First Movement
その数ヶ月後、私は、いろんなものを失っていた。
明るかった性格も、何気ない日常も、そして、大切にしていた友達さえも。
積もり積もったストレスは、ある日突然、何の前触れもなく崩れ落ちるように私を押し潰した。気がつけば、笑えなくなっていた。
部屋の天井を見つめるだけの夜が続き、食事の味も、風の匂いも、全部が遠くなった。
「もう、◯にたい……」
その言葉は、私の口から自然と涙と共にこぼれた。
普段なら、絶対に口にしない言葉。
でも、もう限界だった。苦しみも、孤独も、全部、もう十分すぎるほど感じていた。
このまま消えてしまえば、誰かが悲しむだろうか。
クラスメイトは、たぶんこう思うだろう。「あっそ」「で?」
泣いてくれる人なんて、きっといない。いるとしたら、遠くの親戚くらいか。
そんなふうに、自分を否定する思考が、毎晩、何度も何度も頭の中を回った。
そしてある日、そんなマイナスな考えの中に、ぽつりと、ひとつの提案が浮かんだ。
「自分の気持ちを、吐き出してみたら?」
言葉にして、誰かに伝えてみたら、少しは楽になれるかもしれない。掲示板なら、誰かが反応してくれるかもしれない。……そう思った。
けれど、すぐに不安が押し寄せた。
もし、冷たい言葉を投げつけられたら?
優しい人ばかりじゃない。そんな場所で、自分をさらけ出す勇気なんて、今の私にはなかった。
「じゃあ、どこに吐き出せばいいの?」
そんなとき、ふと浮かんだ言葉があった。
──小説。
「小説なら……書けるかも」
自分の気持ちを、そのまま物語にすればいい。そうすれば、誰かが読むかもしれない。
たとえ反応がなくても、気持ちを外に出せるだけで、少しは違うかもしれない。
私はすぐにネットを開いた。
「えっと……『小説投稿サイト 登録不要』」
検索すると、たくさんのサイトがヒットした。どれも同じに見えて、どれも選べなかった。選ぶのが苦手だった私は、とりあえず一番上にあった『NOVEL CAKE』というサイトを開いた。
表示されたページには、『NOVEL CAKE』と『ライト版』のふたつの選択肢があった。私は迷わず『ライト版』を選ぶ。そして、思考よりも先に、指が『小説を投稿』のボタンを押していた。
即興でユーザー名を打ち込み、タイトルも即興。
「うーん、主人公は私にして……推しに恋しながら、孤独に生きる物語にしよう」
それでいい。細かいことは考えず、ただ思うままに言葉を打ち込んでいく。
「投稿っ」
初めての小説投稿だった。
驚くほど簡単で、少しだけ楽しかった。
数日後、私はそっと自分の作品ページを開いた。
「……意外と、見てる」
閲覧数がゼロではなかった。それだけで、私は嬉しかった。学校では誰も私を見てくれないのに、どこかの誰かが、私の言葉を見てくれた。
それが嬉しくて、毎日投稿した。小さな希望の火を、少しずつ灯すように。
そして、数ヶ月後。
私は久しぶりに、自分の小説一覧を眺めた。閲覧数は少しずつ増えていた。
順番に読み返すうちに、あることに気づいた。
「……短っ」
思わず声が出た。一話百文字もなかった。
これは小説じゃない。ただの作文だ。こんなもの、誰が面白いと思うんだろう。
気がつけば、私はまた、自分を責めていた。
「向いてないのかな……」
私は諦めかけていた。
明るかった性格も、何気ない日常も、そして、大切にしていた友達さえも。
積もり積もったストレスは、ある日突然、何の前触れもなく崩れ落ちるように私を押し潰した。気がつけば、笑えなくなっていた。
部屋の天井を見つめるだけの夜が続き、食事の味も、風の匂いも、全部が遠くなった。
「もう、◯にたい……」
その言葉は、私の口から自然と涙と共にこぼれた。
普段なら、絶対に口にしない言葉。
でも、もう限界だった。苦しみも、孤独も、全部、もう十分すぎるほど感じていた。
このまま消えてしまえば、誰かが悲しむだろうか。
クラスメイトは、たぶんこう思うだろう。「あっそ」「で?」
泣いてくれる人なんて、きっといない。いるとしたら、遠くの親戚くらいか。
そんなふうに、自分を否定する思考が、毎晩、何度も何度も頭の中を回った。
そしてある日、そんなマイナスな考えの中に、ぽつりと、ひとつの提案が浮かんだ。
「自分の気持ちを、吐き出してみたら?」
言葉にして、誰かに伝えてみたら、少しは楽になれるかもしれない。掲示板なら、誰かが反応してくれるかもしれない。……そう思った。
けれど、すぐに不安が押し寄せた。
もし、冷たい言葉を投げつけられたら?
優しい人ばかりじゃない。そんな場所で、自分をさらけ出す勇気なんて、今の私にはなかった。
「じゃあ、どこに吐き出せばいいの?」
そんなとき、ふと浮かんだ言葉があった。
──小説。
「小説なら……書けるかも」
自分の気持ちを、そのまま物語にすればいい。そうすれば、誰かが読むかもしれない。
たとえ反応がなくても、気持ちを外に出せるだけで、少しは違うかもしれない。
私はすぐにネットを開いた。
「えっと……『小説投稿サイト 登録不要』」
検索すると、たくさんのサイトがヒットした。どれも同じに見えて、どれも選べなかった。選ぶのが苦手だった私は、とりあえず一番上にあった『NOVEL CAKE』というサイトを開いた。
表示されたページには、『NOVEL CAKE』と『ライト版』のふたつの選択肢があった。私は迷わず『ライト版』を選ぶ。そして、思考よりも先に、指が『小説を投稿』のボタンを押していた。
即興でユーザー名を打ち込み、タイトルも即興。
「うーん、主人公は私にして……推しに恋しながら、孤独に生きる物語にしよう」
それでいい。細かいことは考えず、ただ思うままに言葉を打ち込んでいく。
「投稿っ」
初めての小説投稿だった。
驚くほど簡単で、少しだけ楽しかった。
数日後、私はそっと自分の作品ページを開いた。
「……意外と、見てる」
閲覧数がゼロではなかった。それだけで、私は嬉しかった。学校では誰も私を見てくれないのに、どこかの誰かが、私の言葉を見てくれた。
それが嬉しくて、毎日投稿した。小さな希望の火を、少しずつ灯すように。
そして、数ヶ月後。
私は久しぶりに、自分の小説一覧を眺めた。閲覧数は少しずつ増えていた。
順番に読み返すうちに、あることに気づいた。
「……短っ」
思わず声が出た。一話百文字もなかった。
これは小説じゃない。ただの作文だ。こんなもの、誰が面白いと思うんだろう。
気がつけば、私はまた、自分を責めていた。
「向いてないのかな……」
私は諦めかけていた。