二次創作
ONE PIECE多め短編集【単発多め】
ご都合主義
死ネタいっぱい
唐突に生えるオリキャラ
オリキャラ出張る(原作キャラの親友ポジが居る、原作知識持ち転生者)
捏造(主に白鉛病について)
ノベルローのネタバレを含みます
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◇
所謂“前世”でおれは黒ひげと戦って、死んだ。仲間達の無事すら見れず敵地の真中で屈辱と後悔と、仲間だけでも生きてほしいと思って死んだ。
そう、死んだ筈だったんだ。だがおれは今生きている。フレバンスの病院で、ガキの姿に戻っている。
今おれは八歳、白鉛病になったやつがちらほら出てきた頃。それなら、と希望を持った瞬間体に鈍痛が走った。この感覚は。久しく感じていなかったが忘れるわけがない。白鉛病の、症状だ…何故、何故、なぜ!?
おれは最後の方の患者だった筈なのに、何故、なぜ、いくら思ったって答えはない。何故って? 神は居ないからだ。居たとしても、腐ったドブ野郎ですら表せないとんだ下卑た存在であることに違いはないのだから、縋ることはしないし、叶うと慢心はしない。神に縋って滅亡なんてまっぴら御免だ。そんな失い方は前だけでいい。
そう思っていたのに、日に日に増える痛みと、熱を持って赤く染まった頬と白の対比が痛々しく、もう既に体が末期であることをありありと表している。
痺れ、熱や嘔吐を伴う吐き気、もう飽きた頭痛やら腹痛やらが付きまとう。慢性的な体調不良、発作だって馬鹿にできない。痙攣を伴う痙攣発作が主だが、まれに意識障害なども起こる。前の記憶があるために余計に悪夢などで精神もすり減るし、骨がミシミシ悲鳴をあげている。もうほとんどベッドから離れられないし、目が霞んで一メートル先すら危うい状況だ。
体が健康でいなければ研究やらもできない。己の無力さが憎たらしかった。なぜわざわざ記憶を持ち越したのか。役に立たなければ意味がないというのに。いっそ知らないほうが楽だったのに。揺れる視界、朦朧とする意識の中、ああこれが“終わり”なんだと噛み締めながら、死への原始的な恐怖を朦朧とする意識で打ち消しながら、一矢報いることすら叶わぬ夢のまま、鉛中毒を伴う衰弱死で二度目の人生に幕を閉じた。
・
・
・
がばり、ブランケットを剥いで、飛び上がるように起きる。目を見開き、玉のような汗をかいている。静かな部屋に、呼吸と心臓の音だけが響く。
悪夢とも取れる、記憶を観た。海賊団の船長だったり、非力な子供だったり、ぐるぐると回る景色。めまいやらなんやらが収まった頃にはもう完全に目が覚めていて。今は午前四時半を過ぎた頃、起きるには早すぎるが眠れる気もしない。
一旦、今観た“前世”を振り返ってこれからやることを決めなければ。もう泣いてばかり、負担をかけてばかりの子供じゃいられない。おれが、おれの為に描く最高の結末の為にせいぜい足掻いてやる。
__そして思い出してしまった。ラミが、存在していないことを。
そう、今度のおれは一人っ子。ラミのラの字すらも無い。妹が居なくて良かったなんて言いたくないが、ラミが苦しみを背負わず済むのなら良かったかもしれない。だけれどおれの家族の中にはラミがいて、父様がいて、母様が居なくちゃ嫌で。
でも、だけど。そんなことを喚いたって解決しないし、これ以上考えたら不味い気がして、踏み止まる。
ひとまず、今は何も考えずに白鉛病を治すことに尽力しよう。
図鑑や、医学書を読み漁り、目ぼしいものには付箋を付けて、ノートにまとめる。単調だがこうやっていくしかフレバンスが助かる選択肢はないのだから、と意気込んだは良いものの、重たい医学書を読み漁っても種類がない。少ないなら父様だって試した筈。だが、もしかしてに賭けてやるしかあるまい。
キレーション療法を用いた解消が一般的だ。
キレート剤と呼ばれる薬剤を点滴で注入し、老廃物や鉛を取り除く療法で、最近はデトックスなんかにも使われている。
鉛中毒だと主に一〜二週間間隔で、二十回ほど行わなければならない。
副作用で体調不良を引き起こすことがあり、重篤になる可能性は少ないが、命に関わることもある。
白鉛病は遺伝性という通常の鉛中毒とは異なる性質を持っている為、どうなるか分からない。
試すには検体がいる。だが時間も検体も足りない。そもそも白鉛病はフレバンス国民しか発症しない。気が引けるのもある。
どうすればいい? どうしたら家族は死なない? フレバンスが滅亡しなくてすむ? どうしたら、
…今日のうちは一旦寝よう、健康でなければ何もできないのだから。それは一つ前のおれが証明していることだ。
フレバンスが滅亡するまであと三年少し。タイムリミットは迫っている。
早朝。悪夢を観て飛び起きる。前世の記憶を取り戻してからと言うもの、悪夢を良く観るようになってしまった。それは精神的なものだろう。割り切っていかなければ、白鉛病を研究するまでもなく参ってしまうのは明白だ。
だからと言ってどうにかするにはおれの望むハッピーエンドを迎えなければならないのはそうで、どうにか共存せねばならない。これは難題だ。
ここまでで分かったことは、迫害されてフレバンスが滅ぶのは十歳。そして思い出す時はまちまちで、次があるかすら不確か。
更に研究というものは、基本的に十年から長いと二十年以上かかることだってあるのだ。悲しきかな生まれてすぐ研究したとしても間に合う確率の方が少ない。だからと言って諦めるようなタチではないのも確かなのだ。
そんな不安定な中、一度目の未来だけが希望だった。みんな死なない大団円だったら尚良しだ。そんな未来を目指して、基礎研究をする為に、父様に直談判しに行った。
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端的に結果を言おう。死んだ。おれの生家はかなり大きな病院なので、もちろん精神的に不安定な患者もいる。
見舞いに来た家族だかが、護身用かなんかに銃を持たせたらしい。悪夢でも観たか半狂乱な患者の男に、見舞い用のパイプ椅子を振り回されて頭に直撃、脳震盪を起こしているうちに絶叫と発砲音が聞こえて、視界がブラックアウトした。いくら億越え賞金首の記憶を持ったとて、七歳児の力では成人男性には勝てない。それでおそらく死んだんだろう。せっかく調べて、研究をする所だったというのに。
因みに今はコラさんに投げ飛ばされている所だ。そんなこと考えてる場合か、と思うかもしれないが、一度目もあったのだ。最低限受け身は取るし、大丈夫。尻で衝撃を軽減させようとした、はずなのに。着地先のボロいゴミ山には、そこかしこにガラスやらパイプやらがある。そこに運悪く着地してしまったのだろう。細長い何かが鳩尾を突き抜け、反射で血反吐を吐き、思っていた衝撃と違った衝撃に思わず目を見開く。近くにいたベビー5は目を覆って逸らし、バッファローは目を見開き汗をかいている。トレーボルも汗をかき、鼻水をだらしなく落とす。コラさんは驚いて煙草をそのメイクを引いた口から落とし、まさに後悔といった表情でこちらを見る。
「ド、ドフィ〜!コラソンがローを投げて殺しちまった〜!んね〜!」
「アァ!?おいコラソン!?何があった!」
トレーボルがぎゃいぎゃいと騒がしく喚きたて、ドフラミンゴが珍しく焦ったような声色で吠える。なんて言っているかはもう朦朧としていて、くぐもったガラス越しのような音に聞こえてしまう。ごぽり、と嫌な音を立てて血を吐く。ヒューヒューというか細い息すら苦しくなってきた。目の前が暗く、なる。次こそ、次こそは、
そして実に四度目の生の幕を閉じた。あるかもわからぬ次に、願いを託して。
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次に目が覚めたのはフレバンスの教会の礼拝堂の椅子に寝転がされている所だった。どうやら解剖用のカエル取りをしようとした所で木から落ちて気絶していたらしい。それをアルシュが見つけてシスターに大慌てで連れて行ったそうだ。
心優しいシスターに心配そうな顔をさせてしまった罪悪感と、これまでに会ったことのない「アルシュ」という人物が気になった。思考と後ろめたさで目を逸らすと、シスターは眉を八の字に下げて語りかける。
「ローくん、今日のところはおうちに帰った方がいいかも知れない。トラファルガーさんはとってもすごいお医者様だから痛いのだってきっとすぐ直してくれるわ」
「うん、ありがとうシスター」
「ロー、だいじょうぶか?」
「げんきになったらまたたいけつしよう!こんどはまけないからな!」
「ローくん、またね!」
「げんきになってね」
「お大事にな〜ロー!」
パタリと軽い音を立てて、「ローのおへや」と書かれた看板の付いた扉が閉じた。
近くに人がいないことを確認すると、ふうっとため息を吐いて机に向かい、先月の誕生日に貰った万年筆を手に取る。
暫くの間カリカリと万年筆の筆記音が空間を支配した。
今回の生で特筆すべき点は、矢張りアルシュなる人物。前の生までは一度も見たことはなかった。だがしかし今回は近くの家の子供として存在している。そして二つ前のラミのいないパターン、アルシュなる人物がいるパターン、おれの白鉛病発症が早まるパターン…多少のズレが生じる場合があるかも知れねェ。
それを踏まえて、白鉛病を研究しなくては。もしかすると白鉛病の症状や発症時期やらが変わる可能性も否めない。だがやるしかない。何もわからぬ世界の中、人間は足掻く以外選択肢がないのだから、精々足掻いてやろうじゃねェか、と窓の外の夜空を睨みつけた。
海賊なんだ、望む物は奪ってナンボだろ?
今はまだ聞けないアイアイキャプテン、なんて承知の合図が聞こえた気がしてフ、と思わず笑いが溢れた。
ああ、会いてェな。あいつらが恋しい。慣れ親しんだ深海の青い海、浮上した時の鮮やかなマリンブルーの大海原、潜水艦のモーターの音が懐かしくも恋しい。過酷だが楽しくもあった戦いの日々が、脳で駆け上がる。それを見て、満足するまで生きて足掻いて、最後にああいい人生だった、と思いっきり笑ってソラを見て死んでやるのだ。それはきっと、美しい空だから。
次の日。ローは目元に隈を刻みつつ教会へ歩みを進める。歩みもどことなく不安定で、見るものが気にかける視線を寄越してしまっている。なぜこんなに隈ができてしまったのかと言えば、矢張り夜更かしだ。今までの事柄を紙に纏めて、これからのことについて考えていたために寝るのを忘れてしまったのだ。悪癖は死んでも治らないものだな、と独り言ちつつ歩き、教会の入り口を潜った。
「ロー!おはよう、けがはだいじょうぶ?」
「ローくん、おはよう」
「あ、ローくん、来てたのね。怪我は大丈夫だった?」
「お、ローだ。おはよー」
「ああ、おはよ。あと、怪我はなんともなかったから大丈夫だ」
挨拶と返事をしつつ、教会の中に歩んでゆく。この後はお祈りをして、後は敷地内で自由行動、又は折り紙やら簡単な計算をすることもある。
神は居ないと思っているがこんな“戻る”という現象が起きている以上、いる可能性も否めないのがなんとも憎たらしい。慈悲の神なんざいない。いるのは天竜人か、天竜人の性格全て(コラさんを除く)をごった煮にして濃縮還元したドブ野郎である。だから、おれが信じられるシスターの信じた慈悲の神はいない。いるとしたらフレバンスは滅ばなかったのだから。つまり神は居ないのだ。
内心では思い切り中指を立てつつも表向きでは祈る形を取る。これほど祈りの時間が長く感じたことは無い。
寝不足だった為に眠気でうつらうつらとしかけた頃に祈りの時間が終わり、パチンとシャボンが弾けるように意識がスーっと覚醒した。今日は自由行動だ。
解剖研究用のカエルをとる為に川近くへの森行く。このフレバンスでは、岩さえも白みを帯びていて、美しい。カエルもよく見ると白みが強い気がする。やはり動物にも白鉛病は感染するのだろうか? 考えつつ探していると、カエルの影があった。急いでとりに行くと、そこではアルシュとハチが格闘していた。
「あっ、あ!ロー!!ちょ、助けてくれ、カブトムシ捕まえようとしたらハチに見つかって!」
「ハ!?押し付けんなバカ!」
「ゴメン!お礼は後でアイス奢るから!」
おれとアルシュは大慌てでハチから逃げる。なんとか撒いた頃には疲れ切っていた。体力、付けないとな。
「ハァ、はぁ、ふー、おっ前ふざけんなよ!」
「あっはは、ゴメンゴメン!ありがと!助かったよ」
「ハァ、仕方ない。アイス奢り、覚えてろよ」
「分かった、覚えてるな!これでおれら友達だな!」
「ハ?」
はぁ?なんだその理論、麦わら屋を思い出してどことなくムカつくんだが!?だがこのタイプが素直に引き下がらないのは確か。例えばうちのクルーならシャチのようなタイプだ。だからひとまず了承しよう。
イマジナリー麦わら屋がなんでおれはダメなんだと文句を垂れているが無視だ。
「ハァ、仕方ねェ。わかった、友達な」
「え、ま、マジ!?ありがとうロー!友達な!さっそく今日アイス食べに行こう!!」
「ハ?今日?」
「え、うん今日」
「仕方ねェな…今日は用事もないし良いぞ」
この手の輩は行動力とトーク力が無駄にあっていただけない。だがまぁ、たまには友達と遊ぶのも悪くないな。
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人の多い大通りの屋台で、アイスを注文する。
「味はイチゴとバニラで二段にしようか。もちろん、お前の奢りなんだろ?」
「ぐ、セコい!まぁいいけどさ」
「おねぇさん、イチゴとバニラの二段アイスとチョコとオレンジの二段アイス頂戴!」
「かわいこぶるな」
「え、かわいこぶってないし!」
「嘘つけ」
なんて軽口を叩いていると、声をかけられる。
「ふふっ、仲が良いのね、ボクたちかわいいからおまけしちゃう、アレルギーはない?」
「「ない」」
揃えていえば、女店員は微笑んでウエハースを刺してくれた。嬉しい誤算と言うやつだ。
アイスクリームを受け取る。冬だからか余計にひんやりとした空気が余計に纏うが、その背徳感が堪らないのだ。
アイスはこの白い町で数少ない色の鮮やかなもので、国民には嗜好品としてかなり好まれている。だが、観光にはサパを大量に掛けたバニラアイスが一般的だ。鉛を使ったシロップゆえおれは食べないが、懐かしの味といった感じで、たまに食べたくなる。健康被害の多いものほど中毒性があるのは世のことわりといったわけである。
「ん〜!おいし〜冬アイス最高だね!」
「…そうだな、医者としては腹を壊す可能性があるから宜しくないが、その背徳感がまた良いのも確かだ。たまには羽目を外したっていいだろう」
「まーた小難しいこと垂れちゃって」
「うるせェ」
こいつとはどことなく波長が合うような、気を置けないような気がする。こいつといる時だけは何も考えずに、ただの「トラファルガー・ロー」でいられる。きっとうちのクルーが見たら喜ぶんだろうな、なんて思いフ、と微笑む。
「ん、どうした?」
「いや、なんでもない。美味いなと思ってな」
「たしかに美味しいよね」
なんて駄弁りつつオマケのウエハースを食べるとサクッと軽い音がして、バニラの香りがふわりと広がる。なるほどこれは美味い、新感覚だ。
平和だ…なんて言えば世界政府が笑うかも知れないが、これは確かに平和で穏和な、当たり前にあるべき日常だった。
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次の日、すっかり仲を深めたおれ達は並んで教会へ行く。着いたらもちろん祈りの時間があるが、それは昨日よりずっと早く感じられたのは、おれだけの秘密だ。
「今日こそカエルとりに行くぞ」
「えっ、今日も?まぁ良いけど」
軽いな、なんて思いつつ川の近くにある森へ足を進める。
「あっ、いた!」
「どこだ!?」
「あれ、いない…直近までいたはずなのになぁ…」
なんて頭を掻くから、思わず小突いてしまったのはご愛嬌だ。
「もー何?」
「うるせェ、さっさと次探すぞ」
「あいよー」
結果は上々。アマガエル、ガマガエル、ウシガエル、ヒキガエルなどなど合計十匹ほど見つかった。解剖用にも、白鉛病研究にもきっと役立つだろう。
「よくやった」
「ローはおれの上司かなんかなの??」
「言い方が悪いか?なら感謝する、とかか?」
「えぇ〜」
「悪かったって、ありがとな」
ありがとうと言ってやると、アルシュは満足そうに笑って、へへへと漏らした。呑気なやつだ。毒気が抜かれて仕方ない。
だが咎める気になれないおれも、だいぶん毒されているんだろう、毒気は抜かれているが。いや分かりにくいな。
五時の鐘が鳴って解散となったが、しばらくは道が同じなので並んで帰る。子供だけで帰れるほど、この町は平和だ。まぁおれを撃ち殺した奴もいるが、少数派というやつである。
「…ねぇ、それどうするの、すっごい暴れてるけども」
「もちろん解剖に回すが」
平然と答えるとドン引きされた。普通のことではないのか?解せない。アルシュの言った様に、カエルは未だ生気を失わずびちびちと魚の様に暴れている。解剖するまでには落ち着いているといいな、なんて思いつつアルシュと別れた。
しばらく経って、研究の結果はあまり芳しくない。カエルで試しに研究をしているが、やはり溜まった白鉛が肝臓やらの臓器に染み付いていて、オペオペの実やらの常識を超えたものでないと短時間では無理だ。十五年、或いは二十年あれば可能かもしれないが物理的にも無理だし、今の子供は十にも満たず発症してしまう。別の治療法を一から確立するか、遅れさせるだけでも出来ればいいのだが。気が遠くなるようだが、これしかあるまい。
「ぉぃ…!ぃロー!おい!ロー!!」
寝不足でぼんやりとした頭にガンガンと声が響いて、ズキズキと痛む。うるさいな、と思いつつ顔を上げると、そこにはアルシュがいた。
「…?なんだ?」
「聖歌の発表、始めるって!もー、いい天気だからってうたた寝しちゃ駄目だぞ、冬なんだから」
「あぁ、今行く」
数ヶ月前から練習していた聖歌を歌う。北の海では馴染みのある聖歌のアレンジで、魂に刻まれたような曲だ。ペンギンとシャチも、時々口ずさんでいるのを見たことがある。ベポはゾウ出身だから流石に知らなかったが。
発表に来てくれた母様の口角は上がりっきりだったし、父様は感極まってだばだばと涙を流していた。ちなみにラミは母様の腕の中ですやすやお昼寝中だ。褒められて嬉しいのはいつになっても当たり前で、撫でられて思わずへへっ、と声が出たのは仕方がないことだろう。
その日の帰り道。親達が話しながら歩くのを横目に、アルシュとコッソリと話し合う。
「なぁ、アルシュ。おれの、親友になってくれないか」
「おれたちもう親友だって思ってた」
「ハハ、気が早かったな」
「せっかちでバカなのがおれの取り柄なもんで、すいませんね〜」
夕焼けで赤に染まった白いタイルを、ケラケラ笑いながら歩く。変わらない軽口を叩きながら。
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最悪だっ!!白鉛病の発症が早くなって、それに従い“駆除”も早まってやがる…!!
ラミはもう厳しくなってきているし、おれももう発症している。アルシュだっていつ発症してもおかしくない。せめて家族だけでも逃がせれば…!“鉄の国境”になる前に。
炎と血で赤く染まった街の中、三人の男女が駆ける。一人は聡明そうな婦人、一人はお転婆そうな少女、もう一人は眼鏡をかけた白衣の男性。
「ロー、どこだ!!返事をしてくれ!!」
「おにいさまぁ、どこ?」
「ロー、どうか生きていて…」
遠くから声が聞こえる。父様、ラミ、母様!?な、なんでこんな所に…!?国外に逃しておいたはずじゃ、
「おい、こっちに声が聞こえたぞ!! 感染者だ!」
っ、見つかったか!どこだ、どこにいる!?不味い、何処だ。路地裏、橋の下…否、見つかる為に広場に居るか!?
「きゃぁっ!」
「どうかこの子だけでも見逃し、」
ドォン!! バンッ! ドォン!!
「感染者三名、駆除。次の配置へ向かう」
_________銃声。間に合わなかった、父様、母様、ラミ…
「ぁ、」
涙がぽろりと溢れて止まらない。四度。四度家族が死んだ。フレバンスが滅んだ。みんな死んだ。記憶がなくともおれが覚えている。おてが死んだってきっと同じ末路を辿っただろう。辛かったろう、苦しかったろう。銃声と兵士の血に染まった足跡を辿る。辿った先には、悲痛の表情で事切れたラミと、話し掛けで死んだ為に訴えかける表情の父様、泣いて瞳を閉じ、恐怖に口と眉を歪めつつ受け入れる母様。いまだどくどくと滲む鮮血が足元に広がり、思わず目で辿ってしまう。胃酸がせり上がり、えずく。
そうだ、アルシュは、親友は。
「あっ、ロー!!」
「アルシュ…」
親友の元気そうな姿にほぅと息を吐いて、眉を下げる。きっとここまで元気なら家族も無事に違いない。ほんのりと心が温くなる。だが、その頬には白いあざがクッキリ浮かび上がっていて、思わず顔を顰めそうになるのを踏み止める。
「ロー、国境側には兵士がいっぱいだけど、フィルト通りとかはあまりいないからそっちに行ったほうがいいかも知れない」
「わかった、アルシュは?」
「おれはシスターが心配だから少し広場に行ってくる、大丈夫、帰ってくるから。ちゃんとフィルト通りで待っていてくれ」
「ああ」
軽く返事をして、先ほどより心なしか軽い足取りで歩みを進めた。
かっ、がっ、と大きな足音を立てた兵列を草むらや橋の下に隠れてやり過ごす。いつもの道が炎で塞がれて通れず遠回りをして大きめな通りに差し掛かった頃。
血の池を見てしまった。アルシュの父母だ、彼らは。かなりの時間が経ったようで赤黒いドロドロとした血液となっている。
そして子供サイズの足跡。多分、アルシュの足跡だ。きっと父母を亡くして悲しかったろうに、空元気だったのか、おれを不安にさせない為?気づけなかったおれは…待ち合わせたらさりげなく気にかけておこうか。
「見つけたぞ!感染者だ!」
拙い、見つかった。バレない程度に戦わなければならないかもしれない。
銃を撃ってくるのをかわして蹴りや頭突きをする。くそ、キリがねェ。子供の体力じゃ、すぐに動けなくなるのは目に見えている。どうすれば。
トン、タン、ガン。軽快なリズムで、反撃に出る。久方ぶりの戦闘は、拙くも思い出す思い出があり気分が高揚し、体が熱をもっていく。自然と口角が上がり、あの頃の感覚が戻っていく。
「応援!応援求ム!凶暴化したホワイトモンスターに襲われ交戦中!繰り返す、応援求ム!」
急速に熱を持った体が冷えていく。頭に石を投げられたような、ハンマーで叩かれたような重みの衝撃が襲う。
そうか、このおれの行動はホワイトモンスターが凶暴化する、ということの証拠になってしまうのか。フレバンス国民の名誉のためにも死んだほうが____なんて考えて油断したからか、銃を三発。マトモに食らってしまった。
目が眩んで、チカチカする。何度死んだって、この感覚は慣れない。この世界で会った親友は、もう会えないのかもしれない。ああ、それは少し嫌だなぁ、なんて呟いてみる。最後に聞いたのは、
「凶暴化した感染者一名駆除。広場に合流する。繰り返す。凶暴化した感染者一名駆除。広場に合流する」
なんて感情のこもらない言葉であった。
◇side.A
「うあぁぁぁぁぁぁぁァぁ!!!!ロー、ロー、ぁ、ぁ…」
ローが、死んだ…?おれの、せいだ。おれが、声を掛けた、から…死なないはずだったのに、おれがあの子の未来を奪ったんだ…みんな、みんな死んで…もう、死にたい…のに。死ねない。
死ねない、だっておれが代わりをやらないと。頂上戦争でルフィが死ぬ。ジンベエも死ぬ。ペンギンも、シャチも、実験でそのままヴォルフも死ぬ。バッカ襲撃でスワロー島のみんなも死んじゃうかも。せめて、これ以上は死なせない。生きなければならない。親友の代わりに、おれがやらないと、だって。
この世に救いの手なんてないんだから。
おれがこれから辿るは、知っているのに知らない残酷ないばらの道。いつ終わるかも分からぬこの生き地獄を、歩まねばならないのだ。
死ネタいっぱい
唐突に生えるオリキャラ
オリキャラ出張る(原作キャラの親友ポジが居る、原作知識持ち転生者)
捏造(主に白鉛病について)
ノベルローのネタバレを含みます
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◇
所謂“前世”でおれは黒ひげと戦って、死んだ。仲間達の無事すら見れず敵地の真中で屈辱と後悔と、仲間だけでも生きてほしいと思って死んだ。
そう、死んだ筈だったんだ。だがおれは今生きている。フレバンスの病院で、ガキの姿に戻っている。
今おれは八歳、白鉛病になったやつがちらほら出てきた頃。それなら、と希望を持った瞬間体に鈍痛が走った。この感覚は。久しく感じていなかったが忘れるわけがない。白鉛病の、症状だ…何故、何故、なぜ!?
おれは最後の方の患者だった筈なのに、何故、なぜ、いくら思ったって答えはない。何故って? 神は居ないからだ。居たとしても、腐ったドブ野郎ですら表せないとんだ下卑た存在であることに違いはないのだから、縋ることはしないし、叶うと慢心はしない。神に縋って滅亡なんてまっぴら御免だ。そんな失い方は前だけでいい。
そう思っていたのに、日に日に増える痛みと、熱を持って赤く染まった頬と白の対比が痛々しく、もう既に体が末期であることをありありと表している。
痺れ、熱や嘔吐を伴う吐き気、もう飽きた頭痛やら腹痛やらが付きまとう。慢性的な体調不良、発作だって馬鹿にできない。痙攣を伴う痙攣発作が主だが、まれに意識障害なども起こる。前の記憶があるために余計に悪夢などで精神もすり減るし、骨がミシミシ悲鳴をあげている。もうほとんどベッドから離れられないし、目が霞んで一メートル先すら危うい状況だ。
体が健康でいなければ研究やらもできない。己の無力さが憎たらしかった。なぜわざわざ記憶を持ち越したのか。役に立たなければ意味がないというのに。いっそ知らないほうが楽だったのに。揺れる視界、朦朧とする意識の中、ああこれが“終わり”なんだと噛み締めながら、死への原始的な恐怖を朦朧とする意識で打ち消しながら、一矢報いることすら叶わぬ夢のまま、鉛中毒を伴う衰弱死で二度目の人生に幕を閉じた。
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がばり、ブランケットを剥いで、飛び上がるように起きる。目を見開き、玉のような汗をかいている。静かな部屋に、呼吸と心臓の音だけが響く。
悪夢とも取れる、記憶を観た。海賊団の船長だったり、非力な子供だったり、ぐるぐると回る景色。めまいやらなんやらが収まった頃にはもう完全に目が覚めていて。今は午前四時半を過ぎた頃、起きるには早すぎるが眠れる気もしない。
一旦、今観た“前世”を振り返ってこれからやることを決めなければ。もう泣いてばかり、負担をかけてばかりの子供じゃいられない。おれが、おれの為に描く最高の結末の為にせいぜい足掻いてやる。
__そして思い出してしまった。ラミが、存在していないことを。
そう、今度のおれは一人っ子。ラミのラの字すらも無い。妹が居なくて良かったなんて言いたくないが、ラミが苦しみを背負わず済むのなら良かったかもしれない。だけれどおれの家族の中にはラミがいて、父様がいて、母様が居なくちゃ嫌で。
でも、だけど。そんなことを喚いたって解決しないし、これ以上考えたら不味い気がして、踏み止まる。
ひとまず、今は何も考えずに白鉛病を治すことに尽力しよう。
図鑑や、医学書を読み漁り、目ぼしいものには付箋を付けて、ノートにまとめる。単調だがこうやっていくしかフレバンスが助かる選択肢はないのだから、と意気込んだは良いものの、重たい医学書を読み漁っても種類がない。少ないなら父様だって試した筈。だが、もしかしてに賭けてやるしかあるまい。
キレーション療法を用いた解消が一般的だ。
キレート剤と呼ばれる薬剤を点滴で注入し、老廃物や鉛を取り除く療法で、最近はデトックスなんかにも使われている。
鉛中毒だと主に一〜二週間間隔で、二十回ほど行わなければならない。
副作用で体調不良を引き起こすことがあり、重篤になる可能性は少ないが、命に関わることもある。
白鉛病は遺伝性という通常の鉛中毒とは異なる性質を持っている為、どうなるか分からない。
試すには検体がいる。だが時間も検体も足りない。そもそも白鉛病はフレバンス国民しか発症しない。気が引けるのもある。
どうすればいい? どうしたら家族は死なない? フレバンスが滅亡しなくてすむ? どうしたら、
…今日のうちは一旦寝よう、健康でなければ何もできないのだから。それは一つ前のおれが証明していることだ。
フレバンスが滅亡するまであと三年少し。タイムリミットは迫っている。
早朝。悪夢を観て飛び起きる。前世の記憶を取り戻してからと言うもの、悪夢を良く観るようになってしまった。それは精神的なものだろう。割り切っていかなければ、白鉛病を研究するまでもなく参ってしまうのは明白だ。
だからと言ってどうにかするにはおれの望むハッピーエンドを迎えなければならないのはそうで、どうにか共存せねばならない。これは難題だ。
ここまでで分かったことは、迫害されてフレバンスが滅ぶのは十歳。そして思い出す時はまちまちで、次があるかすら不確か。
更に研究というものは、基本的に十年から長いと二十年以上かかることだってあるのだ。悲しきかな生まれてすぐ研究したとしても間に合う確率の方が少ない。だからと言って諦めるようなタチではないのも確かなのだ。
そんな不安定な中、一度目の未来だけが希望だった。みんな死なない大団円だったら尚良しだ。そんな未来を目指して、基礎研究をする為に、父様に直談判しに行った。
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端的に結果を言おう。死んだ。おれの生家はかなり大きな病院なので、もちろん精神的に不安定な患者もいる。
見舞いに来た家族だかが、護身用かなんかに銃を持たせたらしい。悪夢でも観たか半狂乱な患者の男に、見舞い用のパイプ椅子を振り回されて頭に直撃、脳震盪を起こしているうちに絶叫と発砲音が聞こえて、視界がブラックアウトした。いくら億越え賞金首の記憶を持ったとて、七歳児の力では成人男性には勝てない。それでおそらく死んだんだろう。せっかく調べて、研究をする所だったというのに。
因みに今はコラさんに投げ飛ばされている所だ。そんなこと考えてる場合か、と思うかもしれないが、一度目もあったのだ。最低限受け身は取るし、大丈夫。尻で衝撃を軽減させようとした、はずなのに。着地先のボロいゴミ山には、そこかしこにガラスやらパイプやらがある。そこに運悪く着地してしまったのだろう。細長い何かが鳩尾を突き抜け、反射で血反吐を吐き、思っていた衝撃と違った衝撃に思わず目を見開く。近くにいたベビー5は目を覆って逸らし、バッファローは目を見開き汗をかいている。トレーボルも汗をかき、鼻水をだらしなく落とす。コラさんは驚いて煙草をそのメイクを引いた口から落とし、まさに後悔といった表情でこちらを見る。
「ド、ドフィ〜!コラソンがローを投げて殺しちまった〜!んね〜!」
「アァ!?おいコラソン!?何があった!」
トレーボルがぎゃいぎゃいと騒がしく喚きたて、ドフラミンゴが珍しく焦ったような声色で吠える。なんて言っているかはもう朦朧としていて、くぐもったガラス越しのような音に聞こえてしまう。ごぽり、と嫌な音を立てて血を吐く。ヒューヒューというか細い息すら苦しくなってきた。目の前が暗く、なる。次こそ、次こそは、
そして実に四度目の生の幕を閉じた。あるかもわからぬ次に、願いを託して。
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次に目が覚めたのはフレバンスの教会の礼拝堂の椅子に寝転がされている所だった。どうやら解剖用のカエル取りをしようとした所で木から落ちて気絶していたらしい。それをアルシュが見つけてシスターに大慌てで連れて行ったそうだ。
心優しいシスターに心配そうな顔をさせてしまった罪悪感と、これまでに会ったことのない「アルシュ」という人物が気になった。思考と後ろめたさで目を逸らすと、シスターは眉を八の字に下げて語りかける。
「ローくん、今日のところはおうちに帰った方がいいかも知れない。トラファルガーさんはとってもすごいお医者様だから痛いのだってきっとすぐ直してくれるわ」
「うん、ありがとうシスター」
「ロー、だいじょうぶか?」
「げんきになったらまたたいけつしよう!こんどはまけないからな!」
「ローくん、またね!」
「げんきになってね」
「お大事にな〜ロー!」
パタリと軽い音を立てて、「ローのおへや」と書かれた看板の付いた扉が閉じた。
近くに人がいないことを確認すると、ふうっとため息を吐いて机に向かい、先月の誕生日に貰った万年筆を手に取る。
暫くの間カリカリと万年筆の筆記音が空間を支配した。
今回の生で特筆すべき点は、矢張りアルシュなる人物。前の生までは一度も見たことはなかった。だがしかし今回は近くの家の子供として存在している。そして二つ前のラミのいないパターン、アルシュなる人物がいるパターン、おれの白鉛病発症が早まるパターン…多少のズレが生じる場合があるかも知れねェ。
それを踏まえて、白鉛病を研究しなくては。もしかすると白鉛病の症状や発症時期やらが変わる可能性も否めない。だがやるしかない。何もわからぬ世界の中、人間は足掻く以外選択肢がないのだから、精々足掻いてやろうじゃねェか、と窓の外の夜空を睨みつけた。
海賊なんだ、望む物は奪ってナンボだろ?
今はまだ聞けないアイアイキャプテン、なんて承知の合図が聞こえた気がしてフ、と思わず笑いが溢れた。
ああ、会いてェな。あいつらが恋しい。慣れ親しんだ深海の青い海、浮上した時の鮮やかなマリンブルーの大海原、潜水艦のモーターの音が懐かしくも恋しい。過酷だが楽しくもあった戦いの日々が、脳で駆け上がる。それを見て、満足するまで生きて足掻いて、最後にああいい人生だった、と思いっきり笑ってソラを見て死んでやるのだ。それはきっと、美しい空だから。
次の日。ローは目元に隈を刻みつつ教会へ歩みを進める。歩みもどことなく不安定で、見るものが気にかける視線を寄越してしまっている。なぜこんなに隈ができてしまったのかと言えば、矢張り夜更かしだ。今までの事柄を紙に纏めて、これからのことについて考えていたために寝るのを忘れてしまったのだ。悪癖は死んでも治らないものだな、と独り言ちつつ歩き、教会の入り口を潜った。
「ロー!おはよう、けがはだいじょうぶ?」
「ローくん、おはよう」
「あ、ローくん、来てたのね。怪我は大丈夫だった?」
「お、ローだ。おはよー」
「ああ、おはよ。あと、怪我はなんともなかったから大丈夫だ」
挨拶と返事をしつつ、教会の中に歩んでゆく。この後はお祈りをして、後は敷地内で自由行動、又は折り紙やら簡単な計算をすることもある。
神は居ないと思っているがこんな“戻る”という現象が起きている以上、いる可能性も否めないのがなんとも憎たらしい。慈悲の神なんざいない。いるのは天竜人か、天竜人の性格全て(コラさんを除く)をごった煮にして濃縮還元したドブ野郎である。だから、おれが信じられるシスターの信じた慈悲の神はいない。いるとしたらフレバンスは滅ばなかったのだから。つまり神は居ないのだ。
内心では思い切り中指を立てつつも表向きでは祈る形を取る。これほど祈りの時間が長く感じたことは無い。
寝不足だった為に眠気でうつらうつらとしかけた頃に祈りの時間が終わり、パチンとシャボンが弾けるように意識がスーっと覚醒した。今日は自由行動だ。
解剖研究用のカエルをとる為に川近くへの森行く。このフレバンスでは、岩さえも白みを帯びていて、美しい。カエルもよく見ると白みが強い気がする。やはり動物にも白鉛病は感染するのだろうか? 考えつつ探していると、カエルの影があった。急いでとりに行くと、そこではアルシュとハチが格闘していた。
「あっ、あ!ロー!!ちょ、助けてくれ、カブトムシ捕まえようとしたらハチに見つかって!」
「ハ!?押し付けんなバカ!」
「ゴメン!お礼は後でアイス奢るから!」
おれとアルシュは大慌てでハチから逃げる。なんとか撒いた頃には疲れ切っていた。体力、付けないとな。
「ハァ、はぁ、ふー、おっ前ふざけんなよ!」
「あっはは、ゴメンゴメン!ありがと!助かったよ」
「ハァ、仕方ない。アイス奢り、覚えてろよ」
「分かった、覚えてるな!これでおれら友達だな!」
「ハ?」
はぁ?なんだその理論、麦わら屋を思い出してどことなくムカつくんだが!?だがこのタイプが素直に引き下がらないのは確か。例えばうちのクルーならシャチのようなタイプだ。だからひとまず了承しよう。
イマジナリー麦わら屋がなんでおれはダメなんだと文句を垂れているが無視だ。
「ハァ、仕方ねェ。わかった、友達な」
「え、ま、マジ!?ありがとうロー!友達な!さっそく今日アイス食べに行こう!!」
「ハ?今日?」
「え、うん今日」
「仕方ねェな…今日は用事もないし良いぞ」
この手の輩は行動力とトーク力が無駄にあっていただけない。だがまぁ、たまには友達と遊ぶのも悪くないな。
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人の多い大通りの屋台で、アイスを注文する。
「味はイチゴとバニラで二段にしようか。もちろん、お前の奢りなんだろ?」
「ぐ、セコい!まぁいいけどさ」
「おねぇさん、イチゴとバニラの二段アイスとチョコとオレンジの二段アイス頂戴!」
「かわいこぶるな」
「え、かわいこぶってないし!」
「嘘つけ」
なんて軽口を叩いていると、声をかけられる。
「ふふっ、仲が良いのね、ボクたちかわいいからおまけしちゃう、アレルギーはない?」
「「ない」」
揃えていえば、女店員は微笑んでウエハースを刺してくれた。嬉しい誤算と言うやつだ。
アイスクリームを受け取る。冬だからか余計にひんやりとした空気が余計に纏うが、その背徳感が堪らないのだ。
アイスはこの白い町で数少ない色の鮮やかなもので、国民には嗜好品としてかなり好まれている。だが、観光にはサパを大量に掛けたバニラアイスが一般的だ。鉛を使ったシロップゆえおれは食べないが、懐かしの味といった感じで、たまに食べたくなる。健康被害の多いものほど中毒性があるのは世のことわりといったわけである。
「ん〜!おいし〜冬アイス最高だね!」
「…そうだな、医者としては腹を壊す可能性があるから宜しくないが、その背徳感がまた良いのも確かだ。たまには羽目を外したっていいだろう」
「まーた小難しいこと垂れちゃって」
「うるせェ」
こいつとはどことなく波長が合うような、気を置けないような気がする。こいつといる時だけは何も考えずに、ただの「トラファルガー・ロー」でいられる。きっとうちのクルーが見たら喜ぶんだろうな、なんて思いフ、と微笑む。
「ん、どうした?」
「いや、なんでもない。美味いなと思ってな」
「たしかに美味しいよね」
なんて駄弁りつつオマケのウエハースを食べるとサクッと軽い音がして、バニラの香りがふわりと広がる。なるほどこれは美味い、新感覚だ。
平和だ…なんて言えば世界政府が笑うかも知れないが、これは確かに平和で穏和な、当たり前にあるべき日常だった。
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次の日、すっかり仲を深めたおれ達は並んで教会へ行く。着いたらもちろん祈りの時間があるが、それは昨日よりずっと早く感じられたのは、おれだけの秘密だ。
「今日こそカエルとりに行くぞ」
「えっ、今日も?まぁ良いけど」
軽いな、なんて思いつつ川の近くにある森へ足を進める。
「あっ、いた!」
「どこだ!?」
「あれ、いない…直近までいたはずなのになぁ…」
なんて頭を掻くから、思わず小突いてしまったのはご愛嬌だ。
「もー何?」
「うるせェ、さっさと次探すぞ」
「あいよー」
結果は上々。アマガエル、ガマガエル、ウシガエル、ヒキガエルなどなど合計十匹ほど見つかった。解剖用にも、白鉛病研究にもきっと役立つだろう。
「よくやった」
「ローはおれの上司かなんかなの??」
「言い方が悪いか?なら感謝する、とかか?」
「えぇ〜」
「悪かったって、ありがとな」
ありがとうと言ってやると、アルシュは満足そうに笑って、へへへと漏らした。呑気なやつだ。毒気が抜かれて仕方ない。
だが咎める気になれないおれも、だいぶん毒されているんだろう、毒気は抜かれているが。いや分かりにくいな。
五時の鐘が鳴って解散となったが、しばらくは道が同じなので並んで帰る。子供だけで帰れるほど、この町は平和だ。まぁおれを撃ち殺した奴もいるが、少数派というやつである。
「…ねぇ、それどうするの、すっごい暴れてるけども」
「もちろん解剖に回すが」
平然と答えるとドン引きされた。普通のことではないのか?解せない。アルシュの言った様に、カエルは未だ生気を失わずびちびちと魚の様に暴れている。解剖するまでには落ち着いているといいな、なんて思いつつアルシュと別れた。
しばらく経って、研究の結果はあまり芳しくない。カエルで試しに研究をしているが、やはり溜まった白鉛が肝臓やらの臓器に染み付いていて、オペオペの実やらの常識を超えたものでないと短時間では無理だ。十五年、或いは二十年あれば可能かもしれないが物理的にも無理だし、今の子供は十にも満たず発症してしまう。別の治療法を一から確立するか、遅れさせるだけでも出来ればいいのだが。気が遠くなるようだが、これしかあるまい。
「ぉぃ…!ぃロー!おい!ロー!!」
寝不足でぼんやりとした頭にガンガンと声が響いて、ズキズキと痛む。うるさいな、と思いつつ顔を上げると、そこにはアルシュがいた。
「…?なんだ?」
「聖歌の発表、始めるって!もー、いい天気だからってうたた寝しちゃ駄目だぞ、冬なんだから」
「あぁ、今行く」
数ヶ月前から練習していた聖歌を歌う。北の海では馴染みのある聖歌のアレンジで、魂に刻まれたような曲だ。ペンギンとシャチも、時々口ずさんでいるのを見たことがある。ベポはゾウ出身だから流石に知らなかったが。
発表に来てくれた母様の口角は上がりっきりだったし、父様は感極まってだばだばと涙を流していた。ちなみにラミは母様の腕の中ですやすやお昼寝中だ。褒められて嬉しいのはいつになっても当たり前で、撫でられて思わずへへっ、と声が出たのは仕方がないことだろう。
その日の帰り道。親達が話しながら歩くのを横目に、アルシュとコッソリと話し合う。
「なぁ、アルシュ。おれの、親友になってくれないか」
「おれたちもう親友だって思ってた」
「ハハ、気が早かったな」
「せっかちでバカなのがおれの取り柄なもんで、すいませんね〜」
夕焼けで赤に染まった白いタイルを、ケラケラ笑いながら歩く。変わらない軽口を叩きながら。
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最悪だっ!!白鉛病の発症が早くなって、それに従い“駆除”も早まってやがる…!!
ラミはもう厳しくなってきているし、おれももう発症している。アルシュだっていつ発症してもおかしくない。せめて家族だけでも逃がせれば…!“鉄の国境”になる前に。
炎と血で赤く染まった街の中、三人の男女が駆ける。一人は聡明そうな婦人、一人はお転婆そうな少女、もう一人は眼鏡をかけた白衣の男性。
「ロー、どこだ!!返事をしてくれ!!」
「おにいさまぁ、どこ?」
「ロー、どうか生きていて…」
遠くから声が聞こえる。父様、ラミ、母様!?な、なんでこんな所に…!?国外に逃しておいたはずじゃ、
「おい、こっちに声が聞こえたぞ!! 感染者だ!」
っ、見つかったか!どこだ、どこにいる!?不味い、何処だ。路地裏、橋の下…否、見つかる為に広場に居るか!?
「きゃぁっ!」
「どうかこの子だけでも見逃し、」
ドォン!! バンッ! ドォン!!
「感染者三名、駆除。次の配置へ向かう」
_________銃声。間に合わなかった、父様、母様、ラミ…
「ぁ、」
涙がぽろりと溢れて止まらない。四度。四度家族が死んだ。フレバンスが滅んだ。みんな死んだ。記憶がなくともおれが覚えている。おてが死んだってきっと同じ末路を辿っただろう。辛かったろう、苦しかったろう。銃声と兵士の血に染まった足跡を辿る。辿った先には、悲痛の表情で事切れたラミと、話し掛けで死んだ為に訴えかける表情の父様、泣いて瞳を閉じ、恐怖に口と眉を歪めつつ受け入れる母様。いまだどくどくと滲む鮮血が足元に広がり、思わず目で辿ってしまう。胃酸がせり上がり、えずく。
そうだ、アルシュは、親友は。
「あっ、ロー!!」
「アルシュ…」
親友の元気そうな姿にほぅと息を吐いて、眉を下げる。きっとここまで元気なら家族も無事に違いない。ほんのりと心が温くなる。だが、その頬には白いあざがクッキリ浮かび上がっていて、思わず顔を顰めそうになるのを踏み止める。
「ロー、国境側には兵士がいっぱいだけど、フィルト通りとかはあまりいないからそっちに行ったほうがいいかも知れない」
「わかった、アルシュは?」
「おれはシスターが心配だから少し広場に行ってくる、大丈夫、帰ってくるから。ちゃんとフィルト通りで待っていてくれ」
「ああ」
軽く返事をして、先ほどより心なしか軽い足取りで歩みを進めた。
かっ、がっ、と大きな足音を立てた兵列を草むらや橋の下に隠れてやり過ごす。いつもの道が炎で塞がれて通れず遠回りをして大きめな通りに差し掛かった頃。
血の池を見てしまった。アルシュの父母だ、彼らは。かなりの時間が経ったようで赤黒いドロドロとした血液となっている。
そして子供サイズの足跡。多分、アルシュの足跡だ。きっと父母を亡くして悲しかったろうに、空元気だったのか、おれを不安にさせない為?気づけなかったおれは…待ち合わせたらさりげなく気にかけておこうか。
「見つけたぞ!感染者だ!」
拙い、見つかった。バレない程度に戦わなければならないかもしれない。
銃を撃ってくるのをかわして蹴りや頭突きをする。くそ、キリがねェ。子供の体力じゃ、すぐに動けなくなるのは目に見えている。どうすれば。
トン、タン、ガン。軽快なリズムで、反撃に出る。久方ぶりの戦闘は、拙くも思い出す思い出があり気分が高揚し、体が熱をもっていく。自然と口角が上がり、あの頃の感覚が戻っていく。
「応援!応援求ム!凶暴化したホワイトモンスターに襲われ交戦中!繰り返す、応援求ム!」
急速に熱を持った体が冷えていく。頭に石を投げられたような、ハンマーで叩かれたような重みの衝撃が襲う。
そうか、このおれの行動はホワイトモンスターが凶暴化する、ということの証拠になってしまうのか。フレバンス国民の名誉のためにも死んだほうが____なんて考えて油断したからか、銃を三発。マトモに食らってしまった。
目が眩んで、チカチカする。何度死んだって、この感覚は慣れない。この世界で会った親友は、もう会えないのかもしれない。ああ、それは少し嫌だなぁ、なんて呟いてみる。最後に聞いたのは、
「凶暴化した感染者一名駆除。広場に合流する。繰り返す。凶暴化した感染者一名駆除。広場に合流する」
なんて感情のこもらない言葉であった。
◇side.A
「うあぁぁぁぁぁぁぁァぁ!!!!ロー、ロー、ぁ、ぁ…」
ローが、死んだ…?おれの、せいだ。おれが、声を掛けた、から…死なないはずだったのに、おれがあの子の未来を奪ったんだ…みんな、みんな死んで…もう、死にたい…のに。死ねない。
死ねない、だっておれが代わりをやらないと。頂上戦争でルフィが死ぬ。ジンベエも死ぬ。ペンギンも、シャチも、実験でそのままヴォルフも死ぬ。バッカ襲撃でスワロー島のみんなも死んじゃうかも。せめて、これ以上は死なせない。生きなければならない。親友の代わりに、おれがやらないと、だって。
この世に救いの手なんてないんだから。
おれがこれから辿るは、知っているのに知らない残酷ないばらの道。いつ終わるかも分からぬこの生き地獄を、歩まねばならないのだ。