宮廷台所の隠し味
「父上、この娘です」
「おお、おお…」
『帝』は目を輝かせる。
「寧夏、寧夏! さあこちらにおいで!」
娘は、あからさまに嫌な顔をする。
「寧夏とは誰ですか? 私は春陽。夏ではなく春ですよ」
「春陽? どこかで聞いた名だな。輝狼、官女の名簿を持って来い」
「御意」
そうして、『輝狼』とやらが取ってきたのは、官女の名簿。
きっと、あの中に、私の名前も書いてあるのであろう。そう考えては、ため息ばかりついていた。
「春陽…、ありました。帝や后、妃などがお召し上がりになる御馳走を作っていた、とのこと」
「公主を働かせるだと? そんなことがあっていいはずがない!」
帝(?)は大変お怒りになる。
ああ、自分の未来は自分で切り開かなくては。
それが、『下民』の教えだ。
上手く切り開けた者は、官として働くことができ、出来なかった者はずっと下民のままだ。
それが、世の常である。
「同僚の『大明』と『香仁』を呼んでください。官女で美味い料理を作る『花』たちです」
そう、あのふたりは『花園』の『花』だった。
ふたりとも、どこぞの姫君で、後宮からこっそり抜け出した、下級妃だったのだ。
そのことを年季明けに知った。
「大明と香仁だな? わかった、杏天、呼べ」
「分かりました」
「春陽…!!」
「どうしてここに?」
同僚との再会に胸がはち切れそうだ。
「帝の御前だ。控えよ」
ババッ
やはり、妃には見えない。
お手付きはないらしいからいいんだけど。
「私たちは全く知りませんでした。春陽が公主様だなんて」
「露店を営んでいる母から『官女にならないか? なって才が埋もれることを防ぎたい』と言われ官女になったそうです」
ふたりの証言に耳を傾けていると、杏天がどうぞ、と菓子を出してくれた。
私は菓子を口に含む。
ふんわり柔らかな食感。上品な甘みに加え、ほのかに香る餡の酸味。ああたまらない! このお饅頭!
「それ、帝へのお土産なんだけど。たくさん作っといて良かったわ」
おお、道理で美味しいわけだ。
デザート作りのプロだもの、大明は。
「露店? 母? ふたりとも、下がれ」
「分かりました」
「[漢字]再見[/漢字][ふりがな]ザイジェン[/ふりがな]、春陽」
「ええ、またね」
「店の名前を教えてくれ」
輝狼が訊く。
はあ? 店の名前? [漢字]刀削麺[/漢字][ふりがな]トーショーメン[/ふりがな]でも食いに行く気か!?
「最近、露店からちゃんとした[漢字]食堂[/漢字][ふりがな]レストラン[/ふりがな]になったのですが、[漢字]康乃馨[/漢字][ふりがな]カーネーション[/ふりがな]飯店と言います」
「[漢字]康乃馨[/漢字][ふりがな]カーネーション[/ふりがな]」
「母という意味で名付けました。すべて母に恩がありますので」
そう、母のおかげで官女になり、充分に稼ぎ、店を持てた。すべて母のおかげだ。
「杏天、皇后を呼んで来い」
「御意」
え?
皇后?
帝が言っていることが正しければ、私の『本当の』母君だ。
「おお、おお…」
『帝』は目を輝かせる。
「寧夏、寧夏! さあこちらにおいで!」
娘は、あからさまに嫌な顔をする。
「寧夏とは誰ですか? 私は春陽。夏ではなく春ですよ」
「春陽? どこかで聞いた名だな。輝狼、官女の名簿を持って来い」
「御意」
そうして、『輝狼』とやらが取ってきたのは、官女の名簿。
きっと、あの中に、私の名前も書いてあるのであろう。そう考えては、ため息ばかりついていた。
「春陽…、ありました。帝や后、妃などがお召し上がりになる御馳走を作っていた、とのこと」
「公主を働かせるだと? そんなことがあっていいはずがない!」
帝(?)は大変お怒りになる。
ああ、自分の未来は自分で切り開かなくては。
それが、『下民』の教えだ。
上手く切り開けた者は、官として働くことができ、出来なかった者はずっと下民のままだ。
それが、世の常である。
「同僚の『大明』と『香仁』を呼んでください。官女で美味い料理を作る『花』たちです」
そう、あのふたりは『花園』の『花』だった。
ふたりとも、どこぞの姫君で、後宮からこっそり抜け出した、下級妃だったのだ。
そのことを年季明けに知った。
「大明と香仁だな? わかった、杏天、呼べ」
「分かりました」
「春陽…!!」
「どうしてここに?」
同僚との再会に胸がはち切れそうだ。
「帝の御前だ。控えよ」
ババッ
やはり、妃には見えない。
お手付きはないらしいからいいんだけど。
「私たちは全く知りませんでした。春陽が公主様だなんて」
「露店を営んでいる母から『官女にならないか? なって才が埋もれることを防ぎたい』と言われ官女になったそうです」
ふたりの証言に耳を傾けていると、杏天がどうぞ、と菓子を出してくれた。
私は菓子を口に含む。
ふんわり柔らかな食感。上品な甘みに加え、ほのかに香る餡の酸味。ああたまらない! このお饅頭!
「それ、帝へのお土産なんだけど。たくさん作っといて良かったわ」
おお、道理で美味しいわけだ。
デザート作りのプロだもの、大明は。
「露店? 母? ふたりとも、下がれ」
「分かりました」
「[漢字]再見[/漢字][ふりがな]ザイジェン[/ふりがな]、春陽」
「ええ、またね」
「店の名前を教えてくれ」
輝狼が訊く。
はあ? 店の名前? [漢字]刀削麺[/漢字][ふりがな]トーショーメン[/ふりがな]でも食いに行く気か!?
「最近、露店からちゃんとした[漢字]食堂[/漢字][ふりがな]レストラン[/ふりがな]になったのですが、[漢字]康乃馨[/漢字][ふりがな]カーネーション[/ふりがな]飯店と言います」
「[漢字]康乃馨[/漢字][ふりがな]カーネーション[/ふりがな]」
「母という意味で名付けました。すべて母に恩がありますので」
そう、母のおかげで官女になり、充分に稼ぎ、店を持てた。すべて母のおかげだ。
「杏天、皇后を呼んで来い」
「御意」
え?
皇后?
帝が言っていることが正しければ、私の『本当の』母君だ。