好きなゲームで遊んでただけなのになんか閉じ込められました!?1
[大文字][太字][明朝体] 第三章 現実世界への影響[/明朝体][/太字][/大文字]
「と、っ父さん! 翔子の様子が変なんだ!」
優太は階下に降りると、真っ先に父親を呼んだ。機械に強く、いつも機械いじりのコツを教えてくれていたからだ。父親なら、翔子の異変をどうにかできるかもしれないと思ったのだ。
「どうしたんだ? そんなに焦って……」
困惑したような父親に、優太はいらだちを覚えながらも、簡潔に事情を説明しる。
「だからっ、いつもなら声かけたらすぐにゲーム辞めるのに、反応すらしなくって! お願い父さん! 翔子を!」
両親はますます困惑した。
(なぜだ? 緊急事態だと言うのに、なぜ焦らない? どうして訝しげな目をして俺を見ている??)
優太は、予想外すぎる両親の対応に、ますます混乱した。娘が一大事だと言うのに、ここまで危機感がないなど……。
その後の、両親の口から出た言葉は、それこそ優太を追い詰めた。
「ゲームの中で眠ってるんじゃないか?」
「は……? はぁ!? んなわけ無いだろ?! パズルゲームだぞ!!」
呑気な両親の様子に腹を立てる優太。それもそのはず。いつもなら、話しかけたらゲームを辞める翔子が、話しかけても反応がなくなるなんて、そんなのおかしい。自分は、かなりの大声を出していたはずだ。仮に寝ていたとしても起きるだろう。
何度も何度も、これは異常なのだと両親を説得にかかるも、向こうは聞き流すばっかり。
とうとう、優太の戯言というふうに片付けられ、翔子抜きの晩飯となってしまった。
(こんなのぜってぇありえねぇ……。待ってろよ翔子、必ず兄ちゃんが助けてやるからな……!)
優太は、明らかにおかしかった両親に、腹を立てつつも、絶対に助け出すという決意を固めるのだった。
──翌日。
それから、学校に行く時間になっても、翔子はゲームから目覚めなかった。部屋を見に行くと、まだゴーグルを付けたまま、床に座り込んでいる。陽の光が差し込んでいるのに、まったく気づく様子もない。目覚ましのアラームもなりっぱなし。
いくらなんでもこれは異常と気づくだろうと、優太は両親を呼びに行く。と、
「あら、翔子。昨日夜ご飯食べにこなかったけどお腹すいてない? お弁当多めにしておいたからね」
「え……?」
なぜか、母親が何もいない空間に向かって、何かを渡す仕草をしていた。
「え、何してるの……?」
「あら、優太。何してるのって、翔子に弁当渡してるんでしょ?」
両親は当たり前のことのように優太に聞き返した。その光景こそ、何よりも異常であることを示していた。
優太は、内心焦りながら、顔を青ざめながら、冷や汗を掻きながら、恐る恐る母親に質問する。
「な、何言ってるんだよ? 翔子ならまだ部屋でゲームしてて、俺それを伝えに来たんだぞ……? 大体、そこに翔子はいないし、母さんは何も持ってないよ?? ねぇ何言ってるの?? 母さん?」
しかし、いくら言葉を重ねても、母親は無反応。何ならこちらの反応を待っている。優太は、なおも恐ろしくなった。
「優太? どうかした? 学校遅刻するわよ?」
「え? あ、あぁ、うん。行ってくる……」
母親に諭され、本当に遅刻しそうだということに気がついた優太は、納得いかない表情で家をでる。
「何なんだよ……この世界で何が起きてんだよ……?」
何か、異常が起きているのは間違いない。
優太は道すがら、翔子をゲームの中から救出するための策を練り続けるのだった。
『ゲーム世界』
「……朝に、なっちゃったね……結局ログアウトできないままだし……」
「そうね……、私たち、一生ここから出られないのかしら……」
翔子たちはというと、いくら歩いても魔物と遭遇できず、お腹が空いて岩に持たれながら倒れ込んでいた。今いる場所は、活気づいた広場から遠く離れ、ゴツゴツとした岩や、崖などが目立つ、整地が全くされていないエリアにいた。
茶色や赤褐色、景色が殺伐としていて、広場に戻る気力もなかった。広場に行けが、まだ食事ができたかもしれないが、戻る気力もなく、食べたところで、ここはゲームの中。空腹を満たすことは、不可能だ。
一応、森などで畑を作ったり、川で魚を取ったりなどはできるものの、畑を作るにはある程度のコマンド入力に慣れていないといけないし、課金も必要。魚を取るにも、まずは釣り竿をクラフトする必要があるので、材料の樹をブロック崩しするために、パズルを解かなくてはいけない。空腹が満たされないのならば、やる必要のないことだった。
しばらくウンウンと考えながら座り込んでいると、
[大文字][中央寄せ][斜体]ザザザ、ザーザーザー、ザザザ[/斜体][/中央寄せ][/大文字]
ゲーム内の音楽に、突然ノイズが走った。
「え、何!?」
「なんかヤバそう!」
突然の出来事に、瞬時に立ち上がり警戒する翔子とミカ。
二人のその言葉をきっかけに、[大文字][太字][明朝体]世界の色彩が反転[/明朝体][/太字][/大文字]した。
茶色や赤褐色だった岩や崖が、水色や、緑などの、異質な色味に変色する。恐怖を誘う不気味な色彩に、翔子は思わず声を上げる。
「ひ……!? なに、これ……」
そして、色が反転すると同時に、突如目の前に化け物が湧き始めた。ノイズでできているかのような、実態があるのか疑いたくなる、まさにバグモンスターという表現が正しい。あえて的確に表現するなら、商品のバーコードが何十にも積み重なったような姿、といったところだろう。色味は、わかりやすくするなら黒。
──そう、これが、
「魔物……!?」
「[明朝体][斜体]じぃぃぃ……が、が、が、ぎぎぎぃぃぎぎぃぎぎ[/斜体][/明朝体]」
魔物の鳴き声らしいそれは、まるで錆びた金属の階段を、時間をかけて登っているかのような、耳に痛い音だった。
「うぅ……耳障りな鳴き声ね……」
翔子もそれに賛同する。
「うん……耳が壊れそう……」
景色が恐ろしいというのもあり、お互いに声が震える。そして、ノロノロと歩いていたかと思えば、魔物は急に速度を上げて追いかけてきた!
「「キャァァァァッ!!」」
翔子とミカは、突然の挙動に悲鳴を上げて走り出した。幸い、自分たちに追いつけるほどの速さではないようだ。
しかし、どこまで言っても、不気味な色彩。緑、水色、走っている内に目眩がしそうだ。早い所、この状態を打破しなくては。
走っている内に状況を整理できた翔子は、魔物の騒音に耳を抑えつつ、魔物を退治するための策を考え始めた。
魔物を倒すためには、ブロック崩しを応用する必要がある。
思い出せ、このゲームにおいて、ブロック崩しで、ダメージを与えられる方法をっ!
(そうだ、たしかこのゲーム、ルールのところにこんなのあったはず。えと、『連鎖が終わるまでは近づくな、巻き込まれて、激痛のおそれがある』ってやつ! そうか、連鎖を起こして、あの魔物を巻き込めばっ!)
翔子は、これまでの記憶をありったけ引き出した。
ここまでの道なり。角、崖、岩山。それらからすぐにブロック崩しができるパズルだったものと、雪崩を起こせるほどの地形を探し出す。
ゲームに関する知識だけ、以上に定着の早い翔子はものの5秒で導き出した。
「あった! こっち、ついてきて!」
「っ! わかったわ!!」
走りながら翔子は瞑想する。魔物の追ってくるスピードに合わせ、少しずつスピードを落とす。ミカも、それに合わせた。
「ここで右に曲がる……!!」
曲がった先は、
「行き止まりじゃない! 何考えてるのよ!」
ミカは焦る、もう魔物はすぐ前だ。しかし、翔子はパズル画面を開いたかと思うとあっという間に解き終わってしまう。
しかし、もう魔物が爪を伸ばして襲いかかる手前。
「大丈夫、いけぇ!」
翔子が自信満々で言い放ったその時、[太字]ぽんっ[/太字]という可愛らしい音とともに雪崩が発生した。ものすごい騒音を立てながら、例の魔物を巻き込んでいく。雪崩に巻き込まれたその魔物は、機械のノイズのような音で消滅していった。
雪崩れたブロックは、自動的に翔子の手持ちに入った。
「ふぅっ、久しぶりに知識を活かせたよ! スッキリ〜」
翔子は冷や汗を拭うと、魔物がいたところに向かて勝ち誇る。しかし、翔子のセリフを聞いたミカは、いても経ってもいられず話しかけた。
「……ねぇ、久しぶりにって、もしかして今までやったことなかったの!? あなた殺す気!?」
「え〜殺すとかひどいな〜。ミカだってテクニックはあるのに知識だけないじゃん、お互い様でしょ〜?」
翔子は余裕そうに、しかし、息切れしながらも言い返した。ミカにとって、ここを突かれるのは致命的なのだ。
「ウ゛、それを言われると……」
そんなこんなで、空腹を忘れて会話を楽しんでいると、どこかへ消えたアルトが姿を表した。
「やぁ、無事に魔物を倒せたんだね。ほらこれ、お腹すいてるでしょ? 友だちがいるって言ってたし、2人分用意しといた」
「あ、アルト! ありがと〜、ちょうどおなかすいてたとこなんだ〜……って、ここゲームの中の世界だよね!? さすがに空腹は満たされないんじゃ……?」
「残念ながら、ここでも、空腹を満たせるようになっちゃったんだ。何なら栄養も取れるしね」
「「はぁ!? いや流石に栄養は取れないでしょ!!」」
その言葉を聞いて翔子とミカは困惑する。さすがにありえない。満腹感なら再現できるかもしれないが、流石に栄養までは……。
話半分に聞きながら、二人はサンドイッチを頬張った。ふわっとした食パンの感覚、シャキシャキのレタスとハムの適度な塩加減。絶妙な匙加減のマヨネーズが、二人の空腹を癒やす。二人は暫くの間、夢中でサンドイッチを頬張り続けた。
しばらくして、持ってきてくれたサンドイッチを完食し、冷静に戻ったミカは、今の爆食いを反省しながらも、慎重に質問した。
「……、どういうことよ? どんな技術使ったらそうなるわけ?」
とりあえず、持ってきてくれたサンドイッチを食べて、本当にお腹が膨れたので、信用はする。物理的に弱っていたのが、元気にもなれた。本当に栄養が取れるのかもしれない。しかし理解は及ばない。そして、ミカが話しかけてもアルトは反応しない。
空気を読んで、慌てて翔子が代わりに質問する。
「あ、えっと、どんな技術を使ったらそうなるの?」
「それは僕にもわからないよ、人間ってすごいよね」
アルト即答。ヒントすらなし。
「[小文字]……私だけ質問できないのほんっと不便[/小文字]」
「[小文字]そういうのは良くないよ[/小文字]」
耐えられないというようにミカがボソッという。翔子は小さい声で諌める。たしかに不便であろう、ミカが何かを話しかけても、アルトには聞こえないようになっているのだから。
「じゃ、次のヒントを教えるね。現実世界の人と、どうにかして連絡を取るんだ」
アルトは、そう言い残し、サンドイッチが入っていたバスケットを残して消えていった。
いつの間にか、世界の色は元通りになっていた──
暖かくもない、どこか冷たい偽りの太陽が、二人を照らし出していた──
『現実世界』(朝)
その頃──
優太は、パソコンのディスプレイを凝視し、ものすごい速さでキーボードを叩きながら、妹のいるゲームの中を模索していた。妹が被った状態のゴーグルと、パソコンとを、時間かけて繋いだのだが、
「っち、なんで干渉できないんだよ!?」
普段なら映し出されるはずの、妹のゲーム内が、全く映し出されなかった。
「そんな、俺、こんなときに……!!」
無力、あまりにも無力だった──
「と、っ父さん! 翔子の様子が変なんだ!」
優太は階下に降りると、真っ先に父親を呼んだ。機械に強く、いつも機械いじりのコツを教えてくれていたからだ。父親なら、翔子の異変をどうにかできるかもしれないと思ったのだ。
「どうしたんだ? そんなに焦って……」
困惑したような父親に、優太はいらだちを覚えながらも、簡潔に事情を説明しる。
「だからっ、いつもなら声かけたらすぐにゲーム辞めるのに、反応すらしなくって! お願い父さん! 翔子を!」
両親はますます困惑した。
(なぜだ? 緊急事態だと言うのに、なぜ焦らない? どうして訝しげな目をして俺を見ている??)
優太は、予想外すぎる両親の対応に、ますます混乱した。娘が一大事だと言うのに、ここまで危機感がないなど……。
その後の、両親の口から出た言葉は、それこそ優太を追い詰めた。
「ゲームの中で眠ってるんじゃないか?」
「は……? はぁ!? んなわけ無いだろ?! パズルゲームだぞ!!」
呑気な両親の様子に腹を立てる優太。それもそのはず。いつもなら、話しかけたらゲームを辞める翔子が、話しかけても反応がなくなるなんて、そんなのおかしい。自分は、かなりの大声を出していたはずだ。仮に寝ていたとしても起きるだろう。
何度も何度も、これは異常なのだと両親を説得にかかるも、向こうは聞き流すばっかり。
とうとう、優太の戯言というふうに片付けられ、翔子抜きの晩飯となってしまった。
(こんなのぜってぇありえねぇ……。待ってろよ翔子、必ず兄ちゃんが助けてやるからな……!)
優太は、明らかにおかしかった両親に、腹を立てつつも、絶対に助け出すという決意を固めるのだった。
──翌日。
それから、学校に行く時間になっても、翔子はゲームから目覚めなかった。部屋を見に行くと、まだゴーグルを付けたまま、床に座り込んでいる。陽の光が差し込んでいるのに、まったく気づく様子もない。目覚ましのアラームもなりっぱなし。
いくらなんでもこれは異常と気づくだろうと、優太は両親を呼びに行く。と、
「あら、翔子。昨日夜ご飯食べにこなかったけどお腹すいてない? お弁当多めにしておいたからね」
「え……?」
なぜか、母親が何もいない空間に向かって、何かを渡す仕草をしていた。
「え、何してるの……?」
「あら、優太。何してるのって、翔子に弁当渡してるんでしょ?」
両親は当たり前のことのように優太に聞き返した。その光景こそ、何よりも異常であることを示していた。
優太は、内心焦りながら、顔を青ざめながら、冷や汗を掻きながら、恐る恐る母親に質問する。
「な、何言ってるんだよ? 翔子ならまだ部屋でゲームしてて、俺それを伝えに来たんだぞ……? 大体、そこに翔子はいないし、母さんは何も持ってないよ?? ねぇ何言ってるの?? 母さん?」
しかし、いくら言葉を重ねても、母親は無反応。何ならこちらの反応を待っている。優太は、なおも恐ろしくなった。
「優太? どうかした? 学校遅刻するわよ?」
「え? あ、あぁ、うん。行ってくる……」
母親に諭され、本当に遅刻しそうだということに気がついた優太は、納得いかない表情で家をでる。
「何なんだよ……この世界で何が起きてんだよ……?」
何か、異常が起きているのは間違いない。
優太は道すがら、翔子をゲームの中から救出するための策を練り続けるのだった。
『ゲーム世界』
「……朝に、なっちゃったね……結局ログアウトできないままだし……」
「そうね……、私たち、一生ここから出られないのかしら……」
翔子たちはというと、いくら歩いても魔物と遭遇できず、お腹が空いて岩に持たれながら倒れ込んでいた。今いる場所は、活気づいた広場から遠く離れ、ゴツゴツとした岩や、崖などが目立つ、整地が全くされていないエリアにいた。
茶色や赤褐色、景色が殺伐としていて、広場に戻る気力もなかった。広場に行けが、まだ食事ができたかもしれないが、戻る気力もなく、食べたところで、ここはゲームの中。空腹を満たすことは、不可能だ。
一応、森などで畑を作ったり、川で魚を取ったりなどはできるものの、畑を作るにはある程度のコマンド入力に慣れていないといけないし、課金も必要。魚を取るにも、まずは釣り竿をクラフトする必要があるので、材料の樹をブロック崩しするために、パズルを解かなくてはいけない。空腹が満たされないのならば、やる必要のないことだった。
しばらくウンウンと考えながら座り込んでいると、
[大文字][中央寄せ][斜体]ザザザ、ザーザーザー、ザザザ[/斜体][/中央寄せ][/大文字]
ゲーム内の音楽に、突然ノイズが走った。
「え、何!?」
「なんかヤバそう!」
突然の出来事に、瞬時に立ち上がり警戒する翔子とミカ。
二人のその言葉をきっかけに、[大文字][太字][明朝体]世界の色彩が反転[/明朝体][/太字][/大文字]した。
茶色や赤褐色だった岩や崖が、水色や、緑などの、異質な色味に変色する。恐怖を誘う不気味な色彩に、翔子は思わず声を上げる。
「ひ……!? なに、これ……」
そして、色が反転すると同時に、突如目の前に化け物が湧き始めた。ノイズでできているかのような、実態があるのか疑いたくなる、まさにバグモンスターという表現が正しい。あえて的確に表現するなら、商品のバーコードが何十にも積み重なったような姿、といったところだろう。色味は、わかりやすくするなら黒。
──そう、これが、
「魔物……!?」
「[明朝体][斜体]じぃぃぃ……が、が、が、ぎぎぎぃぃぎぎぃぎぎ[/斜体][/明朝体]」
魔物の鳴き声らしいそれは、まるで錆びた金属の階段を、時間をかけて登っているかのような、耳に痛い音だった。
「うぅ……耳障りな鳴き声ね……」
翔子もそれに賛同する。
「うん……耳が壊れそう……」
景色が恐ろしいというのもあり、お互いに声が震える。そして、ノロノロと歩いていたかと思えば、魔物は急に速度を上げて追いかけてきた!
「「キャァァァァッ!!」」
翔子とミカは、突然の挙動に悲鳴を上げて走り出した。幸い、自分たちに追いつけるほどの速さではないようだ。
しかし、どこまで言っても、不気味な色彩。緑、水色、走っている内に目眩がしそうだ。早い所、この状態を打破しなくては。
走っている内に状況を整理できた翔子は、魔物の騒音に耳を抑えつつ、魔物を退治するための策を考え始めた。
魔物を倒すためには、ブロック崩しを応用する必要がある。
思い出せ、このゲームにおいて、ブロック崩しで、ダメージを与えられる方法をっ!
(そうだ、たしかこのゲーム、ルールのところにこんなのあったはず。えと、『連鎖が終わるまでは近づくな、巻き込まれて、激痛のおそれがある』ってやつ! そうか、連鎖を起こして、あの魔物を巻き込めばっ!)
翔子は、これまでの記憶をありったけ引き出した。
ここまでの道なり。角、崖、岩山。それらからすぐにブロック崩しができるパズルだったものと、雪崩を起こせるほどの地形を探し出す。
ゲームに関する知識だけ、以上に定着の早い翔子はものの5秒で導き出した。
「あった! こっち、ついてきて!」
「っ! わかったわ!!」
走りながら翔子は瞑想する。魔物の追ってくるスピードに合わせ、少しずつスピードを落とす。ミカも、それに合わせた。
「ここで右に曲がる……!!」
曲がった先は、
「行き止まりじゃない! 何考えてるのよ!」
ミカは焦る、もう魔物はすぐ前だ。しかし、翔子はパズル画面を開いたかと思うとあっという間に解き終わってしまう。
しかし、もう魔物が爪を伸ばして襲いかかる手前。
「大丈夫、いけぇ!」
翔子が自信満々で言い放ったその時、[太字]ぽんっ[/太字]という可愛らしい音とともに雪崩が発生した。ものすごい騒音を立てながら、例の魔物を巻き込んでいく。雪崩に巻き込まれたその魔物は、機械のノイズのような音で消滅していった。
雪崩れたブロックは、自動的に翔子の手持ちに入った。
「ふぅっ、久しぶりに知識を活かせたよ! スッキリ〜」
翔子は冷や汗を拭うと、魔物がいたところに向かて勝ち誇る。しかし、翔子のセリフを聞いたミカは、いても経ってもいられず話しかけた。
「……ねぇ、久しぶりにって、もしかして今までやったことなかったの!? あなた殺す気!?」
「え〜殺すとかひどいな〜。ミカだってテクニックはあるのに知識だけないじゃん、お互い様でしょ〜?」
翔子は余裕そうに、しかし、息切れしながらも言い返した。ミカにとって、ここを突かれるのは致命的なのだ。
「ウ゛、それを言われると……」
そんなこんなで、空腹を忘れて会話を楽しんでいると、どこかへ消えたアルトが姿を表した。
「やぁ、無事に魔物を倒せたんだね。ほらこれ、お腹すいてるでしょ? 友だちがいるって言ってたし、2人分用意しといた」
「あ、アルト! ありがと〜、ちょうどおなかすいてたとこなんだ〜……って、ここゲームの中の世界だよね!? さすがに空腹は満たされないんじゃ……?」
「残念ながら、ここでも、空腹を満たせるようになっちゃったんだ。何なら栄養も取れるしね」
「「はぁ!? いや流石に栄養は取れないでしょ!!」」
その言葉を聞いて翔子とミカは困惑する。さすがにありえない。満腹感なら再現できるかもしれないが、流石に栄養までは……。
話半分に聞きながら、二人はサンドイッチを頬張った。ふわっとした食パンの感覚、シャキシャキのレタスとハムの適度な塩加減。絶妙な匙加減のマヨネーズが、二人の空腹を癒やす。二人は暫くの間、夢中でサンドイッチを頬張り続けた。
しばらくして、持ってきてくれたサンドイッチを完食し、冷静に戻ったミカは、今の爆食いを反省しながらも、慎重に質問した。
「……、どういうことよ? どんな技術使ったらそうなるわけ?」
とりあえず、持ってきてくれたサンドイッチを食べて、本当にお腹が膨れたので、信用はする。物理的に弱っていたのが、元気にもなれた。本当に栄養が取れるのかもしれない。しかし理解は及ばない。そして、ミカが話しかけてもアルトは反応しない。
空気を読んで、慌てて翔子が代わりに質問する。
「あ、えっと、どんな技術を使ったらそうなるの?」
「それは僕にもわからないよ、人間ってすごいよね」
アルト即答。ヒントすらなし。
「[小文字]……私だけ質問できないのほんっと不便[/小文字]」
「[小文字]そういうのは良くないよ[/小文字]」
耐えられないというようにミカがボソッという。翔子は小さい声で諌める。たしかに不便であろう、ミカが何かを話しかけても、アルトには聞こえないようになっているのだから。
「じゃ、次のヒントを教えるね。現実世界の人と、どうにかして連絡を取るんだ」
アルトは、そう言い残し、サンドイッチが入っていたバスケットを残して消えていった。
いつの間にか、世界の色は元通りになっていた──
暖かくもない、どこか冷たい偽りの太陽が、二人を照らし出していた──
『現実世界』(朝)
その頃──
優太は、パソコンのディスプレイを凝視し、ものすごい速さでキーボードを叩きながら、妹のいるゲームの中を模索していた。妹が被った状態のゴーグルと、パソコンとを、時間かけて繋いだのだが、
「っち、なんで干渉できないんだよ!?」
普段なら映し出されるはずの、妹のゲーム内が、全く映し出されなかった。
「そんな、俺、こんなときに……!!」
無力、あまりにも無力だった──