「レオナード。」

声をかけたのは、魔法の力で空を飛んでいた女の子だった。左手には長い杖を持っている。レオナードはその瞬間、追ってきた警察の一味だと思い、その場で両手を上に挙げた。

『…はいはい、わかった。警察だろ？…ほら、さっさと俺を捕まえろよ。お手上げだ。』

すると、女の子は顔を傾げてこう言った。

「何を言っているの。」
『え？』
「君、壊れちゃった？」

どうやら思い込みだったよう。女の子は警察の一味では無いことがわかった。それにしても幼い声だ。きっと子供なのだろう。よくよく考えてみると、子供が一人で追ってくるわけないかとレオナードは納得する。

そしてレオナードは「がははっ」と豪快な笑い方をした。

『壊れてる？脱獄してる時点でもう既に考え方が壊れちゃってるぜ。』
「ふうん、[漢字]玩具[/漢字][ふりがな]おもちゃ[/ふりがな]なの？」
『玩具？俺は玩具なんかじゃねえぜ。』

女の子は、足を地面につけた。そしてレオナードに近づいてきた。

（俺に興味を持ったのか？）

レオナードは少し嬉しそうに女の子に質問する。

『お前、なんで俺の名前を知ってたんだ？』
「…見えたの。」
『見えた？何が？』

女の子はその後何も喋らなかった。レオナードは困ったと大きく息を吐いた。

『その杖で魔法が出せるのか？てか、ボロボロだな。』
「魔法、やってみせてあげようか？」
『え、いいのか！？』

レオナードは目の前で見る魔法が初めてだったため、とても興奮していた。そして女の子はレオナードに魔法を披露した。

「[太字][漢字]クローステル[/漢字][ふりがな]拘束魔法[/ふりがな][/太字]」

女の子はレオナードを拘束した。

レオナードは目を大きく開けて驚いていた。女の子はレオナードを睨んだ。

『おっと、これは驚いたぜ…。』

（子供なのに魔法が使えるだなんて、天才の塊だな）

レオナードの手足は拘束されて動けないのだが、レオナードは何とか動かせないかと無理矢理動かそうと試行錯誤していた。

『これ、本当に動かせないな。その…なんだっけ、クローシャル？すげえなお前。羨ましいよ。』
「クローステル。やっぱり君、本当に壊れちゃってるね。」
『ちょっと待てよ。さっきから何言って…。』

流石のレオナードも何度も「壊れてる」と女の子に連呼されているせいか、違和感を感じ取った。

『壊れているってどういうことだよ。』
「君、魔力が全く無いね。」
『そりゃ、俺は魔法が使えないからな。』
「魔法が使えない人でも、多少の魔力は持っているの。」
『へえ。まあ俺はどうせ使えないんだから、魔力が無くても生きていけるぜ。』

女の子は呆れる。

「私のこと馬鹿にしてるの？」
『いやぁ？可愛い女の子だなって思ってるぜ。』
「子供じゃないよ。」
『えっ、違うのか？こんなに幼いのに？』

確かに、女の子の容姿は幼かった。女の子は目にかかった綺麗な白い髪を払いのけた。

「よく言われる。」

レオナードは少しガッカリした。

すると突然「そういえば」と思ったのか、レオナードが女の子に名前を聞いた。

『てかお前、名前は？お前は俺の名前は知っているのに、俺はお前の名前知らないから、なんか不公平だろ？』
「ふうん。でも知る必要はないよ。」
『はあ？…ったく、嫌な奴だぜ本当。』
「そんなに知りたいんだ。」

女の子はそういうと、レオナードに使った拘束魔法を解除して、自分の名前を口にした。

「[大文字][太字]シャーロット・キャンベル[/太字][/大文字]。」

レオナードは拘束魔法が解けて思わず力が抜ける。

だが、すぐさま立ち上がった。

『シャーロット！いい名前だね。可愛い。』
「はあ…名前を教えたのだから、レオナードに命令を与える。」
『命令？』

「世界征服をしなさい。」