もう1つの世界で君と
あの電話から1週間も経たないうちに、ラフェンは俺を残して消えた。
何度メールを送っても、時々既読がつくだけで返信はなく、1週間ほど経てば既読すら、連絡もつかなくなり、さすがに俺も折れた。
当然、向こうからの連絡は1度もなく、あの電話がラフェンとの最後の会話になるんじゃないかとさえ思う。
今はもう、アイツの電話番号なんて覚えていない。
[中央寄せ]*[/中央寄せ]
2080 ドイツ 午後1時12分
すでに12時を回っているが、することも無いのでぶらぶらと行く宛てもなく歩く。
自販機で缶コーヒーを買い、しばらく歩いて見つけた公園のベンチに腰掛けた。
コーヒーはもう冷めていて、不味い。
?「ドリックじゃん」
ヘンドリック「…ドーラ、久しぶりだな。お前仕事中じゃないのか?」
胸あたりまである金髪に緑がかった目、高い鼻にスレンダーな体型、意識したことは無かったが改めて見ると端正な顔立ちをしていて、まるでモデルだ。
ラフェンがいる時は3人でよくつるんでいたが、アイツが居なくなってから、2人で会うことはあまり無かった。
ドーラ「久しぶりっても2、3ヶ月でしょ。今は昼休憩で外にいるだけ」
彼女は海外営業をしていて、よく俺やラフェンに、様々な国についての膨大な知識を得意げに披露してきた。
そして、会社の中ではそこそこの地位にいる、ということもついでに自慢してくる。
ドーラ「ってか、アンタこそ何してんの」
こんなとこでさ、と言われ、「いや、別に」とぶっきらぼうに返す。
ドーラ「…ドリック、アンタ変わったよね。ラフェンがいなくなってからさ」
ドーラが、俺と少し離れてベンチに座る。
ふわっとした金色の髪が、穏やかな風になびいていた。
ヘンドリック「そうか?」
ドーラ「そうよ」
ドーラ「…こんな時間に、公園でぼーっとしてるような腑抜けた奴じゃ無かったでしょ」
ヘンドリック「悪かったな、腑抜けた奴で」
ドーラ「行かないの?」
と彼女は言った。
ヘンドリック「どこに?」
ドーラ「どうせ分かってるくせに」
と彼女が笑う。
ヘンドリック「まあな」
と俺も笑う。
慣れた手つきで、ズボンのポケットからシガレットを1本取り出し、ライターで火をつけた。
世間では加熱式タバコのような有害な煙が出ないものが主流だが、どうにも俺の口に合わない。それで今でも古くさい紙製のタバコを使っている。
ドーラ「ちょ、タバコのにおい付いちゃうじゃない」
不快そうに俺と距離をとる。
あからさますぎるだろ、コイツ。
ヘンドリック「こんぐらいいいだろ」
ドーラ「はぁ…」
ドーラ「——因みになんだけど、私1週間後にアメリカに出張なのよね」
ヘンドリック「随分いいタイミングだな」
ドーラ「ほら、どーすんのよ?」
ヘンドリック「せっかちだな、もう少し待ってくれてもいいだろ?」
ドーラ「アンタがにぶいのよ」
そうだな…と少し考え込む。
タバコを靴で踏み潰して、火を消した。
ヘンドリック「よし、休憩は終わりだ」
ドーラ「どこ行くの?」
急にベンチを立って歩き出した俺を、ドーラが慌てて追いかける。
ヘンドリック「荷物をまとめるんだ」
彼女が自分の営業成績を自慢するときの雰囲気をまねて、得意げにこう言った。
ヘンドリック「1週間後、アメリカの北カリフォルニアへ行く」
ドーラが満足そうに笑った。
何度メールを送っても、時々既読がつくだけで返信はなく、1週間ほど経てば既読すら、連絡もつかなくなり、さすがに俺も折れた。
当然、向こうからの連絡は1度もなく、あの電話がラフェンとの最後の会話になるんじゃないかとさえ思う。
今はもう、アイツの電話番号なんて覚えていない。
[中央寄せ]*[/中央寄せ]
2080 ドイツ 午後1時12分
すでに12時を回っているが、することも無いのでぶらぶらと行く宛てもなく歩く。
自販機で缶コーヒーを買い、しばらく歩いて見つけた公園のベンチに腰掛けた。
コーヒーはもう冷めていて、不味い。
?「ドリックじゃん」
ヘンドリック「…ドーラ、久しぶりだな。お前仕事中じゃないのか?」
胸あたりまである金髪に緑がかった目、高い鼻にスレンダーな体型、意識したことは無かったが改めて見ると端正な顔立ちをしていて、まるでモデルだ。
ラフェンがいる時は3人でよくつるんでいたが、アイツが居なくなってから、2人で会うことはあまり無かった。
ドーラ「久しぶりっても2、3ヶ月でしょ。今は昼休憩で外にいるだけ」
彼女は海外営業をしていて、よく俺やラフェンに、様々な国についての膨大な知識を得意げに披露してきた。
そして、会社の中ではそこそこの地位にいる、ということもついでに自慢してくる。
ドーラ「ってか、アンタこそ何してんの」
こんなとこでさ、と言われ、「いや、別に」とぶっきらぼうに返す。
ドーラ「…ドリック、アンタ変わったよね。ラフェンがいなくなってからさ」
ドーラが、俺と少し離れてベンチに座る。
ふわっとした金色の髪が、穏やかな風になびいていた。
ヘンドリック「そうか?」
ドーラ「そうよ」
ドーラ「…こんな時間に、公園でぼーっとしてるような腑抜けた奴じゃ無かったでしょ」
ヘンドリック「悪かったな、腑抜けた奴で」
ドーラ「行かないの?」
と彼女は言った。
ヘンドリック「どこに?」
ドーラ「どうせ分かってるくせに」
と彼女が笑う。
ヘンドリック「まあな」
と俺も笑う。
慣れた手つきで、ズボンのポケットからシガレットを1本取り出し、ライターで火をつけた。
世間では加熱式タバコのような有害な煙が出ないものが主流だが、どうにも俺の口に合わない。それで今でも古くさい紙製のタバコを使っている。
ドーラ「ちょ、タバコのにおい付いちゃうじゃない」
不快そうに俺と距離をとる。
あからさますぎるだろ、コイツ。
ヘンドリック「こんぐらいいいだろ」
ドーラ「はぁ…」
ドーラ「——因みになんだけど、私1週間後にアメリカに出張なのよね」
ヘンドリック「随分いいタイミングだな」
ドーラ「ほら、どーすんのよ?」
ヘンドリック「せっかちだな、もう少し待ってくれてもいいだろ?」
ドーラ「アンタがにぶいのよ」
そうだな…と少し考え込む。
タバコを靴で踏み潰して、火を消した。
ヘンドリック「よし、休憩は終わりだ」
ドーラ「どこ行くの?」
急にベンチを立って歩き出した俺を、ドーラが慌てて追いかける。
ヘンドリック「荷物をまとめるんだ」
彼女が自分の営業成績を自慢するときの雰囲気をまねて、得意げにこう言った。
ヘンドリック「1週間後、アメリカの北カリフォルニアへ行く」
ドーラが満足そうに笑った。