秋山涼太は、目立たない普通の高校生だった。家族も友人もいて、特に不満もなかったけど、どこか物足りない。毎日が何となく過ぎていって、心の中で「これでいいのかな？」と思っていた。

そんなある日、放課後に涼太は転校生の真壁遥に出会った。彼はどこか不思議な雰囲気を持っていて、涼太にこう言ったんだ。

「君は、見えなくなるかもしれないよ。」

「は？ 何言ってんだよ？」涼太は笑いながら返したけれど、その言葉が妙に気になった。まさか、そんなことが本当に起きるなんて…。

その言葉通り、次の日、涼太は自分が「見えない」ことに気づく。誰も自分を見てくれない。友達が目の前で話していても、涼太には一切反応しない。最初はただの冗談かと思ったけど、どうやら本当に見えなくなっていた。

「嘘だろ…？」涼太は自分の目を疑った。周りの友人たちは、まるで涼太が存在しないかのように、普通に会話を続けている。

その時、涼太は少し興奮を感じた。「自由だ…」って思ったんだ。誰にも見られない、自分の思うように行動できる。人々が気づかない隠された真実を知ることができるし、ちょっとした秘密も覗き見できる。普段は見逃していた小さなことに気づけるようになって、なんだかワクワクした。

でも、それはすぐに違う感情に変わった。だんだんと孤独が重くのしかかってきた。人々が触れてくれない、声をかけてくれない。誰にも気づかれないことが、どんどん辛くなってきた。

ある日、涼太はかつて親友だった奈緒のことを思い出す。彼女が、誰にも頼らず一人で悩んでいることに気づいた。涼太は一瞬、心が痛んだ。奈緒を助けたい、声をかけたい。でも、透明な自分にはそれができない。

「どうして、俺は透明なんだ…？」涼太は自分に問いかけた。その瞬間、透明でいることの恐ろしさに気づいた。自分がいなくても、誰も悲しまない、誰も気にしない。でも、そんなことは嫌だ。誰かを助けたい、支えたい、そんな気持ちが抑えきれなくなった。

涼太は、自分がいなくても周りの人々に支えられて生きていたことを痛感する。自分がいなかったら、奈緒はどうなるんだろう…？

「どうしてこんなことになったんだろう…」涼太は自分の透明な状態を悔やみながら、思い悩んだ。だけど、そこでひとつの結論に達する。

「俺、もう透明でいる意味なんてない…」涼太は強く決心した。自分が透明でいることで、奈緒に何もできないことが、何よりも辛い。だから、もう一度見える存在になりたい。奈緒を助けるために、何かできることをしなければ。

涼太は、自分の存在を犠牲にする覚悟を決めた。「透明なままでいることは、もはやただの逃げだ」と感じたからだ。彼は透明でも、奈緒を助ける方法を探し続けた。そして、ついにその答えにたどり着く。自分を消すことで、奈緒を救える方法があるんだと。

涼太は覚悟を決め、最後の行動に出た。奈緒に必要な言葉を、透明な自分でも伝える方法があると信じて。そして、涼太はその行動を通して、奈緒の悩みを解決し、彼女を救うことができた。

涼太はある日、奈緒が一人で悩んでいるときに、自分が透明な存在でもできることを試みた。奈緒のバッグの中に、涼太が書いたメモを忍ばせた。そのメモにはこう書いてあった。

「奈緒へ。君はひとりじゃない。悩んでいることがあれば、いつでも話してほしい。」

涼太はそのメモをバッグの横にそっと置き、後ろから見守るしかできなかった。その瞬間、涼太は奈緒がそのメモを見つけることを祈った。自分の言葉が届くことを信じて。

数日後、涼太は奈緒がメモを見つけ、心の中で何かを感じ取ったのを確信する。そして、放課後、いつものように奈緒が一人で帰ろうとしていたとき、彼女がふと立ち止まり、誰もいない空間に向かって静かに言った。

「ありがとう、涼太。」

その言葉を聞いたとき、涼太の心は温かく満たされた。自分の存在が、透明であっても、誰かに届いた。それが何よりも嬉しかった。

涼太は最終的に、自分の存在を完全に消すことを選ぶ。しかし、彼の心は消えなかった。奈緒の心に、彼の思いはしっかりと刻まれていたから。

涼太は、透明な存在でありながらも、心の中では再び自分を見つけることができた。彼は周りの人々との繋がりがどれほど大切で、目に見えないものこそが本当に価値があるものだと理解した。彼はもう一度、周りの人々に感謝しながら、これからも全力で生きることを決意した。

「俺が透明でも、必ず誰かのために生きる。それが、俺の約束だ。」涼太は心の中でそう誓い、新たな一歩を踏み出した。

透明な約束。それは、目に見えないけれど、確かに存在する、強い絆だった。