‐RAY‐ 『参加型 ‐ボス枠終了‐』
日常のほんの少しの出来事が深い絶望に感じられることがある。
身体の中央にある核が捻じ曲がる__そんな感覚だ。
例えば、新人の空気の読めないボスに言われた時。
「お前って家族居るの?」
相手としては、あくまでも日常的な雑談程度の会話のつもりで、口下手な自分と話したかっただけだろう。しかし、この短い言葉を聞いた瞬間、全身の血液がなくなっていくような感覚に陥る。相手もなにか察したようだ。「悪い…」と謝り、会話は打ち切りになった。
例えば、街で幸せそうに手を繋ぐ家族を見た時。
脳で火打ち石がタップダンスを踊っているような、嫉妬という炎が発火してしまう。人が幸せなら、素直に喜ぶことが正しいはずなのに。唇を噛み締め、見て見ぬふりを決める。
本当に些細なことだ。
そんな時、いつも考える。
こうなってしまった原因を。 私の最愛の姉のことを。
[明朝体][太字]これは、とある少女が『デシジョン』と仮の名を名乗る少し前の物語。[/太字][/明朝体]
「ゲッカ〜!今日は街に買い物に行きましょう!もうすぐ春だし、買い替え時よ!」
姉の元気で優しい声で目が覚める。ゆっくりと寝返りし枕元をみると姉のゲツメイがにっこりと笑っていた。
「…わかったよ。お姉ちゃん。」
「ふふっ!まだ寝起きね、朝ご飯は作って置いたわ。」
我ながら完璧な姉だ。この性格で彼氏が居ないのが逆に不思議である。
両親は三年前、交通事故で他界した。葬式の時、私はあまりにも哀しく、遺影の前で号泣したが、姉はまっすぐと写真を捉え、「妹は私が育てます」と堂々と言ってのけた。宣言通り、ゲツメイは私をしっかり育ててみせた。現在、妹の私と姉で楽しく二人暮らしをしている。
朝食を食べ終わり、街へ出かける用意をする。流石お姉ちゃん。料理も一流の味だった。
「それじゃあ、レッツゴーよ!」
色違いのコートを着衣し、手を繋いで道へ飛び出す。近所のおばさんに「今日も仲が良いわね。」と褒められた。少し恥ずかしいが、同時に嬉しくもある。
「…この色良いわね〜!ゲッカにぴったりよ!」
「これはお姉ちゃんに凄く似合う!」
二人で服を選んでいると、騒がしい声が聞こえた。
「これがこれがぁ!なんと噂の異国人!今回は100ユラーからだよ!」
どうやら白昼堂々の人身売買のようである。とはいえ、この街では良くあることだ。取り締まる警察も居なければ、法のない。
「…助けなきゃ!」
聖人君子の申し子であるゲツメイが駆け出す。最愛の姉が動いたなら、妹はそれを助けるに決まっている。
「はい!今は400ユラーだよ!!!__ってなんだお前!?」
ゲッカが人売りの意表を突き、ゲツメイが品物を助ける。自分で言うのも何だが、息のあったコンビネーションだ。
「はぁはぁ…。ここまで来れば良いかしら。」
「お姉ちゃん、突然過ぎ…吃驚した…」
人売りから逃げ、自宅まで全速力で走ってきた。息を整える。
「ごめんね…お洋服買えそうにないわ……」
姉が申し訳無さそうに伝えてきた。彼女が握る財布を見ると、金がない。どうやら、代金はしっかり払って来たようだった。その優しさに思わず呆れてしまう。
「えぇっと…貴方、話せる?」
姉は品物__異国人の少女に話しかけた。恐らく、私と同じくらいの年だろう。抜けるような美しい白髪に小柄な体躯。瞳は大きいが光はなく、顔の彫りが浅い。なんというかアンバランスだ。
「……………………」
「……困ったわね」
どうやら、話すことが出来ないようだ。ゲツメイが投げかけた言葉にも一切反応しない。
「うーん、見たところ東洋人とランド王国の方のハーフよね…。どうしたものかしら」
ハーフ__先ほど感じた違和感の正体だ。別の人種が混ざり合うと、自分たちとはかなり違う顔つきになる。中々の高値で売られた理由か。
「よし!貴方の名前は今日からツキミよ!これからよろしくね!」
今日この日、この家に新しい家族ができた。
____後の絶望をこの頃の私はまだ知らない。
身体の中央にある核が捻じ曲がる__そんな感覚だ。
例えば、新人の空気の読めないボスに言われた時。
「お前って家族居るの?」
相手としては、あくまでも日常的な雑談程度の会話のつもりで、口下手な自分と話したかっただけだろう。しかし、この短い言葉を聞いた瞬間、全身の血液がなくなっていくような感覚に陥る。相手もなにか察したようだ。「悪い…」と謝り、会話は打ち切りになった。
例えば、街で幸せそうに手を繋ぐ家族を見た時。
脳で火打ち石がタップダンスを踊っているような、嫉妬という炎が発火してしまう。人が幸せなら、素直に喜ぶことが正しいはずなのに。唇を噛み締め、見て見ぬふりを決める。
本当に些細なことだ。
そんな時、いつも考える。
こうなってしまった原因を。 私の最愛の姉のことを。
[明朝体][太字]これは、とある少女が『デシジョン』と仮の名を名乗る少し前の物語。[/太字][/明朝体]
「ゲッカ〜!今日は街に買い物に行きましょう!もうすぐ春だし、買い替え時よ!」
姉の元気で優しい声で目が覚める。ゆっくりと寝返りし枕元をみると姉のゲツメイがにっこりと笑っていた。
「…わかったよ。お姉ちゃん。」
「ふふっ!まだ寝起きね、朝ご飯は作って置いたわ。」
我ながら完璧な姉だ。この性格で彼氏が居ないのが逆に不思議である。
両親は三年前、交通事故で他界した。葬式の時、私はあまりにも哀しく、遺影の前で号泣したが、姉はまっすぐと写真を捉え、「妹は私が育てます」と堂々と言ってのけた。宣言通り、ゲツメイは私をしっかり育ててみせた。現在、妹の私と姉で楽しく二人暮らしをしている。
朝食を食べ終わり、街へ出かける用意をする。流石お姉ちゃん。料理も一流の味だった。
「それじゃあ、レッツゴーよ!」
色違いのコートを着衣し、手を繋いで道へ飛び出す。近所のおばさんに「今日も仲が良いわね。」と褒められた。少し恥ずかしいが、同時に嬉しくもある。
「…この色良いわね〜!ゲッカにぴったりよ!」
「これはお姉ちゃんに凄く似合う!」
二人で服を選んでいると、騒がしい声が聞こえた。
「これがこれがぁ!なんと噂の異国人!今回は100ユラーからだよ!」
どうやら白昼堂々の人身売買のようである。とはいえ、この街では良くあることだ。取り締まる警察も居なければ、法のない。
「…助けなきゃ!」
聖人君子の申し子であるゲツメイが駆け出す。最愛の姉が動いたなら、妹はそれを助けるに決まっている。
「はい!今は400ユラーだよ!!!__ってなんだお前!?」
ゲッカが人売りの意表を突き、ゲツメイが品物を助ける。自分で言うのも何だが、息のあったコンビネーションだ。
「はぁはぁ…。ここまで来れば良いかしら。」
「お姉ちゃん、突然過ぎ…吃驚した…」
人売りから逃げ、自宅まで全速力で走ってきた。息を整える。
「ごめんね…お洋服買えそうにないわ……」
姉が申し訳無さそうに伝えてきた。彼女が握る財布を見ると、金がない。どうやら、代金はしっかり払って来たようだった。その優しさに思わず呆れてしまう。
「えぇっと…貴方、話せる?」
姉は品物__異国人の少女に話しかけた。恐らく、私と同じくらいの年だろう。抜けるような美しい白髪に小柄な体躯。瞳は大きいが光はなく、顔の彫りが浅い。なんというかアンバランスだ。
「……………………」
「……困ったわね」
どうやら、話すことが出来ないようだ。ゲツメイが投げかけた言葉にも一切反応しない。
「うーん、見たところ東洋人とランド王国の方のハーフよね…。どうしたものかしら」
ハーフ__先ほど感じた違和感の正体だ。別の人種が混ざり合うと、自分たちとはかなり違う顔つきになる。中々の高値で売られた理由か。
「よし!貴方の名前は今日からツキミよ!これからよろしくね!」
今日この日、この家に新しい家族ができた。
____後の絶望をこの頃の私はまだ知らない。
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