焔の信長 〜天魔転生記〜
異形の空に響く、禍々しき声。
信長は振り返る。だが、そこには姿はない。ただ黒き渦が蠢いているだけだった。
「……貴様が“裏切り”を操る者か」
信長の問いに応えるように、渦の中から一本の腕が現れた。
その手には、血に濡れた“硯”――文字を記せば運命すら書き換えるという、呪いの筆記具。
黒天童子が表情を曇らせた。
「……あれは、“黄泉ノ筆録”。修羅ノ国の最奥に座する者、“黒筆の主”の力……!」
「ほう……ならば、余の敵としては申し分あるまい」
信長は六道剣を構える。だが、異様な殺気が彼を包んだ。
その時、光秀が静かに前に出た。
「信長公、あなたに……今こそ答えたい。なぜ私が、あなたを討ったのか」
信長の剣先がわずかに揺れる。
「答える? いまさら何を語る気だ」
光秀は、己の胸に手を当て、淡く光る珠(たま)を取り出した。
その中には、過去の記憶が封じられている――その珠の名は、「裏の記憶(うらのきおく)」。
「この記憶は、私自身にも見せられぬよう封印されていた。
だが、“黒筆の主”がその封を解いた。――すべては、私という“器”を完成させるために」
珠が砕け、映像が宙に浮かぶ。
そこには、赤子の光秀に呪文を刻み込む黒衣の者の姿――
「この子は、いずれ“信長”を討つ。そのために存在し、“裏切り”を成す者となる」
信長が息を呑む。
「貴様は……生まれながらにして“裏切る者”だったのか……!」
光秀はうつむいた。
「私には、意思がなかったのかもしれません。だが、今――私は、自らの意志であなたに刃を向けます」
信長の目が鋭く光る。
「よかろう。ならば余も、貴様の意志に応えよう」
二人の間に、風が吹いた。
刹那――剣と槍がぶつかり合う!
焔と氷のような対極の力が交錯し、地面が裂ける。
信長の六道剣が、光秀の槍をはじく。だが光秀は冷静に切り返し、足元を狙う。
「見事だ、光秀……やはり貴様は、我が生涯最も危うき“裏切り”よ」
「信長公……あなたは、私のすべてだったのです」
その言葉に、一瞬、信長の剣が止まる。
次の瞬間、光秀の槍が彼の肩を裂いた!
「くっ……!」
「だが……信長公、あなたの“理”は、まだ折れていない。私の刃でも、砕けなかった……!」
光秀は、己の槍を引いた。
そして静かに膝をつく。
「――これが、私の答えです。あなたを討った“意味”も、“罪”も、すべて背負って……なお、あなたに従う」
その瞬間、空の渦が悲鳴を上げた。
「裏切りが……破られた……?」
“黒筆の主”の声が、かすかに揺らぐ。
信長は立ち上がり、剣を天に掲げた。
「聞け、“黒筆”よ。裏切りの連鎖など、我が焔ですべて断ち切る。貴様の“理”など、ここで終わらせてくれる!」
空に雷鳴が響く。
焔を纏った信長の姿は、まさしく“魔王”の化身。
いま、真なる決戦の扉が開かれようとしていた――
信長は振り返る。だが、そこには姿はない。ただ黒き渦が蠢いているだけだった。
「……貴様が“裏切り”を操る者か」
信長の問いに応えるように、渦の中から一本の腕が現れた。
その手には、血に濡れた“硯”――文字を記せば運命すら書き換えるという、呪いの筆記具。
黒天童子が表情を曇らせた。
「……あれは、“黄泉ノ筆録”。修羅ノ国の最奥に座する者、“黒筆の主”の力……!」
「ほう……ならば、余の敵としては申し分あるまい」
信長は六道剣を構える。だが、異様な殺気が彼を包んだ。
その時、光秀が静かに前に出た。
「信長公、あなたに……今こそ答えたい。なぜ私が、あなたを討ったのか」
信長の剣先がわずかに揺れる。
「答える? いまさら何を語る気だ」
光秀は、己の胸に手を当て、淡く光る珠(たま)を取り出した。
その中には、過去の記憶が封じられている――その珠の名は、「裏の記憶(うらのきおく)」。
「この記憶は、私自身にも見せられぬよう封印されていた。
だが、“黒筆の主”がその封を解いた。――すべては、私という“器”を完成させるために」
珠が砕け、映像が宙に浮かぶ。
そこには、赤子の光秀に呪文を刻み込む黒衣の者の姿――
「この子は、いずれ“信長”を討つ。そのために存在し、“裏切り”を成す者となる」
信長が息を呑む。
「貴様は……生まれながらにして“裏切る者”だったのか……!」
光秀はうつむいた。
「私には、意思がなかったのかもしれません。だが、今――私は、自らの意志であなたに刃を向けます」
信長の目が鋭く光る。
「よかろう。ならば余も、貴様の意志に応えよう」
二人の間に、風が吹いた。
刹那――剣と槍がぶつかり合う!
焔と氷のような対極の力が交錯し、地面が裂ける。
信長の六道剣が、光秀の槍をはじく。だが光秀は冷静に切り返し、足元を狙う。
「見事だ、光秀……やはり貴様は、我が生涯最も危うき“裏切り”よ」
「信長公……あなたは、私のすべてだったのです」
その言葉に、一瞬、信長の剣が止まる。
次の瞬間、光秀の槍が彼の肩を裂いた!
「くっ……!」
「だが……信長公、あなたの“理”は、まだ折れていない。私の刃でも、砕けなかった……!」
光秀は、己の槍を引いた。
そして静かに膝をつく。
「――これが、私の答えです。あなたを討った“意味”も、“罪”も、すべて背負って……なお、あなたに従う」
その瞬間、空の渦が悲鳴を上げた。
「裏切りが……破られた……?」
“黒筆の主”の声が、かすかに揺らぐ。
信長は立ち上がり、剣を天に掲げた。
「聞け、“黒筆”よ。裏切りの連鎖など、我が焔ですべて断ち切る。貴様の“理”など、ここで終わらせてくれる!」
空に雷鳴が響く。
焔を纏った信長の姿は、まさしく“魔王”の化身。
いま、真なる決戦の扉が開かれようとしていた――