――魔王城の最深部。
　ツキミたちは、魔王様に言われるがまま、巨大なベッドに横たわる。

「まさか…これが最終試練なのか？」

「うん、そうだよ！寝て、しっかりと休んで体力を回復しないと、勇者として戦う力が出ないからね！」

「本当に寝るだけなのか！？それが最終試練なんて…」

　ツキミは半信半疑でベッドに横たわった。他の生徒たちも、魔王様の言う通りに次々とベッドに寝転んでいく。

「魔王様、マジでこれが試練なの？なんか…めっちゃゆるいよね？」

「だって、休息こそが大切なんだよ！たとえどんなに強い勇者でも、疲れがたまってたら力を発揮できないでしょ？だから、しっかり寝て心身を整えることが試練なんだよ〜！」

　魔王様の言葉に、ツキミは少し納得し始める。しかし、どうしてもこの“試練”が本当に勇者にとって重要なのかが疑問で仕方がない。

「でもさ、魔王様、これって…寝てるだけじゃないか。ほんとにこれが試練って呼べるのか？」

「もちろん！寝ることができるのも勇者の一つの資質なんだよ！だって、どんな困難な状況でも、休憩を取ることができない勇者なんて…」

「その理論、完全に食っちゃ寝系の人間の理屈じゃん！」

　ツッキーはボソッとツッコミを入れるが、魔王様はニコニコと微笑む。

「休むことができる勇者こそ、最も強い勇者なのさ！それに、君たちが勇者になったとしても、寝る時間は必ずあるんだよ？」

「そういえば、そうだな…どんなに戦い続けても寝なきゃいけないもんなぁ…」

　ツキミは、魔王様の言葉を頭の中で反芻しながら、しばらく寝転んでいた。

　――しかし、その瞬間、どこかからか声が聞こえてきた。

「ねえ、ツッキー。ツッキーってば、ほんとに寝る気ある？」

「イーラ！？お前、なんで寝てないんだよ！」

「寝ても寝ても、ピンとこないんだよね〜。だから、試しにここで魔法を使ってみようかな！」

「魔法！？」

「うん。魔法って、寝ながらでも使えるんだよね、意外と」

　イーラは目を閉じたまま、ふわっと手をかざす。すると、魔法陣が空中に浮かび上がり、色とりどりの光が舞い踊り始める。

「おお、すごい！寝ながら魔法って…！」

「イーラ、それ絶対に最初に試練の本質を理解しないとダメだろ！寝る意味がなくなっちゃうじゃん！」

　ツキミがツッコむと、イーラは目を開けて笑った。

「大丈夫だよ〜！だって、魔王様が言ってた通り、心身が整えば、自然と魔法も力を発揮するからさ！」

「いや、それって最初から寝てる意味ないじゃん！？」

　一方、ベッドに横たわりながらも、他の生徒たちも各々の方法で「最終試練」に挑んでいた。

　ルード（魔王の息子）は、何かを深く考えている様子でベッドに目を閉じているが、まったく寝ていない。

「ルード、寝てるのか、寝てないのか、どっちなんだ？」

「寝てるふりをしているんだ」

「…完全に寝てる気がしないけど、何か思い詰めてる感じ？」

「うん、いま、何かを感じ取ろうとしているんだ」

　そんな中、ツキミが「寝る」と言われてもどうしても納得できなかったその瞬間——

「ツッキー、そろそろ寝てみなよ〜！」

　ネム（やる気ゼロ勇者志望）が、寝ている状態からぬっと顔を出しながら言った。

「……寝て、力が湧くなら、寝てみるのもありかもな」

　ツキミはやっとその気になり、深呼吸して目を閉じた。しばらくして、なんとなく心が静まっていくのを感じた。

「…なるほど、これは…気持ちいいかも」

【📣クロくんアナウンス：「試練、終了。全員合格」】
【📣次回、最後の大事件が！？】