オタクは現実を忘れたい⁉︎
#1
私は[漢字]貴志柚夏[/漢字][ふりがな]きしゆずか[/ふりがな]。中学三年生だ。
所属しているクラスには友達がいない。いや「あえて友達と離してほしい」とクラス替え相談の時に言ってしまったからだ。
だから友達がいない。休み時間が暇だ。後悔している。もし、あの時「仲がいい子と同じにして」と言えば、変わっていたのかもしれない。
英語の十五段ノートをぺらぺらと開く。塾の英単語が書かれたプリントを引き出しから取り出す。この作業が習慣化してしまった。[斜体]“conservation”[/斜体]という単語をひたすら青ペンで書く。中々覚えられないのだ。
三年生になってすぐにクラスメイトに声をかければ友達になれるだろうと軽々しく思っていたが、全く違った。
始業式直後にグループができてしまったのだ。私は中に入れず、孤立してしまった。
だけど、この方が落ち着くと思っている自分もいた。
好きな時にトイレに行ったり、別の場所に行ったりできる。休み時間が暇なので、勉強できる。もしかしたら成績が上がるかもしれない。ぼっちにもメリットがあるんだ。
私は人見知りで友達がとても少ない。他の人とは少しだけ話せるが特に特別な関係はない。
初めはもっと人見知りだった。全く新しい人とは話さない。友達だけ、と限定していた。「あ」「えっと……」や、嘘笑いをする日々だった。コミュ障と言うのだろう。
さーっと爽やかな風が吹く。誰一人いない教室。
「ふふ」
なんだか一人ぼっちが楽しくなってくる。
すると、顔が冷たく感じた。
不思議に思い、顔を触ってみると濡れていた。それは涙だった。
私は泣いていることに気がつき、すぐに涙を拭いた。
「ただいまー」とクラスの男子が言った。汗をかいている。多分、外でサッカーをしていたのだろう。
私はそれに構わず、勉強した。
──よし、一ページ終わり。
ぺらっとページをめくる。私はこの音が好きだ。
単語を書こうとした瞬間、チャイムが鳴った。
私は息抜きとして小説を書こうとした。
引き出しからタブレットを出して暗証番号を入力。そして、書く。
すると、クラスメイトがやってきて「何やってるの?」と訊かれた。話せる人はいる。だけどあまり親しくない。
私はすぐにタブレットの電源を切って「なんでもない」と言った。
小説を書いていることは秘密だ。友達には言っているが。
つまらなくなり、私はタブレットをしまい、ぼうっと黒板を見た。
口角が上がった。そう。私は今、妄想しているのだ。
「ねえ、話聞いてる?」
「……」
「ねえ!」と推しのほっぺをつんつんする。
「なんで顔が赤くなってるの⁈」
推しは一回黙り込み、そっぽを向いて「だって、[漢字]貴志[/漢字][ふりがな]きし[/ふりがな]の事が……」
「何?」
「[漢字]貴志[/漢字][ふりがな]きし[/ふりがな]の事が──」
きーんこーんかーんこーんとチャイムが鳴った。
丁度いいところなのに、と落ち込んだ。
授業も終わり、帰りの会も終わった。部活のはじまりだ。
がらがらっとドアを横にスライドする。
「あ、柚夏ちゃん!」
駆けつけたのは[漢字]松里絵理香[/漢字][ふりがな]まつざとえりか[/ふりがな]ちゃんだ。
絵理香ちゃんは私をいじる。勝手に推しと私の物語を作り、ぺらぺらと長く喋る。
毎回私は「やめて」と言っているが、やめてくれない。
「嫌だ」とは思うが、こうやって私に関わってくれる、笑わせてくれる。口では嫌だと言っているが、心の中では少し嬉しく感じている。
「柚夏ちゃんー!」
大きく手をふるのは[漢字]志々目幸紀[/漢字][ふりがな]ししめさき[/ふりがな]ちゃんだ。
幸紀ちゃんはたまに私をいじる。だけど私は言った通り嫌ではない。
さ、始めるぞー!
「これどうするの?」
「これをこうやって……」
今は編み物を練習中。
私は編み物がとても嫌いだ。なので、編み物ができる二人に教えてもらっている。
「んーむずい」
こういう細かな作業はとても苦手。
テンポよく編んでいる二人が羨ましい。見てると気持ちいい。
「ちょっと無理だわ」
そう私は言って手に持っていたものを置き、タブレットを取り出した。
顧問は来るのがおそいので、タブレットは自由にいじれる。
私は頭を掻きながら「んー」とタブレットの画面を見つめた。すると「何やってるの?」と絵理香ちゃんが画面を覗いた。
「うわっ!」
「えーっと、これは……」
あまり他人に見せられるものではない。実は小説を書いていたのだ。『貴志柚夏』としっかりとユーザー名が表示されていた。
「なになにー?」とにやにやしながら私を見つめる。私は「もうだめだ」と思い、暴露した。
「へー」
絵理香ちゃんはただそれだけしか言わなかった。
関心が無い。私はラッキーだなと思った。関心が無いということは、今後一切『貴志柚夏』に触れないということだからだ。
何もせず、部活は終わった。
自転車を押しながら二人と話す。
無言で歩く。すると、絵理香ちゃんが口を開き「ねえ、小説書いてるって言ったけど名前は?」と言った。
「え」
唐突すぎる。急に言われて私は驚き、口が開いたままだった。
「見たいなあー」とにやりと笑いながら言った。
「え? 書いてるの?」と幸紀ちゃんも乗ってしまった。
「えっと、下手だから……あまり言えないな……」
私は本当の事を言った。下手なのは本当だ。自信を持って言える。「下手です!」と。
だけど、二人は諦めず「教えて」と言うばかりだ。
私は仕方なく「分かった。『きしゆずか』だよ」と言った。
漢字は伏せた。だけど、二人は察した。
「ねえ『きし』って貴族の『貴』?」
何も言えなかった。
絵理香ちゃんは私の顔色をうかがい「やっぱ貴族の『貴』だな!」と言った。
私はぽかーんとした。
所属しているクラスには友達がいない。いや「あえて友達と離してほしい」とクラス替え相談の時に言ってしまったからだ。
だから友達がいない。休み時間が暇だ。後悔している。もし、あの時「仲がいい子と同じにして」と言えば、変わっていたのかもしれない。
英語の十五段ノートをぺらぺらと開く。塾の英単語が書かれたプリントを引き出しから取り出す。この作業が習慣化してしまった。[斜体]“conservation”[/斜体]という単語をひたすら青ペンで書く。中々覚えられないのだ。
三年生になってすぐにクラスメイトに声をかければ友達になれるだろうと軽々しく思っていたが、全く違った。
始業式直後にグループができてしまったのだ。私は中に入れず、孤立してしまった。
だけど、この方が落ち着くと思っている自分もいた。
好きな時にトイレに行ったり、別の場所に行ったりできる。休み時間が暇なので、勉強できる。もしかしたら成績が上がるかもしれない。ぼっちにもメリットがあるんだ。
私は人見知りで友達がとても少ない。他の人とは少しだけ話せるが特に特別な関係はない。
初めはもっと人見知りだった。全く新しい人とは話さない。友達だけ、と限定していた。「あ」「えっと……」や、嘘笑いをする日々だった。コミュ障と言うのだろう。
さーっと爽やかな風が吹く。誰一人いない教室。
「ふふ」
なんだか一人ぼっちが楽しくなってくる。
すると、顔が冷たく感じた。
不思議に思い、顔を触ってみると濡れていた。それは涙だった。
私は泣いていることに気がつき、すぐに涙を拭いた。
「ただいまー」とクラスの男子が言った。汗をかいている。多分、外でサッカーをしていたのだろう。
私はそれに構わず、勉強した。
──よし、一ページ終わり。
ぺらっとページをめくる。私はこの音が好きだ。
単語を書こうとした瞬間、チャイムが鳴った。
私は息抜きとして小説を書こうとした。
引き出しからタブレットを出して暗証番号を入力。そして、書く。
すると、クラスメイトがやってきて「何やってるの?」と訊かれた。話せる人はいる。だけどあまり親しくない。
私はすぐにタブレットの電源を切って「なんでもない」と言った。
小説を書いていることは秘密だ。友達には言っているが。
つまらなくなり、私はタブレットをしまい、ぼうっと黒板を見た。
口角が上がった。そう。私は今、妄想しているのだ。
「ねえ、話聞いてる?」
「……」
「ねえ!」と推しのほっぺをつんつんする。
「なんで顔が赤くなってるの⁈」
推しは一回黙り込み、そっぽを向いて「だって、[漢字]貴志[/漢字][ふりがな]きし[/ふりがな]の事が……」
「何?」
「[漢字]貴志[/漢字][ふりがな]きし[/ふりがな]の事が──」
きーんこーんかーんこーんとチャイムが鳴った。
丁度いいところなのに、と落ち込んだ。
授業も終わり、帰りの会も終わった。部活のはじまりだ。
がらがらっとドアを横にスライドする。
「あ、柚夏ちゃん!」
駆けつけたのは[漢字]松里絵理香[/漢字][ふりがな]まつざとえりか[/ふりがな]ちゃんだ。
絵理香ちゃんは私をいじる。勝手に推しと私の物語を作り、ぺらぺらと長く喋る。
毎回私は「やめて」と言っているが、やめてくれない。
「嫌だ」とは思うが、こうやって私に関わってくれる、笑わせてくれる。口では嫌だと言っているが、心の中では少し嬉しく感じている。
「柚夏ちゃんー!」
大きく手をふるのは[漢字]志々目幸紀[/漢字][ふりがな]ししめさき[/ふりがな]ちゃんだ。
幸紀ちゃんはたまに私をいじる。だけど私は言った通り嫌ではない。
さ、始めるぞー!
「これどうするの?」
「これをこうやって……」
今は編み物を練習中。
私は編み物がとても嫌いだ。なので、編み物ができる二人に教えてもらっている。
「んーむずい」
こういう細かな作業はとても苦手。
テンポよく編んでいる二人が羨ましい。見てると気持ちいい。
「ちょっと無理だわ」
そう私は言って手に持っていたものを置き、タブレットを取り出した。
顧問は来るのがおそいので、タブレットは自由にいじれる。
私は頭を掻きながら「んー」とタブレットの画面を見つめた。すると「何やってるの?」と絵理香ちゃんが画面を覗いた。
「うわっ!」
「えーっと、これは……」
あまり他人に見せられるものではない。実は小説を書いていたのだ。『貴志柚夏』としっかりとユーザー名が表示されていた。
「なになにー?」とにやにやしながら私を見つめる。私は「もうだめだ」と思い、暴露した。
「へー」
絵理香ちゃんはただそれだけしか言わなかった。
関心が無い。私はラッキーだなと思った。関心が無いということは、今後一切『貴志柚夏』に触れないということだからだ。
何もせず、部活は終わった。
自転車を押しながら二人と話す。
無言で歩く。すると、絵理香ちゃんが口を開き「ねえ、小説書いてるって言ったけど名前は?」と言った。
「え」
唐突すぎる。急に言われて私は驚き、口が開いたままだった。
「見たいなあー」とにやりと笑いながら言った。
「え? 書いてるの?」と幸紀ちゃんも乗ってしまった。
「えっと、下手だから……あまり言えないな……」
私は本当の事を言った。下手なのは本当だ。自信を持って言える。「下手です!」と。
だけど、二人は諦めず「教えて」と言うばかりだ。
私は仕方なく「分かった。『きしゆずか』だよ」と言った。
漢字は伏せた。だけど、二人は察した。
「ねえ『きし』って貴族の『貴』?」
何も言えなかった。
絵理香ちゃんは私の顔色をうかがい「やっぱ貴族の『貴』だな!」と言った。
私はぽかーんとした。
/ 1