午前6時13分の君へ
第1章:いつもの風景
朝のホームには、まだ眠気の残る空気が流れている。
薄曇りの空に冷たい風が吹き抜ける。コートの裾が揺れ、誰もが無言でスマートフォンを見つめたり、ただぼんやり線路を眺めていたりする。6時13分発の電車は、通勤ラッシュの波が押し寄せる直前の静かな時間帯。毎朝この電車に乗るのが、七瀬の日課だった。
ここ数ヶ月、彼女の生活は変化に乏しい。同じ時刻、同じ席、同じ景色。昨日も今日も、明日もきっと同じ。そう思いながら、七瀬は軽く溜め息をつく。
電光掲示板に「6:13 各駅停車 千陽行き」が表示され、周囲の人々が小さく身構える。電車が来る気配――遠くからレールを震わせる低い音。
そのときだった。
「……朝倉?」
不意に名を呼ばれて、七瀬は一瞬戸惑った。もう一度、ゆっくりと自分の名前を呼ぶ声。振り返ると、そこに立っていたのは――
「……え?」
高校の時の同級生、神谷悠真だった。
変わっていない。いや、変わりすぎていない。三年ぶりに会うはずなのに、まるで昨日まで会っていたような雰囲気。制服姿の記憶のままの彼が、冬用の紺のコートを羽織って立っている。
「やっぱり朝倉だよな。久しぶりだな。こんな時間にここで会うとは思わなかった」
「……久しぶり、神谷くん」
名前を呼び返しながらも、七瀬の思考はやや追いついていなかった。彼は確か、大学に進学して遠くへ行ったと聞いていたし、何より――最後に見たのは、卒業式だったはずだ。
だが、そんな疑問を押し込めるように、悠真は自然に笑った。
「まだこっちにいたんだな。仕事、通ってるの?」
「うん、会社が近くて。この時間の電車、毎日使ってるの」
「そっか。俺も最近こっち戻ってきたんだよ。なんか、懐かしくなってさ」
そんな他愛のない会話をしているうちに、電車がゆっくりとホームに滑り込んできた。
二人はそのまま、隣り合って乗り込んだ。
それは、どこか――奇妙なほど、自然な再会だった。
まるで、何事もなかったかのように。
七瀬はまだ、この再会の意味を知らなかった。
朝のホームには、まだ眠気の残る空気が流れている。
薄曇りの空に冷たい風が吹き抜ける。コートの裾が揺れ、誰もが無言でスマートフォンを見つめたり、ただぼんやり線路を眺めていたりする。6時13分発の電車は、通勤ラッシュの波が押し寄せる直前の静かな時間帯。毎朝この電車に乗るのが、七瀬の日課だった。
ここ数ヶ月、彼女の生活は変化に乏しい。同じ時刻、同じ席、同じ景色。昨日も今日も、明日もきっと同じ。そう思いながら、七瀬は軽く溜め息をつく。
電光掲示板に「6:13 各駅停車 千陽行き」が表示され、周囲の人々が小さく身構える。電車が来る気配――遠くからレールを震わせる低い音。
そのときだった。
「……朝倉?」
不意に名を呼ばれて、七瀬は一瞬戸惑った。もう一度、ゆっくりと自分の名前を呼ぶ声。振り返ると、そこに立っていたのは――
「……え?」
高校の時の同級生、神谷悠真だった。
変わっていない。いや、変わりすぎていない。三年ぶりに会うはずなのに、まるで昨日まで会っていたような雰囲気。制服姿の記憶のままの彼が、冬用の紺のコートを羽織って立っている。
「やっぱり朝倉だよな。久しぶりだな。こんな時間にここで会うとは思わなかった」
「……久しぶり、神谷くん」
名前を呼び返しながらも、七瀬の思考はやや追いついていなかった。彼は確か、大学に進学して遠くへ行ったと聞いていたし、何より――最後に見たのは、卒業式だったはずだ。
だが、そんな疑問を押し込めるように、悠真は自然に笑った。
「まだこっちにいたんだな。仕事、通ってるの?」
「うん、会社が近くて。この時間の電車、毎日使ってるの」
「そっか。俺も最近こっち戻ってきたんだよ。なんか、懐かしくなってさ」
そんな他愛のない会話をしているうちに、電車がゆっくりとホームに滑り込んできた。
二人はそのまま、隣り合って乗り込んだ。
それは、どこか――奇妙なほど、自然な再会だった。
まるで、何事もなかったかのように。
七瀬はまだ、この再会の意味を知らなかった。