本望。
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本望。
あの人は水平線のどこかに消えた。
その後、二度と帰ってこなかった。
「海を駆け抜け、世界を旅するのが俺の夢」が口癖だった。
客船に乗った、戦士でも何でもない普通の船乗りだった。
いつかだろうか。二人で船に乗ろうと言った。
私は船に乗ったことが無かった。
戦争が始まった。
あの人の船は、徴用されて地獄の海を渡った。
私はきっと帰ると思っていた。
ある日の新聞を見た時、私は驚愕し、呆然とした。
一面に、あの人の船が魚雷攻撃で沈んだことが記されていた。
それでも生きて帰って来ると思った。
すぐに郵便局の人が来て、遺書を渡してきた。
雨が降った。雨がその新聞を濡らし、インクが染み出て、手を黒く染めた。
涙も雨も癒えぬ気持ちを濡らしただけ。
船と共にあの人も、あの思いも、沈んだ。
私は、あの海を恨んだ。
誰かが
「好きな船と沈んだんなら本望だろう。」
と言ってきた。
果たしてそれは彼の本望なのだろうか?
戦争は終わるも、私の気持ちは癒えない。
周りは、帰ってきた兵士を歓喜で出迎えた。
でもそこにはあなたの姿は無い。
私は、その嬉しそうな皆の姿にも引きちぎられた。
これもあなたの本望だったの?
その後、二度と帰ってこなかった。
「海を駆け抜け、世界を旅するのが俺の夢」が口癖だった。
客船に乗った、戦士でも何でもない普通の船乗りだった。
いつかだろうか。二人で船に乗ろうと言った。
私は船に乗ったことが無かった。
戦争が始まった。
あの人の船は、徴用されて地獄の海を渡った。
私はきっと帰ると思っていた。
ある日の新聞を見た時、私は驚愕し、呆然とした。
一面に、あの人の船が魚雷攻撃で沈んだことが記されていた。
それでも生きて帰って来ると思った。
すぐに郵便局の人が来て、遺書を渡してきた。
雨が降った。雨がその新聞を濡らし、インクが染み出て、手を黒く染めた。
涙も雨も癒えぬ気持ちを濡らしただけ。
船と共にあの人も、あの思いも、沈んだ。
私は、あの海を恨んだ。
誰かが
「好きな船と沈んだんなら本望だろう。」
と言ってきた。
果たしてそれは彼の本望なのだろうか?
戦争は終わるも、私の気持ちは癒えない。
周りは、帰ってきた兵士を歓喜で出迎えた。
でもそこにはあなたの姿は無い。
私は、その嬉しそうな皆の姿にも引きちぎられた。
これもあなたの本望だったの?
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