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積もりし灰、高貴な瞼

#1


その日は、珍しく山が不機嫌だった。
【[漢字]焔咲山[/漢字][ふりがな]ほむらざきやま[/ふりがな]】の噴火はそう珍しくない。
1週間に1度は噴火するので、20年以上も生きてると慣れてくる。
だが、今日は珍しい。
1日に3回も噴火するとなると、流石に傘が必要になる。
灰が積もる広々とした草原を、理由もなく歩いていた。
家に居ても特にやる事がないので、適当に歩いていた。
そんな途中、灰が降り注ぐ草原に人影が見えた。
真っ黒なシルエット・・・女性と理解するのに、数秒かかった。
何をしているのか気になって、少しずつ近づいた。
近づくにつれて、その女性の細かな部分が見えてきた。
服装は、真っ黒なドレス。顔はまだよく見えない。
かなり近付くと、相手もこちらに気付いたのか振り向いた。
女性の顔は、素晴らしいほど整っていた。
自分が書く小説に出てくるヒロインのような顔立ちをしている。
美人の中でも、世間一般的にはかなり上位の評価に値するだろう。
「あの・・・」
「あ、すみません。この灰の中、何を突っ立ってるんだろうって・・・」
慣れない会話に、頑張って対応する。
「何をされてたんですか?」
「・・・・・」
女性は少し黙った後、口を開いた。
「・・・埋もれたいって、思ったんです。」
「は?」
思わず聞き返してしまった。
「この灰の中に埋もれたら・・・楽になれるかもって・・・」
要するに、きっとこの人は死ぬためにここに居たのだろう。
死なないとしても、気持ちを埋もれさせようとしたのだろう。
きっと、そうするに至るまで、沢山の地獄を越えたのだろう・・・
ここはそういう場所だ。
「あの、名前聞いていいですか?」
「え、あ・・・[漢字]黒春玲子[/漢字][ふりがな]くろはるれいこ[/ふりがな]です・・・」
「[漢字]平塚俊亨[/漢字][ふりがな]ひらづかとしみち[/ふりがな]です。連絡先交換しましょう。」
「え、なんで・・・ここまで構ってくれるんですか・・・?」
「なんででしょう・・・気付けば、こうなってました。」
焔咲山の噴火は、まだ続いている。
振り続ける灰は、2人を包み込むように勢いを増した。




黒春「お邪魔します・・・」
連絡先を聞いて1時間。2人は啓塚亭に戻ってきた。
啓塚「どうぞ、2回上がって突き当たり左です。」
黒春「あ、はい・・・」
最初は家に連れて帰ろうなんて思わなかった。が、
黒春さんも自分も1人暮らし・・・少し誘ってみたかった。
女性の家に誘うのは人生で初めて。でも、
初めてはこの人で良かったと思う。
変にはしゃぐわけでもなく、文句も言わない。自分の聖域を汚されないオーラが見える。
手を洗い、顔を拭き、2回の自室に入る。
既に黒春さんが小机の前で座っていた。
黒春「随分綺麗な部屋ですね。」
啓塚「そうですね。整理整頓はかなりする方ですので。」
少しの会話を続けていく中、気になった事を聞いてみる。
啓塚「なんで、付いてきてくれたんですか?」
黒春「え?」
少し困惑した顔を見せる。
その顔でさえも美しく見える。
啓塚「普通、その日に会った男の家なんて行かないと思うんです。」
黒春「まあ、そうですよね・・・」
啓塚「でも、黒春さんは来てくれた。なんでですか?」
黒春「・・・誰でも良かったんです。」
予想外の返答に、少し困惑する。
黒春「家に帰っても1人だし、話し相手が欲しかったんです。」
啓塚「家族とかとの連絡は?」
黒春「家族が死んだからこの村に来たんです。」
ギョッとした。聞いてはいけない事を聞いてしまった。
黒春「大学卒業後すぐに、家族が同時に他界。遺産は全て妹に持ってかれました。」
何処かで見た漫画のような設定だと感じた。
黒春「お金がなくなったら、住む場所がなくなります。」
啓塚「だから、家賃がかなり安いこの村に越してきたと?」
黒春「はい。コンビニでバイトをしながら、家賃などを払い続けてました。でも・・・」
不穏な空気が流れた。
黒春「妹までもが死んでしまって。結局遺産は殆ど私の所に来ました。」
啓塚「え・・・じゃあ、今は?」
黒春「働いてません。家では特に何もしてませんし・・・」
予想外だった。家族全員が他界?
自分は、まだ父親が生きている。でも、
黒春さんには、もう家族が居ない・・・。
啓塚「だから、こんな灰がよく降る日に・・・」
黒春「はい。なんか、毎日に色が無いなと感じて・・・」
啓塚「まあ、分かりますよ。この村に居ると特にね・・・」
2人は分かっている。
この村の異常さを。
だからこそ、両者は両者の孤独を感じる事が出来た。
啓塚「ご飯・・・食べますか?」
黒春「・・・お言葉に甘えて、頂きます。」
その言葉を聞き、啓塚は1階のキッチンへ向かった。



黒春「・・・頂きます。」
時刻は午後5時25分。少しずつ、日が沈みかけている。
啓塚が作ったのは、最近覚えた【オムライス】。
黒春「・・・・ん!美味しいですね!!」
予想以上の反応に、過度に喜ぶ。
啓塚「本当ですか!?良かったです・・・!」
その後自分の分も用意し、席に着く。
啓塚「実は、オムライス作るの初めてで・・・」
黒春「え、そうなんですか?本当に美味しいです!!」
啓塚「やったぁ!得意料理が増えました!」
夕食時間は、笑顔が多かった。
村に絶望した2人の会話とは思えないほど、賑やかなものだった。
黒春「ふぅ・・・ごちそうさまでした!」
啓塚「いえいえ!2階戻っといてください。」
黒春「いや、手伝いますよ!」
啓塚「いえ、休んでおいてください。」
黒春「では・・・お言葉に甘えて!」
啓塚「あ、あの!」
緊張した口調で、啓塚が黒春に話しかける。
黒春「はい、なんですか?」
今日、初めて会った時より、顔が明るい気がする。
会って1日も経っていないのに、彼女に魅力を感じる。
啓塚「今日の夜・・・その・・・えー・・・」
黒春「分かりました。」
啓塚「え?」
黒春は、全てを理解した。
彼女もまた、啓塚に魅力を感じていた。
黒春「部屋で待ってますからね。」

作者メッセージ

どうも戸部夏実です!
久々の1話完結!でも、
1話完結じゃないんです。(?)
後これ、novel cakeでも出してます。

2025/04/02 19:14

戸部夏実 ID:≫ 6s/EWVZi48e6M
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