枯れゆく国
[中央寄せ][太字]演説、演説、また演説[/太字][/中央寄せ]
装甲車の窓から外の景色を見ていた。ペテログラードは首都で、まだモスクワが首都ではない。日本で言う京都のポジション。
「おーい、おーい。」ぼーっとしていたせいで、隣にいる先生の声が聞こえなかった。現代では光が明るいが、この時はまだ豆電球のでっかいバージョンみたいな白熱灯で、あまり明るくない。そのためかうっとりとしてしまった(本当は眠いだけである)。
「ウラジーミルさんが、隠れ家に行けと指示していた。この車が止まったところが隠れ家らしい。」現代ってだいぶ平和なんだな、と思った瞬間の一つ。
******
それから数週間、いやカレンダーがないので分からなかったが、数か月かもしれない。多分後者が合っている。三人は起きては演説をし(大体内容は第三インターの創設と臨時政府の不支持だった)、みんなでインターナショナル(フランス生まれの労働歌)を歌った。
「ふすたばーい?この歌知らなくてすみません…」
「私たちはロシア語の歌詞しか知らないのだ、ヒカルから教えてもらいなさい。」先生は呼ばれてちょっとびくっとなってた(笑)
「[漢字]起[/漢字][ふりがな]た[/ふりがな]て、[漢字]飢[/漢字][ふりがな]う[/ふりがな]えたる者よ、今ぞ日は近し。」でも、日本語版は二番までしかなくて、三番は鼻歌で歌った。
[中央寄せ][太字][漢字]少数派[/漢字][ふりがな]メンシェヴィキ[/ふりがな]のボリシェヴィキ[/太字][/中央寄せ]
ウラジーミルさんは会議でいないときがあった。ある日、彼はメンシェヴィキ(少数派の意味)との融和を主張するボリシェヴィキ(多数派の意味。ただ、ペテログラ―ドでは少数だった。何とも皮肉が効いている)の党員を[漢字]譴責[/漢字][ふりがな]けんせき[/ふりがな]してきたと言っていた。
「それはないですよ。」と先生は言う。
「どうしてだ?メンシェヴィキとは主義主張が違う。彼らは停戦を求めていない」
「ボリシェヴィキが国家主体となったとき、ウクライナに侵攻したり搾取したりして、インテリゲンツィアがいなくなります」
「なぜ?インテリゲンツィアと搾取は関係ないだろう?」
「彼らは賢い農業や取引の仕方を知っています。彼らを殺すのは、国を殺すも同然です。帝政時代に機械文明を加えたようなものに過ぎない国となってしまいます。」
二人は熱心に議論していた。ウラジーミルさんはロシアでもかなり有名な存在。反動分子と捉えられてもおかしくない。しかし、帰ってきた答えは意外なものだった。
「わかった、話を付けてみよう。叱るのが議論ではないしな。」
[太字][中央寄せ]七月蜂起[/中央寄せ][/太字]
ボリシェヴィキ党の発行する新聞であるプラウダ紙や演説の効果は絶大で、臨時政府に嫌悪感を示す人は日に日に多くなっていった。メンシェヴィキ側や社会革命党も[漢字]頷[/漢字][ふりがな]うなず[/ふりがな]くようになっていった。というのも、僕たちがその後起こることを見事に的中させたからだ。
7月のある日、臨時政府を倒すべく市民が蜂起しデモ隊を形成した。臨時政府側がどう出るかウラジーミルさんやジュガシヴィリさん(スターリン。後々出てきます)が頭を抱えていた中、先生が言った一言が党内を駆け巡った。
「政府は我々を殺しに来る。民衆を味方に付けて。」党員の一人が急に激高して詰め寄ったが、ウラジーミルさんに制止された。
「政府にそこまでの力はないだろう?」ジュガシヴィリさんは[漢字]怪訝[/漢字][ふりがな]けげん[/ふりがな]そうに尋ねた。
「新聞社や駐留部隊にデマを流し、民衆を信じ込ませやすくします。」
ジュガシヴィリさんは黙っている。そして静かにこう告げた。
「デモ隊の様子を見てくる。解散させれば何も起こらないだろう」
しかしこれが裏目に出て、ボリシェヴィキは支持率を失い、幹部は次々に逮捕された。
[太字][中央寄せ]またヘルシンキへ[/中央寄せ][/太字]
その後またデモが発生したが、ついに駐留部隊が動き出し、プラウダ紙の発行所や党本部が制圧されてしまった。
「ここに居たら危ない。同志諸君、生きてまた終結せよ」ウラジーミルさんは言った。すでに彼にとって重要なメンシェヴィキ派のレオンさん(レフ、つまりトロツキー。この人も後々出てきます)も拘束されており、それからは変装と隠れ家を転々とする生活が始まった。悠は変装する必要はないと感じたが、「常にレーニンと一緒に居る存在」として認識されている可能性もあった。ついに隠れ家を捨てて、40キロほど北にあるラズリーフ湖に潜伏することになった。一応党本部はここということになっている。
「ここも発見される可能性は高い。またヘルシンキへ向かおう。」
[明朝体][中央寄せ]続[/中央寄せ][/明朝体]
装甲車の窓から外の景色を見ていた。ペテログラードは首都で、まだモスクワが首都ではない。日本で言う京都のポジション。
「おーい、おーい。」ぼーっとしていたせいで、隣にいる先生の声が聞こえなかった。現代では光が明るいが、この時はまだ豆電球のでっかいバージョンみたいな白熱灯で、あまり明るくない。そのためかうっとりとしてしまった(本当は眠いだけである)。
「ウラジーミルさんが、隠れ家に行けと指示していた。この車が止まったところが隠れ家らしい。」現代ってだいぶ平和なんだな、と思った瞬間の一つ。
******
それから数週間、いやカレンダーがないので分からなかったが、数か月かもしれない。多分後者が合っている。三人は起きては演説をし(大体内容は第三インターの創設と臨時政府の不支持だった)、みんなでインターナショナル(フランス生まれの労働歌)を歌った。
「ふすたばーい?この歌知らなくてすみません…」
「私たちはロシア語の歌詞しか知らないのだ、ヒカルから教えてもらいなさい。」先生は呼ばれてちょっとびくっとなってた(笑)
「[漢字]起[/漢字][ふりがな]た[/ふりがな]て、[漢字]飢[/漢字][ふりがな]う[/ふりがな]えたる者よ、今ぞ日は近し。」でも、日本語版は二番までしかなくて、三番は鼻歌で歌った。
[中央寄せ][太字][漢字]少数派[/漢字][ふりがな]メンシェヴィキ[/ふりがな]のボリシェヴィキ[/太字][/中央寄せ]
ウラジーミルさんは会議でいないときがあった。ある日、彼はメンシェヴィキ(少数派の意味)との融和を主張するボリシェヴィキ(多数派の意味。ただ、ペテログラ―ドでは少数だった。何とも皮肉が効いている)の党員を[漢字]譴責[/漢字][ふりがな]けんせき[/ふりがな]してきたと言っていた。
「それはないですよ。」と先生は言う。
「どうしてだ?メンシェヴィキとは主義主張が違う。彼らは停戦を求めていない」
「ボリシェヴィキが国家主体となったとき、ウクライナに侵攻したり搾取したりして、インテリゲンツィアがいなくなります」
「なぜ?インテリゲンツィアと搾取は関係ないだろう?」
「彼らは賢い農業や取引の仕方を知っています。彼らを殺すのは、国を殺すも同然です。帝政時代に機械文明を加えたようなものに過ぎない国となってしまいます。」
二人は熱心に議論していた。ウラジーミルさんはロシアでもかなり有名な存在。反動分子と捉えられてもおかしくない。しかし、帰ってきた答えは意外なものだった。
「わかった、話を付けてみよう。叱るのが議論ではないしな。」
[太字][中央寄せ]七月蜂起[/中央寄せ][/太字]
ボリシェヴィキ党の発行する新聞であるプラウダ紙や演説の効果は絶大で、臨時政府に嫌悪感を示す人は日に日に多くなっていった。メンシェヴィキ側や社会革命党も[漢字]頷[/漢字][ふりがな]うなず[/ふりがな]くようになっていった。というのも、僕たちがその後起こることを見事に的中させたからだ。
7月のある日、臨時政府を倒すべく市民が蜂起しデモ隊を形成した。臨時政府側がどう出るかウラジーミルさんやジュガシヴィリさん(スターリン。後々出てきます)が頭を抱えていた中、先生が言った一言が党内を駆け巡った。
「政府は我々を殺しに来る。民衆を味方に付けて。」党員の一人が急に激高して詰め寄ったが、ウラジーミルさんに制止された。
「政府にそこまでの力はないだろう?」ジュガシヴィリさんは[漢字]怪訝[/漢字][ふりがな]けげん[/ふりがな]そうに尋ねた。
「新聞社や駐留部隊にデマを流し、民衆を信じ込ませやすくします。」
ジュガシヴィリさんは黙っている。そして静かにこう告げた。
「デモ隊の様子を見てくる。解散させれば何も起こらないだろう」
しかしこれが裏目に出て、ボリシェヴィキは支持率を失い、幹部は次々に逮捕された。
[太字][中央寄せ]またヘルシンキへ[/中央寄せ][/太字]
その後またデモが発生したが、ついに駐留部隊が動き出し、プラウダ紙の発行所や党本部が制圧されてしまった。
「ここに居たら危ない。同志諸君、生きてまた終結せよ」ウラジーミルさんは言った。すでに彼にとって重要なメンシェヴィキ派のレオンさん(レフ、つまりトロツキー。この人も後々出てきます)も拘束されており、それからは変装と隠れ家を転々とする生活が始まった。悠は変装する必要はないと感じたが、「常にレーニンと一緒に居る存在」として認識されている可能性もあった。ついに隠れ家を捨てて、40キロほど北にあるラズリーフ湖に潜伏することになった。一応党本部はここということになっている。
「ここも発見される可能性は高い。またヘルシンキへ向かおう。」
[明朝体][中央寄せ]続[/中央寄せ][/明朝体]