宮廷台所の隠し味
「私が、毒見役の桜珊です…。私に何の用ですか、公主さま?」
挑発的に下から睨めつけてくる。
「…。妃が死んだ時毒見をしたのって、あなたですよね?」
「そうよ」
「何を口にされたのですか?」
「水よ。喉が渇いたって言われたので」
「その水、まだあります?」
「あの銀杯のはずよ。飲み干してなければ、まだあるわね」
「そうですか…」
私は、桜珊が指さす方を見る。
そこには、机と銀杯。そして、妃の、血の通わぬ手が乗っていた。
(こんな場所、居たくない…でも…)
「何か、色付きの器をご用意ください。出来れば、青色以外の物でお願いします」
私は、勝ち誇ったような目を真犯人の方に向けて、にいっと笑んだ。
「どうすると言うのだ?」
輝狼が訊いてくる。
「まあ、見ててください。…これは、医局からあさってきたものです。『硫酸銅』と言って、『純粋な水』をかけると、鮮やかな青色に変わるんです」
「こんな真っ白の粉が、か!?」
「はい」
自信満々な笑みを浮かべる私を、皆怪しげに見つめる。
桃色の器に入っている白い粉。それは硫酸銅と呼ばれる、魔法のような粉だ。水をかけると真っ青に染まる。
「では、これが本当に『純粋な水』かどうか、確かめたいと思います」
真犯人はすぐそこだ!
「輝狼様、この銀杯、素手で触れても?」
「ああ、いや。一応手ぬぐい越しで掴め」
「分かりました」
手ぬぐいで丁寧に持ち、ふっと器の中を見た。
(色が悪い気がする。でも桜珊は生きていた。しかし、何故に?)
「では、行きます」
桃色の、白い粉の入った器に銀杯の水をとくとくと注ぐ。
すると───。
「なっ」
「青くならない!? しかし、何故…」
「桜珊さん。これ、川の水ですよね?」
『川の水!?』
皆が驚く。
本来川の水など、妃に出しては行けない。
「いいえ…堀の水よ」
桜珊は消えるような声で言った。
「堀って…昔後宮から逃げようとした妃が落ちたとも言う、あの?」
「そうよ。ここにいる皆さんは高貴な御方ばかりだから分からないだろうけど、私は貧しい農村街に生まれた。死体の混ざった水なんて、普通に飲んでた。高貴な御方はひ弱ねえ!」
挑発的に下から睨めつけてくる。
「…。妃が死んだ時毒見をしたのって、あなたですよね?」
「そうよ」
「何を口にされたのですか?」
「水よ。喉が渇いたって言われたので」
「その水、まだあります?」
「あの銀杯のはずよ。飲み干してなければ、まだあるわね」
「そうですか…」
私は、桜珊が指さす方を見る。
そこには、机と銀杯。そして、妃の、血の通わぬ手が乗っていた。
(こんな場所、居たくない…でも…)
「何か、色付きの器をご用意ください。出来れば、青色以外の物でお願いします」
私は、勝ち誇ったような目を真犯人の方に向けて、にいっと笑んだ。
「どうすると言うのだ?」
輝狼が訊いてくる。
「まあ、見ててください。…これは、医局からあさってきたものです。『硫酸銅』と言って、『純粋な水』をかけると、鮮やかな青色に変わるんです」
「こんな真っ白の粉が、か!?」
「はい」
自信満々な笑みを浮かべる私を、皆怪しげに見つめる。
桃色の器に入っている白い粉。それは硫酸銅と呼ばれる、魔法のような粉だ。水をかけると真っ青に染まる。
「では、これが本当に『純粋な水』かどうか、確かめたいと思います」
真犯人はすぐそこだ!
「輝狼様、この銀杯、素手で触れても?」
「ああ、いや。一応手ぬぐい越しで掴め」
「分かりました」
手ぬぐいで丁寧に持ち、ふっと器の中を見た。
(色が悪い気がする。でも桜珊は生きていた。しかし、何故に?)
「では、行きます」
桃色の、白い粉の入った器に銀杯の水をとくとくと注ぐ。
すると───。
「なっ」
「青くならない!? しかし、何故…」
「桜珊さん。これ、川の水ですよね?」
『川の水!?』
皆が驚く。
本来川の水など、妃に出しては行けない。
「いいえ…堀の水よ」
桜珊は消えるような声で言った。
「堀って…昔後宮から逃げようとした妃が落ちたとも言う、あの?」
「そうよ。ここにいる皆さんは高貴な御方ばかりだから分からないだろうけど、私は貧しい農村街に生まれた。死体の混ざった水なんて、普通に飲んでた。高貴な御方はひ弱ねえ!」