大変恐縮ながら、絶対前線には出ません!!
何やら物騒で豪奢な扉の前に出る。シャオロンが此処が会議室だと説明してくれた。引き摺られるのは痛かったので途中から普通に歩いて会議室へ向かったが、服が汚れた。自由になったら埃や土を叩こう。
呑気に考えているとシャオロンはノックをして会議室に入り、「連れてきたよ」と言った。ゾム達もそれと同じくらいのタイミングで到着し、私を残して椅子に座る。私はただ入り口付近に立ち尽くし、会議室の椅子が満席になるのを待った。しかし満席にならず、一番上座に座ったリーダー格の男が喋り出した。
「では、何が起きたか説明してもらおうか」
神の男が立ち上がり、私の知らない出来事、彼の視点から見た世界を語り出す。まず私があの部屋ーー医務室らしいと今更気付いたーーのベッドに転がっていたところから話を始める。
一年前、世紀末を呼ぶ戦争と呼ばれた大戦にて勝利を収めた代償としてか私は、というより大戦で負傷し、寝ていただけである。
それが今日、私の身体が微かに動いたことから一番よく私の様子を見にきているゾムが大きな声で声を掛け、私が目を覚まし、何故かそのゾムの首を締め始めたという話だ。彼は一時的なパニック症状であれば良い、と付け足し着席した。
次に、私に質問がやってきた。上座の男は血に染まったような緋色の瞳を私に向けて、瞳で孕んだ鋭い光を私へ飛ばした。怖い、と純粋な畏怖が頭を占める。
「何故ゾムを襲った?」
私は至って平然を装い、自身の世界の話をした。気が付いたら彼処にいて、目の前にゾムがいて、そこに首があったから絞めたのだと。嘘偽り無く真実を語った。
「つまり、お前には記憶が無いという事か?」
「恐らく。私は貴方達の顔に覚えはありませんし、目が覚める前自分が何をしていたのかも何者だったのかも判りません。私は自分の置かれた、よく判らないこの状況が怖いです。今迄の会話で、自分が○○という名前であるという事だけは知りました」
「○○というのは本名というわけでもないが……まあ良い。そうか。そして衝動でゾムの首を絞めたと」
「はい。なんとなく、何も考えず目の前にあった首を絞めました。すいません、ゾムさん」
ゾムは気まず気な顔をして、小さく頭を下げる。再び沈黙が訪れ、グルッペンが隣の席にいる豚面の男と話した後、結論を出した。
「まあ、無罪放免で良いだろう。ただし暫く謹慎とし、自室で過ごしてもらう。お前が何者かについては、そうだな。オスマン、しんぺい神。お前らが○○の部屋へ通って話をしろ」
「ハイル・グルッペン」
「ハイル・グルッペン」
指名された神とヘンな緑色の服装をした男はびし、と立ち上がり、何だか耳に残る挨拶をして再び着席した。ハイル、というのはナチ政権のヒトラーのときの合言葉ではなかったろうか。
ではグルッペンというのは上座に座る男の呼称なのだろう。
豚面の男が手をパンっ、と叩けば解散の合図だったらしい。思い思いに会議室に居た面々は退出して行った。
シャオロンが自身に寄ってきて、口を開く。
「部屋まで案内するわ」
「ありがとうございます」
「敬語じゃなくてええよ」
「ん、ありがと」
私の行動を制限する縄を解いたシャオロンは、微笑んで部屋まで案内してくれる。この施設は随分と大きいようだ。医務室から会議室へと向かうにも時間がかかったというのに、生活棟というのは医務室とは全く別方向、それも中々の時間を要して到着する場所にあった。
部屋に着けば鍵が無いことに慌て、あとから走っておってきた動けるデブであり豚面のーートントンが救世主のように颯爽とーーあっつ、という風に豚面を脱いで汗を拭きながら登場して、鍵を手渡してくれたので着ぐるみは大変なんだな、と思いながらお礼を言った。
「動けるデブだ……」
「ああん?」
つい溢してしまった言葉に、何が腹立たしかったのかトントンがガラ悪めに怒る。とはいえ直ぐに笑って、手を振って去って行った。
「んじゃ俺も部屋戻るわ。あとでぺしん達来るんやないかな」
「ありがと、シャオ」
「シャオてwwお前視点俺初めましてやろ。もしや陽キャかお前」
「シャオが陰キャなんだよ知らんけど。……まあ、自分的に一番その呼び方がしっくりきただけだよ」
「そ。……まあええわ。またな」
「うん、またねシャオ」
挨拶を交わし、部屋に入る。随分と女の子らしい、可愛らしい部屋だ。住めば都以前に、気に入った。だからかその部屋で自分が生活しているとなっても大して違和感はなかった。
部屋についている窓から外を見る。窓を開けて外に顔を出すと、真上で太陽が微笑んでいて昼時だということがわかった。一年部屋を使っていなかったらしいのに埃一つ無い。後から分かったことだが、それは時間を止める魔法を部屋にかけていたかららしい。魔法の残穢を発見したのだ。
こんこん、パステルカラーのピンクの丸い木の扉が軽やかな音を立てる。開けたとき随分と厚く音を通さなそうな扉だと驚いていたのだが、ノックだけはよく聞こえるような魔法でもかかっているのだろうか。
きなり色の単調なかカーペットをぽすぽすと踏み、ドアと同じ色に塗装された木枠の窓から離れ、控えめな金色のドアノブに手を掛け、力を加える。
「お邪魔するわ。一年何も食べとらんやろ?しかも丁度お昼時やし、どや?」
「お昼一緒に食べながら話さん?」
「お邪魔するんなら帰って下さい。お昼大賛成ですありがとうございます!!」
部屋の隅に置かれた真っ白な白樺調の丸い机に同じく真っ白い椅子を三脚用意し、窓の近くに並べる。
しんぺい神は部屋に入って持ってきた籠を机に置く。
「サンドウィッチにしといてよかったわ。この雰囲気の部屋で肉とかラーメンとか似合わな過ぎるから」
「まあパンかフルーツにはなったよどちらにしろ。寝起きに重いもの食べさせるのも酷だし」
「嗚呼……w」
オスマンが籠から赤と白のチェックのテーブル掛けをとりだし、机にばさりと掛けた。その後手際よく紙皿を用意し、タッパーに入ったサンドウィッチ達を取り出し分けていった。籠からオレンジ色の綺麗なジャムを取り出す。オレンジのマーマレードらしい。食べた記憶は無いというのに、口の中には唾液が溜まった。
「いただきます」
3人で手を合わせて食べ始める。お茶も可愛いティーカップにオスマンがアールグレイを淹れてくれた。柑橘のような何処か酸味があって美味しい。
コネシマは怪我して寝込んで起きたらリンゴジュースも飲むのに苦労してたんやで、なんて話をしつつ、改めて自己紹介をした。
しんぺい神からこの世界について説明をされる。
この世界には魔法があって、魔法を使える者を魔法使いという。私が居るこの国は魔法使いの数が少なく、魔法使いは重宝される。基本徴兵される。
魔法使いの数が少ないとはいえ、精鋭は中々多く、その代表がこの国の幹部達らしい。私もその一員だそうだ。
しかし、この国は魔法よりも科学に栄えている。魔法なんてオマケで、最も発展しているのは圧倒的に科学だ。科学に於いてこの国の右に出る国はそういない。なんでも、薬理凶国を負かし、取り込んだことによりその勢いは更に増したのだそう。
それと同時にこの国は戦争大国であり、一年前、大戦があり、世界は焼け野原となった。それほど大きな戦争を勝ち残った我が国の勢力は世界の3分の1程を占めており、同盟国を含めてしまえばもっと国の影響力は計り知れないものになるだろうということだ。
大戦で私は重要な役目、敵対国の魔法を使うのに必須の“核”の破壊を担っていた。それ自体は無事達成され、やんごとない戦果を得たわけだが、いかんせん身体が弱く、持病持ちであった自分は日々の無理も祟って、勝利の安堵感に後押しをされて長い眠りについたらしかった。
呑気に考えているとシャオロンはノックをして会議室に入り、「連れてきたよ」と言った。ゾム達もそれと同じくらいのタイミングで到着し、私を残して椅子に座る。私はただ入り口付近に立ち尽くし、会議室の椅子が満席になるのを待った。しかし満席にならず、一番上座に座ったリーダー格の男が喋り出した。
「では、何が起きたか説明してもらおうか」
神の男が立ち上がり、私の知らない出来事、彼の視点から見た世界を語り出す。まず私があの部屋ーー医務室らしいと今更気付いたーーのベッドに転がっていたところから話を始める。
一年前、世紀末を呼ぶ戦争と呼ばれた大戦にて勝利を収めた代償としてか私は、というより大戦で負傷し、寝ていただけである。
それが今日、私の身体が微かに動いたことから一番よく私の様子を見にきているゾムが大きな声で声を掛け、私が目を覚まし、何故かそのゾムの首を締め始めたという話だ。彼は一時的なパニック症状であれば良い、と付け足し着席した。
次に、私に質問がやってきた。上座の男は血に染まったような緋色の瞳を私に向けて、瞳で孕んだ鋭い光を私へ飛ばした。怖い、と純粋な畏怖が頭を占める。
「何故ゾムを襲った?」
私は至って平然を装い、自身の世界の話をした。気が付いたら彼処にいて、目の前にゾムがいて、そこに首があったから絞めたのだと。嘘偽り無く真実を語った。
「つまり、お前には記憶が無いという事か?」
「恐らく。私は貴方達の顔に覚えはありませんし、目が覚める前自分が何をしていたのかも何者だったのかも判りません。私は自分の置かれた、よく判らないこの状況が怖いです。今迄の会話で、自分が○○という名前であるという事だけは知りました」
「○○というのは本名というわけでもないが……まあ良い。そうか。そして衝動でゾムの首を絞めたと」
「はい。なんとなく、何も考えず目の前にあった首を絞めました。すいません、ゾムさん」
ゾムは気まず気な顔をして、小さく頭を下げる。再び沈黙が訪れ、グルッペンが隣の席にいる豚面の男と話した後、結論を出した。
「まあ、無罪放免で良いだろう。ただし暫く謹慎とし、自室で過ごしてもらう。お前が何者かについては、そうだな。オスマン、しんぺい神。お前らが○○の部屋へ通って話をしろ」
「ハイル・グルッペン」
「ハイル・グルッペン」
指名された神とヘンな緑色の服装をした男はびし、と立ち上がり、何だか耳に残る挨拶をして再び着席した。ハイル、というのはナチ政権のヒトラーのときの合言葉ではなかったろうか。
ではグルッペンというのは上座に座る男の呼称なのだろう。
豚面の男が手をパンっ、と叩けば解散の合図だったらしい。思い思いに会議室に居た面々は退出して行った。
シャオロンが自身に寄ってきて、口を開く。
「部屋まで案内するわ」
「ありがとうございます」
「敬語じゃなくてええよ」
「ん、ありがと」
私の行動を制限する縄を解いたシャオロンは、微笑んで部屋まで案内してくれる。この施設は随分と大きいようだ。医務室から会議室へと向かうにも時間がかかったというのに、生活棟というのは医務室とは全く別方向、それも中々の時間を要して到着する場所にあった。
部屋に着けば鍵が無いことに慌て、あとから走っておってきた動けるデブであり豚面のーートントンが救世主のように颯爽とーーあっつ、という風に豚面を脱いで汗を拭きながら登場して、鍵を手渡してくれたので着ぐるみは大変なんだな、と思いながらお礼を言った。
「動けるデブだ……」
「ああん?」
つい溢してしまった言葉に、何が腹立たしかったのかトントンがガラ悪めに怒る。とはいえ直ぐに笑って、手を振って去って行った。
「んじゃ俺も部屋戻るわ。あとでぺしん達来るんやないかな」
「ありがと、シャオ」
「シャオてwwお前視点俺初めましてやろ。もしや陽キャかお前」
「シャオが陰キャなんだよ知らんけど。……まあ、自分的に一番その呼び方がしっくりきただけだよ」
「そ。……まあええわ。またな」
「うん、またねシャオ」
挨拶を交わし、部屋に入る。随分と女の子らしい、可愛らしい部屋だ。住めば都以前に、気に入った。だからかその部屋で自分が生活しているとなっても大して違和感はなかった。
部屋についている窓から外を見る。窓を開けて外に顔を出すと、真上で太陽が微笑んでいて昼時だということがわかった。一年部屋を使っていなかったらしいのに埃一つ無い。後から分かったことだが、それは時間を止める魔法を部屋にかけていたかららしい。魔法の残穢を発見したのだ。
こんこん、パステルカラーのピンクの丸い木の扉が軽やかな音を立てる。開けたとき随分と厚く音を通さなそうな扉だと驚いていたのだが、ノックだけはよく聞こえるような魔法でもかかっているのだろうか。
きなり色の単調なかカーペットをぽすぽすと踏み、ドアと同じ色に塗装された木枠の窓から離れ、控えめな金色のドアノブに手を掛け、力を加える。
「お邪魔するわ。一年何も食べとらんやろ?しかも丁度お昼時やし、どや?」
「お昼一緒に食べながら話さん?」
「お邪魔するんなら帰って下さい。お昼大賛成ですありがとうございます!!」
部屋の隅に置かれた真っ白な白樺調の丸い机に同じく真っ白い椅子を三脚用意し、窓の近くに並べる。
しんぺい神は部屋に入って持ってきた籠を机に置く。
「サンドウィッチにしといてよかったわ。この雰囲気の部屋で肉とかラーメンとか似合わな過ぎるから」
「まあパンかフルーツにはなったよどちらにしろ。寝起きに重いもの食べさせるのも酷だし」
「嗚呼……w」
オスマンが籠から赤と白のチェックのテーブル掛けをとりだし、机にばさりと掛けた。その後手際よく紙皿を用意し、タッパーに入ったサンドウィッチ達を取り出し分けていった。籠からオレンジ色の綺麗なジャムを取り出す。オレンジのマーマレードらしい。食べた記憶は無いというのに、口の中には唾液が溜まった。
「いただきます」
3人で手を合わせて食べ始める。お茶も可愛いティーカップにオスマンがアールグレイを淹れてくれた。柑橘のような何処か酸味があって美味しい。
コネシマは怪我して寝込んで起きたらリンゴジュースも飲むのに苦労してたんやで、なんて話をしつつ、改めて自己紹介をした。
しんぺい神からこの世界について説明をされる。
この世界には魔法があって、魔法を使える者を魔法使いという。私が居るこの国は魔法使いの数が少なく、魔法使いは重宝される。基本徴兵される。
魔法使いの数が少ないとはいえ、精鋭は中々多く、その代表がこの国の幹部達らしい。私もその一員だそうだ。
しかし、この国は魔法よりも科学に栄えている。魔法なんてオマケで、最も発展しているのは圧倒的に科学だ。科学に於いてこの国の右に出る国はそういない。なんでも、薬理凶国を負かし、取り込んだことによりその勢いは更に増したのだそう。
それと同時にこの国は戦争大国であり、一年前、大戦があり、世界は焼け野原となった。それほど大きな戦争を勝ち残った我が国の勢力は世界の3分の1程を占めており、同盟国を含めてしまえばもっと国の影響力は計り知れないものになるだろうということだ。
大戦で私は重要な役目、敵対国の魔法を使うのに必須の“核”の破壊を担っていた。それ自体は無事達成され、やんごとない戦果を得たわけだが、いかんせん身体が弱く、持病持ちであった自分は日々の無理も祟って、勝利の安堵感に後押しをされて長い眠りについたらしかった。
このボタンは廃止予定です