好きなゲームで遊んでただけなのになんか閉じ込められました!?1
「だ、れ……?」
さっそうと現れたその少年は、手に持っていた剣をサッと振り、あたりにいた魔物を一掃した。
世界の色は、元通りになった。
「おい、お前」
「ひゃ、ひゃい!!」
振り返った彼の顔は、とてつもなくイケメンだった。整った目鼻、アーモンド型の瞳。翔子はつい顔を赤らめて舌を噛んでしまった。無理はない。こんなイケメンに顔を寄せられたのだから。
一気に顔を近づけられ、嫌でも心臓がバクバクと鳴り響く。
彼が放った言葉は、それこそ期待外れだった。
「そこに倒れてるやつ。早くしないと手遅れになんぞ」
「へ? えぇー!? そ、そんな、あ、あの、一体どうすればいいんですか?!」
「うわ、うっぜぇ……」
彼は、そっぽ向いてとても嫌そうな顔をして言い放った。が、それは翔子には聞こえなかった。
ミカが、このままだと助からない。そんなことを言われたら、何かを知ってそうで、ものすごいイケメン。こんな機会、もう訪れないかもしれない。彼を、逃すわけにはいかない。翔子は彼に必死で泣きつく。
「おねがいします……、ひっく……グスッ。ミカを……、助けて下さい……」
その反応が、
「うっぜぇ……」
は? 泣いてる女の子に対してその反応って別の方向から泣かれるよ?
翔子は、心のなかだけでピキッと苛つくが、そんな事を言っている場合でもない。手遅れになる前に、何かを知ってるこの人に助けてもらわなければ。自分では、もうどうしようもない。
(眼力で落とすっ!)
卑怯極まりない策を取ってでも、翔子はミカを助けたくてしょうがなかった。
やがて根負けしたのか、彼は大きくため息をついて言った。
「はぁ……、わかったよ、俺の負け。ほら、これ傷口にかけとけ。『侵攻』が遅くなるから」
そう言って、彼はポーションのようなものを翔子に手渡した。翔子は、すぐに中の液体をミカの傷口にかけた。
「ありがとうございますっ! ……とっ、これでいいんですよね……?」
「あぁ、それで、『侵攻』は収まるはずだ」
彼はぶっきらぼうに言った。目も合わせず、淡々と告げる。しかし、それだけで理解などできるわけがない。翔子は質問を返した。
「進行は収まるって、治ったりはしないってことですか……? ミカはこのままだとどうなるんですか……!?」
それを聞かれた彼は、しばらくだんまりを続けた。やがて、言いにくそうに答えを告げる。
「……さっきのあれ。魔物になる」
「え……!?」
告げられた一言に、翔子は絶句した。
『魔物になる』。ではまさか、自分が倒した魔物も、元は人間……!?
……確認せずにはいられない。でも、もしそうだったとしたら、自分はなんてことをした。
恐る恐る口を開く。本来ゲーム内では流れないはずの冷や汗が、現実でドッと溢れ、こめかみを伝って落ちていく。
「……ああ、あ、あの、じゃあ、もしかして、さっき倒してくれたのって、まさか……」
その後に続く言葉は、どうしても口に出す勇気が出なかった。しかし、彼は、つらそうに現実を突きつけてくる。
「……あぁ、そのとおりさ。元は人間。でも、魔物になっちまったやつは、もうもとには戻れないことが分かっている」
「へ!? そんな! なんで!!」
「なんでって、知らねえよ……んなことより、その子、完治させたいんだろ? ついてこいよ、でっけぇ機械使わねぇと直せねぇんだよ」
彼は、面倒くさそうに頭を掻きながら、ようやく翔子に目を向けた。
「あ……。……はい。わかり、ました」
あまりにも覚めた態度に、ショックを受けながらも、まずはミカを救うことが先決だと、無理やり自分を納得させた。
ミカはまだ意識が戻らない。仕方がないので、駆けつけてくれた彼がおぶってくれることになってしまった。
そうして、どれほど歩いたか。
翔子は今、崖と崖の間の谷に創設された、巨大な研究所の前にいた。
「ふわぁ、何、これ……!」
さすがの翔子も、圧倒せざるをえなかった。
パズル・フロンティアは、ブロック崩しで得たブロックで、自由に建設することができる。それで、理想の住居を創る人々もいるが、ここまでの規模はみたことがない。
40メートルはあるだろうか? わかりやすくするならビル14階ほど。
上を見上げて圧倒される翔子をよそに、颯真は顔認証らしきものに顔を近づけていた。よほどのプログラマー、あるいはコマンド使いが居るのだろう。普通は、顔認証など玄人だって真似できない。
『ピピピー、キョウノアイコトバハ?』
「びうよいす」
『ツー、ザザッザザッ──おいおい、今日は木曜だから、「びうよくも」だぜ? ゲーム入りっぱで日付の感覚狂ったか? まぁいい。その顔、颯真でいいよな? はいっていいぜー』
ガシャン
「おい、開けたぞ。さっさと中入れ」
「え? あ、えぇ!? なにこれってあ、はい。すみません入りまーす……」
ずっと上を見上げていた翔子は眼の前の事象に気づかず、ガシャンと上がった扉をみてびっくりしかけ、彼──、颯真の冷たい視線に射られて大人しくなるのだった。
さっそうと現れたその少年は、手に持っていた剣をサッと振り、あたりにいた魔物を一掃した。
世界の色は、元通りになった。
「おい、お前」
「ひゃ、ひゃい!!」
振り返った彼の顔は、とてつもなくイケメンだった。整った目鼻、アーモンド型の瞳。翔子はつい顔を赤らめて舌を噛んでしまった。無理はない。こんなイケメンに顔を寄せられたのだから。
一気に顔を近づけられ、嫌でも心臓がバクバクと鳴り響く。
彼が放った言葉は、それこそ期待外れだった。
「そこに倒れてるやつ。早くしないと手遅れになんぞ」
「へ? えぇー!? そ、そんな、あ、あの、一体どうすればいいんですか?!」
「うわ、うっぜぇ……」
彼は、そっぽ向いてとても嫌そうな顔をして言い放った。が、それは翔子には聞こえなかった。
ミカが、このままだと助からない。そんなことを言われたら、何かを知ってそうで、ものすごいイケメン。こんな機会、もう訪れないかもしれない。彼を、逃すわけにはいかない。翔子は彼に必死で泣きつく。
「おねがいします……、ひっく……グスッ。ミカを……、助けて下さい……」
その反応が、
「うっぜぇ……」
は? 泣いてる女の子に対してその反応って別の方向から泣かれるよ?
翔子は、心のなかだけでピキッと苛つくが、そんな事を言っている場合でもない。手遅れになる前に、何かを知ってるこの人に助けてもらわなければ。自分では、もうどうしようもない。
(眼力で落とすっ!)
卑怯極まりない策を取ってでも、翔子はミカを助けたくてしょうがなかった。
やがて根負けしたのか、彼は大きくため息をついて言った。
「はぁ……、わかったよ、俺の負け。ほら、これ傷口にかけとけ。『侵攻』が遅くなるから」
そう言って、彼はポーションのようなものを翔子に手渡した。翔子は、すぐに中の液体をミカの傷口にかけた。
「ありがとうございますっ! ……とっ、これでいいんですよね……?」
「あぁ、それで、『侵攻』は収まるはずだ」
彼はぶっきらぼうに言った。目も合わせず、淡々と告げる。しかし、それだけで理解などできるわけがない。翔子は質問を返した。
「進行は収まるって、治ったりはしないってことですか……? ミカはこのままだとどうなるんですか……!?」
それを聞かれた彼は、しばらくだんまりを続けた。やがて、言いにくそうに答えを告げる。
「……さっきのあれ。魔物になる」
「え……!?」
告げられた一言に、翔子は絶句した。
『魔物になる』。ではまさか、自分が倒した魔物も、元は人間……!?
……確認せずにはいられない。でも、もしそうだったとしたら、自分はなんてことをした。
恐る恐る口を開く。本来ゲーム内では流れないはずの冷や汗が、現実でドッと溢れ、こめかみを伝って落ちていく。
「……ああ、あ、あの、じゃあ、もしかして、さっき倒してくれたのって、まさか……」
その後に続く言葉は、どうしても口に出す勇気が出なかった。しかし、彼は、つらそうに現実を突きつけてくる。
「……あぁ、そのとおりさ。元は人間。でも、魔物になっちまったやつは、もうもとには戻れないことが分かっている」
「へ!? そんな! なんで!!」
「なんでって、知らねえよ……んなことより、その子、完治させたいんだろ? ついてこいよ、でっけぇ機械使わねぇと直せねぇんだよ」
彼は、面倒くさそうに頭を掻きながら、ようやく翔子に目を向けた。
「あ……。……はい。わかり、ました」
あまりにも覚めた態度に、ショックを受けながらも、まずはミカを救うことが先決だと、無理やり自分を納得させた。
ミカはまだ意識が戻らない。仕方がないので、駆けつけてくれた彼がおぶってくれることになってしまった。
そうして、どれほど歩いたか。
翔子は今、崖と崖の間の谷に創設された、巨大な研究所の前にいた。
「ふわぁ、何、これ……!」
さすがの翔子も、圧倒せざるをえなかった。
パズル・フロンティアは、ブロック崩しで得たブロックで、自由に建設することができる。それで、理想の住居を創る人々もいるが、ここまでの規模はみたことがない。
40メートルはあるだろうか? わかりやすくするならビル14階ほど。
上を見上げて圧倒される翔子をよそに、颯真は顔認証らしきものに顔を近づけていた。よほどのプログラマー、あるいはコマンド使いが居るのだろう。普通は、顔認証など玄人だって真似できない。
『ピピピー、キョウノアイコトバハ?』
「びうよいす」
『ツー、ザザッザザッ──おいおい、今日は木曜だから、「びうよくも」だぜ? ゲーム入りっぱで日付の感覚狂ったか? まぁいい。その顔、颯真でいいよな? はいっていいぜー』
ガシャン
「おい、開けたぞ。さっさと中入れ」
「え? あ、えぇ!? なにこれってあ、はい。すみません入りまーす……」
ずっと上を見上げていた翔子は眼の前の事象に気づかず、ガシャンと上がった扉をみてびっくりしかけ、彼──、颯真の冷たい視線に射られて大人しくなるのだった。