もう1つの世界で君と
白い床を踏んだ────
ヘンドリック「!!」
────かと思いきや、実際に踏んだのは黒々としたアスファルトだった。
ヘンドリック「ッエイダン!?」
いない。さっきまで隣にいたはずだ。辺りを見回すが、それらしい人影は見当たらない。
いくら[漢字]強化[/漢字][ふりがな]ブースト[/ふりがな]があるとはいえ、音もなく、しかも初使用で、そんな芸当ができるとは考えづらい。というかそもそも、入国のタイミングで俺と離れるのは合理的じゃない。
フレディによれば、ポイントは他の[漢字]挑戦者[/漢字][ふりがな]プレイヤー[/ふりがな]から奪うことで増やすらしい。今俺が持っている情報だけだと、能力を強化するために、ひいては、この陣取りゲームに勝つために、殺し合いは必須だ。
アナザーシティの既存プレイヤーによる、[漢字]新規プレイヤー狩り[/漢字][ふりがな] ビギナー狩り[/ふりがな]。決して有り得ないことではない。
ヘンドリック「…クソッ!」
意図的に離されたのか…? だったらまずい。
[漢字]新規プレイヤー[/漢字][ふりがな]ビギナー[/ふりがな]が1人。格好の獲物だ。過激なチームか、それこそ[漢字]新規プレイヤー狩り[/漢字][ふりがな] ビギナー狩り[/ふりがな]狩りに見つかれば、話す余地なく殺されかねない。
「さっきヴァンガードの奴らがさあ…」
「はははっ。ヴァンガードかよ、運悪かったな」
「さっさと用済まして戻ろうぜ」
「ここじゃ能力使えないしね〜」
ゔぁんがーど? なんだよそれ。
ドンッ
「チッ」
肩がぶつかる。
振り返ると、4人組の男女が俺を一瞥して去っていった。
ヘンドリック「(なんなんだアイツら…)」
彼らのことは無視して、改めて目の前の景色を見渡す。
眼前では種々な言語が飛び交っており、あちこちで、クラクションやら酔っ払いの怒号やらが聞こえる。店のようなものも多い。
右の方では、バーのグラスが男二人の喧嘩を冷やかし、煽るように宙を舞っている。その少し上にはホログラムの広告がいくつも表示されており、名前も知らない商品の宣伝が流れている。
時間帯としては、恐らく日没直前だろう。ビル群のせいで空全体を見渡すことはできないが、それくらいはわかった。
ヘンドリック「ははっ、すげぇ…」
アナザーシティは多くの人々で賑わっていた。
ヘンドリック「(なんだよ、思ったより平和なんじゃねえか)」
入国したらすぐ戦闘になる可能性も考慮していたが、その心配は無さそうだ。一歩間違えたら殴り合いにはなりそうだが。
?「[斜体]おい、[/斜体]」
ヘンドリック「あ?」
声のした方を向くと、狐目の青年が立っていた。黒髪の毛先が外跳ね気味だからか、より狐っぽく見える。
身長も加味して俺よりも少し年下に見えた。
?「[斜体]お前、巻き込まれたてだな?[/斜体]」
と、その青年は言った。
[中央寄せ]*[/中央寄せ]
彼はジェヒョンと名乗った。
話している言語は英語じゃないし、無論ドイツ語ではなかった。まあでも、多分名前は合ってる。
断定は良くないが、東アジア…韓国あたりだろうか?髪色や顔つきを見てもそっちの方の奴だ。
俺も登録した名前である、本名をそのまま名乗る。
ヘンドリック「…ヘンドリック・ベルツだ」
ジェヒョン「[斜体]そうか、単刀直入に言う[/斜体]」
ジェヒョン「[斜体]俺たちのチームに入れ[/斜体]」
かなり強気な口調だ。だが、内容が全くわからない。
俺が何も言わないのを見て、ジェヒョンは端末を取り出して操作をする。少しして、俺にその画面を見せてきた。
[太字]俺たちのチームに入れ[/太字]
翻訳アプリのようなものだろう。英語で、そう入力されていた。彼はそのまま端末を操作し、音声チャットを開く。もちろん同時翻訳ができるやつだ。彼は、俺とジェヒョンのどちらにも見えるように端末を持ち直した。
ヘンドリック「…拒否権は?」
俺の言葉が一瞬で英語に訳されて画面に表示された。まあそうか。お互い、相手の話している言語に確信がないなら英語を使うのが無難だ。俺の喋ったドイツ語も、英文の上に小さく表示されており、勿論それも完璧に聞き取れている。
[太字]無い。入らなければ殺す[/太字]
即答だ。彼の言葉も一瞬で英語に訳される。上の文字を見ると、やはり韓国語だった。
英文を読んで一瞬、冗談だろ、と思った。
ヘンドリック「マジで?」
しかしまあ、ここは大人しく従うのが賢明だろう。彼は俺よりもこの世界の仕組み、情勢、情報を知っている。そんな相手と戦う気は毛頭無い。
ヘンドリック「まあ良いけど」
ジェヒョンは英文を読んだあと軽く頷き、スタスタと歩き出した。数歩進んだあとこちらを振り向き、俺に向かって雑に手招きをする。ついてこいという意味だと思い、俺もその後に続いた。
彼は黒いジャージに黒いスニーカーを履いていた。細身で、20代前半か、なんなら10代後半な気がする。
ヘンドリック「(かなり若いやつも来るんだな)」
俺も別に若くないわけではないが。
ただ…本来ならここに来るのは招待制だからあまり関係ないか。
そんなことを考えながら、彼の後を追った。
[中央寄せ]*[/中央寄せ]
しばらく歩くと、半透明の薄青いホログラムが膝までの仕切りのようになった場所へ辿り着いた。
[太字]ここがセンター街と外の境目だ。こっから先は能力が使えるようになる
[/太字]
ジェヒョンが再び端末を取り出し、さっきと同じ要領で会話を始める。
ヘンドリック「ってことは、センター街じゃ能力は使えないのか?」
[太字]ああ。フレディから説明されてないか?[/太字]
へえ、こいつもフレディと会ってるのか。
ヘンドリック「細かいことは特に何も」
[太字]まあいい。チームに入ったら教えてやる[/太字]
そう言うと彼は、乱暴に俺の腕を掴み、ホログラムの向こうへ足を踏み出した。
ジェヒョン「[斜体]境界を超えると自動的に自分の領土へテレポートするから────[/斜体]」
ヘンドリック「あ?なんて?端末見えな─────」
彼の、見た目よりも強い力に引かれて俺の足も境界を超えた瞬間、
ヘンドリック「ッはぁあ!?」
視界がぐるっと回転し、一瞬の浮遊感が身体を包む。無重力、宇宙に放り出されたみたいだ。次の瞬間には正常な向きに戻り、地面に足が着く。
視界がはっきりしてきたところで、思わずため息をついた。
ヘンドリック「どこだよここは…」
何故かって?
今日で何度目だろうか。さっきとまるで違う景色が広がっていたからだ。