化けの花
未来は花の前に立ち続け、
深い静寂の中で心を整理していた。
空気は冷たく、
彼女の呼吸だけが響く。
花の光がだんだんと弱まっていくのを見つめながら、未来は心の中で葛藤していた。
老夫婦の愛を守ることと、呪いを断ち切ることの間で揺れ動きながら、
どちらを選べば最も正しいのか分からなかった。
「自由を手に入れる…」
長老の言葉が彼女の耳の中で反響する。
呪いから解放されるためには、この花を放つことが必要だ。
だが、それには確実に誰かが犠牲になるだろう。
それが老夫婦の命なのか、
それとも他の誰かの命なのか、
未来には分からなかった。
誰かを犠牲にしてしまうその現実を、彼女は恐れた。
そして、心の中で一番恐れていたのは、
もしこの花を放ったとしても、
結局彼女が失うのは愛と絆ではなく、永遠の孤独ではないかということだった。
呪いを断ち切ることで、
彼女が得られる「自由」が、
果たして本当に幸せなものなのか。
それは確かめる術がなかった。
しかし、彼女は気づき始めていた。
自由を得ることができたとしても、
そこに何かが欠けている気がしていた。
呪いに囚われ続けることの苦しみは確かに重いが、今の自分にとって一番大切なのは、
その呪いの中で見つけた愛や絆のほうなのではないかと。
ふと、彼女は思い出した。
老夫婦が見せてくれた
その優しさ。彼らが彼女に託した思い。
それらが全て、花を守ることに繋がっているのだろうと。彼女は、その思いを裏切りたくはなかった。
未来は、もう一度花に手を伸ばした。
彼女の指先が、花びらに触れる。
温かな感触が広がり、
しばらくそのままでいた。彼女の心は、今もその花に引き寄せられていた。
「私は…どうしても、この花を守りたい。」
そう呟いた未来は、もう一度目を閉じた。
その時、何かが胸の中で弾けるような感覚を覚えた。
[小文字]すっ…[/小文字]
花が再び輝きを放ち、
強い光が彼女を包み込んだ。
その光は、痛みと共に広がり、
彼女の体を貫いていく。まるで呪いが彼女の体を蝕み、魂を奪うかのように。
その瞬間、未来は理解した。
呪いを断ち切ることは、もはや彼女が選べる道ではなかった。それが意味するのは、
今まで彼女が築いてきた全てのものが消えてしまうことだった。
愛も、絆も、あの老夫婦の思いも、すべてが無になる。それを選んだところで、何も残らない。
花は、彼女を取り込むように輝き続け、
未来の体は次第に透明になっていった。
彼女は次第に消えていくのを感じた。
もはや彼女の存在は、
この世界から消えていく。
ただ、その光に包まれて、彼女の意識だけが遠くへと引き寄せられていった。
「ありがとう。」
最後に、未来は心の中でその言葉を呟いた。
老夫婦の愛を受け入れることを決めた自分を、彼女はある意味で解放したのだ。
けれど、自由を手に入れることができたわけではなかった。
自由の代償として、彼女はもう、この世界には戻れなくなった。
彼女が選んだ道は、
悲しみと痛みを伴う結末を迎えた。
それでも、その道を選んだことが間違いではなかったと、未来は信じた。
そして、花の輝きは最終的に消え、庭は再び静けさを取り戻した。