岩手の鬼越し、いわってけろ
#1
岩手県の山間部、どこか懐かしさを感じさせる小さな村に、都会から来た若者たちが訪れた。彼らは、日々の喧騒から離れて、岩手の静かな山村で自然に癒されようと考えていた。村には古びた民宿があり、そこに一晩泊まることに決めた。
宿に到着すると、優しそうな村のおばあさんが出迎えてくれた。彼女は、あたりまえのように岩手の方言を使いながら、にこやかに「ゆっくりしてけろ、どんとこい」と温かく声をかけてくれた。その言葉に、若者たちはほっとしたような気分になった。岩手特産の蕎麦や野菜を使った料理が並び、みんなで食事を楽しんだ。
食事が終わると、おばあさんが急に静かな声で言った。
「ここでは、夜になると出るものがいるんだべな。」
その言葉に、若者たちは一瞬、間をおいて顔を見合わせた。最初はただの冗談だろうと思っていた。しかし、おばあさんは真剣な表情で続けた。
「ここらの山には、"鬼越し"ってもんが住んでるんだよ。夜になると、山越えして村にやってきっぺ。あんまり気にせんほうがいいけんど、もし夜の山道を歩いたりしたら、そいつに会っちゃうかもしれんべ。」
「鬼越し?」
一人の若者が首をかしげながら聞いた。
「うん、あれは、山から降りてきて、村に現れるんだ。昔から言われてっけど、山道を歩いてると、足音もなく急に近づいてきて、あんたらを連れて行くんだよ。夜の山道を歩くのは、あんまりよくねぇよ。」
おばあさんはそれ以上話さず、他の話題に切り替えたが、その言葉は若者たちの心に深く残った。岩手には、「鬼越し」と呼ばれる存在が、山から人々をさらっていくという伝説がある。昔は山仕事をしている人々が、それに遭うことが多かったと言われている。
夜が更け、若者たちは宿の周りを散歩することにした。村の周囲は真っ暗で、山の中に沈むような静けさが広がっていた。遠くからは、木々が風に揺れる音が聞こえてくるだけだった。
その時、一人の若者が足を止め、言った。
「なんか、誰かの足音が聞こえるような気がすっけど…」
みんなはその言葉に反応し、足音の方向を見たが、誰もいなかった。気のせいだろうと思って歩き続けるが、再び足音が聞こえてきた。今度は、誰かが近づいてきている気配がした。だが、周りには誰もいない。若者たちは不安を感じ、急いで宿に戻ろうとした。
その時、突然、遠くの山から「オニコシ、オニコシ…」という、低く響く声が聞こえてきた。声は段々と大きくなり、どこからともなく近づいてくるようだった。若者たちは恐怖に駆られ、一斉に宿へ駆け込んだ。
宿のドアを閉めると、外からその「オニコシ」の声がはっきりと聞こえるようになった。まるで、山の中から何かが這い上がってくるかのような音だった。
「おばあさんが言ってた通りだ…」と、若者の一人が震える声で呟いた。
「鬼越しって、本当にいるんだ…」
その後、夜が深まるにつれ、山の中からは、まるで何かが歩く音が近づいてくるような気配が続いた。窓の外に目を向けると、薄明かりの中に、何かがゆっくりと動いているのが見えた。その影は、どこか不自然で、まるで人間の姿を模しているかのようだったが、動きが異常にゆっくりとしていて、恐怖を感じさせるものだった。
翌朝、若者たちはその夜の出来事を村の長老に話した。長老は、彼らの話を黙って聞き終えると、静かに語り始めた。
「鬼越しは、昔からこの地域に住んでいた。あの山を越えて、村に来る者を捕らえては、深い谷底に捨ててしまうんだ。あれは、ただの伝説だと思うかもしれんが、実際に何人かが消えていったんだ。夜に山道を歩いた者は、決して戻らなかった。」
若者たちは震え上がった。もしあの時、鬼越しの声に引き寄せられなかったら、彼らもそのまま姿を消していたかもしれない。長老は続けた。
「もし、またあの声が聞こえたら、二度と山道には足を踏み入れんことだべ。」
その日から、若者たちは岩手の山の深さと、そこで伝わる恐ろしい伝説の重さを改めて感じることとなった。彼らが帰る前に、最後に見たのは、山の中からゆっくりと現れる薄暗い影だった。その影は、今でも彼らの記憶の中で消えることはなかった。
「オニコシ、オニコシ…」
その声が、今でも山の奥から聞こえてくるような気がしてならなかった。
宿に到着すると、優しそうな村のおばあさんが出迎えてくれた。彼女は、あたりまえのように岩手の方言を使いながら、にこやかに「ゆっくりしてけろ、どんとこい」と温かく声をかけてくれた。その言葉に、若者たちはほっとしたような気分になった。岩手特産の蕎麦や野菜を使った料理が並び、みんなで食事を楽しんだ。
食事が終わると、おばあさんが急に静かな声で言った。
「ここでは、夜になると出るものがいるんだべな。」
その言葉に、若者たちは一瞬、間をおいて顔を見合わせた。最初はただの冗談だろうと思っていた。しかし、おばあさんは真剣な表情で続けた。
「ここらの山には、"鬼越し"ってもんが住んでるんだよ。夜になると、山越えして村にやってきっぺ。あんまり気にせんほうがいいけんど、もし夜の山道を歩いたりしたら、そいつに会っちゃうかもしれんべ。」
「鬼越し?」
一人の若者が首をかしげながら聞いた。
「うん、あれは、山から降りてきて、村に現れるんだ。昔から言われてっけど、山道を歩いてると、足音もなく急に近づいてきて、あんたらを連れて行くんだよ。夜の山道を歩くのは、あんまりよくねぇよ。」
おばあさんはそれ以上話さず、他の話題に切り替えたが、その言葉は若者たちの心に深く残った。岩手には、「鬼越し」と呼ばれる存在が、山から人々をさらっていくという伝説がある。昔は山仕事をしている人々が、それに遭うことが多かったと言われている。
夜が更け、若者たちは宿の周りを散歩することにした。村の周囲は真っ暗で、山の中に沈むような静けさが広がっていた。遠くからは、木々が風に揺れる音が聞こえてくるだけだった。
その時、一人の若者が足を止め、言った。
「なんか、誰かの足音が聞こえるような気がすっけど…」
みんなはその言葉に反応し、足音の方向を見たが、誰もいなかった。気のせいだろうと思って歩き続けるが、再び足音が聞こえてきた。今度は、誰かが近づいてきている気配がした。だが、周りには誰もいない。若者たちは不安を感じ、急いで宿に戻ろうとした。
その時、突然、遠くの山から「オニコシ、オニコシ…」という、低く響く声が聞こえてきた。声は段々と大きくなり、どこからともなく近づいてくるようだった。若者たちは恐怖に駆られ、一斉に宿へ駆け込んだ。
宿のドアを閉めると、外からその「オニコシ」の声がはっきりと聞こえるようになった。まるで、山の中から何かが這い上がってくるかのような音だった。
「おばあさんが言ってた通りだ…」と、若者の一人が震える声で呟いた。
「鬼越しって、本当にいるんだ…」
その後、夜が深まるにつれ、山の中からは、まるで何かが歩く音が近づいてくるような気配が続いた。窓の外に目を向けると、薄明かりの中に、何かがゆっくりと動いているのが見えた。その影は、どこか不自然で、まるで人間の姿を模しているかのようだったが、動きが異常にゆっくりとしていて、恐怖を感じさせるものだった。
翌朝、若者たちはその夜の出来事を村の長老に話した。長老は、彼らの話を黙って聞き終えると、静かに語り始めた。
「鬼越しは、昔からこの地域に住んでいた。あの山を越えて、村に来る者を捕らえては、深い谷底に捨ててしまうんだ。あれは、ただの伝説だと思うかもしれんが、実際に何人かが消えていったんだ。夜に山道を歩いた者は、決して戻らなかった。」
若者たちは震え上がった。もしあの時、鬼越しの声に引き寄せられなかったら、彼らもそのまま姿を消していたかもしれない。長老は続けた。
「もし、またあの声が聞こえたら、二度と山道には足を踏み入れんことだべ。」
その日から、若者たちは岩手の山の深さと、そこで伝わる恐ろしい伝説の重さを改めて感じることとなった。彼らが帰る前に、最後に見たのは、山の中からゆっくりと現れる薄暗い影だった。その影は、今でも彼らの記憶の中で消えることはなかった。
「オニコシ、オニコシ…」
その声が、今でも山の奥から聞こえてくるような気がしてならなかった。
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