聞こえなくなった声を辿って【our fantasy】
天楼「父ちゃんすごい!こんなにいっぱいいたのに、みんな一人で倒しちまった!」
私の父さん…天宮雄一郎は、「カナリア」という自警団グループのリーダーだった。
そこにいる父さんは、いつも喧嘩も生傷も絶えない仕事をしてた。
「けが、ないか?ひでぇやつだな。しかし、
父さんの娘に手を出すとは、ちょっと頭もわりぃみてぇだな!がっはっは!」
私がいじめっこに襲われてた時も、目の前で助けてくれた。
「やっべ、警察だ。行くぞ、天楼」
いつも明るくて、危険でだめな仕事をしてると思わせない父さんが…大好きだった。
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天楼「はっ!とりゃあ!うー…やーー!!」
雄一郎「そうそう、その調子だ、天楼!お前なら父さんみたく、立派なヒーローになれるぞ!」
雄一郎「天楼、お前は自慢の娘だ!」
「まぁ、父さんまだそんなこと言っているの?天楼がそんな道に進むなんて…危なくて母さん怖いわよ…」
私の母さん、天宮優子は、父さんとは反対に臆病な人だった。
でも、心の底から私や父さんを愛してくれてた。
ヒーローになるって夢は、応援してくれなかったけど、それも心配してのことだってわかってる。
そんな母さんが、やっぱり私は大好きだった。
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誰が見たってうらやましがるような、平和な私たちの日常がぶっ壊れたのは、
私が中学3年生の頃だった。
天楼「…父さん、大丈夫?」
父さんの様子がちょっとおかしかった。
雄一郎「いやー、最近敵によく狙われててな。父さん強いから、その才能を羨ましがられてんだ、きっと」
父さんはそう言ってたけど、私はずっと心配だった。
雄一郎「そうだ、天楼。明日、遊園地に行くことになったぞ!」
天楼「えっ、ほんと!?やった!」
私にとって、初めての遊園地だった。
一度、家族で行こうとしたとき、私が高熱を出したんだよな。
ともかく、それが楽しみすぎて、先の悲劇が見えてなかった。
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「っぐ…っ!?!?!」
遊園地のアトラクションに並んでいる途中、父さんが急に苦しみ始めた。
優子「父さんっ…!?」
雄一郎「あい、つら…胡蝶組!!」
それで、私にわかった異変の原因はこれしかなかった。
父さんが「腕の立つ仲間からもらった」と言っていたスープを飲んでいたこと。
胡蝶組。それはカナリアとずっと喧嘩してた反社会勢力。
____そいつらに、スープになんか入れられてたんだ!
父さんはひどく苦しんで、トイレからずっと出てこなかった。
数時間して、ふらふらと出てきたけれど_____
その後三日も経たずして、[太字]肝臓や腎臓をやられて、父さんは亡くなった。[/太字]
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母さんは半狂乱になってた。
あの日遊園地で父さんが苦しんだ時も、何度も警察や病院に連絡してた。
そして、病院に搬送されて…三日で死んじゃった父さんのことだけど。
死因は毒キノコらしい。スープに入れられてたドクツルタケが原因。
…そして、そのあとは、父さんを見てないんだよ。
なぜって?葬式は?そう思うだろう。
…葬式、行けなかったんだ。
父さんはほぼ死体のまま、連[太字]続暴行及び殺人未遂の犯人として警察に連れていかれたから[/太字]。
家族で葬式もできなかった。
優子「ねぇ、天楼……もう、母さんどうしたらいいの?」
母さんはもう、とんでもないぐらい精神がおかしくなってた。
私に包丁を突き付けたと思ったら、急に号泣しだしたり。
もう、あの時の母さんも、父さんも、帰ってこないんだって思って。
辛かった。
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天楼「母さん。ただいま。」
高校入試に行ってきて、帰ってきた日のことだった。
天楼「…母さん?」
母さんの部屋に、紙が一枚置いてあった。
「母さんはもう無理です。探さないで、天楼。
あなたは高校にぜったい受かっただろうから、そこで幸せに生きて。
ごめんね、最後まで一緒にいられなくて。
でも母さんね、生きるのつらくなっちゃった。
だって生きてると、あなたに包丁を突き付けたりするんだもん。
だからね、母さんのことは忘れて。
優子」
涙があふれてきた。母さんは、[太字]私のいないところで自殺した[/太字]んだ。
天楼「…母さん?母さん、嘘だよね?…いるんだよね?そこに」
言葉は部屋で響いた。母さんは出てこない。
天楼「っ、っ…っは、」
過呼吸になる。母さんはどこ?どこに行った?なんとしても止めなきゃ。
止めなきゃ。止め______
天楼「うわあああああああ!!!!!!!!」
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結局、私は母さんを探しに行けなかった。
気を失った。
母さんが「天宮」の苗字を捨ててまで。
私のために、私の母をやめてしまったなんて。
私、包丁突き付けられても平気だったよ…
もっとひどいこといっぱいされてきた父さんの娘だもん。
母さん、どうしていなくなっちゃったの?
天楼「そうだ」
私は、決心して走り出した。
お母さんのところに、行かなきゃ。
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ここかもしれないと思ってたんだよな。
母さんが自殺するなら、この川だって。
天楼「母さん、父さん。待ってて。今そっちに行く」
私一人じゃ、生きていけない。
母さんと父さんは、きっと私が怖くないように、先に天国で待っててくれてるんだよね?
天国で、一緒に暮らそう。
何にも怯えずに、全部忘れて、家族として。
一緒に______
「ん?おーい、そこのあんさん」
天楼「……」
誰だろう。知らない声だなあ。
でも、関係ないや。
そこのおにいさーん。私今から死ぬから、通報お願い。
流れる川に飛び込もうとした、その時だった。
「うおおお!?ちょっと待て待て!あんさん!!」
がしっと手をつかまれた。
「あんさん、まだ16かそこらやろ?あきらめちゃダメやんか!!」
明るい関西弁だった。
天楼「…う るさい…」
天楼「[大文字]うるさいんだよ!!!!!![/大文字]」
天楼「[大文字]死なせてよ!!!!もう、生きてる意味なんてないんだよ!!!![/大文字]」
天楼「[大文字]幸せになるには、死ぬしかないんだよ!!![/大文字]」
目の前の男性は、その言葉を驚きながら____けれど、しっかり聞いた。
それで。
「やっぱりだめや。…あんた、名前は?」
天楼「……うううう…!!!」
緑色の目が優しかった。どうして、名前もしらない私にそんなに寄り添ってくれるの?
天楼「……………」
私、ダメだ。飛び込め。振り払え。
そんぐらい、できるだろ_____
天楼「…………」
できなかった。
そうだ、私怖かったんだ。
死ぬの。
諦めるの。
怖かったんだ。
母さんを守れなかった自分が。
天楼「…天宮、天楼」
「ほぉ。いい名前してるやないか。」
天楼「…あんたは。」
そうだったわ、と軽く笑って、目の前の奴は言った。
「あぁ、俺は玲陵寺楽座。まぁ好きに呼んでや」