丈夫です。お願いします。」
やべ、ちょっとぼんやりしてたか。
ちょっと空気が澱んでるせいか?だが生憎○○は花粉症持ち、窓を開けられても困るし…
うん、仕方ないな。
「まず…コッチの茶色の髪の人が“[漢字]火威[/漢字][ふりがな]ひおどし[/ふりがな] [漢字]陽[/漢字][ふりがな]ひなた[/ふりがな]”さんだよ!」
「こう見えて三回生です。よろしくねー!」
ってコトは、火威さんは月ノ瀬さんと同学年なのか。
うん、確かに納得かもな。どっちも大人っぽいっていうか…雰囲気が端正な感じで、品格がある。
「で、コッチの黒髪の人が我らが会長、四回生の“[漢字]湯巡[/漢字][ふりがな]ゆめぐり[/ふりがな] [漢字]榛名[/漢字][ふりがな]はるな[/ふりがな]”さん。頼りになるよ!」
「よろしく。」
にっこりと笑ってこちらを見る湯巡さんだが、○○が瞬きした瞬間に、すこん、と表情が抜け落ちたように笑みが消えた。
何て言うか、独特な雰囲気の人だな……ぶっちゃけ、ちょっと怖いんだが。
「それで、一体何の用事だい?早くしてくれないか。」
そう榛名さんは催促する。いやまぁ、元はと言えばとりあえず避難させてもらいにきただけなんだが…
とはいえ。
「せやね。それは聞いとかんと始まらん。」
「存由夢ちゃんの後輩さんなんだっけー? って事は…依頼?それとも入会希望?」
「ね、教えてくれない?」
月ノ瀬さん、火威さん、存由夢先輩が口々に、それもかなりキラキラした目でコッチを見てくるので、つい言ってしまった。
「えっと…最初はちょっと、避難に来ただけだったんですが… どんな研究をしてるのかは、興味があります。」
そう言って、ココに来た事情を説明する。
「うわ、逃げて正解だったよソレ!そのヒト、有名なナンパ師だから!!」
「せやねぇ…いっぺんぐらい、お灸据えた方がええかも分からんな。」
やはりな。あと月ノ瀬さんちょっと怖い。
まぁ、真の理由を黙ったままでいるような不誠実なマネもできず、さりとて存由夢先輩を悲しませるような酷いコトもしたくなかった○○が取れる選択肢はコレだけだった、というだけなのだが。
「でも、そっか。教えてくれてありがとー!」
「ならば仕方がないね、こちらも教えてあげるとしようか。」
「そうだね、ボクらが何を研究してるのか…」
「知ったらもう、後戻りは出来へんで?」
え、何ソレ怖い。
思わず表情が強張る。
今にして思えば、ココで退いておくべきだった、と非常に後悔している。
だが、後悔は先に立たずと言うように、この時の○○にはソレを知るすべなんてない。
「ふふ。ちょっとした冗談やさかい、安心せぇ。入会、してくれはるんやろ?」
月ノ瀬さんが[漢字]微笑[/漢字][ふりがな]わら[/ふりがな]う。まるで、己よりよほど小さな赤子をあやすように。
「はい…大丈夫です。 教えて、ください。」
○○は笑う。まるで、弾頭台に登る死刑囚のように。
つまり結論から言えば、覚悟をを決めて、話を聞くコトにしたってコト。
いや…「聞くコトにしてしまった」…と言った方が正確か。
「そう来なくっちゃ!」
存由夢先輩が[漢字]破顔[/漢字][ふりがな]わら[/ふりがな]う。まるで、新たなオモチャを手に入れた子供のように。
「じゃあまずは、この研究会の通称からかなー!」
火威さんは[漢字]咲[/漢字][ふりがな]わら[/ふりがな]う。まるで、日光を浴びて大輪の花が開いたように。
「少々不正確ではあるのだが…まぁ、分かり易さも大切か。」
湯巡さんが[漢字]嗤[/漢字][ふりがな]わら[/ふりがな]う。まるで、深淵から覗く狂気の遣いのように。
「わたし達は、「民間伝承研究会」。又の名を…
___「オカ研」だ。」
「へ?」
「怪異と呼ばれるモノは、ああ見えてしっかりと実在するからな。」
「へ??」
間抜けな声が口から漏れ出る。
「まぁ、民間伝承って言ったら、普通はオカルト以外も含むんだけどねー。」
「ボクらの大学、オカ研ないからさ?そーゆーの好きな人が集まって来ちゃったんだ!」
「この呼び方も、その時代の名残りやね。実際、今となってはほぼ完全にオカルト専門と化してしもうてるからなぁ。」
「わたしはあまり好きな呼び方ではないが。不正確な呼び名というモノはそれだけで無駄だ。」
え??
「ひっっぎゃああああ!!!無理無理むりむり!!!!か゛え゛る゛!!!!」
「え、ちょ、●●!?どしたの!?」
そう。ココで、話は冒頭まで巻き戻る。
まぁつまり、逃げた先というのが…
よりにもよって、○○の一番苦手なアレを、研究している会室だったってコトだ。
「ふむ…この手の話は苦手だったかな?それはすまない事をしたね。」
「ありゃ?高校時代はむしろ怪談とか好きじゃなかったっけ?」
存由夢先輩はそう言うが、こっちにも色々あったんですよ!!!
しかも実在するって何だよ!!!ワンチャンの見間違い説とか、今までそう言うの推してたんだが!?!?
「あれまぁ。ずいぶん、怖い目に遭いはったんやなぁ。」
「だが、さっきも柚君が言っただろう?聞いてしまえば後戻りはできない、と。」
「ほんと、申し訳ないんだけどねー?ホラ、言いふらされて今の●●ちゃんみたいなパニック起こす人がたくさんになっちゃうと困るからさー……」
あー…ソレは…
そうかも、だが……
「大丈夫!いざとなればボクがキッチリ守るから…ね?」
「せやで、いつでも呼んでくれてかまへん。ホラ、電話番号あんたにも教えたる。」
存由夢先輩と月ノ瀬さんにそう言われると、なんか安心できる気もする…
だが。
この人らには悪いがソレとコレとは話が別だ!!!
全速力のバックステップ、ドアに向かって一直線で下がる。
しかし、次の瞬間。
何かが…いや、開いたドアが思いっきり頭に当たった。
ごどばつしゃきん。
「ごつん」と、「どしゃん」と、「ばき」、それらが合体した謎の破壊音が部屋に響く。
「[漢字] 痛 [/漢字][ふりがな]い゛っ゛っ゛っ゛て゛[/ふりがな]!?!?」
あ、ヤベ。
明らかにおかしな声出てる。