文字サイズ変更

身勝手に焦がれる日常

#1


朝のコンビニで、彼女はいつも同じ時間に現れる。
髪を一つにまとめて、紺色のスーツ。会計を済ませると、微かに笑って店を出て行く。
名前も知らない。声を聞いたことすらない。

俺はその人に、勝手に恋をしていた。

バイト先のこのコンビニで、ただレジを打つだけの平凡な日常。だけど彼女が現れると、それが少しだけ色づく。
「いってらっしゃい」と言いたいけど、言えない。
それはきっと、自分のためだけの感情だってわかっていたから。

春が来て、彼女の髪型が少し変わった。
夏が来て、彼女はスポーツドリンクを買うようになった。
秋が来て、マフラーが増えた。
そして冬の朝、彼女は来なくなった。

風邪でもひいたのか、転職でもしたのか。
理由なんて、俺には知る権利もない。
だけど、空っぽの朝が、刺さるほど寂しかった。

それからしばらくして、俺はバイトを辞めた。
生活は少し変わったけど、なぜかその人のことだけは、頭から離れなかった。
焦がれて、焦がれて、どうにもならない日常の中で。
何も始まらなかった恋を、自分の中で終わらせることすらできない。

ある日、街角のカフェで、偶然見かけた彼女は、小さな子供の手を引いていた。
笑っていた。俺なんかよりずっと、ちゃんと、幸せそうに。

心がぐしゃっと音を立てた。

ああ、これでよかったんだ。
俺の焦がれた日常は、やっぱり俺だけのものだったんだ。

作者メッセージ

読んでいただき、ありがとうございました。
この物語は、「何も始まらなかった想い」にも確かに存在する意味があると信じて綴りました。
誰かを一方的に想うことは、時に身勝手で、報われなくて、痛い。でもその感情があったからこそ、日常が少しだけ輝く――そんな気持ちを少しでも感じてもらえたなら幸いです。

あなたの「焦がれた日常」にも、どうか優しい光がありますように。

月影

2025/05/12 21:21

月影 ID:≫ 5iUgeXQ3Vbsck
小説を編集

パスワードをおぼえている場合はご自分で小説を削除してください。(削除方法
自分で削除するのは面倒くさい、忍びない、自分の責任にしたくない、などの理由で削除を依頼するのは絶対におやめください。

→本当に小説のパスワードを忘れてしまった
▼小説の削除を依頼する

小説削除依頼フォーム

お名前 ※必須
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
削除の理由 ※必須

なぜこの小説の削除を依頼したいですか

ご自分で投稿した小説ですか? ※必須

この小説は、あなたが投稿した小説で間違いありませんか?

削除後に復旧はできません※必須

削除したあとに復旧はできません。クレームも受け付けません。

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL
/ 1

コメント
[5]

小説通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

※できるだけ具体的に記入してください。
特に盗作投稿については、どういった部分が元作品と類似しているかを具体的にお伝え下さい。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL