僕らの物語
#1
二人のあの年
4月になった。入学の季節の4月が来た。みんなは喜ぶ?みんなは悲しむ?そんなこと関係ないか。そう思うほど私はどうでもいい。ただ、どうせ、今回もまた入学しても誰も友だちができないんだ。ただ一人、小学1年生のときに一人「はやしだともか」という友達がいた。でも友だちになった次の日、彼女は死んだ。夜間の就寝中の熱中症だった。朝になって彼女の母が気づいて救急車を読んだのだけれども、もう遅かった。とても悲しくて葬儀の日まで泣いた。ただ、あの事件が起こるまでは。
葬儀が始まった。みんな口々に別れの言葉を言っていく。出棺する際、誰かが言った。
「もしかして、あいつが殺したんじゃねえの?」
どういうことか耳を疑った。でもそれは、無駄な行動だった。
「たしかに。あの子が友だちになってすぐだし、それに一緒に帰っていたところを見たよ私。」
「じゃあ本当に?」
そんな声が行き交う中、私はただ一人じっとじっと「ともか」を見ていた。その行き交う言葉から目を逸らすためだ。でもいつの間にか涙が違うものへと変換されていった。
「ふざけるでねぇ!」
誰かの言葉が聞こえた。見ると「ともか」のお母さんだった。
「たしかに、あの子は、◯◯と友だちになった日に死んだ。でもあいつの話では、確かに心をひらいてくれていたと言っていた。だから、この学校の子は大丈夫だと思ってクラスメートのみんなに娘を、あいつを託したんだ!なのに、あの子が死んだらすぐそうかい!?ふざけんじゃない!すぐに謝れ!」
みんなが謝ってくれた。私は彼女と彼女の母親がそうおもってくれていたのかと泣きかけて、眼の前が歪んでいた。でも、私は見てしまった。その口元が「え」と「お」と「え」と「あ」と「い」と「お」と「お」と「い」と「あ」と動いていた。その晩必死に考えた。そうしたらこのような文が出てきた。
「でも、絶対殺した。」と。
だからかと納得した。彼女の双眸には怒りが込み上がってきていた。それも奈落の底まであるかのような深い深い深い闇だった。
次の日、学校へ行った。でも、誰も話しかけてこない。話しかけても答えてくれない。まるで私が空気のような人間になったのかと思った。授業でも、先生は私が挙手をしていても他の人に必ず当てる。もう嫌になって両親に話した。そうしたら、私の住んでいた街、茨城県の江(え)から、山梨県甲府市のある学校に変わることになった。そこの学校では沢山の笑顔で迎えてくれて、とてももてなしてくれた。でもあの事件のせいで私は人間不信になっていた。徐々にみんなは私から遠ざかっていく。そんなことを思いながら、いつの間にか中学を卒業し、高校に入学することになっていた。入試の時の記憶なんてない。でも、最難関高校甲府南高の理数科に入っていた。成績を見てみればすべて首席。ただ、中学のクラスメートを誰も覚えていなかった。そんなふうにして新しい季節が始まろうとしていた。それを、なんとも思っていなかった私の一番の成長期だった。また、人生をやり直したいと思うほど。
そしてあなたと会った
入学した。入学式からなぜか覚えていられるようになった。入学したあとの授業初日、授業をぼーっと眺めていた。なぜかスラスラと答えがわかった。これはあとから知った話だったのだが、私はギフテッドだったらしい。ギフテッドとは、人より突出して勉強などができる才能がある人のことである。当時はそんな事も知らずにただただ授業を眺めていた。
2☓☓☓年4月25日。みんなそれぞれが学校に慣れ始め、みんなそれぞれが友達と話している。私はまた一人ぼっちなんだなあと思いながら外の景色を眺めていた。すると、
「おーい、◯◯さん!」
びっくりした。いきなり声をかけられて。思いっきり跳ね上がった私は後ろにいたのであろう、声の主の顎に思いっきり頭突きを食らわせてしまった。
「痛って!」
と彼は飛び上がっていた。
「あ、ごめんなさい。」
と私が言うと、「大丈夫大丈夫、気にすんな!おれは傷の治る速度だけは一丁前だから!」と言った。彼の顔を見ると自然と名前が出てきた。たしか「橋本夏氣(はしもとなつき)」だっけ?
「橋本夏氣」は確かクラス一のムードメーカー。出身はたしか関東って言っていたかな?父親が転勤ばかりで、過去に15回転校して、でもそれでも面白おかしくみんなを笑わせている。私は密かにその性格がほしいなと思っていた。
「で、何のようですか?」
と聞くと、
「あ、ごめんごめん。えーとですね、クラスの学級委員長と学年の学級委員長の2つで一番投票が多かったのが◯◯さんで、それでお願いをしに来たんだけれどもどうかな?」
私はその質問に頭を悩ませた。なぜならそれは、かなり鬼門だからだ。私はそのようなことを一度もしたことがなく、人付き合いも苦手だからだ。でも、彼の言っていることを拒否するとまたいじめられるかも知れないと思い、OKした。それが私の人生の転機だった。
夏氣はなんと両方の副委員長で、正直「夏氣がしてくれればいいのに」と思ったが、まあ、いつもどおりなんにも言えずにただ黙々と仕事をこなしていった。そんなある日、同じクラスの遠藤みすゞ(えんどうみすず)がいつも3人でいる3人組、遠山三木(とおやまみき)、安藤瞳(あんどうひとみ)、佐々木清美(ささききよみ)にいじめられているのを目撃した。その時、なぜかわからない。体が動いた。持っていた資料を隣りにいた夏氣にメジャー選手並みのトスをして(大げさ)、3人組に突っ込んでいる自分がいた。自分でも何をしているのかわからない。でも、同じいじめられていた人だからかも知れない。気づいたら「助ける」の一つの気持ちだけで動いていた。三木の持っていたスマホを思いっきり蹴り上げて、瞳の持っていたハサミを手を殴って飛ばして、最後に清美の持っていた水入りのバケツを回し蹴りで蹴り、水がかかって悲鳴を上げたところで瞬時にバケツを拾い上げ、3人をバケツで殴り飛ばしていた。自分でも自分がこんなに強かったのは知らなかった。3人も、みすゞも夏氣もあんぐりしたような形で固まっている(だがおそらく3人組の中でも気が弱い清美は失神していた)。三木がようやく数十秒の沈黙の後に「なにすんだよ!」と殴りかかってきていたがもうそん時の自分はどうしようもないくらいにキレていた。とてもとてもキレていた。手を払い除けたあと、思いっきり腹パンを食らわせKOをしていた。そしてそこでようやく自分の口が開いた。でも自分の声ではないようなくらいかすれていた。
「なにをすんだよって?自分の境遇と同じ仲間を助けて、仲間をいじめていたやつを説教しただけなんだ。ただ、」ここで自分の怒りが爆発してしまった。
「こんなことをするやつが一番、一番キライなんだよ!こんな卑怯なことをするやつが!!」
3人はみすゞに謝り、すぐに逃げていった。自分でもびっくりしていた。ただ、その疑問は、自分の怒りを爆発させてしまうような感じがして、どうしても自分に聞けなかった。重苦しい数十秒間のあと、夏氣が私の肩に手を乗せ口を開いた。「やらかした!絶対嫌われた…。」なぜかそう思った。でも反応は意外だった。「よくやった。よくやってくれた。助かった。あいつらは嫌だった。だから助けたかった。でも、お前のお陰でもっといい説教ができたよ。ありがとう。」
その声はとても小さくて、でもこの10㍍圏内に届くような透き通る声で感謝を述べてくれた。その声を聞いた瞬間、私の涙腺が崩壊した。
「どうしても、許せなかった!どうしても、私の小学校のみんながしてきたような仕打ちを人にする人は!でも、でもこんなに清々しいくらいの仕返しができた!だから、私は、私は!」そこで私は夏氣の目を泣きながら赤い目で見ていった。
「こんなに人に悪いことをしてきたけれど、友だちを作ってもいいのかな?」
消え入るような声になってしまった。しかし、夏氣は、静かに、ゆっくりと、大きく、頷いてくれた。その時わかった、人生最大の出会いだ、と。だから、だから、彼へ込めて一生を捧げようと思った。私はその夢を叶えさせることができたのだろうか?
あの日々
あの一件以降、私は夏氣に心を開いていた。気軽に話しかけられたり、一緒に悩み事などを相談し合ったり、たくさんのことを一緒にしてきた。だから、とてもいい日常を送れていた。今まで経験もしたことのないような良い日常を。そんなある日、母に感づかれた。
「なにかいいことでもあった?目の奥から楽しいという感情が見えるよ。」
と言われ、たしかに最近楽しいなと思い返し母に言った。
「最近、大切にしたいと思える、大切な大切な友だちができたんだ。」
「へえ、嬉しいな。そっか、ようやく〇〇にもできたんだね。」
いつもの笑顔に返事を返そうと思っていたが、違和感に気づき質問してみた。
「『ようやく』ってどういう意味?」
と聞くと、母は表情を変えることなく、いつもの優しい優しい笑みで話してくれた。
「実は私もね、いじめられていたんだ。小学校時代に。」
「えっ...!?」
予想外の回答で流石にびっくりした。
「小学校時代に、確かあれは....3年生かな?友達と大喧嘩をしちゃって、それで友達とも疎遠になってクラスメートからもいじられて、もの隠されたりから始まったけど、最終的には服を脱がされたり、たくさんのいじめを受けた。そして家に帰ったら父、母からの虐待的暴力。流石にきつくてきつくて病気になっちゃって。父、母は暴力を振るってくるけど、私をちゃんと愛してくれていて、治療費も全額負担してくれて、話もちゃんと聞いてくれて、学校に行って話をつけてくれて、改心したようにたくさん世話を焼いてくれた。だからあなたでいうおじいちゃんにはとても感謝しているの。」
「でも、お母さんおじいちゃんについて何も話してくれなかったのはどうして?」「おじいちゃんはあなたが生まれる前日に亡くなっていたの。夜間の心臓発作でおばあちゃんが見つけて救急車で運ばれたのだけれども、「今夜が山場だって」医師から診断を受けて、おじいちゃんの病院にとんでいきたかった。でも、おじいちゃんの「子どもをしっかり生んでからこっちに来なさい。」って言う願いを叶えるために必死に生んで、それで色々済ませてから病院に向かったら、もう朝の11時だったけれどもおじいちゃんは奇跡的に命を繋ぎ止めていて、本当に私がついて10分後ぐらいに亡くなってしまった。そんなつらい経験のせいで
心的外傷後ストレス障害になったり、たくさんの辛いことがあったからこんな話したくなくて隠していたの。」
気がついたら母の声は震えていて、涙目になりもう今でも零れ落ちそうだった。
「だから、これだけはあなたに伝えたいの。絶対にその子と仲良くいなさい。そうすれば、その子があなたの光ならばあなたの心を癒やしてくれますよ。」
こういってくれた。だから、私は「うん。そうするよ。」と家族の前では見せれなかった笑顔を見せ、学校へ向かった。いつもより清々しい、気持ちの良い朝だった。
しばらく歩いていると、夏氣と会った。
「「やあ。」」と二人の声が重なり、二人で大爆笑しながら学校へ向かった。だけれども、学校での脅威を忘れていた。
放課後、帰ろうと思い、校庭を歩いていると後ろから呼び出された。なんだろうと思いつつ後ろを振り向くとあの3人組だった。「やばい!」と危機察知能力が働き、逃げようと思ったがもう遅かった。
「ちょっと面を貸してよ。」いわれ、誰もいないところへ連れて行かれ、暴力を受けた。殴られたり、蹴られたり、挙句の果てには胸骨をバットで殴ってきたり、散々な目にあった。しかも加減の仕方を知らないみたいに思いっきり殴ってき、血があちこちから流れたり、痛みのせいで意識が朦朧としたり、本当に殺す気なのか。というくらい殴られており、もう限界だった。
「ははは!もうこいつ虫の息じゃねえかよ。もういいか。今楽にしてあげますよ〜(笑)」
そして、最後の一振りが繰り出された。しかし、それは、私に届かなかった。目を開けてみると、誰かと誰かがぶつかり合っているように見えた。視界が戻ってきて、見てみると夏氣が3人を「説教」しているところだった。「なんで!?」と思い、立ち上がろうとするが足が鉛のように重いし、全身が痛い。こんな状態で体を動かせない。と思い、「このままじゃ夏氣が…。」と焦りを感じ、立ち上がろうとするがまだ動かせない。焦りは強くなっていく。女子対男子だからといって、相手はバットを持っている。まずい状況なのは明らかだ。ただ、夏氣は3人の攻撃を軽々と躱しながら相手をしていた。まるで、アクション映画のワンシーンのように…。説教をし終え、3人が逃げていくと、まだ口をあんぐり開けて固まっている私に話しかけてきた。
「大丈夫か?すぐに救急車が来る。ちょっとだけの辛抱だ。」
その言葉で現実に戻ってき、質問したかったことを聞いた。
「どうしてここに?今は部活動の時間のはずじゃ…?」
「ああ、そこ?部活動の休憩中にかすかにだけどバットを振っている音と、バットで人を殴っている音が聞こえた。まさか、と思って裏に来てみたら案の定だ。〇〇さんが血を流しているのを見て、救急車を呼んできたら、〇〇さんが本当に虫の息だったから焦って体ごと入った。そしたらあいつらびっくりして一瞬動き止まったから畳み掛けたら逃げていきやがった。」
「でも、あの避けは何?3人の攻撃をすべて避けていたけれども…。」
「あれは、ただ単に反射神経にフル集中して避けていただけ。あいつら振り方がシンプルだし、避けやすかった。」
「凄いな…。」と思わず声に出して彼が少し照れくさそうに微笑むと、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。すると彼が立ち上がり、どこかへ行こうとしていたので、「待って!」と呼び止め、「ありがとう!」と思いっきり感謝をぶつけたら彼は満面の笑みで「おう!」と返してくれた。とてもとても、優しい眼差しだった…。
その後、私は救急車で運ばれ、検査したところ、「全身打撲」と「肋骨2本のヒビ」という検査結果が出た。3人組は、夏氣が撮っておいてくれたビデオに残されていた証拠映像によって起訴されている。3人は私をいじめていたこと、みすゞをいじめていたことの両方で起訴され、かなり重い刑罰になりそうなのだそうだ。そして、そのままゴールデンウィークと学校開設記念日、校長先生の誕生日記念日(謎の記念日)で9連休。9連休明け登校するとみんなが心配してくれた。学校の先生から生徒、クラスメートまでほぼ全員が心配してくれていた。とても嬉しくて笑顔で「だいじょうぶ!」と返答していた。9連休中に3人の罪状が決まったらしく、3人は少年院5年、成人拘置所10年の計15年8ヶ月の刑罰を受けたらしい。この出来事がきっかけでみんなに心を開けた。そうして、夏氣には本当に心が開けていなかった気がする。心を開くという言葉の意味がわからないのかも知れない。まあ、そこら辺もみんなと協力して理解していきたい。
どうしたの?
2☓☓☓年1月7日。やっと冬休みが明け、久々に学校に行く日だ。年末年始食っては寝ての繰り返しで流石に体力が落ちていた。でも、歩きで25分の登下校はかなりの運動だ。また、運動たくさんしなきゃ(笑)。そして、久しぶりに彼と会える。夏氣に。いつもの道通っているとやっぱり左から夏氣が来た。
「おはよ〜!」と声を掛けると、「おはよ〜。」と返してくれた。…おかしい。何かがおかしい。そんな気がした。だから、その日は夏氣を観察してみた。すると、時々背中に手を伸ばそうとする意志があるような行動が一瞬だけだがあった。話しかけても元気がなく、会話が長続きしない。今朝のおかしい点はこれだと気づいた。聞いても「大丈夫。」としか言わない彼を見てなんだか深堀りできなかった。
ある日の晩、1週間前から夏氣が来ないのを不審に思い、インターネットで「背中」「強い痛み」「時々」で調べると見たくはないワードが飛び込んできた。「膵臓癌」…。まさか、これ?考えたくない。こんなこと。膵臓癌は、がんの中では最強ぐらいの強さだ。見つけるのが大変で、かつ、進行が早い。つまりこれ以上の脅威はないのだ。考えたくなくてパソコンを閉じ、眠りのつこうとした。でも眠れない。とりあえず、眠ろうと目をつぶっていたら不意に夢の世界へ落ちた。自分で夢とわかる…「明晰夢」か。目を開けてみると、誰かわからない老人の姿があった。不意に周りを見渡すと鏡があり、それを見て驚愕した。「私」じゃない!誰だ?考えながら「自分」を見てみる。するとすぐに分かった。(ああ、お母さんだ。)そう、「自分」と私の顔がそっくりだった。おそらくお母さんが小さい頃の記憶のようなもの?かな。すると、もしかして目の前の老人ってまさか「k…」
「ミサキ聞きなさい。」
老人が言ってきた。ミサキ?ああ、お母さんの名前だ。漢字は確か「水崎」。
「あなたの大切だと思っている人が今、大変な状態だ。一刻も早く行きなさい。水崎…ではないな。もうこう呼ぶのはやめよう。水崎の娘、つまりわしの孫、〇〇。」
「ああ、やっぱり、小杉おじいちゃん。あなたなんですね。」
不思議と声が出た。自分でもびっくりした。明晰夢は何回か見たことがある。けれどもこんなにリアルなのは初めてだ。
「ああ、そうだ。わしの名字は小杉。お前の旧姓じゃ。だからわかったんだろう?」
「はい。だけど、小杉おじいちゃん。さっき言っていたことは本当のことですか?。」
「そうだ。急げ。急がんと取り返しのつかないことになるぞ。わかったな?」
「はい。わかっています!」
「---------そうか。行って来い!。」
いつの間にか朝になっている。本当の夢だったようだ。今日は木曜日。平日だが行く場所がある。いかないと。
------------彼の家、橋本家に。---------------------
お母さんはまだ起きておらず、書き置きを残して家を出た。彼の家はどこかわかっている。そこへ行ったら何が起きていたのかがわかるはずだ。「とりあえず急がないと。」その一心だけで急いで彼の家へ向かった。つくと、インターホンを鳴らしたが誰も出てこない。もう一回押す。出てこない。ドアを引いてみる。開いていた。中からは変な匂いが。急いで2階へ上がる。ニオイのもとへ。ドアを開ける。そこに彼がいた。ただし、様子が変だった。確認すると意識がなかった。すぐに救急車を呼ぶ。そして、気づく。机の上に大量の薬。その瓶を見る。「血糖降下剤」そう書かれていた。それは私の顔を青ざめさせた。「血糖降下剤」…それは、糖尿病患者が飲む薬で、糖尿病患者が飲むと異常がないが、健常者が飲むと血糖値が下がり貧血起こしたり、最悪の場合死に至る最悪の薬。まさか自殺!?。そう思って焦っていたはずが心は冷静だった。砂糖を20㌘飲ませ、清涼飲料水を175ミリリットル飲ませ、応急処置をしたあと、周りの部屋を覗き、確認をすると、彼の父と母も倒れていた。机の上に血糖降下剤…。一家心中か。それも、状態を見るとご両親は亡くなられている。彼は、望んでいなかったのかも知れない。とりあえず脈を取り、死亡を確認した。そして、彼の部屋へ戻り応急処置を施し、救急車のサイレンが聞こえてきて、家の前へ出て誘導したあと、彼は運ばれていった。よほど大量に飲んだらしく、応急処置をしたが、あまり効果が出ていないという。彼の無事を祈り、事情聴取に協力し、すべてのことを話した。
夢で危ないことを知った。私の正夢はほとんど当たる。おそらく橋本家は一家心中をしようとしていた。ただ、部屋の感じや、様子から見て、おそらく彼は望んでいなかったということまですべて話し、家へ帰れたのは朝10時頃だった。家を出たのは朝5時頃だったので、もう5時間も経っていたのだなと思っていた。恐ろしいほど冷静だった。自分でも怖い。自分が怖い。家へ変えるとものすごく心配された。そして、前を向いて、今日を過ごしなさい。そう言われた。言われた通り前を向きながら過ごしていたが、やはり彼のことばかり考えてしまう。とても、とても悔しい。彼の家族全員を守れなかったことが。とても、とても悔しい、悲しい、そして怖い。自分が怖い。なんなんだろうか。自分は一体何なんだろうか?そんな疑問だけが私の胸に残っていた…。
思いがけないある日
ある日、彼の家へ行かせてもらった。事件後そのままでとても嫌な思い出をフラッシュバックさせてきた…。でも、探す。手がかりを。そして、彼のベッドを見ると、一通の手紙が置いてあった。「〇〇へ」と書かれている。そういえば、救急隊員が「〇〇へ」と書かれた手紙があったと言っていた気がする。読んでみる。
「これを解けばわかる。すべてが解いてくれ。頼む…。」
から始まる文章を見てただ事ではないと感じた。すぐ続きを読む。そして、謎解きを開始する。私の脳をフル起動させて。
「H+Nd+Rf=x Ag=47」
なんだこれは、と思い、脳をフル回転させてみる。まさかと思い、調べてみる。やはりそうだった。答えは
「165」だ!
この問題の答えはすべて原子番号だった。
Hは水素の英語「hydrogen」の頭文字H、NdはネオジムのNb、Rfは、ラザフォルニウムのRfで、それぞれ原子番号は、水素「1」、ネオジムは「60」、ラザフォルニウムは「104」となる。それぞれを足すと165となる。だが、何のことだろうか?この暗号は。周りを見渡してみる。するとそこには厳重な金庫があった。これの開け方だと気づいた私は、「165」とダイヤルを回すと、開いた。ビンゴだった。すると出てきたのは紙で、意味不明な言葉ばかり書かれてあった。
「た。け、れ、て、に、の、ん、う、さ」
どういう意味なのだろう。彼が出す問題はマニアックで分かりづらい。考えてみると、1つのことが浮かんだ。
(まさか、「換字式暗号表」!?)
換字式暗号表とは戦時中に情報を隠すために使われたとされる伝達方法の一種だったもののことだ。しかし、弱点として、解読されるとすべてが筒抜けになることだ。彼の換字式暗号表はおそらく彼の思考的に彼の好きなもの。彼の好きなものは暗号。なので、暗号系になっていると思われる。そこから考えるにいつも出してくれていた問題の中で一番多かった暗号系は…。
(「アナグラム」だ!)
アナグラムとは、一種の暗号で、文字を入れ替えることで別の意味の単語になるという暗号である。彼の文は意味が作られていないが、おそらくアナグラムの一種だろう。入れ替えると、
「てんのうにけされた。」
そう読めた。確かの彼の父は政治家で、現代新選組のリーダーとして反対運動を続けていた。ということは、天皇に恨まれ、消されたと言う捉え方でいいのだろう。これを伝えないといけないが、おそらく、信じる人はだれもいないだろう。ならば信じてくれそうな人を探すしかない。ならば、信じてくれそうな人はあの人達しかいない。
「現代新選組」のみなさんだ!
天皇を裁きに
そして、次の土曜日、現代新選組の事務所へと足を運んだ。電話番号を知らなかったので、手探りで探すしかないが、意外と短期間で見つけられた。入ると、有名な政治家の方々がいっぱいお見えになっていた。そこで、現代新選組の皆さんへ、ここ、2週間程度のことをすべて話した。現代新選組のリーダー、橋本大輔が死んだ…いや殺されたこと、一家心中のふりをさせて殺そうとしたということ。暗号を残しており、解読したら「てんのうにけされた。」と書かれていたことなどすべてを隅々まで話した。現代新選組の方や有名な政治家のみなさんも真剣に話を聞いてくれていた。その中には、
「リーダーはとてもいい人だった。絶対に許せない。」と、聞いて5分ぐらいで仲間になってくれた人がいた。こんな人達に囲まれている自分が幸せに思えた。
でも、どうやって天皇を崩すか、という作戦会議が行われた。皆で案を出していると、1つの案を思いついた。それを皆に共有し、実行を決めた。日にちは2週間後…。さあ、天皇を裁きへの準備だ。
2週間後。実行の日がやってきた。実行の日は、天皇の誕生パーティーが行われており、そこに潜入した。ここで、1つ目の作戦を実行に移した。天皇へ現代新選組の女性を寝返りすると天皇へ言わせに行く。そして、嘘の情報を流し警戒心を揺さぶる。そして、たくさんの嘘の情報を流し警戒心が強くなり、違う部屋へ行こうとしていたのでそこへついていく。ここで、2つ目の作戦を実行に移す。その別の部屋には現代新選組の皆さんが集まっている。そして、後ろからついてきた私がドアを閉め、密室状態にする。そして、まんまとはまり戸惑っている天皇にすべてを説明する。
「貴方が私の大切な人のことを、家族ごと消そうとしたというダイイングメッセージを受け取りました。なので、本当かどうか尋問するためにここへ誘い出せるよう、「空城の計」をしました。その空城の計に貴方はまんまとハマったというわけです。」
「空城の計」とは、三国志などで使われていた、警戒心をわざと誘うように、わざと城に誰もいないように見せるという戦法から来た言葉で、敵の警戒心を誘うためにわざと大胆なことをし、警戒したことをうまく利用することなどを表します。なので、わたしたちは、それをうまく使い、密室へおびき出したということです。
「私は何もしていない。ただの人違いではないのだろうか?」
天皇が言い逃れしようとしていますが、実はもう私は証拠を握っています。テープレコーダーを出し再生すると、
「現代新選組の橋本は馬鹿だ!私を敵に回さずに、さっさと天皇の下で働いていればよかったものを。馬鹿な男だ。現代新選組なんて作らなければ死ななかったのにな。ハハハハハハハ。」
という天皇の声とともに、パソコンをビデオに繋げると、パワハラをしている動画や、無理難題な仕事を押し付けたり好き勝手している様子が流れていました。天皇も口をあんぐりとあけて固まるしかありません。そして、外で待っておいてもらった警察に合図を出して、警察が突入すると天皇は連行されていきました。
その後、天皇は、有罪判決がくだされ、無期懲役刑を言い渡されました。そしてわたしたちは、警察の方に乱暴な罪の暴き方だ、と軽いお叱りを受け自体は収束しました。しかし、こんな軽い終わり方で、いいのでしょうか?時々そう思うのですが、大きな重大事件のあと、犯人が逮捕され、事態が収束したと言われても、遺族の方や親しい関係の友人などの人は、とても悲しみ、しばらく立ち直れない人も多くはありません。なので、こんな軽い終わり方で終わって本当に良いのでしょうか?私たちはずっと母国への感謝とともに、疑問を投げかけているのではないでしょうか?その疑問を解決に向かわせるのが私達市民の仕事でもあり、国全体の仕事だと思うのです。
新しい季節が始まろうとしている。
「これが私の書いた小説なんだ。デビュー作なんだよ。だからさ〜早く起きて話をしようよ。」
あの事件から1ヶ月がたった。この1ヶ月で、今まで起きたことのほとんどすべてを書いたこの作品、「僕達の物語」は半月でまさかのバク売れを記録し、半月で10万部という驚異の数字を叩き出した。作者が私の作品を書こうとして相談しても「無理だ」とか「これはだめだよ」とはねつけられても、諦めず頑張って作成した。でも、笑われたとしても、バカにされても、自分の思う道を一歩一歩でいいから歩むのが私達の本当の望むことなのではないでしょうか?もし違ったとしても、また同じように一歩一歩でいいから歩むのが最適解だと私は思うのです。ねえ、夏氣。貴方は頑張って私に伝えてくれたんだよね。私は今こうやって昏睡状態の貴方に話しかけているのは、あなたに恩を感じてるからなんだ。貴方が私を救ってくれたから。助けてくれたから、今の私があります。「ありがとう」の言葉だけじゃ足りないけれど、「ありがとう」しか言えることがないから貴方に伝わってほしいという願いでこのことをあなたに伝えています。もし、貴方がここで向こう岸まで行ってしまうのなら、私はそちらへ渡れるようになるために努力をして必ず貴方のところへ行きます。絶対に。もしそうなったら少しのお別れです。「だから、早く、早く返答をしてよ!」つい、私の口から大声が出てしまっていた。でも、大声が出てしまってよかったのかも知れない。一瞬だけだけど、動いたんだ。彼の指が。「えっ!?」と驚く私を見つめているのは、いつもの彼の優しい瞳。まだ、こちら側の岸にいるよ。と言っているかのように真っ直ぐな瞳。
ああ、帰ってきてくれたんだってわかった。その瞬間凄い感情が溢れ出してきて、まるでドラマが終わってなかったかのように、奇跡が起きるんだと、本当に返答をしてくれたのだと、それを思うと、どうしても、どうしても涙が止まらなくて、でも泣き顔は見せたくなくて、顔を覆っていたら聞こえてくる貴方の声。
「ただいま。」「おかえり。」その言い合いだけで本当に幸せなもんだな。そして、貴方に伝えること、そしてどうしてもすぐ返答が欲しいもの。
「大好きです。ずっとそばにいてください。」
ほら、あなたがほのかな歌声で綴るよ、返答を。
「はい、お願いします。そして、僕も大好きです。」
「おかえり、夏氣。」「ただいま、夏美」
こうして、私、花枝夏美の冒険記は、終わりのセラフと一緒に終わった。
葬儀が始まった。みんな口々に別れの言葉を言っていく。出棺する際、誰かが言った。
「もしかして、あいつが殺したんじゃねえの?」
どういうことか耳を疑った。でもそれは、無駄な行動だった。
「たしかに。あの子が友だちになってすぐだし、それに一緒に帰っていたところを見たよ私。」
「じゃあ本当に?」
そんな声が行き交う中、私はただ一人じっとじっと「ともか」を見ていた。その行き交う言葉から目を逸らすためだ。でもいつの間にか涙が違うものへと変換されていった。
「ふざけるでねぇ!」
誰かの言葉が聞こえた。見ると「ともか」のお母さんだった。
「たしかに、あの子は、◯◯と友だちになった日に死んだ。でもあいつの話では、確かに心をひらいてくれていたと言っていた。だから、この学校の子は大丈夫だと思ってクラスメートのみんなに娘を、あいつを託したんだ!なのに、あの子が死んだらすぐそうかい!?ふざけんじゃない!すぐに謝れ!」
みんなが謝ってくれた。私は彼女と彼女の母親がそうおもってくれていたのかと泣きかけて、眼の前が歪んでいた。でも、私は見てしまった。その口元が「え」と「お」と「え」と「あ」と「い」と「お」と「お」と「い」と「あ」と動いていた。その晩必死に考えた。そうしたらこのような文が出てきた。
「でも、絶対殺した。」と。
だからかと納得した。彼女の双眸には怒りが込み上がってきていた。それも奈落の底まであるかのような深い深い深い闇だった。
次の日、学校へ行った。でも、誰も話しかけてこない。話しかけても答えてくれない。まるで私が空気のような人間になったのかと思った。授業でも、先生は私が挙手をしていても他の人に必ず当てる。もう嫌になって両親に話した。そうしたら、私の住んでいた街、茨城県の江(え)から、山梨県甲府市のある学校に変わることになった。そこの学校では沢山の笑顔で迎えてくれて、とてももてなしてくれた。でもあの事件のせいで私は人間不信になっていた。徐々にみんなは私から遠ざかっていく。そんなことを思いながら、いつの間にか中学を卒業し、高校に入学することになっていた。入試の時の記憶なんてない。でも、最難関高校甲府南高の理数科に入っていた。成績を見てみればすべて首席。ただ、中学のクラスメートを誰も覚えていなかった。そんなふうにして新しい季節が始まろうとしていた。それを、なんとも思っていなかった私の一番の成長期だった。また、人生をやり直したいと思うほど。
そしてあなたと会った
入学した。入学式からなぜか覚えていられるようになった。入学したあとの授業初日、授業をぼーっと眺めていた。なぜかスラスラと答えがわかった。これはあとから知った話だったのだが、私はギフテッドだったらしい。ギフテッドとは、人より突出して勉強などができる才能がある人のことである。当時はそんな事も知らずにただただ授業を眺めていた。
2☓☓☓年4月25日。みんなそれぞれが学校に慣れ始め、みんなそれぞれが友達と話している。私はまた一人ぼっちなんだなあと思いながら外の景色を眺めていた。すると、
「おーい、◯◯さん!」
びっくりした。いきなり声をかけられて。思いっきり跳ね上がった私は後ろにいたのであろう、声の主の顎に思いっきり頭突きを食らわせてしまった。
「痛って!」
と彼は飛び上がっていた。
「あ、ごめんなさい。」
と私が言うと、「大丈夫大丈夫、気にすんな!おれは傷の治る速度だけは一丁前だから!」と言った。彼の顔を見ると自然と名前が出てきた。たしか「橋本夏氣(はしもとなつき)」だっけ?
「橋本夏氣」は確かクラス一のムードメーカー。出身はたしか関東って言っていたかな?父親が転勤ばかりで、過去に15回転校して、でもそれでも面白おかしくみんなを笑わせている。私は密かにその性格がほしいなと思っていた。
「で、何のようですか?」
と聞くと、
「あ、ごめんごめん。えーとですね、クラスの学級委員長と学年の学級委員長の2つで一番投票が多かったのが◯◯さんで、それでお願いをしに来たんだけれどもどうかな?」
私はその質問に頭を悩ませた。なぜならそれは、かなり鬼門だからだ。私はそのようなことを一度もしたことがなく、人付き合いも苦手だからだ。でも、彼の言っていることを拒否するとまたいじめられるかも知れないと思い、OKした。それが私の人生の転機だった。
夏氣はなんと両方の副委員長で、正直「夏氣がしてくれればいいのに」と思ったが、まあ、いつもどおりなんにも言えずにただ黙々と仕事をこなしていった。そんなある日、同じクラスの遠藤みすゞ(えんどうみすず)がいつも3人でいる3人組、遠山三木(とおやまみき)、安藤瞳(あんどうひとみ)、佐々木清美(ささききよみ)にいじめられているのを目撃した。その時、なぜかわからない。体が動いた。持っていた資料を隣りにいた夏氣にメジャー選手並みのトスをして(大げさ)、3人組に突っ込んでいる自分がいた。自分でも何をしているのかわからない。でも、同じいじめられていた人だからかも知れない。気づいたら「助ける」の一つの気持ちだけで動いていた。三木の持っていたスマホを思いっきり蹴り上げて、瞳の持っていたハサミを手を殴って飛ばして、最後に清美の持っていた水入りのバケツを回し蹴りで蹴り、水がかかって悲鳴を上げたところで瞬時にバケツを拾い上げ、3人をバケツで殴り飛ばしていた。自分でも自分がこんなに強かったのは知らなかった。3人も、みすゞも夏氣もあんぐりしたような形で固まっている(だがおそらく3人組の中でも気が弱い清美は失神していた)。三木がようやく数十秒の沈黙の後に「なにすんだよ!」と殴りかかってきていたがもうそん時の自分はどうしようもないくらいにキレていた。とてもとてもキレていた。手を払い除けたあと、思いっきり腹パンを食らわせKOをしていた。そしてそこでようやく自分の口が開いた。でも自分の声ではないようなくらいかすれていた。
「なにをすんだよって?自分の境遇と同じ仲間を助けて、仲間をいじめていたやつを説教しただけなんだ。ただ、」ここで自分の怒りが爆発してしまった。
「こんなことをするやつが一番、一番キライなんだよ!こんな卑怯なことをするやつが!!」
3人はみすゞに謝り、すぐに逃げていった。自分でもびっくりしていた。ただ、その疑問は、自分の怒りを爆発させてしまうような感じがして、どうしても自分に聞けなかった。重苦しい数十秒間のあと、夏氣が私の肩に手を乗せ口を開いた。「やらかした!絶対嫌われた…。」なぜかそう思った。でも反応は意外だった。「よくやった。よくやってくれた。助かった。あいつらは嫌だった。だから助けたかった。でも、お前のお陰でもっといい説教ができたよ。ありがとう。」
その声はとても小さくて、でもこの10㍍圏内に届くような透き通る声で感謝を述べてくれた。その声を聞いた瞬間、私の涙腺が崩壊した。
「どうしても、許せなかった!どうしても、私の小学校のみんながしてきたような仕打ちを人にする人は!でも、でもこんなに清々しいくらいの仕返しができた!だから、私は、私は!」そこで私は夏氣の目を泣きながら赤い目で見ていった。
「こんなに人に悪いことをしてきたけれど、友だちを作ってもいいのかな?」
消え入るような声になってしまった。しかし、夏氣は、静かに、ゆっくりと、大きく、頷いてくれた。その時わかった、人生最大の出会いだ、と。だから、だから、彼へ込めて一生を捧げようと思った。私はその夢を叶えさせることができたのだろうか?
あの日々
あの一件以降、私は夏氣に心を開いていた。気軽に話しかけられたり、一緒に悩み事などを相談し合ったり、たくさんのことを一緒にしてきた。だから、とてもいい日常を送れていた。今まで経験もしたことのないような良い日常を。そんなある日、母に感づかれた。
「なにかいいことでもあった?目の奥から楽しいという感情が見えるよ。」
と言われ、たしかに最近楽しいなと思い返し母に言った。
「最近、大切にしたいと思える、大切な大切な友だちができたんだ。」
「へえ、嬉しいな。そっか、ようやく〇〇にもできたんだね。」
いつもの笑顔に返事を返そうと思っていたが、違和感に気づき質問してみた。
「『ようやく』ってどういう意味?」
と聞くと、母は表情を変えることなく、いつもの優しい優しい笑みで話してくれた。
「実は私もね、いじめられていたんだ。小学校時代に。」
「えっ...!?」
予想外の回答で流石にびっくりした。
「小学校時代に、確かあれは....3年生かな?友達と大喧嘩をしちゃって、それで友達とも疎遠になってクラスメートからもいじられて、もの隠されたりから始まったけど、最終的には服を脱がされたり、たくさんのいじめを受けた。そして家に帰ったら父、母からの虐待的暴力。流石にきつくてきつくて病気になっちゃって。父、母は暴力を振るってくるけど、私をちゃんと愛してくれていて、治療費も全額負担してくれて、話もちゃんと聞いてくれて、学校に行って話をつけてくれて、改心したようにたくさん世話を焼いてくれた。だからあなたでいうおじいちゃんにはとても感謝しているの。」
「でも、お母さんおじいちゃんについて何も話してくれなかったのはどうして?」「おじいちゃんはあなたが生まれる前日に亡くなっていたの。夜間の心臓発作でおばあちゃんが見つけて救急車で運ばれたのだけれども、「今夜が山場だって」医師から診断を受けて、おじいちゃんの病院にとんでいきたかった。でも、おじいちゃんの「子どもをしっかり生んでからこっちに来なさい。」って言う願いを叶えるために必死に生んで、それで色々済ませてから病院に向かったら、もう朝の11時だったけれどもおじいちゃんは奇跡的に命を繋ぎ止めていて、本当に私がついて10分後ぐらいに亡くなってしまった。そんなつらい経験のせいで
心的外傷後ストレス障害になったり、たくさんの辛いことがあったからこんな話したくなくて隠していたの。」
気がついたら母の声は震えていて、涙目になりもう今でも零れ落ちそうだった。
「だから、これだけはあなたに伝えたいの。絶対にその子と仲良くいなさい。そうすれば、その子があなたの光ならばあなたの心を癒やしてくれますよ。」
こういってくれた。だから、私は「うん。そうするよ。」と家族の前では見せれなかった笑顔を見せ、学校へ向かった。いつもより清々しい、気持ちの良い朝だった。
しばらく歩いていると、夏氣と会った。
「「やあ。」」と二人の声が重なり、二人で大爆笑しながら学校へ向かった。だけれども、学校での脅威を忘れていた。
放課後、帰ろうと思い、校庭を歩いていると後ろから呼び出された。なんだろうと思いつつ後ろを振り向くとあの3人組だった。「やばい!」と危機察知能力が働き、逃げようと思ったがもう遅かった。
「ちょっと面を貸してよ。」いわれ、誰もいないところへ連れて行かれ、暴力を受けた。殴られたり、蹴られたり、挙句の果てには胸骨をバットで殴ってきたり、散々な目にあった。しかも加減の仕方を知らないみたいに思いっきり殴ってき、血があちこちから流れたり、痛みのせいで意識が朦朧としたり、本当に殺す気なのか。というくらい殴られており、もう限界だった。
「ははは!もうこいつ虫の息じゃねえかよ。もういいか。今楽にしてあげますよ〜(笑)」
そして、最後の一振りが繰り出された。しかし、それは、私に届かなかった。目を開けてみると、誰かと誰かがぶつかり合っているように見えた。視界が戻ってきて、見てみると夏氣が3人を「説教」しているところだった。「なんで!?」と思い、立ち上がろうとするが足が鉛のように重いし、全身が痛い。こんな状態で体を動かせない。と思い、「このままじゃ夏氣が…。」と焦りを感じ、立ち上がろうとするがまだ動かせない。焦りは強くなっていく。女子対男子だからといって、相手はバットを持っている。まずい状況なのは明らかだ。ただ、夏氣は3人の攻撃を軽々と躱しながら相手をしていた。まるで、アクション映画のワンシーンのように…。説教をし終え、3人が逃げていくと、まだ口をあんぐり開けて固まっている私に話しかけてきた。
「大丈夫か?すぐに救急車が来る。ちょっとだけの辛抱だ。」
その言葉で現実に戻ってき、質問したかったことを聞いた。
「どうしてここに?今は部活動の時間のはずじゃ…?」
「ああ、そこ?部活動の休憩中にかすかにだけどバットを振っている音と、バットで人を殴っている音が聞こえた。まさか、と思って裏に来てみたら案の定だ。〇〇さんが血を流しているのを見て、救急車を呼んできたら、〇〇さんが本当に虫の息だったから焦って体ごと入った。そしたらあいつらびっくりして一瞬動き止まったから畳み掛けたら逃げていきやがった。」
「でも、あの避けは何?3人の攻撃をすべて避けていたけれども…。」
「あれは、ただ単に反射神経にフル集中して避けていただけ。あいつら振り方がシンプルだし、避けやすかった。」
「凄いな…。」と思わず声に出して彼が少し照れくさそうに微笑むと、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。すると彼が立ち上がり、どこかへ行こうとしていたので、「待って!」と呼び止め、「ありがとう!」と思いっきり感謝をぶつけたら彼は満面の笑みで「おう!」と返してくれた。とてもとても、優しい眼差しだった…。
その後、私は救急車で運ばれ、検査したところ、「全身打撲」と「肋骨2本のヒビ」という検査結果が出た。3人組は、夏氣が撮っておいてくれたビデオに残されていた証拠映像によって起訴されている。3人は私をいじめていたこと、みすゞをいじめていたことの両方で起訴され、かなり重い刑罰になりそうなのだそうだ。そして、そのままゴールデンウィークと学校開設記念日、校長先生の誕生日記念日(謎の記念日)で9連休。9連休明け登校するとみんなが心配してくれた。学校の先生から生徒、クラスメートまでほぼ全員が心配してくれていた。とても嬉しくて笑顔で「だいじょうぶ!」と返答していた。9連休中に3人の罪状が決まったらしく、3人は少年院5年、成人拘置所10年の計15年8ヶ月の刑罰を受けたらしい。この出来事がきっかけでみんなに心を開けた。そうして、夏氣には本当に心が開けていなかった気がする。心を開くという言葉の意味がわからないのかも知れない。まあ、そこら辺もみんなと協力して理解していきたい。
どうしたの?
2☓☓☓年1月7日。やっと冬休みが明け、久々に学校に行く日だ。年末年始食っては寝ての繰り返しで流石に体力が落ちていた。でも、歩きで25分の登下校はかなりの運動だ。また、運動たくさんしなきゃ(笑)。そして、久しぶりに彼と会える。夏氣に。いつもの道通っているとやっぱり左から夏氣が来た。
「おはよ〜!」と声を掛けると、「おはよ〜。」と返してくれた。…おかしい。何かがおかしい。そんな気がした。だから、その日は夏氣を観察してみた。すると、時々背中に手を伸ばそうとする意志があるような行動が一瞬だけだがあった。話しかけても元気がなく、会話が長続きしない。今朝のおかしい点はこれだと気づいた。聞いても「大丈夫。」としか言わない彼を見てなんだか深堀りできなかった。
ある日の晩、1週間前から夏氣が来ないのを不審に思い、インターネットで「背中」「強い痛み」「時々」で調べると見たくはないワードが飛び込んできた。「膵臓癌」…。まさか、これ?考えたくない。こんなこと。膵臓癌は、がんの中では最強ぐらいの強さだ。見つけるのが大変で、かつ、進行が早い。つまりこれ以上の脅威はないのだ。考えたくなくてパソコンを閉じ、眠りのつこうとした。でも眠れない。とりあえず、眠ろうと目をつぶっていたら不意に夢の世界へ落ちた。自分で夢とわかる…「明晰夢」か。目を開けてみると、誰かわからない老人の姿があった。不意に周りを見渡すと鏡があり、それを見て驚愕した。「私」じゃない!誰だ?考えながら「自分」を見てみる。するとすぐに分かった。(ああ、お母さんだ。)そう、「自分」と私の顔がそっくりだった。おそらくお母さんが小さい頃の記憶のようなもの?かな。すると、もしかして目の前の老人ってまさか「k…」
「ミサキ聞きなさい。」
老人が言ってきた。ミサキ?ああ、お母さんの名前だ。漢字は確か「水崎」。
「あなたの大切だと思っている人が今、大変な状態だ。一刻も早く行きなさい。水崎…ではないな。もうこう呼ぶのはやめよう。水崎の娘、つまりわしの孫、〇〇。」
「ああ、やっぱり、小杉おじいちゃん。あなたなんですね。」
不思議と声が出た。自分でもびっくりした。明晰夢は何回か見たことがある。けれどもこんなにリアルなのは初めてだ。
「ああ、そうだ。わしの名字は小杉。お前の旧姓じゃ。だからわかったんだろう?」
「はい。だけど、小杉おじいちゃん。さっき言っていたことは本当のことですか?。」
「そうだ。急げ。急がんと取り返しのつかないことになるぞ。わかったな?」
「はい。わかっています!」
「---------そうか。行って来い!。」
いつの間にか朝になっている。本当の夢だったようだ。今日は木曜日。平日だが行く場所がある。いかないと。
------------彼の家、橋本家に。---------------------
お母さんはまだ起きておらず、書き置きを残して家を出た。彼の家はどこかわかっている。そこへ行ったら何が起きていたのかがわかるはずだ。「とりあえず急がないと。」その一心だけで急いで彼の家へ向かった。つくと、インターホンを鳴らしたが誰も出てこない。もう一回押す。出てこない。ドアを引いてみる。開いていた。中からは変な匂いが。急いで2階へ上がる。ニオイのもとへ。ドアを開ける。そこに彼がいた。ただし、様子が変だった。確認すると意識がなかった。すぐに救急車を呼ぶ。そして、気づく。机の上に大量の薬。その瓶を見る。「血糖降下剤」そう書かれていた。それは私の顔を青ざめさせた。「血糖降下剤」…それは、糖尿病患者が飲む薬で、糖尿病患者が飲むと異常がないが、健常者が飲むと血糖値が下がり貧血起こしたり、最悪の場合死に至る最悪の薬。まさか自殺!?。そう思って焦っていたはずが心は冷静だった。砂糖を20㌘飲ませ、清涼飲料水を175ミリリットル飲ませ、応急処置をしたあと、周りの部屋を覗き、確認をすると、彼の父と母も倒れていた。机の上に血糖降下剤…。一家心中か。それも、状態を見るとご両親は亡くなられている。彼は、望んでいなかったのかも知れない。とりあえず脈を取り、死亡を確認した。そして、彼の部屋へ戻り応急処置を施し、救急車のサイレンが聞こえてきて、家の前へ出て誘導したあと、彼は運ばれていった。よほど大量に飲んだらしく、応急処置をしたが、あまり効果が出ていないという。彼の無事を祈り、事情聴取に協力し、すべてのことを話した。
夢で危ないことを知った。私の正夢はほとんど当たる。おそらく橋本家は一家心中をしようとしていた。ただ、部屋の感じや、様子から見て、おそらく彼は望んでいなかったということまですべて話し、家へ帰れたのは朝10時頃だった。家を出たのは朝5時頃だったので、もう5時間も経っていたのだなと思っていた。恐ろしいほど冷静だった。自分でも怖い。自分が怖い。家へ変えるとものすごく心配された。そして、前を向いて、今日を過ごしなさい。そう言われた。言われた通り前を向きながら過ごしていたが、やはり彼のことばかり考えてしまう。とても、とても悔しい。彼の家族全員を守れなかったことが。とても、とても悔しい、悲しい、そして怖い。自分が怖い。なんなんだろうか。自分は一体何なんだろうか?そんな疑問だけが私の胸に残っていた…。
思いがけないある日
ある日、彼の家へ行かせてもらった。事件後そのままでとても嫌な思い出をフラッシュバックさせてきた…。でも、探す。手がかりを。そして、彼のベッドを見ると、一通の手紙が置いてあった。「〇〇へ」と書かれている。そういえば、救急隊員が「〇〇へ」と書かれた手紙があったと言っていた気がする。読んでみる。
「これを解けばわかる。すべてが解いてくれ。頼む…。」
から始まる文章を見てただ事ではないと感じた。すぐ続きを読む。そして、謎解きを開始する。私の脳をフル起動させて。
「H+Nd+Rf=x Ag=47」
なんだこれは、と思い、脳をフル回転させてみる。まさかと思い、調べてみる。やはりそうだった。答えは
「165」だ!
この問題の答えはすべて原子番号だった。
Hは水素の英語「hydrogen」の頭文字H、NdはネオジムのNb、Rfは、ラザフォルニウムのRfで、それぞれ原子番号は、水素「1」、ネオジムは「60」、ラザフォルニウムは「104」となる。それぞれを足すと165となる。だが、何のことだろうか?この暗号は。周りを見渡してみる。するとそこには厳重な金庫があった。これの開け方だと気づいた私は、「165」とダイヤルを回すと、開いた。ビンゴだった。すると出てきたのは紙で、意味不明な言葉ばかり書かれてあった。
「た。け、れ、て、に、の、ん、う、さ」
どういう意味なのだろう。彼が出す問題はマニアックで分かりづらい。考えてみると、1つのことが浮かんだ。
(まさか、「換字式暗号表」!?)
換字式暗号表とは戦時中に情報を隠すために使われたとされる伝達方法の一種だったもののことだ。しかし、弱点として、解読されるとすべてが筒抜けになることだ。彼の換字式暗号表はおそらく彼の思考的に彼の好きなもの。彼の好きなものは暗号。なので、暗号系になっていると思われる。そこから考えるにいつも出してくれていた問題の中で一番多かった暗号系は…。
(「アナグラム」だ!)
アナグラムとは、一種の暗号で、文字を入れ替えることで別の意味の単語になるという暗号である。彼の文は意味が作られていないが、おそらくアナグラムの一種だろう。入れ替えると、
「てんのうにけされた。」
そう読めた。確かの彼の父は政治家で、現代新選組のリーダーとして反対運動を続けていた。ということは、天皇に恨まれ、消されたと言う捉え方でいいのだろう。これを伝えないといけないが、おそらく、信じる人はだれもいないだろう。ならば信じてくれそうな人を探すしかない。ならば、信じてくれそうな人はあの人達しかいない。
「現代新選組」のみなさんだ!
天皇を裁きに
そして、次の土曜日、現代新選組の事務所へと足を運んだ。電話番号を知らなかったので、手探りで探すしかないが、意外と短期間で見つけられた。入ると、有名な政治家の方々がいっぱいお見えになっていた。そこで、現代新選組の皆さんへ、ここ、2週間程度のことをすべて話した。現代新選組のリーダー、橋本大輔が死んだ…いや殺されたこと、一家心中のふりをさせて殺そうとしたということ。暗号を残しており、解読したら「てんのうにけされた。」と書かれていたことなどすべてを隅々まで話した。現代新選組の方や有名な政治家のみなさんも真剣に話を聞いてくれていた。その中には、
「リーダーはとてもいい人だった。絶対に許せない。」と、聞いて5分ぐらいで仲間になってくれた人がいた。こんな人達に囲まれている自分が幸せに思えた。
でも、どうやって天皇を崩すか、という作戦会議が行われた。皆で案を出していると、1つの案を思いついた。それを皆に共有し、実行を決めた。日にちは2週間後…。さあ、天皇を裁きへの準備だ。
2週間後。実行の日がやってきた。実行の日は、天皇の誕生パーティーが行われており、そこに潜入した。ここで、1つ目の作戦を実行に移した。天皇へ現代新選組の女性を寝返りすると天皇へ言わせに行く。そして、嘘の情報を流し警戒心を揺さぶる。そして、たくさんの嘘の情報を流し警戒心が強くなり、違う部屋へ行こうとしていたのでそこへついていく。ここで、2つ目の作戦を実行に移す。その別の部屋には現代新選組の皆さんが集まっている。そして、後ろからついてきた私がドアを閉め、密室状態にする。そして、まんまとはまり戸惑っている天皇にすべてを説明する。
「貴方が私の大切な人のことを、家族ごと消そうとしたというダイイングメッセージを受け取りました。なので、本当かどうか尋問するためにここへ誘い出せるよう、「空城の計」をしました。その空城の計に貴方はまんまとハマったというわけです。」
「空城の計」とは、三国志などで使われていた、警戒心をわざと誘うように、わざと城に誰もいないように見せるという戦法から来た言葉で、敵の警戒心を誘うためにわざと大胆なことをし、警戒したことをうまく利用することなどを表します。なので、わたしたちは、それをうまく使い、密室へおびき出したということです。
「私は何もしていない。ただの人違いではないのだろうか?」
天皇が言い逃れしようとしていますが、実はもう私は証拠を握っています。テープレコーダーを出し再生すると、
「現代新選組の橋本は馬鹿だ!私を敵に回さずに、さっさと天皇の下で働いていればよかったものを。馬鹿な男だ。現代新選組なんて作らなければ死ななかったのにな。ハハハハハハハ。」
という天皇の声とともに、パソコンをビデオに繋げると、パワハラをしている動画や、無理難題な仕事を押し付けたり好き勝手している様子が流れていました。天皇も口をあんぐりとあけて固まるしかありません。そして、外で待っておいてもらった警察に合図を出して、警察が突入すると天皇は連行されていきました。
その後、天皇は、有罪判決がくだされ、無期懲役刑を言い渡されました。そしてわたしたちは、警察の方に乱暴な罪の暴き方だ、と軽いお叱りを受け自体は収束しました。しかし、こんな軽い終わり方で、いいのでしょうか?時々そう思うのですが、大きな重大事件のあと、犯人が逮捕され、事態が収束したと言われても、遺族の方や親しい関係の友人などの人は、とても悲しみ、しばらく立ち直れない人も多くはありません。なので、こんな軽い終わり方で終わって本当に良いのでしょうか?私たちはずっと母国への感謝とともに、疑問を投げかけているのではないでしょうか?その疑問を解決に向かわせるのが私達市民の仕事でもあり、国全体の仕事だと思うのです。
新しい季節が始まろうとしている。
「これが私の書いた小説なんだ。デビュー作なんだよ。だからさ〜早く起きて話をしようよ。」
あの事件から1ヶ月がたった。この1ヶ月で、今まで起きたことのほとんどすべてを書いたこの作品、「僕達の物語」は半月でまさかのバク売れを記録し、半月で10万部という驚異の数字を叩き出した。作者が私の作品を書こうとして相談しても「無理だ」とか「これはだめだよ」とはねつけられても、諦めず頑張って作成した。でも、笑われたとしても、バカにされても、自分の思う道を一歩一歩でいいから歩むのが私達の本当の望むことなのではないでしょうか?もし違ったとしても、また同じように一歩一歩でいいから歩むのが最適解だと私は思うのです。ねえ、夏氣。貴方は頑張って私に伝えてくれたんだよね。私は今こうやって昏睡状態の貴方に話しかけているのは、あなたに恩を感じてるからなんだ。貴方が私を救ってくれたから。助けてくれたから、今の私があります。「ありがとう」の言葉だけじゃ足りないけれど、「ありがとう」しか言えることがないから貴方に伝わってほしいという願いでこのことをあなたに伝えています。もし、貴方がここで向こう岸まで行ってしまうのなら、私はそちらへ渡れるようになるために努力をして必ず貴方のところへ行きます。絶対に。もしそうなったら少しのお別れです。「だから、早く、早く返答をしてよ!」つい、私の口から大声が出てしまっていた。でも、大声が出てしまってよかったのかも知れない。一瞬だけだけど、動いたんだ。彼の指が。「えっ!?」と驚く私を見つめているのは、いつもの彼の優しい瞳。まだ、こちら側の岸にいるよ。と言っているかのように真っ直ぐな瞳。
ああ、帰ってきてくれたんだってわかった。その瞬間凄い感情が溢れ出してきて、まるでドラマが終わってなかったかのように、奇跡が起きるんだと、本当に返答をしてくれたのだと、それを思うと、どうしても、どうしても涙が止まらなくて、でも泣き顔は見せたくなくて、顔を覆っていたら聞こえてくる貴方の声。
「ただいま。」「おかえり。」その言い合いだけで本当に幸せなもんだな。そして、貴方に伝えること、そしてどうしてもすぐ返答が欲しいもの。
「大好きです。ずっとそばにいてください。」
ほら、あなたがほのかな歌声で綴るよ、返答を。
「はい、お願いします。そして、僕も大好きです。」
「おかえり、夏氣。」「ただいま、夏美」
こうして、私、花枝夏美の冒険記は、終わりのセラフと一緒に終わった。
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