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聞こえなくなった声を辿って【our fantasy】

#20

ラシェル

「なんと汚らわしいことか。」







「この集落には、男を愛する男がいるらしい」







そういう噂は、[太字]私[/太字]が小さいころからよくされていた。







[太字]ラシェル[/太字]。私はそんな名前だった。






ここはサキュバスの住む集落で、私はそこでもかなりの美少女だと言われていた。







容姿を売りにするサキュバスにとって私は期待の新星であり、一族の誇りだった。







ある日から、この集落の少年が[太字]突然[/太字]、女を好かなくなったという。








「ラシェル。あなたは美しい。」






「[太字]あなたの魅力であの子に「女の子」を教えてやるの。[/太字]」






「あの子は女性サキュバスと男の人間のハーフだから、もともと男好きになりえる素質はあった。
だから難しいかもしれないけど…」







「[太字]異性のほうがどう考えても、精気を吸うのに有利なのよ。[/太字]」







「わかるでしょラシェル。何人もの男を虜にした、あなたなら…」








私は可愛い。だからその少年とやらも、きっと私の虜にしてみせる。






…そう、思いながら、しばらくその少年と「[太字]幼馴染[/太字]」として一緒に暮らすことになった。




[水平線]




ラシェル「私はラシェル。あなたの名前は?」








「……[太字]ソレイユ[/太字]。……よろしくね。」






ソレイユと名乗ったその少年は、緋色の髪を肩まで伸ばして、





まったく表情も変えずに言った。







あくる日も、




ラシェル「ねぇソレイユ。何読んでるの?隣、座ってもいい?」




ソレイユ「…嫌。読書中に邪魔はされたくない」




あくる日も、




ラシェル「ね、ねえ、お弁当作ってきたの。一緒に食べない?」




ソレイユ「…いらない」




私はみんなの期待通り、コイツを女の子に慣れさせて、自分を好きになってもらうために頑張った。






のに。






[太字]…まったく、彼はこちらに興味を示さなかった。[/太字]








[太字]まるで、「[漢字]もとから女になんて興味はない[/漢字][ふりがな]突然変異じゃない[/ふりがな]」とでも言うように。[/太字]







腹が立った。







なんでコイツ私のこと「可愛い」って言わないの?







なんでコイツ、私だけのものにならないの?






庭園で二人、歩きながら私は腹を立てていた。






今日も喧嘩して、「もうしない」「もうしない」って言い合った後。






それでもきっと、明日も喧嘩する。







…何なの?コイツ。







ソレイユ「ねぇ、」







ラシェル「…何?どうしたの」









ソレイユ「[太字]ごめんね[/太字]」








風が吹いた。青天の霹靂ってこういうのを言うんだと思う。







とにかくそのぐらい、彼の謝罪は唐突だったし、びっくりした。






ラシェル「…え?急にどうしたの」






何もしてないのに謝られるとかムカつくし、私はそれ以上下に出られないように笑ってみせた。







でも彼はこう続けた。







ソレイユ「[太字]異常な俺を正そうとしてくれてるのに、まっとうに受けなくてごめん[/太字]」









ソレイユ「みんな、俺をおかしいと思ってんのはわかってる。

俺だって、俺がおかしいと思ってる。」









ソレイユ「[太字]でも……「俺」は「俺」を生きていくしかないんだよ[/太字]」







ぎゅっと握った手を胸に寄せて、泣く彼は私より背が低かった。








ソレイユ「[太字]別のものになったり、だれかのものになったり、しないんだ[/太字]」






ラシェル「……」







わかってたんだ。何も考えてないみたいな、「NO」しか言わないようなコイツも。








周りから外されてることも、自分の性が逸脱してることも。







…わかってたんだ。







ソレイユ「…だからさ、俺が君を好きになることってない気がする」







ソレイユ「それでも、君には感謝してるから…」








私の手を握って、何かを寄越した。






[太字]月と太陽のあしらわれた、綺麗なバレッタ。[/太字]








それは確かに、私の心に今でも光ってる。







だってプレゼントでよこすバレッタって、「[太字]一緒にいたい[/太字]」って意味だった。








私、この人と一緒にいなきゃ。









一緒にいられるように、最高の存在にならなきゃ。








ラシェル「[太字]…一緒にいよう。一緒にいても、だれにも何も言われない世界をいつか作ろう[/太字]」







ラシェル「それまでソレイユが、何をされても、」






ラシェル「…[太字]…どんなこと言われても、私は、ソレイユの味方だから[/太字]」







それを言ったとき、彼は目を開いて、すぐ後ろを向いてしまった。







照れちゃって。なんだかわいい所もあるんじゃない。





[水平線]







それから私は、彼の好みになるように、性転換の手術を受けた。








両親には止められた。でも関係なかった。







ああ、それからソレイユは、「変わってる」って言われるのが嫌なんだった。






じゃあ私、それ以上に変な子になろう。ソレイユに矛先は向けさせない。







…あと、名前が同じだと気まずいかな?そうだ、


男性になったんだし、せっかくだから男性名にしちゃおう。









ラシェル「…私、…いや、」







リュンヌ「[太字]拙者はリュンヌだ。[/太字]」







リュンヌ「……ふふ、びっくりするかな、ソレイユ。」








リュンヌ「はやく、はやく会いたいなあ…」







でも結局、わかっちゃいなかった。







私はソレイユをわかってなかった。








[太字]私はもう他人だった。[/太字]






私こんなに頑張ったのに、彼にとってはその他だった。






……だから、もう一度会いに行く。






リュンヌ「[小文字]あ、バレッタ落としちゃった[/小文字]」







リュンヌ「[小文字]でも、いいや。ソレイユ拾ってくれたかな?[/小文字]」







もう一度会いに行って、何度でも愛を再起動してあげる。







[太字]私は忘れないよソレイユ。あなたのくれた、バレッタの意味を。[/太字]

作者メッセージ

本日のおとも:アンドロイドガール


ラシェルはちなむとフランス語で「雌羊」って意味らしい。
リュンヌは「月」、ついでにソレイユは「太陽」、または「ひまわり」らしいです。


2025/09/13 23:32

おとうふ ID:≫ 3e8L8XnSmESu.
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