雨が降りしきる午後、私はひとり、小さなカフェの隅のテーブルに座っていた。窓の外では、灰色の空が広がり、通りを歩く人々の足元が濡れていく。私はその様子をぼんやりと眺めながら、手元のノートに目を落としていた。

「解を求め、何を求む。」

その言葉が頭の中で何度も繰り返されていた。それは、私が長年抱え続けてきた問いであり、答えを探し続けているものだった。解、つまり問題の答え。それを手に入れれば、すべてが明確になり、すべての曖昧さが消えるように思えていた。しかし、その解を手に入れるために、私はどれほど多くの時間を費やしてきたのだろうか。

「解って、本当に必要なのか？」

ふと、隣の席から聞こえた声に目を向けた。そこには、見知らぬ男性が座っていた。彼の顔はどこか疲れているように見え、手には一冊の古びた本を持っていた。

「え？」私は思わず声を上げてしまった。何かしらの違和感を覚えたが、その言葉が私の頭に深く響いた。

「解を求めているのなら、その先に何を求めているのかも考えた方がいい。」彼はそう言った。言葉が少し鋭く、まるで私に問いかけているかのようだった。

私はしばらく黙って彼を見つめ、やっと口を開いた。「私は…自分の中の答えを求めているんです。」

「答え？」彼は軽く笑った。その笑いにはどこか冷徹なものが感じられた。「答えを求めても、答えが答えにならないことがある。それをどうする？」

その言葉に私は言葉を失った。確かに、私が求め続けてきた「解」も、最初は明確に見えていたものだった。しかし、いざその答えに近づくにつれ、思った通りにはいかないことが多かった。そしてその度に、私は答えをさらに追い求めていた。

「あなたも、解を求めているのですか？」私は少し恐る恐る尋ねた。

彼は静かに頷いた。「解を求めることに意味はない。しかし、解を求めることで、何かを学ぶことができる。」

その言葉が、私の胸に突き刺さるような感覚を与えた。私は本当に「解」を求めているのだろうか。それとも、「解」を求める過程こそが重要なのだろうか。

「もし、答えが手に入ったら、どうするつもりですか？」彼は再び私に問いかけた。

その質問に、私はしばらく黙って考え込んだ。解を得た先に、私は何を求めるのだろう。答えを得ても、心の中に残る不安や疑問が消えるわけではない。それどころか、新たな問いが生まれ続けるだけかもしれない。

「解を求めることで、私は自分が変わると思っていた。でも、それが本当の解だとは限らない。」私はやっと答えを見つけたような気がした。

「だからこそ、解を求めること自体が、意味を持っているんだよ。」彼は再び静かに言った。「解そのものは、最終的には消える。でも、その過程で学んだことは、君を変える。」

私は彼の言葉に少しずつ納得していった。答えを求めること、そしてその過程で学び、成長していくこと。それが真に価値があるのだと気づき始めた。

「解を求めることが、ただの答えを得るためだけではなく、自分を知るための一歩だということに気づけました。」私はそうつぶやいた。

彼は微笑んで、再び本に目を落とした。「それでいいんだよ。君がどんな答えを出すにしても、その過程で得られるものは必ずある。」

雨はまだ降り続け、カフェの中も静かなままだった。私はその言葉を胸に、再びノートを開き、手を動かし始めた。解を求めることに意味がある。それが、私にとっての答えだった。

そして、解が手に入るその時まで、私は歩みを止めることなく、問い続けるだろう。