ぬいぐるみ事変
その日1日中はみんなの視線が痛く、大好きなスキーもそれほど楽しくない。さらに先生たちは隙あらば叱ろうとしてくるので細心の注意を払わなければいけなかった。だが、最悪なことに事件は起きてしまう。それは日がとっぷり暮れた夕食の準備の時間だった。
彼女は給食係だったので、給食の準備をする。みんなは、自分のやることで精一杯らしく、あの刺すような視線はほとんど無く、ここに来てから初めて心が安らぐのを感じられた。だが…
「待ってくれ〜!あ、[漢字]館林[/漢字][ふりがな]たてばやし[/ふりがな]!そいつ、追っかけてくれー!」
どうやら何かが逃げているらしく、この学年のトップクラスで足の速い館林くんに大谷先生が頼んだ。へえー、大変だねえ、とおばあちゃんみたいなことを考えながら夕食の準備に集中する。もう、面倒事に巻き込まれるのは絶対に嫌だ。だが、糸由のそんな気持ちにお構いなく足音は近づいてくる。彼女は無視を決め込むことにした。
足音が糸由の前で止まった。
「伊野、そいつ渡してくれないか」
「なんのこと」
皿に盛り付けをしながら必要最低限の言葉で答える。
「そのぬいぐるみ、お前のだろ」
「それはそうだ。否定はしない」
館林はイラッとした調子で言った。
「だから、そいつをこっちに渡せって」
糸由は足元をチラッと見て冷たく言う。思った通り、リケラがいる。
「ここにいるんだから。自分でやればいいじゃん?」
すると館林は顔を真っ赤にして言った。
「いや、だって、女子の足もとの…」
最後の方は聞き取れなかった。怒っているのではなく、恥ずかしさから顔を真っ赤にしたようだ。糸由は苦笑いして、リケラに手を伸ばす。捕まえた!というところでパッと脱兎のごとく逃げる。
「館林、お願いできる?」
それだけで意は通じたようだ。彼は走り出した。
彼女は給食係だったので、給食の準備をする。みんなは、自分のやることで精一杯らしく、あの刺すような視線はほとんど無く、ここに来てから初めて心が安らぐのを感じられた。だが…
「待ってくれ〜!あ、[漢字]館林[/漢字][ふりがな]たてばやし[/ふりがな]!そいつ、追っかけてくれー!」
どうやら何かが逃げているらしく、この学年のトップクラスで足の速い館林くんに大谷先生が頼んだ。へえー、大変だねえ、とおばあちゃんみたいなことを考えながら夕食の準備に集中する。もう、面倒事に巻き込まれるのは絶対に嫌だ。だが、糸由のそんな気持ちにお構いなく足音は近づいてくる。彼女は無視を決め込むことにした。
足音が糸由の前で止まった。
「伊野、そいつ渡してくれないか」
「なんのこと」
皿に盛り付けをしながら必要最低限の言葉で答える。
「そのぬいぐるみ、お前のだろ」
「それはそうだ。否定はしない」
館林はイラッとした調子で言った。
「だから、そいつをこっちに渡せって」
糸由は足元をチラッと見て冷たく言う。思った通り、リケラがいる。
「ここにいるんだから。自分でやればいいじゃん?」
すると館林は顔を真っ赤にして言った。
「いや、だって、女子の足もとの…」
最後の方は聞き取れなかった。怒っているのではなく、恥ずかしさから顔を真っ赤にしたようだ。糸由は苦笑いして、リケラに手を伸ばす。捕まえた!というところでパッと脱兎のごとく逃げる。
「館林、お願いできる?」
それだけで意は通じたようだ。彼は走り出した。