夜の佐賀県、薄暗い街灯が寂れた商店街を照らす中、水野愛は一人で歩いていた。
ゾンビとして蘇って以来、彼女の人生（？）は大きく変わったけれど、ステージに立つ情熱だけは変わらない。
今夜はフランシュシュのライブが終わったばかりで、仲間たちはそれぞれ寮に戻っていたが、愛は少しだけ寄り道をしたかった。
「ねえ、愛ちゃん。ちょっと気合い入れすぎじゃない？」
さくらの声が頭に響く。今日のライブで、愛は新しい振り付けを即興で加えたせいで、リズムが少しズレてしまった。観客は気づかなかったかもしれないけど、自分には分かる。
あの完璧主義の水野愛がミスをするなんて、許せなかった。
愛は立ち止まり、空を見上げた。星がちらほら見える佐賀の空は、東京のそれとは違ってどこか優しい。
「アイドルってさ、完璧じゃなきゃダメなのよね…」と呟く。ゾンビになってからも、彼女の中の「アイドル像」は揺るがない。でも、最近思うのだ。フランシュシュの仲間たちと過ごす時間は、ただ完璧を追い求めるだけじゃない何かを教えてくれている気がする。
突然、後ろから「愛ー！」と聞き慣れた声が飛び込んできた。振り返ると、二階堂サキがバイクのヘルメットを手に持って走ってくる。
「お前、こんな時間に何してんだよ？ まさか一人で反省会でもしてんのか？」サキはニヤリと笑う。
「別に。ただ考え事してただけ」
愛はクールに返すが、サキはそんな態度に慣れっこらしく、肩を叩いてきた。「お前さ、完璧すぎるのも考えもんだぜ。今日のライブ、客がすげえ盛り上がってたの気づかなかったのかよ。あのアドリブ、最高だったってさ」
愛は少し驚いて目を丸くする。「…本当？」
「本当だよ！ お前が楽しそうに踊ってるとこ見て、みんなテンション上がってたんだから。アイドルってさ、完璧より気持ちだろ？」
サキの言葉に、愛の胸が少し軽くなった。
「…気持ちかぁ」愛は小さく笑う。サキに引っ張られるようにして寮に戻る道すがら、彼女は決めた。次のステージでは、perfectよりも「自分らしさ」を出してみようって。