青森県津軽地方、鶴見町。冬の冷たい風が吹きすさぶこの町に、青森市から転任してきた若い警察官、藤田修一がやって来た。青森の人々の温かさにすっかり惹かれ、津軽弁に少しずつ慣れ、地元の生活にも馴染みつつあった彼のもとに、ある日、思いもよらぬ事件が持ち込まれた。

青森りんごを栽培している中沢家の長男、義男（よしお）が突然行方不明になったのだ。義男は家族にとって大切な存在であり、町の人々にも愛されていた。しかし、畑を見回りに行ったまま戻らず、家の中にも異常は見当たらなかった。藤田は同僚の刑事、黒木と共に現場へ向かう。

現場には、義男の部屋に置かれた津軽塗りの箱と、その中に入っていた一通の手紙があった。手紙には、たった一言だけが記されていた。

「霧が晴れたら来てくれ」

藤田はその言葉をじっと見つめた。青森では霧の多い冬の風景が特徴的だが、果たしてその言葉がどういう意味を持つのか、すぐには解けなかった。義男が失踪した理由と何か関係があるのだろうか。

藤田は義男が家族の過去に関わる問題を抱えていたことを知る。義男は、父親がかつて不正な取引に関与していたことを知り、家族を守るためにそれを隠し通そうとしていた。藤田はその情報を掘り下げていくうちに、義男が何らかの形でそれを暴こうとしていたことに気づく。その過程で、義男の家族との関係が徐々に明らかになり、藤田は事件に対する理解を深めていった。

義男が消える前に語った言葉が藤田の頭を離れなかった。「青森りんごを守りたい」という言葉には、ただの農業への愛情以上の意味が込められているように感じた。それが家族や過去に縛られた何かと関わっていることは明らかだった。藤田はその背後にある真実を掴もうとしたが、事件はますます謎めいていくばかりだった。

調査を進める中で、藤田は義男が失踪する前に訪れた場所が、義男が育てていた青森りんごの畑であったことを知る。そして、その畑の近くで見つかった足跡が、藤田のものだということに気づく。だが、何故自分の足跡がそこに残っていたのか、はっきりとした答えは見つからなかった。

藤田は再び義男の足取りを追う。弘前城の周辺を調べ、義男が何を見つけ、何を考えたのかを思い浮かべる。しかし、事件の真相にたどり着こうとする度に、藤田の心に疑念が湧き上がった。何かがずっと引っかかっている。過去に藤田が携わった事件、義男との関係、そして家族の隠された秘密が交錯し、藤田の心に不安が募る。

次第に、藤田は自分の関与を強く感じ始める。しかし、証拠はない。犯人が自分であるという確信が彼の中に芽生えたものの、それを証明できるものは何一つとして見つからない。藤田はその夜、再び義男が失踪した場所へ足を運び、足跡が残された場所を調べる。冷たい霧の中、藤田はただ静かに立ち尽くす。その背後には、誰かの気配が感じられるような気がした。

そして、藤田はふと立ち止まる。霧が少しずつ晴れ、青空が広がるその瞬間、彼の心に一つの確信が浮かぶ。義男の失踪には、何かもっと大きな秘密が隠されていることを。だが、それが何なのか、犯人が誰なのか、藤田には明確な答えはなかった。事件は結局、解決を見ないまま、霧と共にそのまま姿を消すのだ。

藤田は、事件の真実がどこにあるのかを知ることなく、再び霧の中に消えていった。青森の冷たい冬空の下で立ち尽くしながら、彼の胸にだけ、静かな余韻が残っていた。