これぞ青春(?)
五人の年頃の少女、バカでかい学園、寮ぐらし。
「いや、せっっっまっ! きっっったねっ!」
あと劣悪な生活環境。
生活環境さえ良ければ素晴らしい青春時代の幕開けだったが────。
二人がバカやったので五人の学園生活はお先真っ暗。
「おい枝毛、もっとそっちいけるだろ」
「いやいやいや、そっちこそぉ」
「ふぁばばべっべふっ」
「それはしゃっくりです?」
「いやげっぷ」
「あれなんか4人しかいなくね?」
「いやいや、あたしには声が5人分聞こえるよぉお」
「きっとどこかのだれかさんがけはいうすいんだよ」
「ぐhaっ」
「ふぁぶぅ」
小さなつくえのまわりをぐるっと囲んで体育座りの少女たち。
なんかこれはもう距離感が部屋というかこたつのなかである。
こちら、さきほど爆散したとなり部屋の、中庭を挟んだ向かい側のぐねぐねした廊下を右左右と曲がった突き当たりの部屋である。そのぐねぐねして先の見えない廊下は不安と絶望を感じさせる。
どうやら歴史の授業のための防空壕とやらを模して作ったようだ。
窓がない。暗い。狭い。あと臭い。
床と壁には土色の木が張られているが、天井は土。たまに土がパラパラと舞い落ちてくる。家具は小さな机とその上にあるろうそくいっぽん。
ベッドなし。え?
まあ、部屋の扉にはきちんと
『⭐️⭐️⭐️防空壕⭐️⭐️⭐️上限3人だよ⭐️』
とかいてあるのだが、そんなことお構いなしにぺっと放り出された5人ぐみ。ミナサンハチャントジョウゲンマモリマショーネー。
ちなみに他の先輩方にこの部屋のことを聞くと、
「うっ、ごめんなさい、もう思い出したくもないの。うぅっ」
とか、
「あそこは記憶に残しておかないほうがいい、忘れるんだ!」
とか、
「あぁ……あの授業な……先生が忙しいと『歴史を味わうがいい』て突っ込まれるんだよな……」
「そして先生の記憶に私たちが戻ってくるまで置いてけぼr……」
「うっ……思い出すと吐き気が……」
……とかが返ってくる。
きっと、『先生が忙しい』は校長室にりんごじゅーすこぼしちゃったとか、そういうのだったのだろう。
どうにもこの学園の先生たちは注意力に欠けているらしい。
「……われ、てんじょう高くする方法思いついたっ」
「やめとけ、上は学園長室だ」
ひっくい天井に爆弾を仕掛けようとするアホウを、この部屋にぺってしたテカ寮父が引き止める。
それを見た金髪が手のひらに拳をぶつけるひらめいたポーズで「あ、いいこと思いついた」と言い、5人でみにみに集会を開き、相談し合った。
全員の意思を代表するようにして寮父の前に出る金髪美。
「やりたいことあるから協力しろ」
「あ? やめとけ」
「は? 聞け?」
「聞くまでもねえ。しばらく安静にしてないと退学だぞ」
「…………おう、じゃあやめとく」
「…………」
寮父は、目を細めてじーっとこちらを見つめてくる。
やけに素直だな、とでも思っているのだろうか。
やがて、なにか用事を思い出したのか、「……1〜2時間席空けるからバカすんなよ」と言い残してこたつ防空壕を去っていった。
「「「「「…………」」」」」
扉が閉まっていき、完全に外から施錠されたのを5人で凝視していた。
「……閉まった、ねえ」
「「「「「やめとくわけねぇだろっ!!」」」」」
その声を合図として、ポケットやバックの中、髪の中から紙やペン、爆弾にシャベルなども取り出した。
「移動してるときにパクってきたでーす」
枝毛がちっさい折りたたみ式の机をどけて、寮全体の地図を小さな床にひろーく広げた。
「なーいす」「ここ一階の角部屋だな」「自分たちを移動する部屋間違えましたね」「それはそう」
「そうっ、一階ということはあ〜?」
「「「「地下室を掘れるぅ〜っ!!」」」」
この学校に地下室はない。
理由はまあ、入寮時ティラノが言っていたそれである。
ということはそういうことである。
「ぬのもってる」
アホ毛がぽけっとから出したこの部屋2個分ほどのサイズの布を掲げた。
「おれ、スクールバッグに小型爆弾入ってた」
金髪がスクールバッグから取り出したのはこの部屋の半分くらい吹き飛ばすであろう爆弾である。
よい子も悪い子もばななを食べてる子も真似しないこと。
「布広げろ」「てつだって」「われ、このサイズ初めてみたっ」「こんくらいで良いんじゃない?」「入って入って」
少女5人は、それはそれはおーきな布にぎゅうぎゅうに入り、金髪が布から手だけ出して小型爆弾を部屋の角に向かって投てきした。
ブワアアアアアアァァァァァァァァァァァンッ!
部屋の爆散が原因で押し込まれた部屋をまた爆発させるとは、なんてくれいじー。布でよく無事だったな。
ここは角部屋なので外に面している壁が当然存在する。
その壁は頑丈に作るために厚さが約1000センチあったのだが、爆弾が隅に投げ込まれたせいでわずか(?)10センチまで削られてしまった。
どうやら地下をほるつもりが、奥行きや天井までも削れてしまったようだ。
張っていた木材も粉々⭐️
そして、下はというと────。
「「「「「おー?」」」」」
あんまり削れなかった。
範囲が広すぎて、地下室への小さい穴は無理だったようである。
まあ、こいつらはザ・ぽじてぃばーなので、こう言う。
「「「「「大っ成っ功っ!!!!」」」」」
「やったやった〜♪」「あとはシャベルで掘ろう」「見立て通り、広くなりましたね」「崖とか現れなくてよかったな」「われ、天井が高くなってうれしいっ」
わはは、わははと笑いながらシャベルで下を掘り進めていく5人。
がちゃがちゃっ
「およ?」
間違いない、鍵を開けている音だ。
慌てふためく5人は掘っていた穴から脱出して破壊された床を大きな布で雑に隠ぺいすることしかできなかった。
奥行きとか天井とかはバレないことを祈る。
扉が開く。
なんかさっき見たことあるようなテカり顔だった。
「…………やっぱりな」
「りょ、りょうふさん……!」
くだんの頭をテカらす寮父であった。
1〜2時間空けるっていったじゃん嘘つき、と5人全員が思った。
「その布どかせ」
「え、えと、これはあ、ど、どかせませえん」
「……そこに何がある」
「わ、わたしたちの……ええ……っと……」
「わたしたちの、何?」
若干キレ気味で聞いてくる。つま先をトントンと床に打ち付けて舌打ちでもしそうな顔である。
「き、きぼう……? ……そうきぼう! きぼうとせいしゅんッ……あの、その、ま、まぶ……まぶしすぎる? のであけられませえんっ!!……」
「ああ!?」
寮父と馬鹿みたいな問答をしているアホ毛をおとりに、解錠された扉へ向かい、そそくさと去ろうとしている4人。
だが4人まとめて寮父に首根っこを掴まれる。
扉は閉まっていく。
「だあーっ! 小指で掴むな首根っこをぉっ! ばかぢからめっ!」とか不満を叫びながら連行され寮父の前に4人まとめて置かれる。
完全に閉じた扉。
「「「「光の扉があ〜っ」」」」
アホ毛に振り返る寮父。
「学園長に報告かなあー」
軽い口調だが、目が笑っていなかった。
「希望と青春が輝きすぎると退学なんですかー!」
「いや希望でも青春でもねえし」
背後で悲壮な顔で訴えかける枝毛をものともせず一蹴するテカ寮父。
「オレらを退学にして学園になんのメリットがあるっ」
「おめえらがいると学園に大きなデメリットをもたらすっつーの!」
「なるほど、じゃああなたにデメリットはないわけですね?」
「いや間接的にオレにくる!」
寮父の訴えをガン無視し、てこてこと立ち上がってアホ毛の隣に立ち、苦虫を100万匹噛み締めたような顔の寮父と顔を合わせる。
「自分たちがデメリットをパーにするメリットを提示すればいいんですねっ!」
なんかちがう。
なんかちがうが、彼女たちは聞いてくれやしない。
急に5人は黙りこくって、顔を見合わせる。
「……寮父さん」
「あァ?」
キレてるねえ。
存在感(以下略)は深刻な顔をして一歩前に出て、覚悟を決めたみたいなふすーんっという変な鼻息がでた。
「────お料理作ってもいいので許してくださいっ」
存在感の腰がきれいな直角に曲がる。
「……いやっ、それおれにとって何のメリットにもなってないんだが!? むしろ家事増えてデメリットなんだがッ!?」
なんだがッ、がッ、がッ、がッ、がッ……と沈黙の部屋にこだまする悲鳴(?)
「…………………………………………」
「………………………………………………」
「……………………………………………………」
沈黙の時間が伸びるごとに、存在感の腰の角度が小さくなっていく。
そして、6時59分のときの時計くらいの角度になった時、テカ寮父が重い口を開けた。
「ふぁらららんっ」
「!?」
存在感は驚きのあまりのけぞり、5時48分くらいまでいった。
会ってから1日も経ってない人がいうのもなんだが、「らしくない」という言葉が頭に浮かんできた。
テカ寮父は直後、ばたんと後ろに倒れ、薄情なことに寮父の後ろにいた3人の少女は受け止めずに避け、寮父は盛大に扉に頭をぶつけた。
なんかやばいことだけはわかった。
テカ寮父がぶつかったはずみで開いた扉からは、眉をひそめこちらを見てくるせんぱいがたがいらっしゃったので、額に汗を浮かべながら軽く会釈をして寮父を部屋にずりずりずりとひきずり込んでドアを閉める。
ばたん がちゃがちゃがちゃがちゃ
「いやー、非常に危なかったデスネー」「はい、なんとかなってよかったです!」「ふん。連絡が上にいかなきゃいいんだ」「うぃーっす」「あ、鍵は厳重にしときましょう」「いえっさー、さっきしたけど」「さすがですっ」「われ、てんじょうまで手がととかないっ」「ぐへへ」「よぉし、再開しよーうぅ」
元気よく拳をあげて踏み出した枝毛の足首を、がしりとなにかが掴んだ。
「…………待てや」
「ふぇっ!?」
足首を掴まれたので前に転倒し、布を突き破り下の土へキレイにダイブした。
枝毛の足首をつかんでいた寮父もろとも……。
空中できれいに180度傾いて立場が反転し、寮父は枝毛のクッションになり、白目をむいて今度こそ気絶した。
存在感がうーむ、と首を捻らせた。
「これで上に報告はいかないと思うけど……なぜゆえ倒れたんでしょ?」
「りょうふさん、熱だしちゃったんじゃなあい?」
下の方から枝毛の声が響いてくる。
「あ、そうかもな」
「われ、もとの部屋から『たいおんけい』なるものもってきたっ!」
「む、じゃあそれつかおう」
『お熱出ちゃったー』とか『体温計』とか、普通ならなんか看病系青春的なものが発生するのが鉄板だが、くれいじーたちにそんな常識はない。
「でもそれ、取り扱い説明書はどこに?」
存在感が問うと、「われ、ばっちり!」となぞの返答が返ってきた。
「ここ押すとぴってなる!」
「「「「………………」」」」
自慢げに電源ボタンを押すが、問題なのはその先である。
「体温をはかるんだろ」
いつの間にか枝毛に引き上げられてた寮父の首根っこを掴んだ金髪。
「────これが正解だ」
金髪は寮父の額にさきっちょを押し付け、火起こしするときみたいにぐりぐりやっている。
他の少女も正解がわからないので止めずに神妙な面持ちでその光景を見守っていた。
十数秒続けると、やがて、ぴーという音が鳴ったのでやめてみると、『E』。
Error(エラー)の表示なのだが、いち早く表示を後ろからみたアホは、「3!」と叫んだ。
「「「「「体温3度……?」」」」」
普通の人ならば異常すぎてもう一回測ろうとするところだが、阿呆集団は「どんくらいがフツーなんだろ」とか「ちょっと高いくらいじゃねえの?」とか会話を交わしている。
結局、「まあ、いっか」という結論に至った阿呆集団。
本当は脇にでもはさむ体温計。
このときの寮父の体温は38度とかだった。高熱である。
ストレスだねー。
さっきの謎の言動も熱のせいだろう。
きっと、どこかのだれかさんたちの所為だわ〜。
「……でもこれ起きたらすぐに報告いかれるぞ」
「あばばばばばば」
5人の脳裏には「退学⭐️」というご丁寧にお星さま付きの3文字が浮かび上がった。
「きおくかいざんすればよくない?」
アホ毛の一言に「その手があったかっ!」とでも言いたさげな4人。
イヤ、キオクカイザンッテヤバイカラネ?
「へや、はんぶんいじょうがけずれてひろがったことは?」
「元もとこんぐらいだったことにして」
「たしか上限3人ですけどその割には広い部屋になっちゃいますね」
「8人に書き換えよお。できなくないはずだよぉ〜」
こういうときに限ってより一層団結力が高まる。
何なんだコイツらは。
というか『きおくかいざん』の意味がわからなくなってきた。『げんじつかいざん』の方がまだ合っている。
まあ、やること決まったらあとは実行するのみ。
枝毛と寮父が落ちたはずみで突き破った布を手っ取り早く撤去し、床のでこぼこがキレイになるように、団子が持参の巨大ヤスリで磨いた。
その後存在感持参のタイルで不自然がないように床にぴったりとはめる。
あらまー、なんてジュンビシュウトウナノ。
「床、完了⭐️」
「次は壁だな。こんなこともあろうかと、壁と同じ色のスプレー持ってきた⭐️(家から)」
こんなこともあろうかと思うか?普通。おもわないよ〜⭐️
先に存在感のながーい髪から取り出された木を張ってから、金髪が発射用意。
金髪は「いやー、壁色が家のとおなじでよかったなー」とか、むふむふしてる。
ぷしゅううううううううううううううううううううううう
「壁、完了⭐️」
「いやー、そっくりーいいへやねー」「てまがはぶけた」「ぐふふ」「次は地下ですっ」
うふうふ舞い上がり始めた4人。
そこに冷静系・くれいじーより一言。
「かべのかんばん、のこってる」
そう、みなさん忘れてたかもしれないが、ドアの前にかけられた『⭐️⭐️⭐️防空壕⭐️⭐️⭐️上限3人だよ⭐️』のやつである。
「「「「あ」」」」
「かあかああかああかあああ看板なおさないとっととおお」「あわわわわわ」「われ、資源底ついたっ」「お、おれもスクールバックからからだぜっ」「っどっっどどどどどうしましょおおぉおおお」
気が緩んだのか一気に頼りげがなくなってあわあわ右往左往する5人。
「ととっっと、とりあえず看板取り外っそうっ」「そ、そうだね」「ええっっとぉお、自分とってきままます」「ペンはあるぜー」
存在感が扉を開ける。
またまたせんぱいがいたので、軽く会釈をして看板を扉から取り外し───。
「べばぶほっ」べきっ
──────こけた。
ちなみに看板はまっぷたつー。
「あ、あわわわわわああああああわ泡」「わ、まっぷたつ」「われたち資源ないっ」「おわったくね……」「うぅ、腰板イィいいいいい」
部屋を爆破するくれいじーズには、看板を無かったことにする、という地味な解決方法は思い浮かばないらしい。
「んがっオイ、アンタら何して……」
「「「「「あ」」」」」
「「「「──いけっアホ毛っ」」」」「いえっさー」
ういーん、ういーん、ういーん
起き上がった38度保持者は、首根っこをアホ毛(固有名詞)のアホ毛に掴まれ、丁寧に再度穴の中に落とされた。
「くううっそおおがああああきいいいいいっどもおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
「あわわっわああ、登ってきますよぉおおお」「ん? おい、枝毛。おまえ首になにつけてる」「ふぇ? なにって……」
「「「「「おおおおおっ」」」」」
「いや、せっっっまっ! きっっったねっ!」
あと劣悪な生活環境。
生活環境さえ良ければ素晴らしい青春時代の幕開けだったが────。
二人がバカやったので五人の学園生活はお先真っ暗。
「おい枝毛、もっとそっちいけるだろ」
「いやいやいや、そっちこそぉ」
「ふぁばばべっべふっ」
「それはしゃっくりです?」
「いやげっぷ」
「あれなんか4人しかいなくね?」
「いやいや、あたしには声が5人分聞こえるよぉお」
「きっとどこかのだれかさんがけはいうすいんだよ」
「ぐhaっ」
「ふぁぶぅ」
小さなつくえのまわりをぐるっと囲んで体育座りの少女たち。
なんかこれはもう距離感が部屋というかこたつのなかである。
こちら、さきほど爆散したとなり部屋の、中庭を挟んだ向かい側のぐねぐねした廊下を右左右と曲がった突き当たりの部屋である。そのぐねぐねして先の見えない廊下は不安と絶望を感じさせる。
どうやら歴史の授業のための防空壕とやらを模して作ったようだ。
窓がない。暗い。狭い。あと臭い。
床と壁には土色の木が張られているが、天井は土。たまに土がパラパラと舞い落ちてくる。家具は小さな机とその上にあるろうそくいっぽん。
ベッドなし。え?
まあ、部屋の扉にはきちんと
『⭐️⭐️⭐️防空壕⭐️⭐️⭐️上限3人だよ⭐️』
とかいてあるのだが、そんなことお構いなしにぺっと放り出された5人ぐみ。ミナサンハチャントジョウゲンマモリマショーネー。
ちなみに他の先輩方にこの部屋のことを聞くと、
「うっ、ごめんなさい、もう思い出したくもないの。うぅっ」
とか、
「あそこは記憶に残しておかないほうがいい、忘れるんだ!」
とか、
「あぁ……あの授業な……先生が忙しいと『歴史を味わうがいい』て突っ込まれるんだよな……」
「そして先生の記憶に私たちが戻ってくるまで置いてけぼr……」
「うっ……思い出すと吐き気が……」
……とかが返ってくる。
きっと、『先生が忙しい』は校長室にりんごじゅーすこぼしちゃったとか、そういうのだったのだろう。
どうにもこの学園の先生たちは注意力に欠けているらしい。
「……われ、てんじょう高くする方法思いついたっ」
「やめとけ、上は学園長室だ」
ひっくい天井に爆弾を仕掛けようとするアホウを、この部屋にぺってしたテカ寮父が引き止める。
それを見た金髪が手のひらに拳をぶつけるひらめいたポーズで「あ、いいこと思いついた」と言い、5人でみにみに集会を開き、相談し合った。
全員の意思を代表するようにして寮父の前に出る金髪美。
「やりたいことあるから協力しろ」
「あ? やめとけ」
「は? 聞け?」
「聞くまでもねえ。しばらく安静にしてないと退学だぞ」
「…………おう、じゃあやめとく」
「…………」
寮父は、目を細めてじーっとこちらを見つめてくる。
やけに素直だな、とでも思っているのだろうか。
やがて、なにか用事を思い出したのか、「……1〜2時間席空けるからバカすんなよ」と言い残してこたつ防空壕を去っていった。
「「「「「…………」」」」」
扉が閉まっていき、完全に外から施錠されたのを5人で凝視していた。
「……閉まった、ねえ」
「「「「「やめとくわけねぇだろっ!!」」」」」
その声を合図として、ポケットやバックの中、髪の中から紙やペン、爆弾にシャベルなども取り出した。
「移動してるときにパクってきたでーす」
枝毛がちっさい折りたたみ式の机をどけて、寮全体の地図を小さな床にひろーく広げた。
「なーいす」「ここ一階の角部屋だな」「自分たちを移動する部屋間違えましたね」「それはそう」
「そうっ、一階ということはあ〜?」
「「「「地下室を掘れるぅ〜っ!!」」」」
この学校に地下室はない。
理由はまあ、入寮時ティラノが言っていたそれである。
ということはそういうことである。
「ぬのもってる」
アホ毛がぽけっとから出したこの部屋2個分ほどのサイズの布を掲げた。
「おれ、スクールバッグに小型爆弾入ってた」
金髪がスクールバッグから取り出したのはこの部屋の半分くらい吹き飛ばすであろう爆弾である。
よい子も悪い子もばななを食べてる子も真似しないこと。
「布広げろ」「てつだって」「われ、このサイズ初めてみたっ」「こんくらいで良いんじゃない?」「入って入って」
少女5人は、それはそれはおーきな布にぎゅうぎゅうに入り、金髪が布から手だけ出して小型爆弾を部屋の角に向かって投てきした。
ブワアアアアアアァァァァァァァァァァァンッ!
部屋の爆散が原因で押し込まれた部屋をまた爆発させるとは、なんてくれいじー。布でよく無事だったな。
ここは角部屋なので外に面している壁が当然存在する。
その壁は頑丈に作るために厚さが約1000センチあったのだが、爆弾が隅に投げ込まれたせいでわずか(?)10センチまで削られてしまった。
どうやら地下をほるつもりが、奥行きや天井までも削れてしまったようだ。
張っていた木材も粉々⭐️
そして、下はというと────。
「「「「「おー?」」」」」
あんまり削れなかった。
範囲が広すぎて、地下室への小さい穴は無理だったようである。
まあ、こいつらはザ・ぽじてぃばーなので、こう言う。
「「「「「大っ成っ功っ!!!!」」」」」
「やったやった〜♪」「あとはシャベルで掘ろう」「見立て通り、広くなりましたね」「崖とか現れなくてよかったな」「われ、天井が高くなってうれしいっ」
わはは、わははと笑いながらシャベルで下を掘り進めていく5人。
がちゃがちゃっ
「およ?」
間違いない、鍵を開けている音だ。
慌てふためく5人は掘っていた穴から脱出して破壊された床を大きな布で雑に隠ぺいすることしかできなかった。
奥行きとか天井とかはバレないことを祈る。
扉が開く。
なんかさっき見たことあるようなテカり顔だった。
「…………やっぱりな」
「りょ、りょうふさん……!」
くだんの頭をテカらす寮父であった。
1〜2時間空けるっていったじゃん嘘つき、と5人全員が思った。
「その布どかせ」
「え、えと、これはあ、ど、どかせませえん」
「……そこに何がある」
「わ、わたしたちの……ええ……っと……」
「わたしたちの、何?」
若干キレ気味で聞いてくる。つま先をトントンと床に打ち付けて舌打ちでもしそうな顔である。
「き、きぼう……? ……そうきぼう! きぼうとせいしゅんッ……あの、その、ま、まぶ……まぶしすぎる? のであけられませえんっ!!……」
「ああ!?」
寮父と馬鹿みたいな問答をしているアホ毛をおとりに、解錠された扉へ向かい、そそくさと去ろうとしている4人。
だが4人まとめて寮父に首根っこを掴まれる。
扉は閉まっていく。
「だあーっ! 小指で掴むな首根っこをぉっ! ばかぢからめっ!」とか不満を叫びながら連行され寮父の前に4人まとめて置かれる。
完全に閉じた扉。
「「「「光の扉があ〜っ」」」」
アホ毛に振り返る寮父。
「学園長に報告かなあー」
軽い口調だが、目が笑っていなかった。
「希望と青春が輝きすぎると退学なんですかー!」
「いや希望でも青春でもねえし」
背後で悲壮な顔で訴えかける枝毛をものともせず一蹴するテカ寮父。
「オレらを退学にして学園になんのメリットがあるっ」
「おめえらがいると学園に大きなデメリットをもたらすっつーの!」
「なるほど、じゃああなたにデメリットはないわけですね?」
「いや間接的にオレにくる!」
寮父の訴えをガン無視し、てこてこと立ち上がってアホ毛の隣に立ち、苦虫を100万匹噛み締めたような顔の寮父と顔を合わせる。
「自分たちがデメリットをパーにするメリットを提示すればいいんですねっ!」
なんかちがう。
なんかちがうが、彼女たちは聞いてくれやしない。
急に5人は黙りこくって、顔を見合わせる。
「……寮父さん」
「あァ?」
キレてるねえ。
存在感(以下略)は深刻な顔をして一歩前に出て、覚悟を決めたみたいなふすーんっという変な鼻息がでた。
「────お料理作ってもいいので許してくださいっ」
存在感の腰がきれいな直角に曲がる。
「……いやっ、それおれにとって何のメリットにもなってないんだが!? むしろ家事増えてデメリットなんだがッ!?」
なんだがッ、がッ、がッ、がッ、がッ……と沈黙の部屋にこだまする悲鳴(?)
「…………………………………………」
「………………………………………………」
「……………………………………………………」
沈黙の時間が伸びるごとに、存在感の腰の角度が小さくなっていく。
そして、6時59分のときの時計くらいの角度になった時、テカ寮父が重い口を開けた。
「ふぁらららんっ」
「!?」
存在感は驚きのあまりのけぞり、5時48分くらいまでいった。
会ってから1日も経ってない人がいうのもなんだが、「らしくない」という言葉が頭に浮かんできた。
テカ寮父は直後、ばたんと後ろに倒れ、薄情なことに寮父の後ろにいた3人の少女は受け止めずに避け、寮父は盛大に扉に頭をぶつけた。
なんかやばいことだけはわかった。
テカ寮父がぶつかったはずみで開いた扉からは、眉をひそめこちらを見てくるせんぱいがたがいらっしゃったので、額に汗を浮かべながら軽く会釈をして寮父を部屋にずりずりずりとひきずり込んでドアを閉める。
ばたん がちゃがちゃがちゃがちゃ
「いやー、非常に危なかったデスネー」「はい、なんとかなってよかったです!」「ふん。連絡が上にいかなきゃいいんだ」「うぃーっす」「あ、鍵は厳重にしときましょう」「いえっさー、さっきしたけど」「さすがですっ」「われ、てんじょうまで手がととかないっ」「ぐへへ」「よぉし、再開しよーうぅ」
元気よく拳をあげて踏み出した枝毛の足首を、がしりとなにかが掴んだ。
「…………待てや」
「ふぇっ!?」
足首を掴まれたので前に転倒し、布を突き破り下の土へキレイにダイブした。
枝毛の足首をつかんでいた寮父もろとも……。
空中できれいに180度傾いて立場が反転し、寮父は枝毛のクッションになり、白目をむいて今度こそ気絶した。
存在感がうーむ、と首を捻らせた。
「これで上に報告はいかないと思うけど……なぜゆえ倒れたんでしょ?」
「りょうふさん、熱だしちゃったんじゃなあい?」
下の方から枝毛の声が響いてくる。
「あ、そうかもな」
「われ、もとの部屋から『たいおんけい』なるものもってきたっ!」
「む、じゃあそれつかおう」
『お熱出ちゃったー』とか『体温計』とか、普通ならなんか看病系青春的なものが発生するのが鉄板だが、くれいじーたちにそんな常識はない。
「でもそれ、取り扱い説明書はどこに?」
存在感が問うと、「われ、ばっちり!」となぞの返答が返ってきた。
「ここ押すとぴってなる!」
「「「「………………」」」」
自慢げに電源ボタンを押すが、問題なのはその先である。
「体温をはかるんだろ」
いつの間にか枝毛に引き上げられてた寮父の首根っこを掴んだ金髪。
「────これが正解だ」
金髪は寮父の額にさきっちょを押し付け、火起こしするときみたいにぐりぐりやっている。
他の少女も正解がわからないので止めずに神妙な面持ちでその光景を見守っていた。
十数秒続けると、やがて、ぴーという音が鳴ったのでやめてみると、『E』。
Error(エラー)の表示なのだが、いち早く表示を後ろからみたアホは、「3!」と叫んだ。
「「「「「体温3度……?」」」」」
普通の人ならば異常すぎてもう一回測ろうとするところだが、阿呆集団は「どんくらいがフツーなんだろ」とか「ちょっと高いくらいじゃねえの?」とか会話を交わしている。
結局、「まあ、いっか」という結論に至った阿呆集団。
本当は脇にでもはさむ体温計。
このときの寮父の体温は38度とかだった。高熱である。
ストレスだねー。
さっきの謎の言動も熱のせいだろう。
きっと、どこかのだれかさんたちの所為だわ〜。
「……でもこれ起きたらすぐに報告いかれるぞ」
「あばばばばばば」
5人の脳裏には「退学⭐️」というご丁寧にお星さま付きの3文字が浮かび上がった。
「きおくかいざんすればよくない?」
アホ毛の一言に「その手があったかっ!」とでも言いたさげな4人。
イヤ、キオクカイザンッテヤバイカラネ?
「へや、はんぶんいじょうがけずれてひろがったことは?」
「元もとこんぐらいだったことにして」
「たしか上限3人ですけどその割には広い部屋になっちゃいますね」
「8人に書き換えよお。できなくないはずだよぉ〜」
こういうときに限ってより一層団結力が高まる。
何なんだコイツらは。
というか『きおくかいざん』の意味がわからなくなってきた。『げんじつかいざん』の方がまだ合っている。
まあ、やること決まったらあとは実行するのみ。
枝毛と寮父が落ちたはずみで突き破った布を手っ取り早く撤去し、床のでこぼこがキレイになるように、団子が持参の巨大ヤスリで磨いた。
その後存在感持参のタイルで不自然がないように床にぴったりとはめる。
あらまー、なんてジュンビシュウトウナノ。
「床、完了⭐️」
「次は壁だな。こんなこともあろうかと、壁と同じ色のスプレー持ってきた⭐️(家から)」
こんなこともあろうかと思うか?普通。おもわないよ〜⭐️
先に存在感のながーい髪から取り出された木を張ってから、金髪が発射用意。
金髪は「いやー、壁色が家のとおなじでよかったなー」とか、むふむふしてる。
ぷしゅううううううううううううううううううううううう
「壁、完了⭐️」
「いやー、そっくりーいいへやねー」「てまがはぶけた」「ぐふふ」「次は地下ですっ」
うふうふ舞い上がり始めた4人。
そこに冷静系・くれいじーより一言。
「かべのかんばん、のこってる」
そう、みなさん忘れてたかもしれないが、ドアの前にかけられた『⭐️⭐️⭐️防空壕⭐️⭐️⭐️上限3人だよ⭐️』のやつである。
「「「「あ」」」」
「かあかああかああかあああ看板なおさないとっととおお」「あわわわわわ」「われ、資源底ついたっ」「お、おれもスクールバックからからだぜっ」「っどっっどどどどどうしましょおおぉおおお」
気が緩んだのか一気に頼りげがなくなってあわあわ右往左往する5人。
「ととっっと、とりあえず看板取り外っそうっ」「そ、そうだね」「ええっっとぉお、自分とってきままます」「ペンはあるぜー」
存在感が扉を開ける。
またまたせんぱいがいたので、軽く会釈をして看板を扉から取り外し───。
「べばぶほっ」べきっ
──────こけた。
ちなみに看板はまっぷたつー。
「あ、あわわわわわああああああわ泡」「わ、まっぷたつ」「われたち資源ないっ」「おわったくね……」「うぅ、腰板イィいいいいい」
部屋を爆破するくれいじーズには、看板を無かったことにする、という地味な解決方法は思い浮かばないらしい。
「んがっオイ、アンタら何して……」
「「「「「あ」」」」」
「「「「──いけっアホ毛っ」」」」「いえっさー」
ういーん、ういーん、ういーん
起き上がった38度保持者は、首根っこをアホ毛(固有名詞)のアホ毛に掴まれ、丁寧に再度穴の中に落とされた。
「くううっそおおがああああきいいいいいっどもおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
「あわわっわああ、登ってきますよぉおおお」「ん? おい、枝毛。おまえ首になにつけてる」「ふぇ? なにって……」
「「「「「おおおおおっ」」」」」