これぞ青春(?)
「……おいあんたら。一体全体どーしたら、入寮初日で部屋がぶっとぶんだ?」
「「……」」
爆散した部屋にて。
頭が非常にテカっている人物の前で頬を膨らませて下を向き直立しているアホ毛と枝毛。
「謝れや」
「「…………」」
「あーやーまーれーやっ!」
口を真一文字に結んで謝罪の言葉を口にしようとしない二人に対して「はあー」、とわざとらしく大きなため息を吐いてみせる。
「もういいから! 洗濯してやんねぇし! おかしも作ってやんねぇし!?」
子どものように言い放つテカってる奴。
ちなみにコイツは青春少女5人組もとい問題児5人組の担当寮父である。
はい、寮の父です。父のほうです。母じゃないです。
頭がテカっている人物がぷいっと横を向くと、直立していた二人はがばっと腕に噛みついてきた。
「痛えよ!?」
次の瞬間、部屋全体に「ごめんなさいぃいぃーっっ!」という声が響き渡る。
「おかしは作んなくていいけど洗濯は勘弁ーっ!!」「み、みぎにおなじ!!」
「おかしはいいのかよ!? ……オイシイノニ……」
しょぼんと肩を落とす人物に二人は洗濯を懇願する。
「川で洗濯とかぁ!! あたしたちみたいなか弱い青春女子生徒がやることじゃないぃっ! おじさんかおばさんがやることだよっ」
「あ!? オレがじじいっていいてぇのかっ」
この学園の洗濯といえば、かの著名な桃三郎に出てくるおばあさんがやる洗濯板での洗濯である。
しかも5人分で1週間分となると、洗濯に5〜6時間かかる。
大事な青春の5〜6時間を週一のペースで奪われてしまっては大変なことになる。
「そ、そうか……つまり、おれが必要ってことだな?」
なにやら指をもじもじさせ、頭をテカらせながら照れている!?
「あ、ハイ。ソウソウ。トッテモトッテモヒツヨウデスー」
「うん、せんたくしてくれるらしぃしー」
「そ、そうなのか……!! ……って、んだよこの茶番!!」
あれ、こいつ案外チョロいのでは……? と途中まで思っていたが、そうでもなかったなと、アホ毛と枝毛は脳内で「使い勝手がいいやつランキング」の彼のランクを下げた。
「でも正直言って料理はいらないよねぇ」
「うんm」
「聞こえてんぞ」
そう、それは10時のおやつのときの出来事。
始業初日、午前10時過ぎ。
『えー、これよりニワトリから逃れられる生徒の唯一のリラックスタイム、”10時のおやつ”タイムを設けようとおもう。
それぞれの部屋の寮母につくってもらえー、ああ、ハズレいるから当たったやつらはまあ、どんまい。
食べ終わったらさっさと寝ろ』
『へ?ハズレってなんのこと──』
なんだか「今日も残業かー」という諦めと実直そうな感情が入り混じった顔をした先生が発した言葉に枝毛がつぶやくが、頭のテカる寮母(寮父?)が持ってきた砂糖菓子に目を奪われ、その疑問を飲み込んだ。
『おやつ作ってやったぜー砂糖菓子だぜー』
『『『『『わーいわーい! 砂糖菓子!』』』』』
寮父(?)の彼が初めて振る舞ってくれる料理(おやつ)だった。というかご対面も初めてなのだが。
『おーおー、座って食えよー』
『『『『『わーいわーい砂糖菓子! いっただっきまーすっ』』』』』
五人の少女は寮父(?)への挨拶をそっちのけに糖分の塊を一斉に口いっぱい頬張り────飲み込もうとしたのを慌てて止めた。
『うゔぇ』『ゔぁえ』『ぐへ』『これまz』『やゔぁい゙』
『!?』
少女たちは全員、まずい系のお薬とまずい系の歯磨き粉と魔界のおやつが混ざったような味を感じた。
吐き出さないと命が危ういような気さえした。
同時に口を押さえて奇声を発して倒れる少女たちに寮父は驚いて皿を取り落としそうになった。
ちなみにみんなそれぞれ綺麗に前後ろ上右左と、それぞれきれいな直角に倒れていた。
5人は顔を見合わせ、アイコンタクトで意思疎通し、全員の意思が一致していることを察する。
(((((こいつ、ハズレだ…………)))))
ということでハズレ寮父をひいた彼等は自分の命を存続させるために「嫌だけど自分たちのおかしは自分たちで作ろう」。
そう思ったのだった。
そういえば、あの朝のくそ辛い、げすと作成カレーも……やっぱり命は大切デスヨネ〜。
「はあ、まあいい。──オレは、今回は許してやる」
「「ん? おれは?」」
二人が首をかしげるのと同時に、爆散した部屋に黒スーツに身を包んだ一人の人物が入ってきた。
「学園長さんが許してくれるかは、わかんねぇがなっ⭐️」
二人は青ざめる。
「適切な処分を下そう」
学園長が冷たい目で生徒を見下ろす。
二人の顔から汗がとめどなく吹き出す。
「これにサインしろ」
「え、えと、これは……?」
学園長は「こんな漢字も読めないのか」とでも言いたげに大きな、かつわざとらしいため息を吐いた。
「退室届だ。お前たちにはこの部屋では大きすぎる」
安全圏で見守っていた奴らは「かわいそう」「どこの部屋行っちゃうんでしょ」「どんまいすぎる」とか眉をひそめて二人に哀れみの視線を送っている。
「この部屋はもう使えないから取り壊しとしよう。予備の部屋はないが──まあいいか」
「「「ん?」」」
安全圏ズが同時に疑問の声を発した。
(あれ? この部屋取り壊しなの?)(予備の部屋ない?)(オレらの居場所は?)
(((あれ? もしかして、たいがk──)))
「お前らもはやくサインしろ」
三人の結論がまとまりかけたところで三人にペンを差し出す学園長。
(((ナチュラルに巻き込まれたっ?)))
二人が起こした事件に巻き込まれたと思っている三人に指を差す学園長。
「そこの白髪団子、ポップコーン持ち込んでんのバレてるからな。この学園ポップコーンはダメなのわかってるよな?」
「え〜なんで、ケチ!」
「そこの金髪、肩下33.3センチ以上は髪を束ねろと生徒手帳にかいてあるよな。なんで52.3センチなのに束ねてないんだ」
「は? 誰の迷惑でもないからいいだろ、ケチ」
2人の生徒からケチ呼ばわりされた学園長は、2人が渋々と、それはもう世界一渋いイチゴ(?)を食べているような顔でサインしたのを見届けると用は済んだ、と言わんばかりに、くるっと背を向けて帰っていった。
しまったドアにむけてあっかんべーをした金髪の美しい光沢、そして白髪団子の全身からポップコーン。
──そして、スンバラシイ存在感。
「あの……自分は……?」
テーブルの下で見守っていた一人の少女が、か細い声でおどおどして首をかしげる。
さすが、『存在感激薄子』。
ちなみにコイツは部屋爆散させた起爆者(本人曰く自分は違う、自分の手がやった。電流痛し)でもあるし、ポップコーンというか、なぞのうにうにしてぷまぺましたなぞの物体(本人曰く高級菓子)を持ち込んでいる。
「──いや、さすがだけどお前も部屋来いよ?」
「……はぁい」