悪人の正義〜井手畑物語〜
今思えば長浜に居た頃は平和だった、と8歳になった喜平太は槍を振りながら思った。ここは、賤ヶ岳。向こうの山には、総大将の[漢字]柴田勝家[/漢字][ふりがな]しばたかついえ[/ふりがな]がいるはずだ。だが今は、油断していた[漢字]佐久間盛政[/漢字][ふりがな]さくまもりまさ[/ふりがな]を美濃大返しで奇襲し、攻撃しているところだ。だが、[漢字]鬼玄蕃[/漢字][ふりがな]おにげんば[/ふりがな]と呼ばれるだけの猛将。なかなか強く、戦は激化していた。
1852年、本能寺の変で殿(秀吉)の主君である織田信長が倒れた。天下の織田家だったので、その後継者などをめぐって清洲会議で織田家筆頭家老の柴田勝家と羽柴秀吉は激しく対立し、一度は矛を収めたものの、遂にはこのような戦まで起こってしまった。
「佐久間盛政ではなく、標的を[漢字]柴田勝政[/漢字][ふりがな]しばたかつまさ[/ふりがな]にする」
と、秀吉から下知がくだった。喜平太たち最前線は敵兵に追いかけられながら、下がっていく。そして、本陣へ戻ったところで柴田勝政の陣へ突撃した。
「おらああ!!!」
柴田勝政軍と秀吉軍が激突した。さらにそこへ、佐久間盛政軍が乱入してきた。もう、手のつけられないほどの大激戦になり、あちこちに死体が転がっている。喜平太は、不思議だなあ、と思いながら槍をふっている。慣れというのは怖いもので、初めは直視できなかった死体も、今では気にすることがなくなった。
ついて、かわして、振り回して、槍を器用に扱って敵をなぎ倒していく。もう、人を殺すことに怖さも、疑問もなかった。
無心で槍を振り回していたとき、突然、向こうの山で戦況を傍観していた[漢字]前田利家[/漢字][ふりがな]まえだとしいえ[/ふりがな]が戦闘離脱した。勝家は部下に裏切られたのだ。それがきっかけとなって逃げ出すものがでたり、同じく戦闘離脱する部隊があり、敵は総崩れ。勝家は自身の居城である、[漢字]北ノ庄城[/漢字][ふりがな]きたのしょうじょう[/ふりがな]に敗走。こうして、秀吉は後に賤ケ岳の戦いと呼ばるこの戦いで、勝利を収めたのだった。
そして、2日後。裏切った前田利家を先鋒に、勝家が立て籠もる北ノ庄城を包囲、攻撃を仕掛けた。必死の抵抗もあえなく、次々に味方の手に落ちていく。日も陰り始め、もう少しで天守も落とせる、と思った時だった。ボウっと、天守から炎が上がった。勝った、合図だった。喜平太は戦が終わったことにホッとして、燃えている天守を振り返る。薄暗くなった空に赤々と照らして、それがどこか悲しげだったことを、これから、約20年先の関ヶ原でも、覚えていた。
1852年、本能寺の変で殿(秀吉)の主君である織田信長が倒れた。天下の織田家だったので、その後継者などをめぐって清洲会議で織田家筆頭家老の柴田勝家と羽柴秀吉は激しく対立し、一度は矛を収めたものの、遂にはこのような戦まで起こってしまった。
「佐久間盛政ではなく、標的を[漢字]柴田勝政[/漢字][ふりがな]しばたかつまさ[/ふりがな]にする」
と、秀吉から下知がくだった。喜平太たち最前線は敵兵に追いかけられながら、下がっていく。そして、本陣へ戻ったところで柴田勝政の陣へ突撃した。
「おらああ!!!」
柴田勝政軍と秀吉軍が激突した。さらにそこへ、佐久間盛政軍が乱入してきた。もう、手のつけられないほどの大激戦になり、あちこちに死体が転がっている。喜平太は、不思議だなあ、と思いながら槍をふっている。慣れというのは怖いもので、初めは直視できなかった死体も、今では気にすることがなくなった。
ついて、かわして、振り回して、槍を器用に扱って敵をなぎ倒していく。もう、人を殺すことに怖さも、疑問もなかった。
無心で槍を振り回していたとき、突然、向こうの山で戦況を傍観していた[漢字]前田利家[/漢字][ふりがな]まえだとしいえ[/ふりがな]が戦闘離脱した。勝家は部下に裏切られたのだ。それがきっかけとなって逃げ出すものがでたり、同じく戦闘離脱する部隊があり、敵は総崩れ。勝家は自身の居城である、[漢字]北ノ庄城[/漢字][ふりがな]きたのしょうじょう[/ふりがな]に敗走。こうして、秀吉は後に賤ケ岳の戦いと呼ばるこの戦いで、勝利を収めたのだった。
そして、2日後。裏切った前田利家を先鋒に、勝家が立て籠もる北ノ庄城を包囲、攻撃を仕掛けた。必死の抵抗もあえなく、次々に味方の手に落ちていく。日も陰り始め、もう少しで天守も落とせる、と思った時だった。ボウっと、天守から炎が上がった。勝った、合図だった。喜平太は戦が終わったことにホッとして、燃えている天守を振り返る。薄暗くなった空に赤々と照らして、それがどこか悲しげだったことを、これから、約20年先の関ヶ原でも、覚えていた。