未来が目を閉じた瞬間、

彼女は一瞬だけ、静かな夢の中へと引き込まれた。

そこで彼女は、かつて老夫婦が見せていた優しさに包まれ、温かな手に導かれて歩いていた。

彼女の周りには美しい花が咲き乱れ、その花々の香りが彼女の心を穏やかにした。

しかし、心の奥底で、何かがひっかかるような感覚を覚えていた。

目を開けると、屋敷の庭は依然として静寂に包まれていた。だが、どこかが違っていた。

花は枯れておらず、むしろその輝きは以前よりも強く、目を引くものだった。

未来はその光景を眺めながら、立ち上がることなく、再び庭に座り込んだ。

その時、再びあの囁き声が聞こえた。


「あなたは選ばれたのだ。もう後戻りはできない。」　　

未来は深く息を吸い込み、その言葉を受け入れた。　

老夫婦の悲しみ、愛、そしてその呪いが、今や自分のものとなりつつあることを感じていた。

彼女は自分がこの花を育て、守り続ける宿命に繋がっていることを、頭では理解していた。

しかし、心の中ではその呪いを受け入れたくないという強い思いが湧き上がっていた。

その夜、未来は再び屋敷を離れ、

村の外れにある森へと足を運んだ。

冷たい風が木々を揺らし、彼女の髪をひとひらひとひらと舞い上げる

その時、遠くから足音が聞こえてきた。未来は足を止め、振り返ると、見覚えのある顔が現れた。　

それは、村でかつて最も信頼されていた人物、村の長老だった。

「未来、お前が来るのを待っていた。」

長老は、静かな声で言った。

「お前には、もう一つの道があるかもしれん。」

未来はその言葉に驚き、
長老に駆け寄った。

「もう一つの道？」

彼女の声は震えていた。

「それはどういう意味ですか？」


「お前が花を育てることが、必ずしもすべてではない。」


長老はゆっくりと答えた。


「呪いから解放される方法は、まだ残されている。ただ、それには勇気が必要だ。」


「どうすれば…」

未来は目を見開きながら尋ねた。

長老は一歩踏み出し、

彼女の目をしっかりと見つめた。


「お前がその花を愛し続けることが、呪いを強くし、永遠に囚われ続ける原因となる。しかし、もしお前がその花を放ち、呪いを断ち切る覚悟を決めたなら、お前は真に自由を手に入れることができるだろう。しかし、それは決して簡単なことではない。」　


未来は長老の言葉を噛み締めるように聞いた。自由を手に入れることができるかもしれない。

しかし、愛し続けることが呪いを深めていくのなら、その花を放つことで、誰かの命が失われてしまうのではないかという恐れが、彼女の胸を締めつけていた。


「お前が選ぶ道こそが、お前の運命を決める。」

長老は最後にそう言い、森の中に消えていった。

未来はその場に立ち尽くし、再び深いため息をついた。彼女は一人で決断を下さなければならなかった。

そしてその決断が、彼女だけでなく、村の人々、そしてあの老夫婦の愛にまで影響を及ぼすことになるのだということを、すぐに理解した。

何もかもが沈黙の中で、彼女は一歩、また一歩と歩き出した。

花が咲いている庭に戻る道を、迷いながらも歩み続ける。その足音が、静かな夜の中で響いていた。

最終的に、未来は花の前に立ち、
その輝きに目を閉じた。

もう、これ以上誰かを傷つけたくはなかった。

彼女は、老夫婦が託した愛を守ることができるのか、それとも呪いを断ち切り、自由を手に入れるのか、まだ決められないまま、その場に立ち尽くしていた。

そして、花の光が次第に弱まり、未来の心の中で何かが変わるのを感じた。

彼女は、今、最も大切な選択をしようとしていた