もう1つの世界で君と
声のした方を咄嗟に見る。
社長室にありがちな机椅子と、そこに座っている受付嬢のようなアンドロイドがいた。
しかし、俺が違和感を覚えたのはそれじゃない。まあより正確に言えば、それだけじゃない。
ヘンドリック「なんでって…ここに招待されたんだよ。俺たち2人とも」
AI「…そのような記録はありませんが」
ヘンドリック「そっちのミスじゃないのか?」
AI「有り得ません」
エイダン「なぜ?」
横から、エイダンが少しキツめに問いただす。
AI「ここの設備は全て最先端の技術を使用しています。取りこぼしなどは一切ありません」
マジかよ、これじゃアナザーシティに入れねえ…。
ヘンドリック「アンドロイドじゃ話が通じねえな。人間を出せよ」
エイダン「ベッツ、あんま言い過ぎるなよ。AIの自己防衛システムが作動する」
ヘンドリック「チッ…」
自己防衛システム。アンドロイドやドローンなどのAIが敵意を向けられていると解釈したときに自動で発動されるスリープ機能のようなものだ。今じゃ、相当古い機種じゃない限り全てのAIに搭載されている。
エイダン「今スリープモードに移行されちゃあ困るだろ」
ヘンドリック「ンなの分かってっけど…!」
AI「招待の記録はありません。お帰りください」
ウィーン
さっきまであんなに開いてほしかったはずなのに、扉の先を憎々しげに見つめる。
ヘンドリック「(ここまで来たのに…!!)」
?「まあまあ。いいじゃないですか、オリビア」
?「おふたりは、アナザーシティに行きたいのでしょう?もちろん歓迎しますよ」
新たな登場人物は、ブラウンのスーツを優雅に着こなした銀髪の老紳士だった。おまけに金縁のモノクルを着用している。
いやどっから来たこの人。
?「オリビア、彼らを私の部屋に招いてくれますか?」
AI「わかりました」
アンドロイドは老紳士の指示を聞き、すぐに宙で手を動かす。すると、殺風景だった部屋が、ヴィンテージスタイルの温かみのある部屋に変わった。
社長室にありがちな机椅子はそのままで、その後ろにはブラインドが閉まった大きめの窓が設置されている。俺たちの後ろには革のソファが用意されていた。
?「お疲れでしょう、どうぞ座ってください」
言われるがままに腰を下ろす。
エイダン「…絶対に高級だぞ、このソファ」
ヘンドリック「ボロくてカビの生えた公園のベンチとは大違いだな」
エイダン「それと並べるのも失礼だろ…」
?「紅茶か珈琲はいかがです?珈琲はブラック、おすすめは紅茶です」
ヘンドリック「俺は珈琲で」
エイダン「…じゃ、俺も珈琲でお願いします」
エイダンが、そこは紅茶にしろよ、という目で俺も見てくる。多分俺に合わせたんだろうな、コイツバカじゃねぇの。
ヘンドリック「(紅茶がいいなら紅茶にしろよ…)」
エイダン「へえ…全自動じゃないのか」
エイダンの言葉にハッとして俺も老紳士の手元に目を向ける。
彼はドリッパーにペーパーフィルターをセットし、コーヒー粉を入れている。横にあるポットにはお湯が入っているようだ。随分手際がいい。
今では自分で何かをするということは極端に減っていて、ほとんどが全自動。最初から最後まで全てAIがやってしまうようになった。
なぜ、彼はわざわざ自分で作るのだろうか。今の技術があれば、珈琲なんてAIが一瞬で用意できるのに、しかもプロ監修のやつ。
ヘンドリック「…いい香りだ」
エイダン「たしかに。淹れるまでの工程があるからね」
AIが瞬時に用意するものは、目の前に置かれるまでの音も香りもない。
いつの間にか、AIがすぐになんでもやってくれることが当たり前になっていて、工程というもの自体がすっかり俺から抜け落ちていた。AIの恐ろしい部分が垣間見えた気がして、少し恐怖を覚える。
?「おふたりは面白い方ですね。[漢字]最初[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]は紅茶を選ぶ人がほとんどなのに」
老紳士は、どうぞ、と目の前のローテーブルに湯気のたった珈琲をふたつ置く。
エイダン「最初って?」
老紳士が温和な笑みを浮かべる。
?「では、アナザーシティについて説明しましょうか」
社長室にありがちな机椅子と、そこに座っている受付嬢のようなアンドロイドがいた。
しかし、俺が違和感を覚えたのはそれじゃない。まあより正確に言えば、それだけじゃない。
ヘンドリック「なんでって…ここに招待されたんだよ。俺たち2人とも」
AI「…そのような記録はありませんが」
ヘンドリック「そっちのミスじゃないのか?」
AI「有り得ません」
エイダン「なぜ?」
横から、エイダンが少しキツめに問いただす。
AI「ここの設備は全て最先端の技術を使用しています。取りこぼしなどは一切ありません」
マジかよ、これじゃアナザーシティに入れねえ…。
ヘンドリック「アンドロイドじゃ話が通じねえな。人間を出せよ」
エイダン「ベッツ、あんま言い過ぎるなよ。AIの自己防衛システムが作動する」
ヘンドリック「チッ…」
自己防衛システム。アンドロイドやドローンなどのAIが敵意を向けられていると解釈したときに自動で発動されるスリープ機能のようなものだ。今じゃ、相当古い機種じゃない限り全てのAIに搭載されている。
エイダン「今スリープモードに移行されちゃあ困るだろ」
ヘンドリック「ンなの分かってっけど…!」
AI「招待の記録はありません。お帰りください」
ウィーン
さっきまであんなに開いてほしかったはずなのに、扉の先を憎々しげに見つめる。
ヘンドリック「(ここまで来たのに…!!)」
?「まあまあ。いいじゃないですか、オリビア」
?「おふたりは、アナザーシティに行きたいのでしょう?もちろん歓迎しますよ」
新たな登場人物は、ブラウンのスーツを優雅に着こなした銀髪の老紳士だった。おまけに金縁のモノクルを着用している。
いやどっから来たこの人。
?「オリビア、彼らを私の部屋に招いてくれますか?」
AI「わかりました」
アンドロイドは老紳士の指示を聞き、すぐに宙で手を動かす。すると、殺風景だった部屋が、ヴィンテージスタイルの温かみのある部屋に変わった。
社長室にありがちな机椅子はそのままで、その後ろにはブラインドが閉まった大きめの窓が設置されている。俺たちの後ろには革のソファが用意されていた。
?「お疲れでしょう、どうぞ座ってください」
言われるがままに腰を下ろす。
エイダン「…絶対に高級だぞ、このソファ」
ヘンドリック「ボロくてカビの生えた公園のベンチとは大違いだな」
エイダン「それと並べるのも失礼だろ…」
?「紅茶か珈琲はいかがです?珈琲はブラック、おすすめは紅茶です」
ヘンドリック「俺は珈琲で」
エイダン「…じゃ、俺も珈琲でお願いします」
エイダンが、そこは紅茶にしろよ、という目で俺も見てくる。多分俺に合わせたんだろうな、コイツバカじゃねぇの。
ヘンドリック「(紅茶がいいなら紅茶にしろよ…)」
エイダン「へえ…全自動じゃないのか」
エイダンの言葉にハッとして俺も老紳士の手元に目を向ける。
彼はドリッパーにペーパーフィルターをセットし、コーヒー粉を入れている。横にあるポットにはお湯が入っているようだ。随分手際がいい。
今では自分で何かをするということは極端に減っていて、ほとんどが全自動。最初から最後まで全てAIがやってしまうようになった。
なぜ、彼はわざわざ自分で作るのだろうか。今の技術があれば、珈琲なんてAIが一瞬で用意できるのに、しかもプロ監修のやつ。
ヘンドリック「…いい香りだ」
エイダン「たしかに。淹れるまでの工程があるからね」
AIが瞬時に用意するものは、目の前に置かれるまでの音も香りもない。
いつの間にか、AIがすぐになんでもやってくれることが当たり前になっていて、工程というもの自体がすっかり俺から抜け落ちていた。AIの恐ろしい部分が垣間見えた気がして、少し恐怖を覚える。
?「おふたりは面白い方ですね。[漢字]最初[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]は紅茶を選ぶ人がほとんどなのに」
老紳士は、どうぞ、と目の前のローテーブルに湯気のたった珈琲をふたつ置く。
エイダン「最初って?」
老紳士が温和な笑みを浮かべる。
?「では、アナザーシティについて説明しましょうか」