もう1つの世界で君と
[中央寄せ]*[/中央寄せ]
フレディ「オリビア、端末を2台持ってきてくれますか?」
オリビア「はい」
アンドロイドはフレディに小さくお辞儀をし、窓のある壁側に設置された木のチェストを開ける。
ヘンドリック「?端末なら持ってるけど」
フレディ「いえ、アナザーシティ専用に作り変えたものです」
ヘンドリック「ほーん…」
オリビア「どうぞ」
差し出された端末を無言で受け取る。
ポケットには俺の端末が入っている。角の取れた透明樹脂のボディ、指に馴染む重さ。
画面をつければ、ニュースも地図も、友人からのくだらないメッセージも、端末本体が透明なせいで景色の上に並ぶ。
あれは[漢字]人の生活[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]のためだけの便利な道具だ。
それに比べて、今渡されたこれは何だ。最新ガジェットなんて可愛いもんじゃない。同じ名前のくせに、俺が持っている端末とはまるで違っていた。
冷たい合金とも樹脂ともつかない黒々とした殻。継ぎ目もロゴもなく、製品というより部品。触った瞬間、指先を薄く噛まれた気がした。
───夢を叶えるための鍵が、
ようやく見つかりそうなんだ───
一瞬過ぎったラフェンの言葉を自嘲気味に、鼻で笑う。
夢を見るための鍵のはずが、手錠を渡された気分だった。
エイダン「どうも」
アンドロイド……改めよう、オリビアは再びフレディの横に静かに戻った。彼女はフレディの専用アンドロイドだろうな。
今や人型アンドロイドは一家に一台、いや、一家に一人。金持ちなら何人もだ。
不気味の谷現象を回避するため顔部分は平滑で凹凸は一切なく、全身銀色の塗装がされている。もちろん好みで色を変えることも可能ではある。
家庭に迎え入れられた人型アンドロイドは、新しい家族のように共に暮らすのが一般的で、その中で生活の手助けをする。
購入者は、好みの服を着せたり、合成繊維でできた髪を自由にカスタムしたりして、いくらでも望む見た目に寄せることができる。
故人に見た目を寄せて過去の傷を癒す人も、中には多くいる。
オリビアは、誰を模倣したのだろうか。
フレディ「その端末はアナザーシティでの生活をサポート、及びあなた自身の存在を証明するものです。まずは名前の登録をしてください」
画面に触れると淡い光が広がり、文字入力用のパネルが浮かび上がった。操作性は普段使っている端末と全く違いがない。逆に言えば、その[漢字]違いの無さ[/漢字][ふりがな]・・・・・[/ふりがな]が妙に不気味だった。
ヘンドリック「名前───」
フレディ「本名でなくてもかまいません」
指が、ほんの一瞬だけ止まる。
偽名にすべきか。無難な記号にすべきか。
ヘンドリック「(もうとっくにくたばってるかもしんねえけどな)」
出来るだけ早く、あいつが俺に気付くように。画面に、自分の名前を打ち込む。
[太字]ヘンドリック・ベルツ
[/太字]
自分で打ち込んでおいて、その気色悪さに苦笑する。
フレディが続ける。
フレディ「名前の入力を終えると、能力を確認できるページに進みます」
エイダン「進んだ?ベッツ」
ヘンドリック「もう終わる」
ただ覚悟が必要だっただけだ。確定の表示が静かに脈打つ。
画面に触れた指先が、わずかに震えていた。
登録しました、とのメッセージの次に、ページが切り替わった。タイミングよくフレディが説明する。
フレディ「能力名と、その横に、獲得に必要なポイントが記載されています」
[太字][漢字]強化[/漢字][ふりがな]ブースト[/ふりがな] 600P
[漢字]射撃[/漢字][ふりがな]シュート[/ふりがな] 600P
[漢字]防御[/漢字][ふりがな]ガード[/ふりがな] 500P
[漢字]走査[/漢字][ふりがな]スキャン[/ふりがな] 500P
[漢字]治癒[/漢字][ふりがな]ヒール[/ふりがな] 600P
[漢字]加工[/漢字][ふりがな]シェイプ[/ふりがな] 800P[/太字]
ページのトップには「[太字]所持P:1000[/太字]」とも書かれている。
ヘンドリック「ポイント消費で能力を獲得しろっつーことか」
エイダン「すごいね、これで命懸けの陣取り合戦をするわけだ」
フレディ「その通りです。この場で骨組みを選択し、今後それを肉付けしていく…といったところでしょうか」
エイダン「…つまり、能力は1度決めたら、」
フレディ「ええ、二度と変えることはできませんよ」
フレディがエイダンの質問に重ねるように答える。
フレディ「能力は、端末を通してのみ発動します。端末を紛失、破壊すればあなたは生身の人間に戻ってしまう。これはアナザーシティで生きる上で大きなハンデになります」
フレディ「戦いやすいよう、自分に合ったものを慎重にお選びください」
さらっと言うが、かなり物騒な説明だ。
俺は画面の文字列をもう一度なぞる。数字と単語の羅列。ゲームみたいに綺麗で、やけに現実味がない。
ヘンドリック「これ、本当に実現できるのか?」
ここまで来ても、心の底ではまだ詐欺の商法かもしれないという可能性が燻っている。もし[漢字]こっちの端末[/漢字][ふりがな]・・・・・・[/ふりがな]に高性能センサーが内蔵されていれば俺の人生はおしまい。[漢字]俺の端末[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]の情報を全て抜き取られるからだ。
フレディ「…特別に見せて差し上げましょう。1枚の絵は1000の言葉に値する、とも言いますしね」
オリビアが一歩前に出て、何もない空間に手をかざす──と、床から薄いホログラムの的が立ち上がった。
ヘンドリック「(これくらいなら今の技術で実現可能だ。ただ、物理光線か…)」
フレディ「[漢字]射撃[/漢字][ふりがな]シュート[/ふりがな]を例にしましょう。端末から射程20mの光線を発射します」
フレディが、どこからか取り出した俺たちと同じ黒い端末を的に向ける。
ドンッッ!!
瞬間、ホログラムの的の中心に、細い光が一瞬だけ走った。ガラスが割れたような音を立てながら、薄青いホログラムの光が崩れるように消える。
エイダン「わお」
ヘンドリック「へえ…」
フレディ「理屈の上では、より硬度が高いもの…ビルの壁も難なく撃ち抜くことが可能です」
エイダン「理屈の上では?」
フレディ「扱えるかどうかは、あなた次第ということですよ」
眼鏡の奥の目がふんわりと笑う。
遠回しな自己責任の宣告だ。
画面の「[太字][漢字]射撃[/漢字][ふりがな]シュート[/ふりがな] 600P[/太字]」が、さっきより重く見える。
どれを選ぶのが最適解か…。
[太字][漢字]走査[/漢字][ふりがな]スキャン[/ふりがな][/太字]
いや、俺は人捜しでここに来たんだ。
目に止まったのはその2文字だった。
フレディ「オリビア、端末を2台持ってきてくれますか?」
オリビア「はい」
アンドロイドはフレディに小さくお辞儀をし、窓のある壁側に設置された木のチェストを開ける。
ヘンドリック「?端末なら持ってるけど」
フレディ「いえ、アナザーシティ専用に作り変えたものです」
ヘンドリック「ほーん…」
オリビア「どうぞ」
差し出された端末を無言で受け取る。
ポケットには俺の端末が入っている。角の取れた透明樹脂のボディ、指に馴染む重さ。
画面をつければ、ニュースも地図も、友人からのくだらないメッセージも、端末本体が透明なせいで景色の上に並ぶ。
あれは[漢字]人の生活[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]のためだけの便利な道具だ。
それに比べて、今渡されたこれは何だ。最新ガジェットなんて可愛いもんじゃない。同じ名前のくせに、俺が持っている端末とはまるで違っていた。
冷たい合金とも樹脂ともつかない黒々とした殻。継ぎ目もロゴもなく、製品というより部品。触った瞬間、指先を薄く噛まれた気がした。
───夢を叶えるための鍵が、
ようやく見つかりそうなんだ───
一瞬過ぎったラフェンの言葉を自嘲気味に、鼻で笑う。
夢を見るための鍵のはずが、手錠を渡された気分だった。
エイダン「どうも」
アンドロイド……改めよう、オリビアは再びフレディの横に静かに戻った。彼女はフレディの専用アンドロイドだろうな。
今や人型アンドロイドは一家に一台、いや、一家に一人。金持ちなら何人もだ。
不気味の谷現象を回避するため顔部分は平滑で凹凸は一切なく、全身銀色の塗装がされている。もちろん好みで色を変えることも可能ではある。
家庭に迎え入れられた人型アンドロイドは、新しい家族のように共に暮らすのが一般的で、その中で生活の手助けをする。
購入者は、好みの服を着せたり、合成繊維でできた髪を自由にカスタムしたりして、いくらでも望む見た目に寄せることができる。
故人に見た目を寄せて過去の傷を癒す人も、中には多くいる。
オリビアは、誰を模倣したのだろうか。
フレディ「その端末はアナザーシティでの生活をサポート、及びあなた自身の存在を証明するものです。まずは名前の登録をしてください」
画面に触れると淡い光が広がり、文字入力用のパネルが浮かび上がった。操作性は普段使っている端末と全く違いがない。逆に言えば、その[漢字]違いの無さ[/漢字][ふりがな]・・・・・[/ふりがな]が妙に不気味だった。
ヘンドリック「名前───」
フレディ「本名でなくてもかまいません」
指が、ほんの一瞬だけ止まる。
偽名にすべきか。無難な記号にすべきか。
ヘンドリック「(もうとっくにくたばってるかもしんねえけどな)」
出来るだけ早く、あいつが俺に気付くように。画面に、自分の名前を打ち込む。
[太字]ヘンドリック・ベルツ
[/太字]
自分で打ち込んでおいて、その気色悪さに苦笑する。
フレディが続ける。
フレディ「名前の入力を終えると、能力を確認できるページに進みます」
エイダン「進んだ?ベッツ」
ヘンドリック「もう終わる」
ただ覚悟が必要だっただけだ。確定の表示が静かに脈打つ。
画面に触れた指先が、わずかに震えていた。
登録しました、とのメッセージの次に、ページが切り替わった。タイミングよくフレディが説明する。
フレディ「能力名と、その横に、獲得に必要なポイントが記載されています」
[太字][漢字]強化[/漢字][ふりがな]ブースト[/ふりがな] 600P
[漢字]射撃[/漢字][ふりがな]シュート[/ふりがな] 600P
[漢字]防御[/漢字][ふりがな]ガード[/ふりがな] 500P
[漢字]走査[/漢字][ふりがな]スキャン[/ふりがな] 500P
[漢字]治癒[/漢字][ふりがな]ヒール[/ふりがな] 600P
[漢字]加工[/漢字][ふりがな]シェイプ[/ふりがな] 800P[/太字]
ページのトップには「[太字]所持P:1000[/太字]」とも書かれている。
ヘンドリック「ポイント消費で能力を獲得しろっつーことか」
エイダン「すごいね、これで命懸けの陣取り合戦をするわけだ」
フレディ「その通りです。この場で骨組みを選択し、今後それを肉付けしていく…といったところでしょうか」
エイダン「…つまり、能力は1度決めたら、」
フレディ「ええ、二度と変えることはできませんよ」
フレディがエイダンの質問に重ねるように答える。
フレディ「能力は、端末を通してのみ発動します。端末を紛失、破壊すればあなたは生身の人間に戻ってしまう。これはアナザーシティで生きる上で大きなハンデになります」
フレディ「戦いやすいよう、自分に合ったものを慎重にお選びください」
さらっと言うが、かなり物騒な説明だ。
俺は画面の文字列をもう一度なぞる。数字と単語の羅列。ゲームみたいに綺麗で、やけに現実味がない。
ヘンドリック「これ、本当に実現できるのか?」
ここまで来ても、心の底ではまだ詐欺の商法かもしれないという可能性が燻っている。もし[漢字]こっちの端末[/漢字][ふりがな]・・・・・・[/ふりがな]に高性能センサーが内蔵されていれば俺の人生はおしまい。[漢字]俺の端末[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]の情報を全て抜き取られるからだ。
フレディ「…特別に見せて差し上げましょう。1枚の絵は1000の言葉に値する、とも言いますしね」
オリビアが一歩前に出て、何もない空間に手をかざす──と、床から薄いホログラムの的が立ち上がった。
ヘンドリック「(これくらいなら今の技術で実現可能だ。ただ、物理光線か…)」
フレディ「[漢字]射撃[/漢字][ふりがな]シュート[/ふりがな]を例にしましょう。端末から射程20mの光線を発射します」
フレディが、どこからか取り出した俺たちと同じ黒い端末を的に向ける。
ドンッッ!!
瞬間、ホログラムの的の中心に、細い光が一瞬だけ走った。ガラスが割れたような音を立てながら、薄青いホログラムの光が崩れるように消える。
エイダン「わお」
ヘンドリック「へえ…」
フレディ「理屈の上では、より硬度が高いもの…ビルの壁も難なく撃ち抜くことが可能です」
エイダン「理屈の上では?」
フレディ「扱えるかどうかは、あなた次第ということですよ」
眼鏡の奥の目がふんわりと笑う。
遠回しな自己責任の宣告だ。
画面の「[太字][漢字]射撃[/漢字][ふりがな]シュート[/ふりがな] 600P[/太字]」が、さっきより重く見える。
どれを選ぶのが最適解か…。
[太字][漢字]走査[/漢字][ふりがな]スキャン[/ふりがな][/太字]
いや、俺は人捜しでここに来たんだ。
目に止まったのはその2文字だった。