屋敷の庭に新たに咲いた花は、確かに美しかった。

しかし、その花が咲き始めた日から、
村に異変が起こり始めた。

初めは小さなことから始まった。

人々が夢の中で、見知らぬ顔の老夫婦を見かけるようになり、
その顔がどこか懐かしく、切ない表情を浮かべているのを感じるという話を聞くようになった。

次第に、村の人々はその花の近くを避けるようになり、屋敷の庭に近づく者はほとんどいなくなった。

未来はその理由を知っていた。

花が持っていた力、老夫婦の永遠の愛と引き換えに生まれた呪いが、まだ解き放たれていないことを。

彼女はその力を、たとえ受け入れがたくても、避けることができなかった。

ある晩、未来は再び花のところに足を運んだ。風が静かに吹く中、花はその柔らかな光を放っていた。

しかし、花の周りに漂う空気は、どこかひんやりとしていて、未来の心に不安を感じさせた。

その瞬間、未来の耳に囁くような声が聞こえた。


私たちの愛は、あなたに託した。けれど、永遠には何もない。」


未来は足を止め、目を凝らすと、花の光の中に老夫婦の姿が浮かび上がった。

ニコッ

二人は微笑んでいるように見えたが、その微笑みの裏に隠れた深い悲しみを感じ取ることができた。

「どうして、あなたたちはこんなに長く生きていたのですか？」

未来は声を震わせながら尋ねた。



「私たちは、愛し続けることができた。でも、それが呪いとなり、永遠の命を繋ぎ止めることになったのです。」


夫婦の声は静かに響き、

どこか遠くから聞こえてくるようだった。

「あなたも、この花と共に生き、死ぬことなく守り続けなければならない。だが、それは決して幸せなことではない。」


未来はその言葉に胸が締め付けられる思いがした。

愛する者を永遠に守り続けるという誓いが、どれだけの苦しみと犠牲を伴うものかを、
彼女はまだ本当に理解していなかった。

そして、その花が果たして安らぎをもたらすものなのか、それとも呪いを引き受けるものなのか、悩んでいた。

その夜、未来は屋敷に帰らず、庭の片隅に座り込んだ。花の光に包まれながら、
ひとしきり涙を流した。


彼女は、自分の未来を信じるべきなのか、
それともこの呪いから逃れるべきなのか、答えを出せないままだった。

…

翌朝、未来が目を覚ましたとき、屋敷の庭は何も変わっていないように見えた。

しかし、心の中では何かが確実に変わっていた

彼女はもう、ただ美しい花の力に惹かれるだけではなかった。

それは、
彼女自身の運命に深く関わる力であり、　その花を育てることが自分の宿命であるような気がしてならなかった。

その後、未来は村を離れることを決心した。

村人たちが避ける屋敷を訪れることが、彼女にとっては避けがたい使命となり、
花を育てることでしか自分の存在意義を見出せなくなったからだ。

しかし、花が咲くたびに、村に恐れと不安を与え、未来がその力に取り込まれていくような感覚を覚えるようになった。

そしてある夜、花が突然枯れ、
屋敷が再び静まり返った時、未来はその静けさが、最終的にすべてを奪い取ることを悟った。

彼女は、もはやただの人間ではなく、老夫婦の愛の結晶として、
永遠にその場所に残る運命に繋がっているのだという事実に気づいた。

そしてその瞬間、未来は静かに目を閉じた。

その目に浮かんだのは、もう誰も見ていないはずの花が咲く光景、そして消えていった老夫婦の姿だった。