焔の信長 〜天魔転生記〜
火の粉が夜空を焦がし、京の町を赤く染めていた。
六月二日、天正十年――本能寺にて、織田信長は裏切りの炎に包まれていた。
「……敵は……光秀、か」
焼け崩れる柱に背を預け、信長はうめくように名を呟いた。
甲冑の隙間から血が滲み、左腕はすでに動かぬ。だが、その眼だけはまだ死んでいなかった。
(なぜだ……光秀。貴様も、天下を夢見たはずだ……)
あれほどの才を持ち、あれほど信を置いた男が、なぜこのような裏切りを――。
だが、その答えを聞く間もなく、炎は天井を突き破り、天へと昇っていく。
そのときだった。
(――汝、怒りを抱け)
耳元に囁く声があった。いや、心の奥に直接響く、異形の声。
(汝が燃やした天下。その焔を我に委ねよ。我は“焔魔”)
「……誰だ」
(死を超えよ、信長よ。天すらも焼き尽くす者となれ)
炎の中、信長の両眼に紅蓮の光が灯る。
死を拒絶する意志。裏切りを許さぬ怒り。そして、まだ果たしていない天下の夢。
「……余はまだ、終わってはおらぬ……!」
その瞬間、信長の体は光と共に崩れ、炎と一体となって空へと消えた――
いや、燃え尽きることなく、“異界”へと堕ちていったのだった。
六月二日、天正十年――本能寺にて、織田信長は裏切りの炎に包まれていた。
「……敵は……光秀、か」
焼け崩れる柱に背を預け、信長はうめくように名を呟いた。
甲冑の隙間から血が滲み、左腕はすでに動かぬ。だが、その眼だけはまだ死んでいなかった。
(なぜだ……光秀。貴様も、天下を夢見たはずだ……)
あれほどの才を持ち、あれほど信を置いた男が、なぜこのような裏切りを――。
だが、その答えを聞く間もなく、炎は天井を突き破り、天へと昇っていく。
そのときだった。
(――汝、怒りを抱け)
耳元に囁く声があった。いや、心の奥に直接響く、異形の声。
(汝が燃やした天下。その焔を我に委ねよ。我は“焔魔”)
「……誰だ」
(死を超えよ、信長よ。天すらも焼き尽くす者となれ)
炎の中、信長の両眼に紅蓮の光が灯る。
死を拒絶する意志。裏切りを許さぬ怒り。そして、まだ果たしていない天下の夢。
「……余はまだ、終わってはおらぬ……!」
その瞬間、信長の体は光と共に崩れ、炎と一体となって空へと消えた――
いや、燃え尽きることなく、“異界”へと堕ちていったのだった。