宮廷台所の隠し味
「『娘に会いたい…』? 侍女頭さま、妃に娘はおられますか?」
すると、侍女頭はふるふると、首を横に振った。
「血の繋がった娘はおりません。ですが、ずっと主上の娘…公主さまを娘と可愛がっておられました。…それが夢の中であったとしても」
「主上の娘…か。夢の中、会えない…」
はあああぁぁぁ───……
頭痛がする。額に手を当てる。
(私だ)
私でなくても、私のことを言っている。
(とりあえず、私に出来ることをするだけだ)
[大文字][太字][明朝体]『死なせて。』[/明朝体][/太字][/大文字]
そんな真似、させるわけない。
今ここで『母』の愛を受け取ったから!
「侍女頭さま、水と手拭い、あと炭を用意してください! できる範囲で蘇生致します。苦しまない程度に」
「…あなたは、医療関係者なの?」
「いいえ、どうせこれは医官の真似事でございます。これが失敗すれば、私の首を吹っ飛ばして構いません! ただこの行為は妃のためだけにします」
そう、侍女頭の心配は、ごく当然のことだった。
関係者かそうでないかは、妃の命に関わることだ。
(私の『父さん』たる人は医者なんだけどな)
私の母はいまや食堂の女将さん。女身一つで私を育ててきたかというと、実はそうではない。
母、[漢字]琳美[/漢字][ふりがな]リンメイ[/ふりがな]には旦那がいた。まあいなければ、私の母だと言いきれなかっただろう。
旦那は、都で、医者をしていた。
それは決して宮の中ではなく、町人や村人のための医者だった。だから、見様見真似で遊んでいたことを今、初めて生身でしようと言うのだ。しかも、貴妃という御立場の方に。
(所詮初心者。ただの小娘だ。失敗するかもしれないと向こうも分かっているはず)
「分かりました。すぐ用意しましょう。貴明、蘭蘭。水と手拭いと炭を持ちなさい」
『は、はいっ! 琳美さま』
(おや、私の母さんとおんなじ名前だ)
こんな運命もあるものだなあ、としみじみ感じていると、「早くしなさいよ」と言いたげにこちらを見ている侍女頭がいた。
すると、侍女頭はふるふると、首を横に振った。
「血の繋がった娘はおりません。ですが、ずっと主上の娘…公主さまを娘と可愛がっておられました。…それが夢の中であったとしても」
「主上の娘…か。夢の中、会えない…」
はあああぁぁぁ───……
頭痛がする。額に手を当てる。
(私だ)
私でなくても、私のことを言っている。
(とりあえず、私に出来ることをするだけだ)
[大文字][太字][明朝体]『死なせて。』[/明朝体][/太字][/大文字]
そんな真似、させるわけない。
今ここで『母』の愛を受け取ったから!
「侍女頭さま、水と手拭い、あと炭を用意してください! できる範囲で蘇生致します。苦しまない程度に」
「…あなたは、医療関係者なの?」
「いいえ、どうせこれは医官の真似事でございます。これが失敗すれば、私の首を吹っ飛ばして構いません! ただこの行為は妃のためだけにします」
そう、侍女頭の心配は、ごく当然のことだった。
関係者かそうでないかは、妃の命に関わることだ。
(私の『父さん』たる人は医者なんだけどな)
私の母はいまや食堂の女将さん。女身一つで私を育ててきたかというと、実はそうではない。
母、[漢字]琳美[/漢字][ふりがな]リンメイ[/ふりがな]には旦那がいた。まあいなければ、私の母だと言いきれなかっただろう。
旦那は、都で、医者をしていた。
それは決して宮の中ではなく、町人や村人のための医者だった。だから、見様見真似で遊んでいたことを今、初めて生身でしようと言うのだ。しかも、貴妃という御立場の方に。
(所詮初心者。ただの小娘だ。失敗するかもしれないと向こうも分かっているはず)
「分かりました。すぐ用意しましょう。貴明、蘭蘭。水と手拭いと炭を持ちなさい」
『は、はいっ! 琳美さま』
(おや、私の母さんとおんなじ名前だ)
こんな運命もあるものだなあ、としみじみ感じていると、「早くしなさいよ」と言いたげにこちらを見ている侍女頭がいた。