余命宣告。
#1
余命宣告。
[大文字]『俺死ぬんだって。』[/大文字]
ある日突然夫からLINEが送られてきた。
『今日早く帰る?』
そんなこと今まで聞いてこなかったのに…。
そんなことを思いながら、『早く帰るよ。』と返信した。
だが、これが最後のLINEになるなんて思いもしなかった。
**
【設定】
鈴木愛(33) ー 鈴木佑(34)
鈴木みる:子供(3)
高崎桜:佐藤愛の親友。
21:30。
みるを寝かせて、二人でリビングにいた時だった。
「ねぇ、どうして今日早く帰るか、なんて聞いたの?」
「あぁ…。」
私はその返しに何かあったのだとすぐわかった。
「何かあったの?」
「……なぁ、俺が死んだら…困る?」
最初はこの人は何を言っているんだろうと思った。
「え、なんでそんなこと聞くの…?」
「いや、なんとなく…気になって…w」
私はその発言に違和感を覚えた。
「ごめん…、今日はもう俺寝るわ…。おやすみ。」
「…うん。おやすみ。」
私はそのモヤモヤが頭に残って、深く眠ることができなかった。
次の日…。
この日は土曜日で仕事がないはずなのに、朝から佑はいなかった。
「佑〜?」
リビングに行くと、そこには置き手紙だけがあった。
[斜体][明朝体][中央寄せ]ごめんなさい。
俺は出ていきます。
今の俺じゃ、一緒に暮らせない。
急にこんなこと言い出してごめんね。
みるのこと、頼んだよ。[/中央寄せ][/明朝体][/斜体]
は…?出ていく…?どういうこと?なんで?
私はパニックで、みるを抱えたまま外に飛び出した。
そして1番に桜の家に行った。
**
「こんな朝早くからごめん、桜。」
「え、何どうしたの、そんな慌てて…。」
「佑が…、この置き手紙置いてでてったの…。」
「え!?」
「来てない?」
「うん、うちには来てない…。」
「そっか…、そうだよね、ごめん。」
「あ、ちょっとまって!探すの?」
「そのつもりだけど…。」
「みるちゃん見とこうか?その状態で探すの大変でしょう?」
「いいの…?」
「勿論、こういう時は親友を頼りな!ねぇ、みるちゃん〜」
みるはまだ3歳。
不安もあったが、保育士をしている桜になら、とみるを桜に預けた。
「ごめん、本当にありがとう…!」
**
探し始めてどれくらい経ったのだろうか…。
私はいつの間にか、絶対いないであろう病院の前に来ていた。
そしてそこのベンチに座り、いろんな考え事をしていた。
すると病院から出てくる佑の姿があった。
私はなんの考えもせずに声をかけた。
「佑…!!」
「…愛?!どうしてここに…?」
「ちょっ…その格好…!」
「え?」
私は家を飛び出してきてしまったせいか、パジャマのまま、つまり、佑の前でしか見せないゆるすぎる格好できてしまっていた。
それを見た佑は、自分が着ていたカーディガンを私に着せてくれた。
「ごめん…、私あの手紙見てパニックで何もせずに出てきちゃってた…。」
「…ごめんな。」
「なんで謝るの…?ねぇ、私なんか悪いことした…?」
そう聞くと、佑はすぐに首を横に振った。
「違うんだ、愛は全く悪くない…。」
「じゃあ、なに…?というかどうして病院なんかに…?」
「落ち着いて聞いて欲しいんだけどさ…。」
「うん…、」
「俺死ぬんだって。」
「え…?」
私は落ち着いて聞くことなんかできなくなった。
佑の話によると、1ヵ月ほど前から余命宣告を受けてて、昨日も言おうとしたがやはり言えなかった、とのこと。
そして家を出てきた理由も、治療をするとなると、私に迷惑がかかるし、みるにも迷惑がかかるから先に手放してしまった、とのこと。
「ごめん…。俺勝手に愛とみるのこと手放して先に離れようとしてた…、ごめんなさい。」
「謝らないで…、それよりどういうこと…。」
「治療をすれば治るかもしれないって…、でもその確率が40%いくかいかないかくらいで…、お金もかかるしやめようと思ってるんだ。」
「どうして言ってくれなかったの…。」
「俺は、愛とみるに迷惑をかけたくなかった。」
「だから…、」
「言ってくれた方が嬉しかった…、隠さないで欲しかった…。」
私はいつの間にか泣いていた。
まだ周りに人はいない、なんせ6:30なのだから。
そんな様子を見て佑は抱きしめてくれた。
でも私は嫌だった。今はそんな気分ではなかった。
だから、私は佑の手を振り解いた。
「離して!」
「愛、」
「お願いだから…、ちょっと一人にさせて…。」
「みる、桜の家だから…。」
「……わかった。」
私には時間が必要だった。
今思えば、私は自己中だったなと思う。佑には時間がなかったのに。
**
私が家に戻ってきた頃にはもう太陽が登りきっていた。
「ただいま…、」
「おかえり…。」
「みるは…?」
「ちょうど今昼寝させてる。」
「…ありがと。」
私は玄関まで来てくれた佑を無視してリビングに入って行った。
「愛…!」
「……。」
後ろから声をかけられたが、私は一切振り向かずに2階に上がった。
それでも佑は声をかけてくる。その声を聞いて、私はついに佑の方を向いた。
「言って欲しかった…、」
「ごめん…。」
「お願いだから生きて…、治療してよ…。どれだけお金がかかってもいいから…。お願い…。」
「……。」
そのお願いに佑は答えなかった。
「愛にも、みるにも申し訳ないんだけど…、俺は[太字]生きることはできないよ。[/太字]」
「どうして…?」
「お金がかかりすぎる。」
「それなら貯金もあるし、これからだって頑張れば貯めれr」
「愛への負担が大きすぎる。」
「例えそれで俺が助かっても、助からなくても、どちらにしろ愛に負担がでかい。今はみるもいるだろ?みるが小学生になったらもっとお金が必要になってくる。それのための貯金だろ。それを俺に使うな…。助かったとしても、そこから入院したりして、また愛に迷惑をかけることになる。」
「それでも、私は佑に生きて欲しい。」
「……ごめんな。」
佑はその一言だけを言ってまた1階へと降りて行った。
私は佑がいなくなるということに許せなかった。
少しでも助かる確率があるのなら、入院してでも、私にどれだけ大きな負担がかかってでも、佑が助かる可能性ができるなら、それでよかったのに。
あの人はいつも私たちのことを考えて、そして次は私たちのことを考えて自分の命を捨てるなんて…。
『嫌だよ。そんなの絶対に嫌だ。
このままいなくなるなんて、私…、許せない…。』
『今まで私たちのことを考えてくれた、あの時間の恩返しをここで使ってもいいんだよ?』
そんな話だってした。
だが、そんな話をしても、佑はいつでも「ごめん」の一点張り。
そんな話が続いた1週間後だった。
**
佑の会社の友人から連絡が入った。
『佑が倒れた』
と。
**
私は急いで病院に向かった。
佑がいる部屋に入ると、佑はすでに目を覚ましていた。
「佑!!」
「愛…、ごめんな…迷惑ばっかかけて…。」
私は首を横に振った。
「俺言ったよ……、[太字]治療しません[/太字]って…。」
「え…?どういうこと…?」
「言われたんだ…、もう選ばなきゃいけないって…、治療するか、このまませずに死を待つか。」
私は佑が治療をしない決断をしたことに腹が立った。
「相談してよ…、私嫌だよ。このまま死を待つしかないのは。」
「ごめんな…、でももういいんだよ…。」
「俺は幸せだった…。」
「佑!」
私は泣きながら訴えた。
「嫌だ……、死なないで…。お願い…、治療してよ…、お願い…お願い…。」
すると佑は震えた手で、だけど確かにその頼もしい手で私の頭を撫でてくれた。
「大丈夫……。愛だったらやっていけるよ……。だって愛すごいもん…。」
そういう問題じゃない。
私は佑と一緒に生きていきたいだけなのに…。
でも、どうしてもそれを佑に伝えることができなかった。
「佑……。」
「愛…、俺の目を見て…。」
そう言われてすぐ目を見た。
佑は泣いていた。
「俺も生きたいよ…。愛が頼もしいお母さんでいて、ずっと可愛くて素敵な奥さんだって…沢山自慢したい…。みるが……小学校に入学して…卒業して…成人式だって見たい…。みるの結婚式は…、俺は泣いちゃうかな……wその全てを愛に託す…。愛ならこれ、全部できるだろ…?俺は、愛の中では生きてたから……。みるは忘れちゃうかもしれないけど…、いいんだ…。愛が伝えてくれれば…。」
「生きたいなら…、どうして…?」
「迷惑をかけるのもそうだけど……、愛とみるのことを…愛してるから……。」
「え……?」
「愛してるからこそ…、迷惑をかけたくない…。愛…、大丈夫…。愛なら大丈夫。夫の俺が言ってるんだから確かだよ…。……最後まで一緒にいてあげられなくてごめんね…。他の旦那さんみたいに、強くて、頼もしい旦那じゃなくて…、ごめんね…。」
私は佑のその言葉に、声を出して泣いた。
私は、佑の選択を尊重することにした。
**
2022年4月16日。
「ありがとう、ありがとう…。」
「なんで佑の方が泣いてるのw」
「なんか泣けてきちゃった……。」
みるを1番愛していたのは、私よりも佑の方だったのかな。
**
14年後…。
「なんで起こしてくれなかったの〜!」
「起こしたよw!」
「行ってきます!」
「あ、パパに言った?」
「あ!パパ行ってきます!」
「気をつけてね!」
「は〜い!」
**
「ねぇパパってどんな人だったの?」
「写真見てどう思うのよ。」
「え、普通にイケメン。」
「ふふっw」
「なになにw」
「パパはね、強い人だったよ。」
「強い人?」
「ほら、パパは余命宣告をされて亡くなったって言ったでしょ?あれね、助かるかもしれなかったのよ。でもね、パパは自ら治療の道を選ばなかったの。」
「どうして…?」
「私と、みるのため。負担をかけたくなかったんだと思う。入院してた時、まだみるは3歳だったもんね。パパは悲しがってたな、みるが学生になったらパパのことなんて忘れてしまうんじゃないか、いない存在にしてしまうんじゃないかってw」
「私が忘れるわけないのにwパパって面白い人だね。」
「うん、面白いし、とっても家族思いだったよ。みるが生まれた時、私より泣いてたのあの人だからね。」
「そうだったんだ。」
「みる、これだけは覚えてて欲しいの。」
「ん?」
「パパは、心の中でずっと一緒にいるからね。」
「…うん。わかった。」
**
現在。
佑。
今日はみるの結婚式だよ。
あの時撮った動画、やっと見てくれるね。
「みる、結婚おめでとう。」
「え、パパ…?」
「みるは、パパの声、初めて聞いたんじゃないかな?3歳の時で最後だもんね。みるは、今何歳ですか?幸せですか?みるが幸せならパパはそれでいいよ。
パパは、早く亡くなって、ママに残りのみるの育児をすべて託しちゃった。かっこ悪い父親だよな…。ママの言うことはちゃんと聞けたか?愛に似て、ちゃんと約束とか守るんだろうな…。パパは、ママの約束守れなかったよ。生きて欲しいって言われてたんだけどね…。俺は自分の考えを尊重してしまった。ごめんな。
これがみるの結婚式だとしたら、愛。いるよな。愛、ごめんな。育児お疲れ様。俺は結局何にもできなかったな…。愛に甘えさせることも、休みを取らせることも、愛に頼りっぱなしだったよな…。ごめん。愛にな、言い忘れたことがある。もし、家に帰ってまだ俺のパソコンが残っているのなら、ファイルを見て欲しい。パスコードは……まぁ、愛ならわかるだろう。愛があの時俺の意見を尊重してくれて嬉しかった…。でも、今感じていること言うと、やっぱり俺まだ生きたいんだよな。みるのこれからも見たい…。もっと愛と過ごしたい…。ごめん…。俺の方が泣いちゃったな…。みるのウェディングドレス、見たかったよ。まぁ、愛があんだけ可愛かったんだから、みるも可愛いんだろうな。ふふっ…、みるの旦那さんには俺のことでいろいろと迷惑をかけるかもしれないね…、その時は、どうか妻と、みるのことを助けてあげてくれ…。俺は、愛とみるのことを愛してる。
みる、改めて結婚おめでとう。」
私とみるは、涙が溢れ出て止まらなかった。
でも、まだ終わりじゃない。
私は帰ってから佑のパソコンを開いた。
**
『俺が1番好きなのは?』
「好きなの?食べ物…とか?」
佑が好きな食べ物、オムライスを打ち込む。
だが、開かなかった。
「なにこれ、わかんないよ。」
私は頭を柔らかくして考えた。
食べ物じゃない、それはわかった。
私は、一か八かで自分の名前『愛』といれた。
「え、開いた……。」
そこには、非表示ファイルで、『愛へ』と書かれた動画があった。
「愛?見つけた?ってことは、結婚式が終わったのかな?お疲れ様。……愛。俺は今、愛に会いたい…会って、ちゃんと抱きしめたい…。一方的にじゃなくて…、自分の力で抱きしめたい…。あの時ちゃんと抱きしめておけばよかったよな…、後悔しかしないよ…wあれから結婚とかした…?まぁ、愛のことだからしてないよな。」
「うん…、してないよ。」
「俺は愛が大好きです。本当に本当に大好き。この34年間、愛と出会ってからの方が長くなったのかな…?愛といるとさ、幸せになるんだよね。もし俺が死んだらさ、この動画を見て、鈴木佑はこんな人だったなって思い出して欲しい。愛、すぐ忘れそうだからw」
「忘れないよ……w」
「いつも、愛は周りに気を遣ってばっかでパンクしちゃうことがあるから、そう言う時はみるでもいいし、桜でもいいから頼るんだぞ!それが俺のお願いだ。あとは、俺は愛をものすっごく愛してたってこと。忘れんなよw」
「忘れるわけないじゃん…w」
「愛。もし今そこに俺がいたら、どうなってるんだろうな。もっと幸せだった?それとも、やっぱりいない方が幸せかな?もし、あの時みるが高校生とかだったら生きる選択をしてたのかな。そんなことを、考えたこと愛なら一回はあると思う。でも、多分だけど、それでも俺は生きないって言う選択をしてたと思うんだ。どちらにしろ、みるにも愛にも迷惑をかけることは変わらないから。愛がよくても、みるがよくても、俺はダメだったんだ。正直さ、どれほど謝っても愛には響かないと思ってる。でも、俺には伝わってたよ。愛がどれほど俺を愛してくれていたか。あ、でも愛していなかったかもかwははっw……でもきっと愛してくれてたと思うんだよな。俺の大事な大事な奥さんは。」
「なにそれ…w」
「よしっ、じゃあもうこれで最後かな。」
「愛。」
「俺の動画は、もう見ないで?だって、そしたら本当に俺が死んだことになっちゃうだろ?言ったはずだ。愛やみるの心の中に俺はいるって。」
「俺はいつでも見守ってるから。」
「愛してる。」
the end.
ある日突然夫からLINEが送られてきた。
『今日早く帰る?』
そんなこと今まで聞いてこなかったのに…。
そんなことを思いながら、『早く帰るよ。』と返信した。
だが、これが最後のLINEになるなんて思いもしなかった。
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【設定】
鈴木愛(33) ー 鈴木佑(34)
鈴木みる:子供(3)
高崎桜:佐藤愛の親友。
21:30。
みるを寝かせて、二人でリビングにいた時だった。
「ねぇ、どうして今日早く帰るか、なんて聞いたの?」
「あぁ…。」
私はその返しに何かあったのだとすぐわかった。
「何かあったの?」
「……なぁ、俺が死んだら…困る?」
最初はこの人は何を言っているんだろうと思った。
「え、なんでそんなこと聞くの…?」
「いや、なんとなく…気になって…w」
私はその発言に違和感を覚えた。
「ごめん…、今日はもう俺寝るわ…。おやすみ。」
「…うん。おやすみ。」
私はそのモヤモヤが頭に残って、深く眠ることができなかった。
次の日…。
この日は土曜日で仕事がないはずなのに、朝から佑はいなかった。
「佑〜?」
リビングに行くと、そこには置き手紙だけがあった。
[斜体][明朝体][中央寄せ]ごめんなさい。
俺は出ていきます。
今の俺じゃ、一緒に暮らせない。
急にこんなこと言い出してごめんね。
みるのこと、頼んだよ。[/中央寄せ][/明朝体][/斜体]
は…?出ていく…?どういうこと?なんで?
私はパニックで、みるを抱えたまま外に飛び出した。
そして1番に桜の家に行った。
**
「こんな朝早くからごめん、桜。」
「え、何どうしたの、そんな慌てて…。」
「佑が…、この置き手紙置いてでてったの…。」
「え!?」
「来てない?」
「うん、うちには来てない…。」
「そっか…、そうだよね、ごめん。」
「あ、ちょっとまって!探すの?」
「そのつもりだけど…。」
「みるちゃん見とこうか?その状態で探すの大変でしょう?」
「いいの…?」
「勿論、こういう時は親友を頼りな!ねぇ、みるちゃん〜」
みるはまだ3歳。
不安もあったが、保育士をしている桜になら、とみるを桜に預けた。
「ごめん、本当にありがとう…!」
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探し始めてどれくらい経ったのだろうか…。
私はいつの間にか、絶対いないであろう病院の前に来ていた。
そしてそこのベンチに座り、いろんな考え事をしていた。
すると病院から出てくる佑の姿があった。
私はなんの考えもせずに声をかけた。
「佑…!!」
「…愛?!どうしてここに…?」
「ちょっ…その格好…!」
「え?」
私は家を飛び出してきてしまったせいか、パジャマのまま、つまり、佑の前でしか見せないゆるすぎる格好できてしまっていた。
それを見た佑は、自分が着ていたカーディガンを私に着せてくれた。
「ごめん…、私あの手紙見てパニックで何もせずに出てきちゃってた…。」
「…ごめんな。」
「なんで謝るの…?ねぇ、私なんか悪いことした…?」
そう聞くと、佑はすぐに首を横に振った。
「違うんだ、愛は全く悪くない…。」
「じゃあ、なに…?というかどうして病院なんかに…?」
「落ち着いて聞いて欲しいんだけどさ…。」
「うん…、」
「俺死ぬんだって。」
「え…?」
私は落ち着いて聞くことなんかできなくなった。
佑の話によると、1ヵ月ほど前から余命宣告を受けてて、昨日も言おうとしたがやはり言えなかった、とのこと。
そして家を出てきた理由も、治療をするとなると、私に迷惑がかかるし、みるにも迷惑がかかるから先に手放してしまった、とのこと。
「ごめん…。俺勝手に愛とみるのこと手放して先に離れようとしてた…、ごめんなさい。」
「謝らないで…、それよりどういうこと…。」
「治療をすれば治るかもしれないって…、でもその確率が40%いくかいかないかくらいで…、お金もかかるしやめようと思ってるんだ。」
「どうして言ってくれなかったの…。」
「俺は、愛とみるに迷惑をかけたくなかった。」
「だから…、」
「言ってくれた方が嬉しかった…、隠さないで欲しかった…。」
私はいつの間にか泣いていた。
まだ周りに人はいない、なんせ6:30なのだから。
そんな様子を見て佑は抱きしめてくれた。
でも私は嫌だった。今はそんな気分ではなかった。
だから、私は佑の手を振り解いた。
「離して!」
「愛、」
「お願いだから…、ちょっと一人にさせて…。」
「みる、桜の家だから…。」
「……わかった。」
私には時間が必要だった。
今思えば、私は自己中だったなと思う。佑には時間がなかったのに。
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私が家に戻ってきた頃にはもう太陽が登りきっていた。
「ただいま…、」
「おかえり…。」
「みるは…?」
「ちょうど今昼寝させてる。」
「…ありがと。」
私は玄関まで来てくれた佑を無視してリビングに入って行った。
「愛…!」
「……。」
後ろから声をかけられたが、私は一切振り向かずに2階に上がった。
それでも佑は声をかけてくる。その声を聞いて、私はついに佑の方を向いた。
「言って欲しかった…、」
「ごめん…。」
「お願いだから生きて…、治療してよ…。どれだけお金がかかってもいいから…。お願い…。」
「……。」
そのお願いに佑は答えなかった。
「愛にも、みるにも申し訳ないんだけど…、俺は[太字]生きることはできないよ。[/太字]」
「どうして…?」
「お金がかかりすぎる。」
「それなら貯金もあるし、これからだって頑張れば貯めれr」
「愛への負担が大きすぎる。」
「例えそれで俺が助かっても、助からなくても、どちらにしろ愛に負担がでかい。今はみるもいるだろ?みるが小学生になったらもっとお金が必要になってくる。それのための貯金だろ。それを俺に使うな…。助かったとしても、そこから入院したりして、また愛に迷惑をかけることになる。」
「それでも、私は佑に生きて欲しい。」
「……ごめんな。」
佑はその一言だけを言ってまた1階へと降りて行った。
私は佑がいなくなるということに許せなかった。
少しでも助かる確率があるのなら、入院してでも、私にどれだけ大きな負担がかかってでも、佑が助かる可能性ができるなら、それでよかったのに。
あの人はいつも私たちのことを考えて、そして次は私たちのことを考えて自分の命を捨てるなんて…。
『嫌だよ。そんなの絶対に嫌だ。
このままいなくなるなんて、私…、許せない…。』
『今まで私たちのことを考えてくれた、あの時間の恩返しをここで使ってもいいんだよ?』
そんな話だってした。
だが、そんな話をしても、佑はいつでも「ごめん」の一点張り。
そんな話が続いた1週間後だった。
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佑の会社の友人から連絡が入った。
『佑が倒れた』
と。
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私は急いで病院に向かった。
佑がいる部屋に入ると、佑はすでに目を覚ましていた。
「佑!!」
「愛…、ごめんな…迷惑ばっかかけて…。」
私は首を横に振った。
「俺言ったよ……、[太字]治療しません[/太字]って…。」
「え…?どういうこと…?」
「言われたんだ…、もう選ばなきゃいけないって…、治療するか、このまませずに死を待つか。」
私は佑が治療をしない決断をしたことに腹が立った。
「相談してよ…、私嫌だよ。このまま死を待つしかないのは。」
「ごめんな…、でももういいんだよ…。」
「俺は幸せだった…。」
「佑!」
私は泣きながら訴えた。
「嫌だ……、死なないで…。お願い…、治療してよ…、お願い…お願い…。」
すると佑は震えた手で、だけど確かにその頼もしい手で私の頭を撫でてくれた。
「大丈夫……。愛だったらやっていけるよ……。だって愛すごいもん…。」
そういう問題じゃない。
私は佑と一緒に生きていきたいだけなのに…。
でも、どうしてもそれを佑に伝えることができなかった。
「佑……。」
「愛…、俺の目を見て…。」
そう言われてすぐ目を見た。
佑は泣いていた。
「俺も生きたいよ…。愛が頼もしいお母さんでいて、ずっと可愛くて素敵な奥さんだって…沢山自慢したい…。みるが……小学校に入学して…卒業して…成人式だって見たい…。みるの結婚式は…、俺は泣いちゃうかな……wその全てを愛に託す…。愛ならこれ、全部できるだろ…?俺は、愛の中では生きてたから……。みるは忘れちゃうかもしれないけど…、いいんだ…。愛が伝えてくれれば…。」
「生きたいなら…、どうして…?」
「迷惑をかけるのもそうだけど……、愛とみるのことを…愛してるから……。」
「え……?」
「愛してるからこそ…、迷惑をかけたくない…。愛…、大丈夫…。愛なら大丈夫。夫の俺が言ってるんだから確かだよ…。……最後まで一緒にいてあげられなくてごめんね…。他の旦那さんみたいに、強くて、頼もしい旦那じゃなくて…、ごめんね…。」
私は佑のその言葉に、声を出して泣いた。
私は、佑の選択を尊重することにした。
**
2022年4月16日。
「ありがとう、ありがとう…。」
「なんで佑の方が泣いてるのw」
「なんか泣けてきちゃった……。」
みるを1番愛していたのは、私よりも佑の方だったのかな。
**
14年後…。
「なんで起こしてくれなかったの〜!」
「起こしたよw!」
「行ってきます!」
「あ、パパに言った?」
「あ!パパ行ってきます!」
「気をつけてね!」
「は〜い!」
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「ねぇパパってどんな人だったの?」
「写真見てどう思うのよ。」
「え、普通にイケメン。」
「ふふっw」
「なになにw」
「パパはね、強い人だったよ。」
「強い人?」
「ほら、パパは余命宣告をされて亡くなったって言ったでしょ?あれね、助かるかもしれなかったのよ。でもね、パパは自ら治療の道を選ばなかったの。」
「どうして…?」
「私と、みるのため。負担をかけたくなかったんだと思う。入院してた時、まだみるは3歳だったもんね。パパは悲しがってたな、みるが学生になったらパパのことなんて忘れてしまうんじゃないか、いない存在にしてしまうんじゃないかってw」
「私が忘れるわけないのにwパパって面白い人だね。」
「うん、面白いし、とっても家族思いだったよ。みるが生まれた時、私より泣いてたのあの人だからね。」
「そうだったんだ。」
「みる、これだけは覚えてて欲しいの。」
「ん?」
「パパは、心の中でずっと一緒にいるからね。」
「…うん。わかった。」
**
現在。
佑。
今日はみるの結婚式だよ。
あの時撮った動画、やっと見てくれるね。
「みる、結婚おめでとう。」
「え、パパ…?」
「みるは、パパの声、初めて聞いたんじゃないかな?3歳の時で最後だもんね。みるは、今何歳ですか?幸せですか?みるが幸せならパパはそれでいいよ。
パパは、早く亡くなって、ママに残りのみるの育児をすべて託しちゃった。かっこ悪い父親だよな…。ママの言うことはちゃんと聞けたか?愛に似て、ちゃんと約束とか守るんだろうな…。パパは、ママの約束守れなかったよ。生きて欲しいって言われてたんだけどね…。俺は自分の考えを尊重してしまった。ごめんな。
これがみるの結婚式だとしたら、愛。いるよな。愛、ごめんな。育児お疲れ様。俺は結局何にもできなかったな…。愛に甘えさせることも、休みを取らせることも、愛に頼りっぱなしだったよな…。ごめん。愛にな、言い忘れたことがある。もし、家に帰ってまだ俺のパソコンが残っているのなら、ファイルを見て欲しい。パスコードは……まぁ、愛ならわかるだろう。愛があの時俺の意見を尊重してくれて嬉しかった…。でも、今感じていること言うと、やっぱり俺まだ生きたいんだよな。みるのこれからも見たい…。もっと愛と過ごしたい…。ごめん…。俺の方が泣いちゃったな…。みるのウェディングドレス、見たかったよ。まぁ、愛があんだけ可愛かったんだから、みるも可愛いんだろうな。ふふっ…、みるの旦那さんには俺のことでいろいろと迷惑をかけるかもしれないね…、その時は、どうか妻と、みるのことを助けてあげてくれ…。俺は、愛とみるのことを愛してる。
みる、改めて結婚おめでとう。」
私とみるは、涙が溢れ出て止まらなかった。
でも、まだ終わりじゃない。
私は帰ってから佑のパソコンを開いた。
**
『俺が1番好きなのは?』
「好きなの?食べ物…とか?」
佑が好きな食べ物、オムライスを打ち込む。
だが、開かなかった。
「なにこれ、わかんないよ。」
私は頭を柔らかくして考えた。
食べ物じゃない、それはわかった。
私は、一か八かで自分の名前『愛』といれた。
「え、開いた……。」
そこには、非表示ファイルで、『愛へ』と書かれた動画があった。
「愛?見つけた?ってことは、結婚式が終わったのかな?お疲れ様。……愛。俺は今、愛に会いたい…会って、ちゃんと抱きしめたい…。一方的にじゃなくて…、自分の力で抱きしめたい…。あの時ちゃんと抱きしめておけばよかったよな…、後悔しかしないよ…wあれから結婚とかした…?まぁ、愛のことだからしてないよな。」
「うん…、してないよ。」
「俺は愛が大好きです。本当に本当に大好き。この34年間、愛と出会ってからの方が長くなったのかな…?愛といるとさ、幸せになるんだよね。もし俺が死んだらさ、この動画を見て、鈴木佑はこんな人だったなって思い出して欲しい。愛、すぐ忘れそうだからw」
「忘れないよ……w」
「いつも、愛は周りに気を遣ってばっかでパンクしちゃうことがあるから、そう言う時はみるでもいいし、桜でもいいから頼るんだぞ!それが俺のお願いだ。あとは、俺は愛をものすっごく愛してたってこと。忘れんなよw」
「忘れるわけないじゃん…w」
「愛。もし今そこに俺がいたら、どうなってるんだろうな。もっと幸せだった?それとも、やっぱりいない方が幸せかな?もし、あの時みるが高校生とかだったら生きる選択をしてたのかな。そんなことを、考えたこと愛なら一回はあると思う。でも、多分だけど、それでも俺は生きないって言う選択をしてたと思うんだ。どちらにしろ、みるにも愛にも迷惑をかけることは変わらないから。愛がよくても、みるがよくても、俺はダメだったんだ。正直さ、どれほど謝っても愛には響かないと思ってる。でも、俺には伝わってたよ。愛がどれほど俺を愛してくれていたか。あ、でも愛していなかったかもかwははっw……でもきっと愛してくれてたと思うんだよな。俺の大事な大事な奥さんは。」
「なにそれ…w」
「よしっ、じゃあもうこれで最後かな。」
「愛。」
「俺の動画は、もう見ないで?だって、そしたら本当に俺が死んだことになっちゃうだろ?言ったはずだ。愛やみるの心の中に俺はいるって。」
「俺はいつでも見守ってるから。」
「愛してる。」
the end.
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