修羅ノ国の空に、黒い羽を持つ異形の者が舞い降りた。
その影は風のように地を駆け、信長の眼前に現れる。

「織田信長――お前に試練を与える者、“裏の記録者”だ」

そう名乗ったのは、両目に“天”と“魔”の刻印を持つ仮面の男。
彼は、修羅ノ国の記憶をすべて記録する、異界の書記官だった。


「今よりお前に“裏切りの連鎖”を見せよう。……お前が死に至った真の因果、その始まりを」

信長が目を細める。

「何を見せるつもりだ」

男は手に持った黒き巻物を開く。その中から、時空を超える映像が現れた。

まず映ったのは――浅井長政。

信長の妹・お市を娶り、盟友となったはずの男。
だが彼は、突如として信長を裏切り、朝倉義景側についた。

「浅井……奴も、裏切りを選んだか」

記録者が言う。

「だが、浅井の裏切りの裏には、“手紙”があった。誰かが偽りの文で、信長が浅井を討つつもりだと信じ込ませたのだ」

信長の眼が鋭くなる。

「誰が……そんなことを」

次に映ったのは、松永久秀。
爆死で名を遺す破天荒な男――だが、その最後もまた、裏切りの果てであった。

「彼もまた、“誰か”に見捨てられ、孤立した。そして、ある密書に導かれ、自爆という道を選んだ」


記録者が巻物を閉じる。

「お前の周囲にいた者たちは、皆、意志を持って裏切ったわけではない。“何者か”が、“裏切り”を演出したのだ」

「ふざけるな。奴らには意志があった。信じ、裏切り、滅びた。それだけの話だ」

「ならば見よ――明智光秀の真実を」

次の瞬間、信長の目の前に一人の男が現れる。
白い甲冑に身を包み、静かな瞳を持つその男。

明智光秀。

信長の宿命の裏切り者。
だがその姿に、信長は驚きを隠せなかった。

「……貴様、生きているのか」

光秀はただ、口を開いた。

「信長公。私は……あなたを殺すために生まれた“器”だったのです」

「何？」

「私は誰かに“創られた”。あなたを裏切るために。“理”を壊すために、誰かの手でこの世に送り込まれた存在です」

静かな声。だが、その言葉は、信長の胸を深く貫いた。

（すべては仕組まれていた……？）

信長の瞳に、かつてない迷いが浮かぶ。
だがその刹那――空が裂け、暗黒の渦が現れる。

その中心から聞こえるのは、低く、禍々しい声。

「――そろそろ気づいたか、我が“理”に」

その声の主こそが、“裏切り”の連鎖を操る黒幕。
その名を、未だ誰も知らない。


信長は剣を構え、ただ一言つぶやいた。

「ならば……余が、その理を討ち壊してくれるわ」

――裏切りの連鎖を断つために。