神々の世界は静寂に包まれていた。無限に広がる宇宙の片隅で、エテルナはひとり、地上を観察していた。無気力に過ぎた日々の中で、唯一の楽しみがそれだった。人間たちの生活、感情、そして彼らの喜びと苦しみ。それらを遠くから眺めているだけで、エテルナはなぜか心が穏やかになることがあった。

だが、ある日、その日常が変わった。

「なんだ、この感覚は…？」

エテルナの視線は、ある男に釘付けになった。男は他の人々とは違っていた。強いオーラを持ちながらも、どこか儚げで、エテルナが抱いたことのない感情が芽生えていた。

彼の名前は、アラオ。人間界では普通の青年のように見えたが、どこか異質な雰囲気を漂わせていた。冷徹な瞳と落ち着いた態度、その全てがエテルナを強く引き寄せた。

「…あの男、どこかで見たような？」

エテルナはその男を見つめ続け、しばらくはその感情の正体が掴めなかった。ただひたすらに、彼を観察する時間が続いた。

アラオが通り過ぎるたび、エテルナの胸は何度も高鳴った。しかし、エテルナは次第に気づく。彼にはどうしても近づけない理由があった。

――種族が違うのだ。

神と人間は、越えられない壁が存在していた。どんなに心を動かされても、決して交わることのない二つの種族。それに、エテルナは人間の姿ではなく、神そのものとして彼に接することができないのだ。悩んだ末に、エテルナは「このまま遠くから見守るだけで十分だ」と決心し、再び観察を続けることにした。

だが、それでも諦めきれなかった。

「どうしても、あの男に近づきたい。」

エテルナは心の中で誓った。彼がどれだけ神であり、人間との間に越えられない壁があると知っていても、どうしてもアラオのことを忘れられなかった。

ある日、エテルナは一念発起して決断した。自ら人間の姿に変え、アラオと直接会うために地上へ降りることにした。神としての力を封じて、普通の人間として。

その日、エテルナはアラオがよく訪れる場所で彼を待ち伏せした。やがて、アラオが現れると、エテルナは緊張しながらも声をかけた。

「こんにちは…。」

アラオは歩みを止め、エテルナを見つめた。その目は冷静で、無表情。しかし、少しだけ興味を引かれたように見えた。

「…君、人間だろう？」

その一言に、エテルナは驚いた。もちろん人間の姿ではあるが、まさか初対面で自分が神だとは気づかれていないだろうと考えていたからだ。

「はい、そうです。」

アラオの目が一瞬、エテルナの顔に留まった。

「ふうん。こんな場所にいるなんて、君、何者だ？」

エテルナは少し言葉に詰まりながらも、答えた。

「…ただの旅行者です。偶然、この街に立ち寄っただけで。」

アラオは不敵な笑みを浮かべながら、少しだけ肩をすくめた。

「旅行者か。まあ、珍しいな。」

その後もエテルナは、あらゆる方法でアラオにアプローチを試みた。ランチに誘ったり、偶然を装って彼と何度も出会ったり。道端で「偶然」会ったときには、アラオが興味を持ちそうな話題を振ってみた。だが、アラオはいつも冷徹な目で見返し、必要最低限の言葉しか返さなかった。

「すまないが、君のことは考えられない。」

その言葉が何度もエテルナの心に刺さった。だが、彼は諦めず、再びアプローチを試みた。だが、どんなに努力してもアラオの冷たい壁は崩れることはなかった。

それでも、エテルナは心のどこかで「もう一度、近づいてみよう」と決意した。だが、その時、世界が突然異常をきたす。神々の間に緊急事態が宣告され、すぐに会議が開かれることとなった。

その会議で、エテルナとアラオは初めて顔を合わせる。

「世界の均衡が崩れた…。」

神々の代表者がそう言った。その言葉に、エテルナもアラオも驚いた。だが、それ以上に驚くべきことがあった。

会議の途中、アラオがつぶやいた。

「…君、もしかして神なのか？」

その言葉に、エテルナは目を見開いた。

「…え？」

「君が人間だと思っていたが、神だったのか…。」

アラオの言葉に、エテルナは息を呑んだ。彼は今まで自分をただの人間だと思っていたのだ。

「あなたも…神だったのですか？」

「私はザイアス。死を司る存在。人間の姿でいることが多いから、君も私のことをそう思ったのだろう。」

その言葉に、エテルナは驚愕し、そして、わずかな安堵を感じた。

「それなら…私は…。」

「君は神、ザイアスではなく、エテルナ。地上に魅了されるほど、普通の存在じゃない。」

エテルナは少し笑みを浮かべた。

「…そう、私も神だった。」

その瞬間、二人の間に何かが変わった。

「もし…もし、君が神で、私は死を司る者だとしても…」

エテルナはゆっくりと言葉を紡いだ。

「それでも、私はあなたに心を寄せていた。」

アラオ（ザイアス）の顔に、ほんの少しの驚きが浮かんだ。

「私もだ。」

それが、二人の始まりだった。

彼らはただの神と死を司る者でなく、心を通わせる存在となり、その後、世界を共に守り、共に歩むことを誓った。

そして、エテルナの片想いは、いつの間にか両想いへと変わっていたのだ。