クセの強い人外達は今日も学生寮に入り浸るようです。
「ぶぇっくしょい!!!」
間近で聞けば鼓膜が破れそうな、あるいはおっさんか何かのような、そんなクソヤバい声が駅前に響く。
この声(正しく言えばクシャミ)を上げているのは誰かって?
そう、○○こと、[漢字]星海[/漢字][ふりがな]ほしうみ[/ふりがな] ●●です。
うん、杉の木に対する怨みつらみを脳内でぶつけている内に駅に着いてしまった。最寄りまで徒歩で数分もしないから、あの学生寮ホントに立地だけは完璧だな。
そんなコトを考えながら、定期を通してホームに降りる。
ちなみに、○○が通っている「[漢字]宵戻[/漢字][ふりがな]しょうれい[/ふりがな]大学」までは最寄りからたった二駅だ。
正直、高校時代よりも通学時間が短くなっている。とても楽チン。
というより、だな。
よくよく考えてみると、まだ○○自身は怪奇現象なんて見てないし、面倒な料理もしなくていいし、片付けろと誰かにドヤされるコトもない…
案外、立地以外も完璧かもしれん。
そうそう、この二週間で分かったコトが一つある。我ながら単純かつかわいげもないが、どうやら○○は単なる噂ごときではビビらないらしい。
慣れてしまっただけのような気もするが、結構初めての発見だ。
とは言え知り合いの体験談なら相変わらずフツーに怖いし、直接見るなんてもっての外だが。よく分からないモノってよく分からないからこそ怖いんだよな、って話なのかもしれん。
そう思いながら駅のホームに立ち、ひとまず単語帳でも広げようと思ったが、目の前にやたらとキラキラしいイケメンがいたのでつい手を止めてしまった。
ぼんやりと「誰かの為に」と言って献血を謳う単調な広告を眺める横顔だけでも、鼻筋が通っているのはよく分かる。
だが、それだけではない。
長い銀髪から覗く紫色の瞳は、息を呑むほどに美しかった。
ふと、時が止まったように錯覚する。
だが次の瞬間、そのアメジストがふと動いてこちらを見つめる。
つまり、気づかれてしまった、らしい。
鋭い瞳孔にまるで魅入られたようで、とっさに動くコトができない。
念の為言っておくが、一目惚れなんていう非合理なモノじゃない。
ただその澄んだ輝きに、宝石以上の煌めきに、一瞬にして思考回路が奪われる。
そして、その金縛りにも思える不気味な均衡は、青年の声で終わりを告げた。
「おやおやぁ、どーかしました?僕の顔に、何か付いてますかねぇ。」
「いえ、何も……」
正直な感想としては、例え面食いじゃなくても目を引くな、という印象だ。
あとはそうだな、オーバーサイズなパーカーが一周回って体型の細さを強調していて、少しイラつくってぐらいか。
誰かと付き合いたい、みたいな欲求は生まれてこの方持ったコトがないが、この人は単純に鑑賞用として写真を飾っておきたい感じ。いやまぁ、大分気持ち悪い思考だが。
二次元に勝るモノなし、と普段は思っているが…うん、人によってはそれ以上だと言うかもしれないな。
ピンポン、と電車到着を告げる音と共に、重たいドアの開閉音がする。いつの間にか、いつもの電車が来る時間だったらしい。
「…見てしまってすみません。えっと…電車、乗っても良いですか?」
「いやいやぁ、なんで僕に聞くんです?てか、僕もその電車乗りますんで。」
「あ、そう…なんですか。」
ヘラヘラとした声の調子を聞く限りだが、どうもこの人、怒ってはいないらしい。助かった…なんてコトを考えながら、電車に乗り込む。
まぁ、よく考えてみりゃこんだけイケメンなら視線に敏感にもなるだろうし、気づくのも当然か。動けなくなったのはおそらく、イケメンを真正面で浴びたせいだな。
「なぁなぁ、ソコのお嬢さん?」
そして当たり前だが、他人に無言で見られてたらフツーに気持ち悪い。気をつけよう。
「ちょ、お嬢さん?無視はちょっと傷つくんですがー?」
「…へ?」
なんて内省会を脳内で繰り広げていると、先ほどの銀髪イケメンが、なぜか○○に話しかけて来ている…らしい。
○○の困惑をよそに、尚も銀髪イケメンはこちらに呼びかける。
「おーい、そこのジーンズが似合うお嬢さん?アンタですよー。」
「え…もしかして、ほんとに○○に言ってたんですか…?」
「おいおい、アンタ以外に誰がいるって言うんですか。お綺麗ですよ?」
お嬢さん、という耳慣れない単語に、思わず疑問系になってしまった。ソレもそのハズ、○○は割と中性的な見た目だ。
友人と歩いていた時にカップルだと勘違いされたコトもあるレベルだからな。あん時のババァ…もとい、お年を召した女性、絶対に許さない。
「名前、教えてもらえません?ちなみに僕ぁ“[漢字]楼[/漢字][ふりがな]たかどの[/ふりがな] [漢字]視信[/漢字][ふりがな]しのぶ[/ふりがな]”ってモンです。気軽にシノブちゃん、とでも呼んで貰えれば…まぁ、コレはさすがに冗談っすけど。」
「えっと…○○は、星海、●●…です。 じゃあ、楼さんで…」
「気軽にって言ったっしょ?視信で良いですよ。まぁ、無理にとは言いませんけど。」
初見でキチンと女扱いされたの久々だな…とはとりあえず思ったが。
それ以前にこの人、かなりケーハクな気配がする。ぶっちゃけ、どっかで刺されてそうだ。
それも、痴情のもつれとかそーゆー系で。
…いや、コレはさすがに失礼か。
「あぁそうそう、僕ぁ宵戻…ココから二駅ぐらいのトコで日本史の専攻してる二回生なんすわぁ。●●さんはドコです?大学生っしょ?」
「…私も宵戻です。一回生…ですが。でも、学部は同じですね。」
先輩だったのか。しかも学部も一緒。
正直な所、この人には悪いが早くも離れたくなって来た。
だってこの人、絶対に妙な噂あるだろ。
それもナンパ師とかそういう系の。
「えっと…それじゃ。」
「いやいやぁ、良けりゃ一緒に行きません?せっかくですし。」
「…はい?」
いや…見てたのは100%コッチが悪かったが、だとしてもこんなに着いてくるかフツー。
むしろ気持ち悪いし離れるモンじゃないのか。
いやまぁ、そんな立場になったコトもないし、美形の考えそうなコトなんて知らないが。
というか冷静になって考えてみると、一つ気になるコトがあるんだが。
「あの、楼さん…でしたっけ。」
「はぁいはい、何ですかー?」
「それ…本名なんですか?」
だってこの人、明らかに日本人じゃあり得ない見た目だろ。
しかも楼って。確か花街って意味なんだが?
さすがに違和感が半端ないし、ぶっちゃけ偽名では?としか思えない。
というか、もしもコレが本名なら何を思ってこんな苗字にしたのかこの人の先祖に聞いてみたいぐらいだ。
「ソレはヒミツっすわぁ。 あぁ、でも……もしかして僕のコト、気になってきちゃいました?」
「いや、ソレは…別に……」
ワザとらしく小首を傾げる楼さんの、右耳だけに付いた大きな水色のピアスが、発車の衝撃でカタリと揺れる。
ニヤニヤとした掴みどころのない嗤い顔から覗く八重歯は、何故だか妙に鋭く感じた。
間近で聞けば鼓膜が破れそうな、あるいはおっさんか何かのような、そんなクソヤバい声が駅前に響く。
この声(正しく言えばクシャミ)を上げているのは誰かって?
そう、○○こと、[漢字]星海[/漢字][ふりがな]ほしうみ[/ふりがな] ●●です。
うん、杉の木に対する怨みつらみを脳内でぶつけている内に駅に着いてしまった。最寄りまで徒歩で数分もしないから、あの学生寮ホントに立地だけは完璧だな。
そんなコトを考えながら、定期を通してホームに降りる。
ちなみに、○○が通っている「[漢字]宵戻[/漢字][ふりがな]しょうれい[/ふりがな]大学」までは最寄りからたった二駅だ。
正直、高校時代よりも通学時間が短くなっている。とても楽チン。
というより、だな。
よくよく考えてみると、まだ○○自身は怪奇現象なんて見てないし、面倒な料理もしなくていいし、片付けろと誰かにドヤされるコトもない…
案外、立地以外も完璧かもしれん。
そうそう、この二週間で分かったコトが一つある。我ながら単純かつかわいげもないが、どうやら○○は単なる噂ごときではビビらないらしい。
慣れてしまっただけのような気もするが、結構初めての発見だ。
とは言え知り合いの体験談なら相変わらずフツーに怖いし、直接見るなんてもっての外だが。よく分からないモノってよく分からないからこそ怖いんだよな、って話なのかもしれん。
そう思いながら駅のホームに立ち、ひとまず単語帳でも広げようと思ったが、目の前にやたらとキラキラしいイケメンがいたのでつい手を止めてしまった。
ぼんやりと「誰かの為に」と言って献血を謳う単調な広告を眺める横顔だけでも、鼻筋が通っているのはよく分かる。
だが、それだけではない。
長い銀髪から覗く紫色の瞳は、息を呑むほどに美しかった。
ふと、時が止まったように錯覚する。
だが次の瞬間、そのアメジストがふと動いてこちらを見つめる。
つまり、気づかれてしまった、らしい。
鋭い瞳孔にまるで魅入られたようで、とっさに動くコトができない。
念の為言っておくが、一目惚れなんていう非合理なモノじゃない。
ただその澄んだ輝きに、宝石以上の煌めきに、一瞬にして思考回路が奪われる。
そして、その金縛りにも思える不気味な均衡は、青年の声で終わりを告げた。
「おやおやぁ、どーかしました?僕の顔に、何か付いてますかねぇ。」
「いえ、何も……」
正直な感想としては、例え面食いじゃなくても目を引くな、という印象だ。
あとはそうだな、オーバーサイズなパーカーが一周回って体型の細さを強調していて、少しイラつくってぐらいか。
誰かと付き合いたい、みたいな欲求は生まれてこの方持ったコトがないが、この人は単純に鑑賞用として写真を飾っておきたい感じ。いやまぁ、大分気持ち悪い思考だが。
二次元に勝るモノなし、と普段は思っているが…うん、人によってはそれ以上だと言うかもしれないな。
ピンポン、と電車到着を告げる音と共に、重たいドアの開閉音がする。いつの間にか、いつもの電車が来る時間だったらしい。
「…見てしまってすみません。えっと…電車、乗っても良いですか?」
「いやいやぁ、なんで僕に聞くんです?てか、僕もその電車乗りますんで。」
「あ、そう…なんですか。」
ヘラヘラとした声の調子を聞く限りだが、どうもこの人、怒ってはいないらしい。助かった…なんてコトを考えながら、電車に乗り込む。
まぁ、よく考えてみりゃこんだけイケメンなら視線に敏感にもなるだろうし、気づくのも当然か。動けなくなったのはおそらく、イケメンを真正面で浴びたせいだな。
「なぁなぁ、ソコのお嬢さん?」
そして当たり前だが、他人に無言で見られてたらフツーに気持ち悪い。気をつけよう。
「ちょ、お嬢さん?無視はちょっと傷つくんですがー?」
「…へ?」
なんて内省会を脳内で繰り広げていると、先ほどの銀髪イケメンが、なぜか○○に話しかけて来ている…らしい。
○○の困惑をよそに、尚も銀髪イケメンはこちらに呼びかける。
「おーい、そこのジーンズが似合うお嬢さん?アンタですよー。」
「え…もしかして、ほんとに○○に言ってたんですか…?」
「おいおい、アンタ以外に誰がいるって言うんですか。お綺麗ですよ?」
お嬢さん、という耳慣れない単語に、思わず疑問系になってしまった。ソレもそのハズ、○○は割と中性的な見た目だ。
友人と歩いていた時にカップルだと勘違いされたコトもあるレベルだからな。あん時のババァ…もとい、お年を召した女性、絶対に許さない。
「名前、教えてもらえません?ちなみに僕ぁ“[漢字]楼[/漢字][ふりがな]たかどの[/ふりがな] [漢字]視信[/漢字][ふりがな]しのぶ[/ふりがな]”ってモンです。気軽にシノブちゃん、とでも呼んで貰えれば…まぁ、コレはさすがに冗談っすけど。」
「えっと…○○は、星海、●●…です。 じゃあ、楼さんで…」
「気軽にって言ったっしょ?視信で良いですよ。まぁ、無理にとは言いませんけど。」
初見でキチンと女扱いされたの久々だな…とはとりあえず思ったが。
それ以前にこの人、かなりケーハクな気配がする。ぶっちゃけ、どっかで刺されてそうだ。
それも、痴情のもつれとかそーゆー系で。
…いや、コレはさすがに失礼か。
「あぁそうそう、僕ぁ宵戻…ココから二駅ぐらいのトコで日本史の専攻してる二回生なんすわぁ。●●さんはドコです?大学生っしょ?」
「…私も宵戻です。一回生…ですが。でも、学部は同じですね。」
先輩だったのか。しかも学部も一緒。
正直な所、この人には悪いが早くも離れたくなって来た。
だってこの人、絶対に妙な噂あるだろ。
それもナンパ師とかそういう系の。
「えっと…それじゃ。」
「いやいやぁ、良けりゃ一緒に行きません?せっかくですし。」
「…はい?」
いや…見てたのは100%コッチが悪かったが、だとしてもこんなに着いてくるかフツー。
むしろ気持ち悪いし離れるモンじゃないのか。
いやまぁ、そんな立場になったコトもないし、美形の考えそうなコトなんて知らないが。
というか冷静になって考えてみると、一つ気になるコトがあるんだが。
「あの、楼さん…でしたっけ。」
「はぁいはい、何ですかー?」
「それ…本名なんですか?」
だってこの人、明らかに日本人じゃあり得ない見た目だろ。
しかも楼って。確か花街って意味なんだが?
さすがに違和感が半端ないし、ぶっちゃけ偽名では?としか思えない。
というか、もしもコレが本名なら何を思ってこんな苗字にしたのかこの人の先祖に聞いてみたいぐらいだ。
「ソレはヒミツっすわぁ。 あぁ、でも……もしかして僕のコト、気になってきちゃいました?」
「いや、ソレは…別に……」
ワザとらしく小首を傾げる楼さんの、右耳だけに付いた大きな水色のピアスが、発車の衝撃でカタリと揺れる。
ニヤニヤとした掴みどころのない嗤い顔から覗く八重歯は、何故だか妙に鋭く感じた。