もう1つの世界で君と
2077 ドイツ 午前5時57分
「おはよう、ドリック」
「おはよう。で、なんの用?」
薄いカーテンから、太陽と思われる光がうっすら差し込んでいた。
クソ、ゲームに熱中しすぎた。
そろそろ寝なきゃヤバいとベッドに寝転んだ瞬間、遠慮のないコールに眠気を覚まされる。
「世界中で有名な人っているでしょ?」
俺の友人であるラフェン・シュティルナーは、アインシュタイン、ベートーヴェン、あとゲーテとかさ、と、ドイツの有名な人物をここぞとばかりに並べ始める。
「わかったけど、それで?何が言いたいんだよ?」
「全く、君は本当にせっかちだよね」
「お前の話し方にも問題があるだろ」
コイツ…ラフェンは昔から、物事を少し遠回しに話す癖があるのだ。
「まあまあ。で、もう一つ質問なんだけど。君、子供の時の夢って言える?」
尋ねられ、一瞬言葉がつっかえる。
「——そんなのとっくに忘れたさ。というか、そんなの覚えてても何にもならないだろ?どうせ叶うはずない夢物語だ」
「…君は、そう言うと思ったよ」
ラフェンの達観したような姿勢が癪に障る。
「ラフェン、お前は覚えてんのか?」
「俺は、教科書の年表に名前が載るような人に、今まで誰も出来なかったことをして伝記が大量に出版されるような人になりたかったよ」
「お前は俺にバカにされるために、こんな時間に電話をかけてきたのか?」
「俺は今でも、アインシュタイン達みたいな世界レベルの有名人になりたい、ってことをドリックに話しておきたかったんだよ」
世界レベルの、とヘンドリック——ドリックとはラフェンが勝手につけた愛称である——は眠たい頭で反復した。
頭の半分では、今寝たとしていつ起きるかを考えていた。
「それは…方法の検討はついてるのか?」
「まあね。アメリカの北カリフォルニアにさ、最近噂の大都市があるじゃん?」
「…ああ、"アナザーシティ"か」
「正解〜」
アナザーシティ。
近年になって、突如出現したと言われる謎の大都市である。いや、大都市が突如出現などするわけが無いのだが、まあ所詮噂だから致し方ない。噂には尾ひれがつくものだ。
謎、と呼ばれているのは、誰もその大都市に入ることが出来ないからだ。
なんでも、招待された者にしか入る権利は無いんだと。
その大都市では、大規模な陣取り合戦が繰り広げられているらしい。約100万人がそれぞれチームを作り、大都市の領土を求めてチーム同士で戦いあっているのだ。
その陣取り合戦を制したときの栄光は計り知れないとさえ言われている、夢の都市。
「夢を叶えるための鍵が、ようやく見つかりそうなんだ」
なんてことを一方的に喋って、電話が切れた。
ヘンドリックは再びベッドに横たわり、眠りにつく前に、ラフェンに一通のメールを送った。
——夢が叶ったら、俺を側近にしてくれよ。
と1文だけ。
午後、目を覚ますと、ラフェンから返信が届いていた。
返信も1文だけだ。
——君がそれを覚えてたらね。
なんだ、それ。
俺の友人のラフェンはやっぱり、少し達観したような姿勢が癪に障る。
メールには1枚の画像が添付されていた。おちゃらけた笑顔で、パスポートを得意げにこちらに見せつけているラフェンの写真だった。
「おはよう、ドリック」
「おはよう。で、なんの用?」
薄いカーテンから、太陽と思われる光がうっすら差し込んでいた。
クソ、ゲームに熱中しすぎた。
そろそろ寝なきゃヤバいとベッドに寝転んだ瞬間、遠慮のないコールに眠気を覚まされる。
「世界中で有名な人っているでしょ?」
俺の友人であるラフェン・シュティルナーは、アインシュタイン、ベートーヴェン、あとゲーテとかさ、と、ドイツの有名な人物をここぞとばかりに並べ始める。
「わかったけど、それで?何が言いたいんだよ?」
「全く、君は本当にせっかちだよね」
「お前の話し方にも問題があるだろ」
コイツ…ラフェンは昔から、物事を少し遠回しに話す癖があるのだ。
「まあまあ。で、もう一つ質問なんだけど。君、子供の時の夢って言える?」
尋ねられ、一瞬言葉がつっかえる。
「——そんなのとっくに忘れたさ。というか、そんなの覚えてても何にもならないだろ?どうせ叶うはずない夢物語だ」
「…君は、そう言うと思ったよ」
ラフェンの達観したような姿勢が癪に障る。
「ラフェン、お前は覚えてんのか?」
「俺は、教科書の年表に名前が載るような人に、今まで誰も出来なかったことをして伝記が大量に出版されるような人になりたかったよ」
「お前は俺にバカにされるために、こんな時間に電話をかけてきたのか?」
「俺は今でも、アインシュタイン達みたいな世界レベルの有名人になりたい、ってことをドリックに話しておきたかったんだよ」
世界レベルの、とヘンドリック——ドリックとはラフェンが勝手につけた愛称である——は眠たい頭で反復した。
頭の半分では、今寝たとしていつ起きるかを考えていた。
「それは…方法の検討はついてるのか?」
「まあね。アメリカの北カリフォルニアにさ、最近噂の大都市があるじゃん?」
「…ああ、"アナザーシティ"か」
「正解〜」
アナザーシティ。
近年になって、突如出現したと言われる謎の大都市である。いや、大都市が突如出現などするわけが無いのだが、まあ所詮噂だから致し方ない。噂には尾ひれがつくものだ。
謎、と呼ばれているのは、誰もその大都市に入ることが出来ないからだ。
なんでも、招待された者にしか入る権利は無いんだと。
その大都市では、大規模な陣取り合戦が繰り広げられているらしい。約100万人がそれぞれチームを作り、大都市の領土を求めてチーム同士で戦いあっているのだ。
その陣取り合戦を制したときの栄光は計り知れないとさえ言われている、夢の都市。
「夢を叶えるための鍵が、ようやく見つかりそうなんだ」
なんてことを一方的に喋って、電話が切れた。
ヘンドリックは再びベッドに横たわり、眠りにつく前に、ラフェンに一通のメールを送った。
——夢が叶ったら、俺を側近にしてくれよ。
と1文だけ。
午後、目を覚ますと、ラフェンから返信が届いていた。
返信も1文だけだ。
——君がそれを覚えてたらね。
なんだ、それ。
俺の友人のラフェンはやっぱり、少し達観したような姿勢が癪に障る。
メールには1枚の画像が添付されていた。おちゃらけた笑顔で、パスポートを得意げにこちらに見せつけているラフェンの写真だった。