二次創作
うつし世はゆめ
#1
出会
江戸川と出会ったのは屋上だった。
弁当を食べようと一人登って来た屋上で、江戸川は何をするでも無く座り込んでいた。投げ出された細い手足、ゆるく着た制服、菓子の空袋、胸元の名札の「江戸川」の文字。孔雀緑の色をした切れ長の目がじっと俺を見る。温度はあるのに冷たいような目で、俺は自分が奥まで見透かせるガラス細工になった気がした。
「…えっと」
と言ってみたものの、次に来るべき言葉はなかった。
江戸川が口を開いたからだ。
「こんなところでお弁当?お菜が風に飛ばされるよ」
声変わりの終わった静かな声だった。ただ俺への無関心から来る少しの優しさがあった。まるで花がおちるような。
「…お前も弁当食ってたんじゃねぇの?だってほら、袋が」
俺が菓子の袋に視線を送ると、江戸川は「ううん」と答えた。
「お菓子じゃお腹一杯にはならないよ。僕、お昼は食べないから」
でも菓子は食べるのか…そう言おうとしたけどやめた。人にはいろんな都合がある。不用意に踏み込まないのがルールで、大人たちのしていることだった。俺の周りの生徒もそのルールに則っている。だから表向きの生活は平和で、みんなその均衡を崩さないように必死になっている。
俺も見様見真似で従っている。
風の流れを見ているかのような顔をしていた江戸川は、弁当を食べはじめた俺の顔をまともに見すえている。改めて見つめあうと、江戸川はきれいな顔をしていた。端正、というのだろうか。相変わらず相手をガラス細工にする目をしている。
「…君、友達がいないんだね?」
「は!?」
思わず大声が出た。失礼な、ではなく、なんで分かるんだ、という驚きである。
「それくらい分かるさ、なんたって僕は江戸川乱歩だからね」
知らない?知らないはずないよね。不遜な態度で江戸川はにたりと笑った。不気味なような、きれいなような、底知れないおとなびた貌。待てよ、江戸川乱歩って、あの。
「…テストでいっつも学年一位の、江戸川乱歩?」
「そう!」
他人に興味のない俺でも知っている、よく目立つやつ。とんでもなく頭が良くて、脳みそはまさに無謬、しかし態度はこのとおり不遜。子供っぽい素直な性質のようで、それに伴った我儘を言う。ときどき謎めく。そんなやつ。
その男は。
「ねぇ、お弁当食べ終わったら、ひま?」
「そうだけど」
ぼっちの俺に。
「だったら昼休み、遊ぼうよ」
遊ぼうと提案した。
弁当を食べようと一人登って来た屋上で、江戸川は何をするでも無く座り込んでいた。投げ出された細い手足、ゆるく着た制服、菓子の空袋、胸元の名札の「江戸川」の文字。孔雀緑の色をした切れ長の目がじっと俺を見る。温度はあるのに冷たいような目で、俺は自分が奥まで見透かせるガラス細工になった気がした。
「…えっと」
と言ってみたものの、次に来るべき言葉はなかった。
江戸川が口を開いたからだ。
「こんなところでお弁当?お菜が風に飛ばされるよ」
声変わりの終わった静かな声だった。ただ俺への無関心から来る少しの優しさがあった。まるで花がおちるような。
「…お前も弁当食ってたんじゃねぇの?だってほら、袋が」
俺が菓子の袋に視線を送ると、江戸川は「ううん」と答えた。
「お菓子じゃお腹一杯にはならないよ。僕、お昼は食べないから」
でも菓子は食べるのか…そう言おうとしたけどやめた。人にはいろんな都合がある。不用意に踏み込まないのがルールで、大人たちのしていることだった。俺の周りの生徒もそのルールに則っている。だから表向きの生活は平和で、みんなその均衡を崩さないように必死になっている。
俺も見様見真似で従っている。
風の流れを見ているかのような顔をしていた江戸川は、弁当を食べはじめた俺の顔をまともに見すえている。改めて見つめあうと、江戸川はきれいな顔をしていた。端正、というのだろうか。相変わらず相手をガラス細工にする目をしている。
「…君、友達がいないんだね?」
「は!?」
思わず大声が出た。失礼な、ではなく、なんで分かるんだ、という驚きである。
「それくらい分かるさ、なんたって僕は江戸川乱歩だからね」
知らない?知らないはずないよね。不遜な態度で江戸川はにたりと笑った。不気味なような、きれいなような、底知れないおとなびた貌。待てよ、江戸川乱歩って、あの。
「…テストでいっつも学年一位の、江戸川乱歩?」
「そう!」
他人に興味のない俺でも知っている、よく目立つやつ。とんでもなく頭が良くて、脳みそはまさに無謬、しかし態度はこのとおり不遜。子供っぽい素直な性質のようで、それに伴った我儘を言う。ときどき謎めく。そんなやつ。
その男は。
「ねぇ、お弁当食べ終わったら、ひま?」
「そうだけど」
ぼっちの俺に。
「だったら昼休み、遊ぼうよ」
遊ぼうと提案した。
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