聞こえなくなった声を辿って【our fantasy】
「なんと汚らわしいことか。」
「この集落には、男を愛する男がいるらしい」
そういう噂は、[太字]私[/太字]が小さいころからよくされていた。
[太字]ラシェル[/太字]。私はそんな名前だった。
ここはサキュバスの住む集落で、私はそこでもかなりの美少女だと言われていた。
容姿を売りにするサキュバスにとって私は期待の新星であり、一族の誇りだった。
ある日から、この集落の少年が[太字]突然[/太字]、女を好かなくなったという。
「ラシェル。あなたは美しい。」
「[太字]あなたの魅力であの子に「女の子」を教えてやるの。[/太字]」
「あの子は女性サキュバスと男の人間のハーフだから、もともと男好きになりえる素質はあった。
だから難しいかもしれないけど…」
「[太字]異性のほうがどう考えても、精気を吸うのに有利なのよ。[/太字]」
「わかるでしょラシェル。何人もの男を虜にした、あなたなら…」
私は可愛い。だからその少年とやらも、きっと私の虜にしてみせる。
…そう、思いながら、しばらくその少年と「[太字]幼馴染[/太字]」として一緒に暮らすことになった。
[水平線]
ラシェル「私はラシェル。あなたの名前は?」
「……[太字]ソレイユ[/太字]。……よろしくね。」
ソレイユと名乗ったその少年は、緋色の髪を肩まで伸ばして、
まったく表情も変えずに言った。
あくる日も、
ラシェル「ねぇソレイユ。何読んでるの?隣、座ってもいい?」
ソレイユ「…嫌。読書中に邪魔はされたくない」
あくる日も、
ラシェル「ね、ねえ、お弁当作ってきたの。一緒に食べない?」
ソレイユ「…いらない」
私はみんなの期待通り、コイツを女の子に慣れさせて、自分を好きになってもらうために頑張った。
のに。
[太字]…まったく、彼はこちらに興味を示さなかった。[/太字]
[太字]まるで、「[漢字]もとから女になんて興味はない[/漢字][ふりがな]突然変異じゃない[/ふりがな]」とでも言うように。[/太字]
腹が立った。
なんでコイツ私のこと「可愛い」って言わないの?
なんでコイツ、私だけのものにならないの?
庭園で二人、歩きながら私は腹を立てていた。
今日も喧嘩して、「もうしない」「もうしない」って言い合った後。
それでもきっと、明日も喧嘩する。
…何なの?コイツ。
ソレイユ「ねぇ、」
ラシェル「…何?どうしたの」
ソレイユ「[太字]ごめんね[/太字]」
風が吹いた。青天の霹靂ってこういうのを言うんだと思う。
とにかくそのぐらい、彼の謝罪は唐突だったし、びっくりした。
ラシェル「…え?急にどうしたの」
何もしてないのに謝られるとかムカつくし、私はそれ以上下に出られないように笑ってみせた。
でも彼はこう続けた。
ソレイユ「[太字]異常な俺を正そうとしてくれてるのに、まっとうに受けなくてごめん[/太字]」
ソレイユ「みんな、俺をおかしいと思ってんのはわかってる。
俺だって、俺がおかしいと思ってる。」
ソレイユ「[太字]でも……「俺」は「俺」を生きていくしかないんだよ[/太字]」
ぎゅっと握った手を胸に寄せて、泣く彼は私より背が低かった。
ソレイユ「[太字]別のものになったり、だれかのものになったり、しないんだ[/太字]」
ラシェル「……」
わかってたんだ。何も考えてないみたいな、「NO」しか言わないようなコイツも。
周りから外されてることも、自分の性が逸脱してることも。
…わかってたんだ。
ソレイユ「…だからさ、俺が君を好きになることってない気がする」
ソレイユ「それでも、君には感謝してるから…」
私の手を握って、何かを寄越した。
[太字]月と太陽のあしらわれた、綺麗なバレッタ。[/太字]
それは確かに、私の心に今でも光ってる。
だってプレゼントでよこすバレッタって、「[太字]一緒にいたい[/太字]」って意味だった。
私、この人と一緒にいなきゃ。
一緒にいられるように、最高の存在にならなきゃ。
ラシェル「[太字]…一緒にいよう。一緒にいても、だれにも何も言われない世界をいつか作ろう[/太字]」
ラシェル「それまでソレイユが、何をされても、」
ラシェル「…[太字]…どんなこと言われても、私は、ソレイユの味方だから[/太字]」
それを言ったとき、彼は目を開いて、すぐ後ろを向いてしまった。
照れちゃって。なんだかわいい所もあるんじゃない。
[水平線]
それから私は、彼の好みになるように、性転換の手術を受けた。
両親には止められた。でも関係なかった。
ああ、それからソレイユは、「変わってる」って言われるのが嫌なんだった。
じゃあ私、それ以上に変な子になろう。ソレイユに矛先は向けさせない。
…あと、名前が同じだと気まずいかな?そうだ、
男性になったんだし、せっかくだから男性名にしちゃおう。
ラシェル「…私、…いや、」
リュンヌ「[太字]拙者はリュンヌだ。[/太字]」
リュンヌ「……ふふ、びっくりするかな、ソレイユ。」
リュンヌ「はやく、はやく会いたいなあ…」
でも結局、わかっちゃいなかった。
私はソレイユをわかってなかった。
[太字]私はもう他人だった。[/太字]
私こんなに頑張ったのに、彼にとってはその他だった。
……だから、もう一度会いに行く。
リュンヌ「[小文字]あ、バレッタ落としちゃった[/小文字]」
リュンヌ「[小文字]でも、いいや。ソレイユ拾ってくれたかな?[/小文字]」
もう一度会いに行って、何度でも愛を再起動してあげる。
[太字]私は忘れないよソレイユ。あなたのくれた、バレッタの意味を。[/太字]
「この集落には、男を愛する男がいるらしい」
そういう噂は、[太字]私[/太字]が小さいころからよくされていた。
[太字]ラシェル[/太字]。私はそんな名前だった。
ここはサキュバスの住む集落で、私はそこでもかなりの美少女だと言われていた。
容姿を売りにするサキュバスにとって私は期待の新星であり、一族の誇りだった。
ある日から、この集落の少年が[太字]突然[/太字]、女を好かなくなったという。
「ラシェル。あなたは美しい。」
「[太字]あなたの魅力であの子に「女の子」を教えてやるの。[/太字]」
「あの子は女性サキュバスと男の人間のハーフだから、もともと男好きになりえる素質はあった。
だから難しいかもしれないけど…」
「[太字]異性のほうがどう考えても、精気を吸うのに有利なのよ。[/太字]」
「わかるでしょラシェル。何人もの男を虜にした、あなたなら…」
私は可愛い。だからその少年とやらも、きっと私の虜にしてみせる。
…そう、思いながら、しばらくその少年と「[太字]幼馴染[/太字]」として一緒に暮らすことになった。
[水平線]
ラシェル「私はラシェル。あなたの名前は?」
「……[太字]ソレイユ[/太字]。……よろしくね。」
ソレイユと名乗ったその少年は、緋色の髪を肩まで伸ばして、
まったく表情も変えずに言った。
あくる日も、
ラシェル「ねぇソレイユ。何読んでるの?隣、座ってもいい?」
ソレイユ「…嫌。読書中に邪魔はされたくない」
あくる日も、
ラシェル「ね、ねえ、お弁当作ってきたの。一緒に食べない?」
ソレイユ「…いらない」
私はみんなの期待通り、コイツを女の子に慣れさせて、自分を好きになってもらうために頑張った。
のに。
[太字]…まったく、彼はこちらに興味を示さなかった。[/太字]
[太字]まるで、「[漢字]もとから女になんて興味はない[/漢字][ふりがな]突然変異じゃない[/ふりがな]」とでも言うように。[/太字]
腹が立った。
なんでコイツ私のこと「可愛い」って言わないの?
なんでコイツ、私だけのものにならないの?
庭園で二人、歩きながら私は腹を立てていた。
今日も喧嘩して、「もうしない」「もうしない」って言い合った後。
それでもきっと、明日も喧嘩する。
…何なの?コイツ。
ソレイユ「ねぇ、」
ラシェル「…何?どうしたの」
ソレイユ「[太字]ごめんね[/太字]」
風が吹いた。青天の霹靂ってこういうのを言うんだと思う。
とにかくそのぐらい、彼の謝罪は唐突だったし、びっくりした。
ラシェル「…え?急にどうしたの」
何もしてないのに謝られるとかムカつくし、私はそれ以上下に出られないように笑ってみせた。
でも彼はこう続けた。
ソレイユ「[太字]異常な俺を正そうとしてくれてるのに、まっとうに受けなくてごめん[/太字]」
ソレイユ「みんな、俺をおかしいと思ってんのはわかってる。
俺だって、俺がおかしいと思ってる。」
ソレイユ「[太字]でも……「俺」は「俺」を生きていくしかないんだよ[/太字]」
ぎゅっと握った手を胸に寄せて、泣く彼は私より背が低かった。
ソレイユ「[太字]別のものになったり、だれかのものになったり、しないんだ[/太字]」
ラシェル「……」
わかってたんだ。何も考えてないみたいな、「NO」しか言わないようなコイツも。
周りから外されてることも、自分の性が逸脱してることも。
…わかってたんだ。
ソレイユ「…だからさ、俺が君を好きになることってない気がする」
ソレイユ「それでも、君には感謝してるから…」
私の手を握って、何かを寄越した。
[太字]月と太陽のあしらわれた、綺麗なバレッタ。[/太字]
それは確かに、私の心に今でも光ってる。
だってプレゼントでよこすバレッタって、「[太字]一緒にいたい[/太字]」って意味だった。
私、この人と一緒にいなきゃ。
一緒にいられるように、最高の存在にならなきゃ。
ラシェル「[太字]…一緒にいよう。一緒にいても、だれにも何も言われない世界をいつか作ろう[/太字]」
ラシェル「それまでソレイユが、何をされても、」
ラシェル「…[太字]…どんなこと言われても、私は、ソレイユの味方だから[/太字]」
それを言ったとき、彼は目を開いて、すぐ後ろを向いてしまった。
照れちゃって。なんだかわいい所もあるんじゃない。
[水平線]
それから私は、彼の好みになるように、性転換の手術を受けた。
両親には止められた。でも関係なかった。
ああ、それからソレイユは、「変わってる」って言われるのが嫌なんだった。
じゃあ私、それ以上に変な子になろう。ソレイユに矛先は向けさせない。
…あと、名前が同じだと気まずいかな?そうだ、
男性になったんだし、せっかくだから男性名にしちゃおう。
ラシェル「…私、…いや、」
リュンヌ「[太字]拙者はリュンヌだ。[/太字]」
リュンヌ「……ふふ、びっくりするかな、ソレイユ。」
リュンヌ「はやく、はやく会いたいなあ…」
でも結局、わかっちゃいなかった。
私はソレイユをわかってなかった。
[太字]私はもう他人だった。[/太字]
私こんなに頑張ったのに、彼にとってはその他だった。
……だから、もう一度会いに行く。
リュンヌ「[小文字]あ、バレッタ落としちゃった[/小文字]」
リュンヌ「[小文字]でも、いいや。ソレイユ拾ってくれたかな?[/小文字]」
もう一度会いに行って、何度でも愛を再起動してあげる。
[太字]私は忘れないよソレイユ。あなたのくれた、バレッタの意味を。[/太字]