黒天童子の声が静かに響く。

「“裏切られし者”の魂は、深き業火により鍛えられ、“天魔”と成る……だが、耐えきれぬ者は塵と消える。お前に、それだけの覚悟があるか？」

信長は黙ってその場に跪いた。そして、焼けた大地に手を置く。

「……覚悟など、とうに捨てたわ。生きるためでも、死ぬためでもない。すべては“理（ことわり）”を正すためよ」

黒天童子の眼が鋭く光る。

「理だと？」

「光秀は我を裏切った。しかし、奴がただの愚か者だったとは思っておらん。そこに“理”があるなら、余が焼き尽くしてやる。裏も、表も、すべてな」

信長の言葉に、大地が震える。空に浮かぶ赤い月が、さらに紅く染まる。

「――ならば、行け。焔（ほのお）と怒りをまといし者よ。“天魔の門”はすでに開かれている」

黒天童子が大地を指さす。すると、信長の足元に燃え盛る“円陣”が現れた。

その中心に、巨大な門が現れる。両扉には、古より“悪鬼”と“英霊”が彫られている。

信長は静かに立ち上がった。
そして、ゆっくりとその門へと歩き出す。

（光秀よ……待っていろ。余が必ず、真実をその目に叩きつけてやる）

焔をまとうその背に、“死せる覇王”の威厳が宿っていた。

門が軋む音を立てて開かれる。
眩い光と共に、信長の姿が闇に吸い込まれていった――