焔の六道剣が抜かれた瞬間、空気が一変した。
剣から迸る赤き炎が、信長の周囲の黒い大地を焼き裂く。

「織田ああああああッ！！」

怨霊・武田信玄が、怒号とともに突進してくる。
その手には、巨大な斧。一振りで山を割るほどの妖力が込められていた。

「遅いわ、信玄！」

信長は一歩踏み込み、六道剣を真横に払う。
斧と剣が激突し、衝撃で周囲の地面が抉れた。

――ゴオオォォン！

黒天童子が空中で指を鳴らすと、戦場全体が赤く染まり、時間すら歪む。
ここは異界。すべての理は、“強者”のために変わる。


「裏切ったなァ……我が策も、兵も、貴様の手で潰されたァァ！」

信玄の目からは黒い焔が噴き出していた。
かつての誇り高き将の姿はなく、ただ怒りと憎悪に取り憑かれた“怨霊”であった。

「ふん……裏切り？　貴様らこそ、時代に背いたのだ。新しき世を恐れ、古き習わしに縋りついた。滅ぶべくして滅んだまでよ！」

信長の声が大地に響く。
その言葉は、かつての戦場で散ったすべての武将たちへの“断罪”でもあった。

「斬る！」

信長が突進。六道剣が唸りをあげ、信玄の黒甲冑を裂く。
だが、信玄も怨霊。常人の致命傷すら、ものともしない。

「ならば受けよ！　修羅ノ奥義――鬼嵐覇斧！」

巨大な斧が空から落ちてくるような一撃。
信長は剣を構え、地を蹴った――

「六道煉獄・第二ノ式！」

剣から放たれた火焔が、龍の形を成して宙を舞い、信玄に直撃する！

――ゴオオオオオォ！

炎に包まれた信玄が、怨嗟の咆哮をあげながら崩れ落ちていく。

「我が世……まだ、終わって……は……」

信玄の体が塵と化し、風に消えた。
信長は、剣を地に突き立て、静かに目を閉じた。


黒天童子が、にやりと笑う。

「……天魔の器にふさわしいな、信長。だが、これはまだ“序章”に過ぎん」

信長は振り返らずに言った。
「ならば次を寄越せ。地獄の果てまででも進んでやる。余の理を貫くためにな」


その時、遠くの空に黒い影が揺れた。
幾千の魂を束ね、異界を統べる者――“黄泉の軍師”。

それが、すべての裏切りを操る黒幕の存在であることを、信長はまだ知らなかった――