クセの強い人外達は今日も学生寮に入り浸るようです。
「……いや、何なんですかソイツ。」
先輩(推定)に向ける言葉だとは思えない、あるいは珍獣扱いか何かのような、そんな呆れた声が授業前の教室で響く。
この声を上げているのは誰かって?
そう、○○こと、星海 ●●です。
「●●ちゃんは知らないか。結構有名らしいよ。その“眠り王子”。いっつも寝てるって。」
「それって、起きてるの見れたら良い事とかあるヤツっすよね? レアイベントな感じっす。」
「そんな話もあった気がするなぁ、覚えてないけど。」
そう言って目の前で笑うのは、○○と同じ学部に通う二人。ちなみにココは、さっきのアークライト教授が受け持つロボット工学の教室だ。なぜ三人揃って一切関係ないロボット工学を取っているのかと聞かれれば、単純に時間が余った上に、三人ともたまたまロボットが好きだった、というだけの偶然である。
ふわふわした二つ結びで薄い銀髪の方がヴァイラさん、スポーツ狩りで黒髪の元気な方が鰲海さん。まぁ、ヴァイラさんは一つ先輩の二回生だが。
とは言え二人とも取ってる授業は○○と同じものが多いし、それなりに仲良くなった……と言っても良いと思う。多分。
ちなみに出会いのきっかけは、○○がスマホを落とした時に拾ってくれたのが彼らだった、という……まぁなんとも締まらない縁だ。
「あ。もし廊下に転がってるなら、ウッカリ踏まないように気を付けた方が良いっすよね。」
「ソコで良いんですかね、気にするトコ。」
まずは件の眠り王子とやらが床に転がってるコトを何とかすべきでは?とか、さすがに床にはいないんじゃ?とか思わなくもないが、鰲海さんは相変わらず「にこにこぺかー☆」な感じで笑っている。天然か?多分そうだな、うん。いや失礼か。
「そういや、なんで“眠り王子”なんてケッタイなあだ名がついてるんですかね。知ってます?」
「あー、なんでもイケメンで首席入学の天才らしいよ。高いマンションに戻るの見た人もいるとか。まぁ、私はあんまり興味ないけど。」
よく話す他の講義の子がミーハーなんだよねぇ、とふわふわした調子で言われるが、あんま表情が乗ってないからたまに怖いんだよな。ヴァイラさん、やっぱ何考えてるか分からん。
しかもなんだその“眠り王子”ってヤツ。属性盛りすぎだろ、イヤミか?
「あ。俺、それなら食堂で見た事あるかもっす。髪長い人と普通な感じの人が台車に乗っけて運んでたんすよ。」
「いや、鰲海のそれはもう本人の情報関係ないじゃん。」
確かにそーですね……なんて言いながら席に着くと、時計はもう授業開始の寸前を指していた。『ソレでは授業を開始しますよ!』と声を掛けるアークライト教授の声を聞きながら、○○は講義のノートを開く。
そういや自由席って相変わらず慣れないんだが、やっぱなんか面白いんだよな……なんて割とどうでもいい思案を巡らせつつ、あっという間に流れていくロボット工学と格闘する90分をいつものように過ごした。
___今にして思えば、コレがきっと嵐の前の静けさだったんだろう。
[中央寄せ][大文字]⚠︎ ⚠︎ ⚠︎[/大文字][/中央寄せ]
「●●サン、ちょっと構いませんか?」
講義も終わり、教室の外へと出ようとしたその時。アークライト教授に声を掛けられる。
「あ、ハイ。なんでしょう?」
振り返ると、彼女は「いえ、大した用事ではありません」と手をヒラヒラ振っている。
「レポートについてなんですが、アナタこの学部のヒトじゃないでしょう? ですので、一応補足説明のプリントをと思いまして!」
ほいと片手で渡された分厚い冊子を受け取ると、重さで少しよろめきそうになる。うわぁ、細かい字で色々書いてあるんだが。
そして内容は確かに助かるけどとにかく重いし腕がキツい。なんなんだこの人、力強すぎないか?
「あ、もう行って大丈夫ですよ! 引き留めてしまってすみません。ソレでは、良いキャンバスライフを!」
そして数秒もせずに、プリント……プリント?いやもうほぼ辞書だけど……だけを渡して送り出される。まぁ内容は助かるけど腕死ぬって。マジでなんだこりゃ。
そう思って一歩廊下に踏み出すと、突然後ろから肩をトントンと叩かれる。気配のカケラも無かったので思わず悲鳴が漏れそうになるが、それはどうにか抑え込んで後ろを向いた。
そしてソコには、例によって楼さん。バレないようにそっとため息を吐く。
「お嬢さん、ソレ重そうですけど。お困りで?」
「困ってないです。あと音消して近づかないでください。シンプル怖いんですよ。」
あと構内で話しかけないでほしい。本当に。なんだコイツって目で見られてうざったいんだよ。バッグに冊子をしまい込みながら睨むが、肩を竦めて流される。なんつーかこう、この流れも一カ月で大分慣れた。
だが一瞬だけ、楼さんの雰囲気がピリついたような気がした。シュッと瞳孔が縦に伸びて、ググッと顔が近づいて、首を傾げて元に戻る。
「……所でアンタ、犬とか飼ってましたっけ?」
「急に何言い出すんですか。いませんよ、寮ですし。」
「んー、ですよねぇ。……まぁいいか。」
急に変なコト言うのやめてもらえますかね、怖いんですけど……と文句を言ってみても、『ホラホラぁ、良いから調査行きましょ? アンタだってもう今日の講義は終わったっしょ?』といつもの調子ではぐらかされる。なんだったんだ。
……てかオイ待て、冷静に考えたら当たり前のように○○の予定把握してるんだがこの人外。
そりゃまぁ時間割なんて行動見てりゃ分かるし、知ってても別におかしくはない。
でもソレはソレとして、よっぽど意識して見てない限り一カ月ぐらいでアッサリ把握できるモンでもないと思うんだが?
「まぁまぁ、その辺りは蛇の道は蛇ってコトで。最近アンタに興味持ってるヤツ多いんですよ?」
「え、○○なんかに? ……バカなんです?」
「……僕の“同類”で、ですけどねぇ。」
マジかよ。まぁマトモな人間じゃないならまだ納得だが。いや、にしたって最悪すぎるだろ。てかなんで○○の情報が出回ってるんだ怪異側に。
そんな思考がどうやらいつの間にか独り言と化していたらしく、楼さんが相変わらずの表情でヘラヘラと笑う。
「いやいやぁ、僕ぁ情報屋ですんで? って、コレ言ってませんでしたっけ。」
「聞いてないですよ。」
『あっちゃー、すんませんねぇ』とか言ってるけど、絶対確信犯だろ。怖いんだよ。何だコイツ。いやコイツっつったら失礼だけど。でも、もうこんなのコイツで十分な気がするんだが。
「……アンタ、なんか失礼なコト考えてません?」
「イエソンナコトハ、アハハハハ……」
「おいおい、カタコトじゃねぇですか。まぁ、別に構いませんがねぇ。」
そんなくだらない会話をしつつ、構外に出る。宵戻が『街全体が大学のキャンバスでーす!』みたいなノリの学校じゃないのは助かるな、移動が楽だ。
……まぁ、その分覚悟決めるための時間が少ないってコトなんですけどね!!!
「んじゃ、ちゃっちゃと済ませちまいましょうや。幸いアテはあるんでねぇ、一瞬っすよ?」
自信あり気に歩き出しながらニンマリと笑う楼さん。真っ直ぐ路地裏に向けて歩いていくから、この辺りにアテとやらがあるんだろうか……と思いつつ、やっぱ行きたくないので、「今からでも楼さんだけでって無理ですかね……」とそう言ってみる。
だが案の定「ハハ、ソイツぁできねぇ相談っすわぁ。」と○○が冗談かなんかを言ったみたいに軽ーく流された。
……楼さん、実は意外とサドなのでは?○○は訝しんだ。が、当然と言うか何と言うか、楼さんがどっち側だとしても、怪異に話を聞いてもらえるはずもなく。
「んじゃ、楽しい楽しい空中散歩と参りましょうか。ちょいと抱えさせて貰いますですよっと。」
「え? は!? ちょ!?!?」
「大丈夫大丈夫、ちょっとしたデートぐらいに思っといてくださいな。」
「ふっざけんな、ってオイやめ、うひゃあぁぁ!!!」
オイ待て、そんなイヤミなぐらい細い体格のどこにこんな馬鹿力隠してたんだこのヒト。ナチュラルに○○を持ち上げるんじゃない。
そんでそのまま屋根の上を飛び石にするんじゃない。やめろ落ちたらどうすんだ。
あと見られたら……ってあーそうか、前に認識阻害がどうこう言ってたな!!! どうせ普段の通学とかもこの移動法だっただろこのヒト!!! つーか○○やら他の行方不明者やら攫った時もコレだろ絶対!!!
明らかに動線が慣れてるんだよ!!!
慣れるほどやるなよこんなモン!!!
というかこんな物理的な方法で怪異が人を誘拐すんなよ!!!
もっとソレらしいコトしろよ!!!
と、言いたいコトは色々あるのだが。風圧がすごい。Gがすごい。口が開けない。いやもうその辺のジェットコースターとか怖くないわ。
だってアレは命の保証がされてるからな!!
「おいおい、口閉じとかねぇと舌噛みますぜ? しかも切った舌って丸まるから、気道塞いじまうコトも多いんですよねぇ。あぁそうそう、体感八割ぐらいですんで。」
いや物理的にだけじゃなく心理的にも口開けなくなったわ。
つまり死ぬじゃん、ソレ。
やめてくれ、○○はまだ死にたくないんだが。あと体感って何? 普段何してんだこのヒト。“そーらーを自由にとっびたーいなー!”じゃないんだよバカ。そんな死と隣り合わせの空中散歩なんてしたくないよ。
ドラ◯もんとまでは言わなくても、せめてト◯ロレベルを希望したい。最悪F◯teのアーチャー。着地任せられないんだよこのヒト。何するか分かんなくて怖いんだよ。人間の耐久性を強く見積もりすぎだよこのヒト。
「ハハ、背中叩いても止まりませんぜー? つーか姿勢崩れるんで、[漢字]ウッカリ[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]アンタのコト落としちまうかもしれませんねぇ。あぁソレとも、命綱なしのバンジーがお好みで?」
絶対、コレ、何かが、おかしい。
限りなくイイ笑顔で笑う楼さん。生半可なジェットコースターよりよっぽど長い滞空時間をフルに使って『あとで絶対師匠直伝の蹴りを喰らわせてやる……』とひたすら呪うだけの時間は、少なくともあと数分は続きそうだった。
ふざけんなこのヤロー!!!!
先輩(推定)に向ける言葉だとは思えない、あるいは珍獣扱いか何かのような、そんな呆れた声が授業前の教室で響く。
この声を上げているのは誰かって?
そう、○○こと、星海 ●●です。
「●●ちゃんは知らないか。結構有名らしいよ。その“眠り王子”。いっつも寝てるって。」
「それって、起きてるの見れたら良い事とかあるヤツっすよね? レアイベントな感じっす。」
「そんな話もあった気がするなぁ、覚えてないけど。」
そう言って目の前で笑うのは、○○と同じ学部に通う二人。ちなみにココは、さっきのアークライト教授が受け持つロボット工学の教室だ。なぜ三人揃って一切関係ないロボット工学を取っているのかと聞かれれば、単純に時間が余った上に、三人ともたまたまロボットが好きだった、というだけの偶然である。
ふわふわした二つ結びで薄い銀髪の方がヴァイラさん、スポーツ狩りで黒髪の元気な方が鰲海さん。まぁ、ヴァイラさんは一つ先輩の二回生だが。
とは言え二人とも取ってる授業は○○と同じものが多いし、それなりに仲良くなった……と言っても良いと思う。多分。
ちなみに出会いのきっかけは、○○がスマホを落とした時に拾ってくれたのが彼らだった、という……まぁなんとも締まらない縁だ。
「あ。もし廊下に転がってるなら、ウッカリ踏まないように気を付けた方が良いっすよね。」
「ソコで良いんですかね、気にするトコ。」
まずは件の眠り王子とやらが床に転がってるコトを何とかすべきでは?とか、さすがに床にはいないんじゃ?とか思わなくもないが、鰲海さんは相変わらず「にこにこぺかー☆」な感じで笑っている。天然か?多分そうだな、うん。いや失礼か。
「そういや、なんで“眠り王子”なんてケッタイなあだ名がついてるんですかね。知ってます?」
「あー、なんでもイケメンで首席入学の天才らしいよ。高いマンションに戻るの見た人もいるとか。まぁ、私はあんまり興味ないけど。」
よく話す他の講義の子がミーハーなんだよねぇ、とふわふわした調子で言われるが、あんま表情が乗ってないからたまに怖いんだよな。ヴァイラさん、やっぱ何考えてるか分からん。
しかもなんだその“眠り王子”ってヤツ。属性盛りすぎだろ、イヤミか?
「あ。俺、それなら食堂で見た事あるかもっす。髪長い人と普通な感じの人が台車に乗っけて運んでたんすよ。」
「いや、鰲海のそれはもう本人の情報関係ないじゃん。」
確かにそーですね……なんて言いながら席に着くと、時計はもう授業開始の寸前を指していた。『ソレでは授業を開始しますよ!』と声を掛けるアークライト教授の声を聞きながら、○○は講義のノートを開く。
そういや自由席って相変わらず慣れないんだが、やっぱなんか面白いんだよな……なんて割とどうでもいい思案を巡らせつつ、あっという間に流れていくロボット工学と格闘する90分をいつものように過ごした。
___今にして思えば、コレがきっと嵐の前の静けさだったんだろう。
[中央寄せ][大文字]⚠︎ ⚠︎ ⚠︎[/大文字][/中央寄せ]
「●●サン、ちょっと構いませんか?」
講義も終わり、教室の外へと出ようとしたその時。アークライト教授に声を掛けられる。
「あ、ハイ。なんでしょう?」
振り返ると、彼女は「いえ、大した用事ではありません」と手をヒラヒラ振っている。
「レポートについてなんですが、アナタこの学部のヒトじゃないでしょう? ですので、一応補足説明のプリントをと思いまして!」
ほいと片手で渡された分厚い冊子を受け取ると、重さで少しよろめきそうになる。うわぁ、細かい字で色々書いてあるんだが。
そして内容は確かに助かるけどとにかく重いし腕がキツい。なんなんだこの人、力強すぎないか?
「あ、もう行って大丈夫ですよ! 引き留めてしまってすみません。ソレでは、良いキャンバスライフを!」
そして数秒もせずに、プリント……プリント?いやもうほぼ辞書だけど……だけを渡して送り出される。まぁ内容は助かるけど腕死ぬって。マジでなんだこりゃ。
そう思って一歩廊下に踏み出すと、突然後ろから肩をトントンと叩かれる。気配のカケラも無かったので思わず悲鳴が漏れそうになるが、それはどうにか抑え込んで後ろを向いた。
そしてソコには、例によって楼さん。バレないようにそっとため息を吐く。
「お嬢さん、ソレ重そうですけど。お困りで?」
「困ってないです。あと音消して近づかないでください。シンプル怖いんですよ。」
あと構内で話しかけないでほしい。本当に。なんだコイツって目で見られてうざったいんだよ。バッグに冊子をしまい込みながら睨むが、肩を竦めて流される。なんつーかこう、この流れも一カ月で大分慣れた。
だが一瞬だけ、楼さんの雰囲気がピリついたような気がした。シュッと瞳孔が縦に伸びて、ググッと顔が近づいて、首を傾げて元に戻る。
「……所でアンタ、犬とか飼ってましたっけ?」
「急に何言い出すんですか。いませんよ、寮ですし。」
「んー、ですよねぇ。……まぁいいか。」
急に変なコト言うのやめてもらえますかね、怖いんですけど……と文句を言ってみても、『ホラホラぁ、良いから調査行きましょ? アンタだってもう今日の講義は終わったっしょ?』といつもの調子ではぐらかされる。なんだったんだ。
……てかオイ待て、冷静に考えたら当たり前のように○○の予定把握してるんだがこの人外。
そりゃまぁ時間割なんて行動見てりゃ分かるし、知ってても別におかしくはない。
でもソレはソレとして、よっぽど意識して見てない限り一カ月ぐらいでアッサリ把握できるモンでもないと思うんだが?
「まぁまぁ、その辺りは蛇の道は蛇ってコトで。最近アンタに興味持ってるヤツ多いんですよ?」
「え、○○なんかに? ……バカなんです?」
「……僕の“同類”で、ですけどねぇ。」
マジかよ。まぁマトモな人間じゃないならまだ納得だが。いや、にしたって最悪すぎるだろ。てかなんで○○の情報が出回ってるんだ怪異側に。
そんな思考がどうやらいつの間にか独り言と化していたらしく、楼さんが相変わらずの表情でヘラヘラと笑う。
「いやいやぁ、僕ぁ情報屋ですんで? って、コレ言ってませんでしたっけ。」
「聞いてないですよ。」
『あっちゃー、すんませんねぇ』とか言ってるけど、絶対確信犯だろ。怖いんだよ。何だコイツ。いやコイツっつったら失礼だけど。でも、もうこんなのコイツで十分な気がするんだが。
「……アンタ、なんか失礼なコト考えてません?」
「イエソンナコトハ、アハハハハ……」
「おいおい、カタコトじゃねぇですか。まぁ、別に構いませんがねぇ。」
そんなくだらない会話をしつつ、構外に出る。宵戻が『街全体が大学のキャンバスでーす!』みたいなノリの学校じゃないのは助かるな、移動が楽だ。
……まぁ、その分覚悟決めるための時間が少ないってコトなんですけどね!!!
「んじゃ、ちゃっちゃと済ませちまいましょうや。幸いアテはあるんでねぇ、一瞬っすよ?」
自信あり気に歩き出しながらニンマリと笑う楼さん。真っ直ぐ路地裏に向けて歩いていくから、この辺りにアテとやらがあるんだろうか……と思いつつ、やっぱ行きたくないので、「今からでも楼さんだけでって無理ですかね……」とそう言ってみる。
だが案の定「ハハ、ソイツぁできねぇ相談っすわぁ。」と○○が冗談かなんかを言ったみたいに軽ーく流された。
……楼さん、実は意外とサドなのでは?○○は訝しんだ。が、当然と言うか何と言うか、楼さんがどっち側だとしても、怪異に話を聞いてもらえるはずもなく。
「んじゃ、楽しい楽しい空中散歩と参りましょうか。ちょいと抱えさせて貰いますですよっと。」
「え? は!? ちょ!?!?」
「大丈夫大丈夫、ちょっとしたデートぐらいに思っといてくださいな。」
「ふっざけんな、ってオイやめ、うひゃあぁぁ!!!」
オイ待て、そんなイヤミなぐらい細い体格のどこにこんな馬鹿力隠してたんだこのヒト。ナチュラルに○○を持ち上げるんじゃない。
そんでそのまま屋根の上を飛び石にするんじゃない。やめろ落ちたらどうすんだ。
あと見られたら……ってあーそうか、前に認識阻害がどうこう言ってたな!!! どうせ普段の通学とかもこの移動法だっただろこのヒト!!! つーか○○やら他の行方不明者やら攫った時もコレだろ絶対!!!
明らかに動線が慣れてるんだよ!!!
慣れるほどやるなよこんなモン!!!
というかこんな物理的な方法で怪異が人を誘拐すんなよ!!!
もっとソレらしいコトしろよ!!!
と、言いたいコトは色々あるのだが。風圧がすごい。Gがすごい。口が開けない。いやもうその辺のジェットコースターとか怖くないわ。
だってアレは命の保証がされてるからな!!
「おいおい、口閉じとかねぇと舌噛みますぜ? しかも切った舌って丸まるから、気道塞いじまうコトも多いんですよねぇ。あぁそうそう、体感八割ぐらいですんで。」
いや物理的にだけじゃなく心理的にも口開けなくなったわ。
つまり死ぬじゃん、ソレ。
やめてくれ、○○はまだ死にたくないんだが。あと体感って何? 普段何してんだこのヒト。“そーらーを自由にとっびたーいなー!”じゃないんだよバカ。そんな死と隣り合わせの空中散歩なんてしたくないよ。
ドラ◯もんとまでは言わなくても、せめてト◯ロレベルを希望したい。最悪F◯teのアーチャー。着地任せられないんだよこのヒト。何するか分かんなくて怖いんだよ。人間の耐久性を強く見積もりすぎだよこのヒト。
「ハハ、背中叩いても止まりませんぜー? つーか姿勢崩れるんで、[漢字]ウッカリ[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]アンタのコト落としちまうかもしれませんねぇ。あぁソレとも、命綱なしのバンジーがお好みで?」
絶対、コレ、何かが、おかしい。
限りなくイイ笑顔で笑う楼さん。生半可なジェットコースターよりよっぽど長い滞空時間をフルに使って『あとで絶対師匠直伝の蹴りを喰らわせてやる……』とひたすら呪うだけの時間は、少なくともあと数分は続きそうだった。
ふざけんなこのヤロー!!!!