宮廷台所の隠し味
「おう、龍雄、お帰り… って、春陽! 春陽じゃねえか! 今までどうしてたんだ? 宮仕事から帰ってきて、三日で次は行方不明。小母さん、取り乱してたぞ」
コイツは[漢字]龍門[/漢字][ふりがな]ロンメン[/ふりがな]。龍雄の兄で私の一つ歳上。医者をしている。
「そうね…母さんの店にも行かなきゃね」
「うん? 行ってなかったのか?」
「宮からひとっ走りして来た」
「マジで宮で働いてんのかよ!」
久しぶりのテンポ。
後宮や宮廷のことを兄弟に話すと、二人は唾を飲んだ。
「おいおい…帝がお前の父さんだってか!」
私のボロボロの足に塗り薬を塗りながら、龍門はおっかなそうな顔をする。
「僕は分かってたよ。かなり昔、指名手配みたいに街中に貼ってたからね。結構似てると思ってたけど…」
薬棚をあさりながら、淡々と話す龍雄。
「そんなことより! 水!」
台パンした私に驚く龍兄弟。一瞬、兄弟に稲妻が走った気がした。
何故なら私は、昔っから『お飯事』好きのか弱い少女だったから。こんな『春陽』、思ってもみないだろう。
それは無視して、私は続けた。
「川の水って、死体が入ってんの? この辺の皆って、水飲んでるよね?」
「死体の一つや二つ入ってるだろうさ。墓地を通るからね」
墓地!
「川って堀にも繋がってるかな?」
「うん、繋がってんじゃねえの? 俺たちは知らねえけど、寺院の住職にでも訊いてみるといい」
「ありがと! すぐ行く」
「え、飲茶用意しようと思ってたんだけどー」
龍雄の声が部屋に響く。
私の心もそれだけ酷く震えていた。まるで北国に薄着で行ったように────。
コイツは[漢字]龍門[/漢字][ふりがな]ロンメン[/ふりがな]。龍雄の兄で私の一つ歳上。医者をしている。
「そうね…母さんの店にも行かなきゃね」
「うん? 行ってなかったのか?」
「宮からひとっ走りして来た」
「マジで宮で働いてんのかよ!」
久しぶりのテンポ。
後宮や宮廷のことを兄弟に話すと、二人は唾を飲んだ。
「おいおい…帝がお前の父さんだってか!」
私のボロボロの足に塗り薬を塗りながら、龍門はおっかなそうな顔をする。
「僕は分かってたよ。かなり昔、指名手配みたいに街中に貼ってたからね。結構似てると思ってたけど…」
薬棚をあさりながら、淡々と話す龍雄。
「そんなことより! 水!」
台パンした私に驚く龍兄弟。一瞬、兄弟に稲妻が走った気がした。
何故なら私は、昔っから『お飯事』好きのか弱い少女だったから。こんな『春陽』、思ってもみないだろう。
それは無視して、私は続けた。
「川の水って、死体が入ってんの? この辺の皆って、水飲んでるよね?」
「死体の一つや二つ入ってるだろうさ。墓地を通るからね」
墓地!
「川って堀にも繋がってるかな?」
「うん、繋がってんじゃねえの? 俺たちは知らねえけど、寺院の住職にでも訊いてみるといい」
「ありがと! すぐ行く」
「え、飲茶用意しようと思ってたんだけどー」
龍雄の声が部屋に響く。
私の心もそれだけ酷く震えていた。まるで北国に薄着で行ったように────。